表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/43

41 狂気――綾乃の真相6

今からでも遅くはない。

人を殴り殺すなんてこと自体、狂っている。

2が狂っていて3が狂っていれば、1も狂っていたかもと思うだろう。

私は真希に襲いかかる前から狂っていたと思われるだろう。

異常な犯罪。

警察は、きっと調べてくれる。

犯罪の経緯を調べてくれる。

できれば私の過去を洗って現在の心理状態を導き出し、

本当の理由を当ててくれればいいのだけれど、それは高望みだ。

まずは薬物の反応を診るだろう。

何者かに狂わされた可能性。

それが、加奈以外に向けばいい。

加奈が責任を逃れることができればそれでいい。

絶対ではないけれど、私がただ捕まるよりはずっと可能性は高い。


でも詳しい精神鑑定を受ければ偽りの狂気はきっとばれる。

鑑定を受けてはならない。

捕まれば必ず鑑定を受けることになるのなら、私は捕まってはならない。


じゃあ、死のう。


鑑定を受けずに死ねば、当時の状態から推察するしかない。

うまく演じれば、私は狂っていたと結論付けられる。

しかもそれなら狂気の度合いはさらに強くなる。

笑いながら窓から落っこちて死亡。うん、どう考えても狂ってるよね。

それに、それにね、私はもう生きている資格なんて無いんだよ。

人を、殺してしまった。

2人目かもしれない。

祥子が、あんな苦しみに耐えきれたなんて保証はどこにもないから。

加奈を殺さないために、3人目を殺さないように。

私は死ぬべきなんだ。


もしかしたら私は、本当に狂っているのかもしれない。



私は手すりに腰かけて、みんなを見渡した。

みんな、何も言わずに私を見ている。

私の一挙手一投足に注目している。

緊張なんてしていない。

緊張なんてしていられない。

私は舞台の上の女優。

上手く狂気を演じて見せようじゃないか。


観客の中に加奈の姿を認める。

私は一瞬だけ微笑んだつもりだけれど、

涙が出てきそうになるのを必死でこらえていたから、

それはとても醜い表情だったかもしれない。


加奈、さようなら。

あんたは、頑張って生きていくんだよ。


私は、蹴った。



走馬灯が流れていく。

忘れ去られていた記憶がよみがえっては消えていく。

私の人生を写したアルバムが、パラパラとめくられていく。

そういえばあんなこともあった、こんなこともあったっけ。

忘れていた思い出が驚きに満ちていて、覚えていた思い出が懐かしさに満ちていて。


初めてのキスが幼稚園の時だったこと。

担任の先生から年賀状をもらって嬉しかったこと。

遠足のときに上から毛虫が落ちてきて悲鳴を上げたこと。

キャンプで作ったカレーがおいしかったこと。

セオリー通りに屋上に呼び出されて告白されたこと。

おじいちゃんが亡くなって火葬されるのを見送ったこと。

親友と大喧嘩をしたこと。

日直の日だけは学校へ行く足が重かったこと。

お小遣いを貯めて、ずっと欲しかったバッグを買ったこと。


そして、私の人生の転機になった、六送会。

あのスライドショーで笑顔で写っている祥子を見て、私はショックを――


……え?


ショウコガ、ワラッテイナカッタ。


矛盾。

祥子が笑っていたという記憶はあるのに、その記憶された映像の中の祥子は笑っていないという矛盾。

笑っていたはずなのに、笑っていないという矛盾。

意味が分からない。

祥子は私をじっと見つめていた。

そのまなざしに込められていたのは……非難。


どうして!?

どうして笑ってくれないの!?

私は頑張った!

たくさん後悔して、それを埋めるために精一杯努力した!

なのに、どうしてそんな目をしているの!?


私が……間違っているとでもいうの……?


確かに、真希を殺してしまった。

でも、そんなつもりじゃなかった。

真希のことを嫌ってはいたけど、殺したいなんて思ってなかった。

殴ったのは……真希が「私」に見えたからで……

人間だからしょうがないでしょ!?

いくら気をつけたって、ミスはあるんだよ!

そのあと、どうするかが大切なんだよ!

私は考えた!

自分を守るためじゃなくて、加奈を守るために!

あなたをいじめた罪滅ぼしのために!

その結果がこれなんじゃない!

私だって本当は死にたくなかった!

でも死ななきゃいけないと思ったから!

命をなげうってまで頑張ったのに、それが間違いだっていうの!?


……そんなこと言われても困るよ……

だって、もう落ちてるもん。

ここで死に損ねて警察に捕まったら困るから、

手っ取り早く確実に死ねるように頭を下にして落ちた。

手すりに腰かけたのはそれをうまくやるためと……最後に、加奈にお別れがしたかったから。


もうすぐ地面に叩きつけられて、頭が砕けて、私は死ぬんだよ?

きっと痛いよ。惨めだよ。

でも、もう助からない。

もう、死ぬのは決まってるんだよ。



ギゼンシャ。


……え?


ヒガイシャブルナヨ、ギゼンシャ!

オマエガシヌノハ、ソンナリユウジャナイ。

ニゲタイダケダロウ?

サツジントイウツミカラ、メヲソラシタイダケダロウ!?


違う違う違う!

断じて違う!

そんなんじゃない!

私は……私は……ッ!!


……お願い。

お願いだから、笑ってよ。

そのために私は生きてきたんだよ……?

あれから今までずっと……なのに……


どうして……


どうして……?



ドシャッ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ