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40 後悔――綾乃の真相5

消すとはつまり、殺すということだった。

でも私はそんなこと気付かなくって。

消さないと、消さないと。

心がそう叫び続ける。


だから私は、「私」が起き上がろうとするのを見て焦り、

今度こそ「私」を「消す」ために腕を振り下ろした。


グシャッ


巨大な毛虫を踏みつぶしたような気持ち悪い感覚が全身を走った。

「私」はうつ伏せになって倒れている。

もうピクリとも動かない。



「……綾乃……ちゃん……」

加奈の声がした。

小さいけれど、とてもはっきりとしていて、私の頭に響いた。

それと同時に「私」は消えた。

消えたはずなのに、そこにはまだ倒れた人の姿があって。

それが真希であることに私はすぐに気づいた。


え?


……どうして?


どうして真希が?


どうしてこんなところに?


私は我に返った。



ガランガラン


手から鉄パイプが滑り落ちた。

それはつまり、私が鉄パイプを持っていたということ。


鉄パイプの先がおかしな色に染まっている。

真希の頭から流れ出ているのと同じ色。

それはつまり、私が真希を殴り殺したということ。


どうして死んでいるって分かるの?


いや、だって、どう見ても死んでるよ。


真希はうつ伏せに倒れていて、後頭部が歪んでいて、そこから赤いのが流れ出ていて。


……小学校でドッチボールのときとかに使うゴムボールがあるじゃない?

空気が少し抜けると1か所だけペコリとへこんで。

真希の頭が、ちょうどそんな感じだった。

そんな状態で、生きているわけが無い。

ああ、私は、人を殺してしまったんだ。



クラス中の視線が、私に向けられていた。

みんな驚きのあまり動けずにいる。

教室の中だけが、やけに静かだ。

まだ気づいてないであろう人たちが外でたてる音や声がよく聞こえる。

あの時みたい。

先生が祥子の話を切り出した時の教室みたい。


バサリ


だからその音はとても大きく感じた。

加奈が持っていた教科書が机から落ちた音。

だけど、本人はまるで気付いていないようだった。


加奈は、椅子に座ったまま、私をじっと見つめていた。

驚きと、不安の詰まった表情。

でも、侮蔑も嘲笑も悲哀も憤怒もなく。

かすかに決意と慈愛を含んだ表情。

そういえば、半年前、私が校長室に呼ばれた時もこんな顔をしてたっけ。

加奈は私のことを助けてくれた。

精一杯の努力をしてくれて、私はそれがとても嬉しくて。


ああ、やっぱり加奈は私の味方だったんだ。


同時に強い後悔の念が湧きだす。

どうして加奈のことを信じられなかったんだろう。

どうしてこんなことをしてしまったんだろう。

私はどうして……どうして……


これから、どうなるのだろう。

私は殺人犯として警察に捕まる。

その後は?

裁判にかけられて……もう少年法適用外だから……

違う違う、そうじゃない。

問題は、加奈がどうなるか。


私は真希を殺した。

どうして?

長い話が必要になる。

説明したところで、みんなが納得するだろうか。

だって、もっと簡単な動機が作れるじゃないか。

私は真希に不幸の手紙を出した。

真希はそれを笑いながら破り捨てた。

真希はトラックにはねられて意識不明に陥った。

回復したところを、私が殴り殺した。

ただ単に、私が真希を恨んでいた、憎んでいたと考えるのが、よっぽど自然。

じゃあ、どうして憎んでいた?


クラスの人間なら、すぐにピンとくるだろう。

なぜ私が真希に、美沙に、麻利亜に手紙を出したのか、分かるだろう。

さらに、中学の時に私がいじめ根絶を掲げていたことを知っていれば、

それは確信めいたものになる。


真希が、加奈をいじめていたから。


当人である加奈もきっとそう考える。

それは違う。

でも、そう言って分かってくれる?

本当の理由を言っても、それが誤魔化しだと思わない?

加奈はきっと自分を責める。

自分が私を追い詰めてしまったんだと考える。

そうじゃない、そうじゃないんだよ。

これは私が悪いの。

加奈は全然悪くない。

これは当然の報い。

なるべくしてなったことなんだから。


加奈のせいだなんて、誰にも思わせちゃいけない。

誰かがそう思った時には、私はこの教室にはいない。

加奈は独りぼっち。

加奈にとって、それはどんなにつらいことだろう。

孤独のつらさを私は知った。

その中で非難の目を向けられるのに、加奈が耐えられるだろうか。

そもそも、加奈自身がそう思ってしまったら。

殺人という重過ぎる責任の刃を自分に突き立てたら。


加奈は、死んでしまうかもしれない。


それだけは駄目。

それじゃあ、私のやってきたことは全て無駄になる。

罪滅ぼしのつもりが、逆に罪を重ねることになる。

それだけは嫌だ!


だから。


「ハハハ……」


だから私は。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」


狂気を演じるしかなかった。

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