04 密室――隼人の事件2
「死亡したのは丹木高校1年の風見隼人と尾崎栄一郎。
すぐに病院に運ばれましたが、出血多量で手遅れでした。
2人はクラスメートで、放課後現場となった生徒会室で
2人きりになっていました。何か話し合いをしていたとか」
「話の内容は?」
「分かりません。ただ、生徒会は何も知らないようでしたので、
私的な話だったと思われます。尾崎はその日の生徒会の当番でして。
当番といっても仕事は無かったので問題無かったのでしょう」
「……それで口論になって刺したと。風見が尾崎を?」
「だと思います。凶器は風見の体の近くに転がっていましたし、
第一発見者である風見の友人が、ナイフが手から転がる音を聞いています。
状況を再現して寝た状態から持っていた同じ型のナイフを転がしたところ、
全く同じ音だったということです。現場は密室でしたし。
凶器自体についてですが、結構新品だと思われるのに
どちらの家も買った覚えは無いとのことですので、個人的に購入したものでしょう。
指紋はどちらのものも付いていましたが、風見のは柄に、尾崎のは刃に付いていました。
血が比較的広範囲に散っていますので、短時間ですが格闘があったようです」
沈黙が流れた。
風浪は溜息をつく。
「……またか……高校生が同級生を殺し、直後に自殺」
「……はい。まあ、その点だけを取り上げれば」
「現場も性別も時間帯も方法も違うからな。事件が目撃されていない点もだ」
「それから、尾崎はクラス委員と生徒会役員を兼ねていたのに対し、
風見は遅刻したり宿題をやってこなかったりと多少問題児だったそうです。
多分前回とは逆ですね。2人の仲は良いとは言えませんが悪くもなかったそうです。
むしろ風見は尾崎にほとんど関心が無かったようなので動機としては弱いですね」
「しかしナイフを持ってくるってことは明確な殺意があったんだろうな」
「もしくは日ごろから持ち歩いていたとか。
でも今のところ、そんな証言は出てきていません」
「……共通点がもう一つできたな。動機が不明瞭だ」
「そうですね。ここでしていた秘密の話の内容が分かれば解けると思うんですけど」
「2人について、他に何かあるか?」
「尾崎の父親はこの高校で教頭をやっています。教育委員会にも顔が利くとか。
尾崎は父親のことを少し自慢する節があったようです」
「俺の親父は偉いんだぞ、みたいな感じか。そういう奴はどこにでもいるんだな」
「その父親によると、風見は酷い生徒だったとか。
遅刻はするし、授業はサボるし、校則は破るし、成績は悪いし。
でも他の教師の話ではそれほどでもなかったようで。
もともと中の下あたりだった成績も近頃急激に上がっていたらしいですし、
授業をサボったのも1回だけ、警察の世話になったこともありません。
髪を染めるのと真っ赤な帽子をかぶるのは譲らなかったそうですけど。
息子が殺されて感情的になっていたんでしょうね。仕方ないですが」
「この部屋の前は、人通りが少ないのか?」
「何か行事の準備をしている時は結構出入りがあるらしいですけど、それ以外の時はあまり。
生徒は放課後図書館で勉強することが推奨されているらしく、
この部屋は教室から見ると玄関とも図書館とも逆の方向ですから。
付近は倉庫部屋とかですので、ここに用が無いとあまり人は来ないでしょうね」
「発見者は何故異変に気付いたんだ?」
「話が終わるのを待っていたのですがなかなか来ないので様子を見に来たそうです。
鍵もかかっているし人の気配がしないので変だなと。
それで一応中庭からのぞいたところ、この有様だったと」
「……それは心臓に悪いな。しかも友人だったんだろ」
「ええ、親友と言ってもいい間柄だったようですね。かなりショックを受けていました。
それでもどうにか途切れ途切れに質問に答えてくれました。
無理して言わなくてもいいとは言ったんですが、早く真相を知りたいからと」
「……たいした子だ。お前も、悪いな、色々調べさせて。役に立つ」
「いえいえ、ありがとうございます」
風浪が、ふと考え込んだ。
「……真相を……知りたい……?」
「はい?」
「発見者の子が、そう言ったのか? 真相を知りたいと」
「はい。それが何か?」
「……真相って……何だ?」
水樹誠は、相当落ち込んでいるようだった。無理もない。
それでも、再度の事情徴収に応じてくれた。
風浪は、発見時の状況を確認した。
内容は物部の報告とほとんど同じだった。
物部は真面目で仕事に忠実だ。風浪の知りたい情報を揃え、まとめてくれる。
風浪はその点では物部を高く評価していた。間の抜けたところも目立つが。
最後に、一番聞きたかったことを尋ねた。
「君は、真相を知りたいと言ったな? どういう意味だ?」
「……刑事さんたちは、この事件をどう考えています?」
「……まあ……君の友人が同級生を刺して自殺したと考えるのが妥当だろうな」
誠は顔を歪め、うつむいた。
「そんなわけ……ありません……」
「……」
「隼人は、絶対に人を殺したりしないし、自ら死を選びもしない。絶対です」
誠は、風浪をじっと見つめた。にらみつけたと言った方が正しいかもしれない。
でも、そう形容するにはあまりにも悲しい表情だった。
風見隼人:
誠の友人 赤い帽子をいつもかぶっている