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36 悪意――綾乃の真相1

2か月が経った。

この間で、私は一体何人に何回頭を下げただろうか。

でも、その甲斐あってか、私は元の生活を取り戻しつつあった。

未だに冷ややかな視線を感じる時があるけど、思っていたより全然少ない。

麻衣も最初は「誰のこと庇ってんの?」とか「なんであんなこと言ったの?」とか

「なんでそんなことしたの?」とかしつこく聞いてきたけれど、

納得したのか、聞いても無駄だと思ったのか、今では元通りの関係を築いていた。

加奈には逆に何度も謝られた。

そのたびに私は笑い飛ばして、ある日「いい加減にやめないと怒るよ?」と言ったら、

それっきり手紙の話はしなくなった。

さすがにもう生徒会長にはなれないだろう。

最悪のスキャンダル。格好の餌。しかもそれが事実なのだから。


それでもいい。

生徒会長になんかならなくてもいい。

その権力は不可欠じゃない。

持っていたほうが楽だけれど、持っていなくてもどうにかなるもの。

1人でも活動はできる。

作文を書いてコンテストに応募するんでもいい。

チラシを作って生徒会や市役所に頼んで張らせてもらうのもいい。

ネット上で誰かの悩みを聞いてあげるのでもいい。

講習を受けて、ボランティアで相談室をやるのもいい。

それらはとても大変なことだけど、

私というちっぽけな人間にも、できることはあるんだ。

権力なんて武器が無くても戦えるんだ。

意志という武器さえ有れば戦えるんだ。


さあ、もう傷口は塞がった。

贖罪を再開しよう。



その日はゴクラクチョウのライブがあった。

ボッパー仲間で行くつもりだったが、放課後先生に呼ばれたので後から合流することにした。

先生の話の内容は大したことなくて、すぐに終わった。

駅まで走ったけれど、私の到着と同時にみんなが乗ったと思われる電車が発車して少し悔しかった。

次の電車まで20分位ある。

ライブには全然間に合う時間ではあるけれど、みんなを待たせてしまう。

ちなみに加奈は興味無いらしい。

入場チケットがけっこうするので無理には誘わなかった。

誠も絶対来ない。賭けてもいい。

特定のグループに興味があるわけでもなさそうだし、あったとしてもテレビで満足するタイプだ。

まさかその相方に出くわすとは思ってもみなかったけど。


会場の前は結構な混雑だった。

すぐに仲間の一人を見つけて手を振ったけれど、

彼女は私に見向きもしないでさっさと会場内に入っていってしまった。

ちょっとムカッとした。

彼女が一人だったところを見ると、みんなはもう会場内に入ってしまっているのだろう。

この混雑じゃ、みんなと同じ席に座るのは到底無理だ。

彼女は片手に缶ジュースを持っていた。

この会場は半券を見せれば再入場も可能だから、席を確保してから飲み物を買いに出たのだろう。

ただそれだけ。

私を探している素振りは無かった。

私の分の席を取ってくれてはいなさそうだ。

……まあ、ライブを観るのが目的だから一人でも別にいいんだけど。


そのとき、赤い帽子が視界に入った。

私はそれに見覚えがあった。声をかける。

「あれ、えっと、隼人君、だよね?」

「……ああ」

「もしかして、隼人君も聞きに来たの?」

「そういうそっちもか」

「へーっ、奇遇だね! あれ? 誠は?」

「あいつは勉強だよ。興味無いだとさ」

予想通り。ま、当たっても何も貰えないんだけど。

「なーんだ。あはは、誠らしいね。加奈もそうなんだよな。でもかわいそうだね、この素晴らしさが分からないなんてさ」

「やっぱりそう思うか! そうだよな、おかしいよな。俺のクラスの奴ら誰も分かってくれないだぜ」

「うそー!? 私のクラスなんかファンだらけだよ?」

私は自分の言葉で、忘れていた苦い感情を思い出した。

みんな、この会場にいるのに。私だけ仲間外れ。

「まじか!? そっちの学校に行けばよかった」

でも隼人君の言葉がそれを吹き飛ばしてくれた。


隼人君はやたらと詳しかった。まさにボッパーの中のボッパー。

演奏の合間に、いろいろと興味深いことを教えてくれた。

それから、初めて会ったときから思っていたことだけど、

やっぱり隼人君の校則違反気味スタイルはメンバーの一人、「隼」のマネらしい。

さらに私が取り忘れていた全国ツアーの実況番組テープを貸してもらえることになった。

隼人君は携帯を持っていなくって、別れる前に待ち合わせの場所と時間をしっかり決める必要があったけど。

でもそういう「一歩間違えたら会えない」スリルのある昔ながらの待ち合わせ方法も嫌いじゃない。

今は携帯で簡単に連絡が取れるから、会うことがすごく簡単になってしまっている。

行き当たりばったりでどうにかなって、責任感みたいなのが無い。

だから隼人君は少し申し訳なさそうな顔をしていたけれど、私はかえって楽しいくらいで。



家に帰ると、また先ほどの不満がぶり返してきた。

私はその感情を黙殺して、パソコンに向かった。

麻衣は最近いろいろなチャットサイトで遊んでいるらしい。

麻衣のハンドルネームと主な活動場所を教えてもらって、私もやってみることにした。

でもその前に何となく、麻衣がどれくらいのサイトで遊んでいるのか知りたくなって、

ハンドルネームで検索をかけてみた。

わらわらと引っかかる。

そのハンドルネームはかなり意味不明だから、他の人のと偶然一致する可能性は非常に低いだろう。

「……こんなにたくさんのサイトに書き込みしてるわけ……?」

私は思わず笑う。


でも、その笑みは、次のリンクをクリックすると同時に掻き消えた。


丹木南高校の裏サイトだった。

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