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34 誤算――綾乃の過去6

祥子に対する罪滅ぼしとして私が出来ること。

それは加奈を助けること。

そして生徒会長になっていじめを無くすこと。

その2つは同じようでいて二律背反。


生徒会長は、どうやって選ばれるのだろうか。

全校生徒による選挙。

でも、彼らは何を基準に投票してる?

真面目に演説を聴き比べて投票している人って、

いったいどれくらいいるんだろう。

多くの人は、印象で決める。

私も現にそうだった。

候補者の言うことなんて、どれも大して変わらない。

誰も彼も同じようなことを繰り返す。校長先生のスピーチみたい。

だから、私が最も忌み嫌う手法だけれど、ネガティヴキャンペーンは大きな効果を持つ。

あいつは前にこんなことをした、そんな奴が生徒会長になっていいのか。

デマが混じっていても構わない。要は不信感を抱かせればいい。

悪い噂が立たないほうに投票するに決まってる。

そんなことをされないためにも、私は敵を作れなかった。

生徒会長になるためには、悪意を向けられてはいけなかった。

そしてそのためには、目立った行動は起こせなかった。

つまり、加奈をいじめているグループと、堂々と対立することができなかった。

麻衣は私の盾になってくれると言った。

それは私が無事に高校生活を送れるほどのものではあっても、

私が何をしても生徒会長になれるというほどのものではない。

悪い噂は良い噂の何倍も強いから。


でも、だからと言って、加奈を放っておける?

私がそばにいれば、それでいい?

そんなことはない。

それは私がいなければ独りぼっちだということ。

何も変わっちゃいない。

守るだけじゃダメなんだ。

攻めなくちゃ。私が矛にならなくちゃ。

盾と矛があって、ようやく勝機が見えるんだ。

加奈を助けることができるんだ。


でも、私が戦うということは、私が悪意にさらされるということで、

それはつまり、私が生徒会長になれないということで、

それはつまり、学校の悪い空気を吹き飛ばせないということで。

板挟み。ジレンマ。

大善のためには多少の犠牲もいとわないというのは、

頭では理解できても、実行に移せない。

身近な人を無視して、どうして大勢を助けられようか。



「みんなー、ちょっと聞いてー」

夏休み明けのショートホームルーム。真希と美沙が教壇に立った。

2人の手には青い封筒。私は中身が何であるか知っていた。

「さてさて、これは何でしょう?」

「学校に来たら、私たちの机の中に入ってたの」

先生の話だけだと思っていたクラスは少しどよめいた。

真希がそれを読み上げる。

「『これは不幸の手紙です。これを受け取ったあなたには呪いがかかります。

 近いうちにあなたは死ぬかもしれません。

 呪いを解く方法はただ一つ。この手紙の文面を変えずに、3通を同じクラスの女子に回すことです。

 この手紙を破いたり、文面を変えた手紙を出したなら、呪いは一生消えなくなります。

 手紙を出す期限はありません。ただし、早く出さないと命の保証はありません』だってさ」

「私のも、全くおんなじ」

「みんな、コレ、どう思う?」

「馬鹿だよねー」

「幼稚だよね。ヨ・ウ・チ」

「誰か信じると思ってるのかねー」

アハハハハ、クラスに笑い声が起きる。でも私は笑わない。

「てわけで、私はこんな手紙は信じません」

真希はそう言って手紙をびりびりと破いた。

「みんなも、手紙が来ても無視してね。それが一番」

美沙も手紙をクシャリと丸めてゴミ箱に捨てる。

それで2人の掛け合いは終わった。それぞれの席に戻る。

先生はポカンとしていたが、すぐに我に返って教務室へ向かった。

夏休み前の席替えで後ろになった私は、麻利亜の背中に目をやった。

手紙を受け取ったのは鶴羽真希、崎本美沙、黒川麻利亜の3人のはず。

彼女はどうするのだろう。

2人のように、意に介せずに捨てるだろうか。


2人の行動は正しかった。

私も、そうするのがベストだと思う。

そんなつまらない物の蔓延を防ぐのには、

みんなの前で貶すのが一番いい。

みんなの不安を消し去る最善の方法のはずだった。

それは予定の範囲内だった。


でも、それはある偶然が重なるだけで、

全く逆の現象を引き起こすことになるということに、

私も含めて、誰も気付いちゃいなかった。



次の日の教室は何だかおかしかった。

始業のチャイムが鳴る前から不穏な空気が流れていた。

麻利亜の肩が震えていた。

変な噂が飛び交っていた。

真希と美沙の姿が無かった。

そのうち暗い顔をした先生が入ってきて、噂が現実になる。


「昨日の夕方、鶴羽さんと崎本さんが交通事故に遭いました」


クラス全員が目を見開いた。私も例外ではない。

「赤信号で飛び出して、トラックにはねられたそうです。

 崎本さんは全治3か月の大怪我。鶴羽さんは……今も意識不明の重体です」

クラスが騒然となる。昨日の比じゃない。

「呪いよ……!」

麻利亜がポツリと呟いた。とたんにクラスが静まり返る。

「そう、呪いよ! あの手紙を破ったから……書かれた通りにしなかったから……!」

ザワザワザワザワ!

「みなさん、落ち着いてください。詳しいことは追って連絡します。

 新しいことが分かり次第伝えますので……」

先生の言葉は焼け石に水だった。

クラスはもう混乱の極み。みんなが口々に叫ぶ。呪いだ、呪いだ、呪いだ!


そんなわけない。


そんなわけないそんなわけないそんなわけない!

呪いなんてあるはずない!

だって……


その手紙を書いたのは、私なんだから。

黒川麻利亜:

綾乃のクラスメート オカルトマニア

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