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32 贖罪――綾乃の過去4

結果、僅差で私は生徒会長に当選した。

まず生徒会室前に置いてある意見箱に目をつけ、

匿名の投書でいじめを知らせることもできるようにした。

いじめの相談所等の電話番号をまとめたプリントを作り、クラスに配ったり掲示したりした。

たまに、選挙時のように校門に出て演説をしたりもした。


でも任期が終わって、学校の様子を改めて見てみれば、全く変わったようには見えなかった。

いじめを減らすことができたという手ごたえすら無かった。

時折、いじめの噂が耳に入ってくる。相変わらず。


やれることはやった。

でも、あまりにもやれることが少なくて、私は少しずつやる気を削がれていった。

中学生の生徒会長に求められていることなんて大したことじゃない。

実は演説会で読んだ原稿は、先生に添削してもらったものではなかった。

直前にすり替えたものだった。

若干過激な内容だったから、止められると思ったのだ。

案の定、会が終わると先生から、鋭くはないが、クレームが来た。

学校にいじめがあることを知らない先生や認めない先生もいる。

だから私の活動が全て全面的に支持されるわけじゃなかった。


これじゃあまだまだだ。

まだ、足りない。

私の罪は、全然許されない。



麻衣と同じクラスになったのは、1年の時だけだった。

でもクラス替えの時には既に2人とも携帯を持っていたので、

それ以降もメールのやり取りを通して私たちはつながっていた。

私が生徒会長に立候補した時も、

客観的な立場から私の適性を保証する推薦人という役割を引き受けてくれた。


誠とは、3年間ずっと同じクラスだった。

そのうちよく話もするようになった。

勉強を教えてもらったりもした。

誠の教え方は私には合わなかったようで、

結局私は教わるのを諦めて雑談に興じるようになるのだけれど。


「綾乃さん、合格おめでとう」

「ん、ありがと。しっかし……こうなるともう勉強やる気しないなぁ……」

「推薦で決まったら、受験無いもんね。

 でもこれが高校の勉強の基礎になるんだからしっかり構築しておいたほうがいいと思うよ」

「まあねぇ……そういや、昨日私立の発表もあったでしょ。丹木どうだった?」

「受かったよ」

「うわ……当然のように言いますか……ムカつく」

「ええ!? えっと……」

「いやまあいいんだけどね。じゃあ誠ももう受験しなくていいんでしょ。

 公立はみんな丹木以下じゃん」

「うん。でも今のうちに基礎をしっかりやっておこうと思って……」

「あーはいはい真面目君だねー」

「だってせっかくプリント貰うのにもったいないじゃん」

「そうだけどさー」


私立高の入試や公立校の推薦入試は公立校の一般入試より先に行われる。

私も誠もそこで第1希望に受かってしまったので、以後の授業はそれほど大切ではなくなっていた。

こういう時に性格の違いが分かりやすく表れる。

やらなくてもいい、でもやっておくと吉、でも面倒な勉強。それをするかしないか。

……私のほうが多数派だと思うよ?



「えーっと、伊武中学から来ました、相川綾乃です。好きなバンドは『ゴクラクチョウ』。

 ボッパーですって言ったら分かる人には分かるかな。よろしくお願いしまーす!」

入学式が終わって、クラスで自己紹介タイム。

私は当然のごとく名簿番号1番で、最初に自己紹介をすることになった。

周りがどういう人間なのか全然分からないから、

どんな事言えばいいのか分からなくて緊張するけど、

まあ、明るくしておけば後の人もやりやすいかなって思って。

しかも私が言ったせいか、思いのほかボッパーカミングアウターが現れた。

ちなみにボッパーってのは人気バンド「ゴクラクチョウ」のファンのこと。

極楽鳥は英語でbird of paradise。略してBOP。


「……綿原加奈です……よろしくお願いします……」

最後の子はたったそれだけを言って座ろうとした。

先生が出身校を訪ねると慌てて答えたが、私にはよく聞こえなかった。

……先生が気まぐれで「名簿番号の後ろから」なんて言い出さなくてよかったね。

最後ってのもある意味大変だけど。


「では、クラス役員を決めたいと思います。まずは級長。誰か立候補者はいませんか?」

先生の司会のもと、最初のホームルームが始まる。

級長に決まった人がそれ以降の司会をやることになるんだろうな。

「綾乃、やれば?」

麻衣が私の背中を突っつく。彼女も一般入試でここに合格していた。

同じクラスだと分かった時はかなりびっくりしたけど。

「わ……私?」

「3年の時もやってたじゃん」

「じゃあそれでいいんじゃね?」

隣の男子が話に入ってきた。

そうなるともう、クラス全体がそんな雰囲気で。

うん、みんなやりたくないんだよね。

「はいはーい。分かりましたよやりますよーだ」

「では、相川さんでいい人は拍手をお願いします」

パチパチパチパチ

満場一致で可決。

これで拍手しなかったらそいつがやれよな。


そんなわけで、私の高校生活は級長から始まった。

さらに私は生徒会役員に立候補する。

ここまでは、中学の時と一緒。

少し違うのは、中学の級長は推薦で無理矢理やらされたことと、

生徒会役員になったのは中学に入ってしばらく経ってからだったこと。

中学の二の舞にはさせない。

生徒会長になって、中学で出来なかったことを実現させて見せる。

罪滅ぼしの再チャレンジ。

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