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03 刺殺――隼人の事件1

生徒会室には、鍵がかかっていた。

灯りは消えている。物音ひとつしない。

廊下側に張られているのは曇りガラスなので中はよく見えないが、

目を凝らしても動くものの影は無いし、人のいる気配はしない。

生徒会室にはイベントで毎年使われる古い道具がしまってあるし、

文化祭の時には売上金などの金銭管理の中心部でもあるから、

下校時刻になって誰もいなくなると鍵がかけられる。当然のことだろう。


でも。


「……おかしいな」

誠は、ドアの前でそう呟いた。

確かに今は何かのイベントの準備期間でもないから、生徒会室はあまり機能していない。

この学校がそれほど学校行事に熱心ではないから尚更だ。

それでも、毎日当番の役員の誰かが授業後1時間ほどは部屋を開けている。

投書を読んだり、日誌を書いたり、企画を考えたり。

何も仕事が無くても、先生や部長やクラス委員が用事があって訪ねてくるかもしれない。

だから応対できるように開いているはずなのだ。


なのに。


「……おかしいな」

誠は、ドアの前でもう一度そう呟いた。

授業が終わってから30分ほどしか経っていない。

鍵はかかっていないはずだ。

灯りはついているはずだ。

物音がするはずだ。

人の気配がするはずだ。


しかし。


「……」

誠は、今度は何も言わずに眉をひそめた。

それでも、それだけだったら、

そういうこともあるもんかと気にしなかったかもしれない。

急用ができたとか、不真面目な当番だったのだろうとでも思って

図書館へ向かっていただろう。


それだけだったのなら。


「隼人……帰ったのかな」

一番それらしい理由を口に出してみる。

隼人は最近勉強熱心だった。

成績を上げようと、最近は毎日放課後には

誠と一緒に図書館で勉強するのが日課になっていた。

携帯電話を買ってもらうんだと言っていた。

いや、入学したてのころから図書館には通っていたのだが、

隼人は勉強をさっさと済まして、

教師陣が教育に良いと考えた数少ない漫画でも読んで

時間を潰しているのが常だった。

ちなみに隼人の「さっさと勉強を済ます」とは、

予復習は一切せず、宿題、その中でも

口やかましい教師が出すもののみを片付けることを意味する。

それが今では隼人の方が勉強時間は長いくらいだ。

それでも時々は、漫画やゲームの発売日だからとか、

出かける用事があるとかで帰ることもあった。


今日は、違うはずだった。


「……まあ、いいけどさ……」

誠はまた独り言を言い、図書館に戻ろうとした。

授業が終わると、隼人は同じクラスで生徒会役員の尾崎と話をしていた。

なにやら用があるとかで、10分くらいで終わるから

生徒会室で話が終わってから図書館に向かうとのことだったので

誠は先に図書館で勉強していることにした。

30分しても来なかったので、話が長引いているのかと訪ねてみたのだ。


ごとり。


物音がした。


「!?」

誠はあわてて振り向き、扉の前に戻る。

しかしまた、気配は無くなっていた。

いや、気配など元から無かった。

微かな揺れや風によって、

今までかろうじてバランスを保っていた何かが倒れたような、

転がったような、そんな感じだった。


……でも、念のため。

誠は中庭から、中の様子をうかがう事にした。



中庭は狭く、それほど手入れもされていない。

わざわざ靴を履き替えなくてはいけない面倒臭さもあって、来る人などほとんどいない。

生徒会室は草木に隠れ、その中庭からも一層見えづらい位置にあった。

薄暗くなってきているから、尚更だ。

葉の落ちた木々の隙間から、誠は生徒会室の中を覗き込んだ。


無意識のうちに思い描いていた、

そんなこと有り得ないと否定していた、

最悪の光景が広がっていた。


半年前が、フラッシュバックした。

あの時には、起こっていないこと。

でも、起こっていたかもしれないこと。



「生徒会室の……鍵を……っ!」

息を切らして、誠は教務室に飛び込んだ。

驚いた教師たちの視線が集まる。

そんなのを気にしている場合ではなかった。

壁にかかっているものを引っ掴み、生徒会室へ取って返す。


バタン!


勢いよく開けた扉が大きな音を立てた。

入り口近くにある電灯のスイッチを入れる。

ただならぬ様子を感じ取ってついてきた教師がうめいた。


そこにあったのは、血溜まり。


それをつくっているのは、転がった2人の男子生徒。


首を切り裂かれた尾崎と、胸から血を流した隼人だった。

隼人の右手近くには、ナイフが落ちていた。

ああ、さっきの音は、これだったんだと誠は思った。


しかし。


ハヤトガナイフヲニギッテイタ。


それが意味することに気付くのに、長い時間を要した。

それが意味することを理解するのに、更に長い時間を要した。


それが意味することを受け入れることは、結局できなかった。

水樹誠:

丹木高校1年 綾乃の中学からの友人

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