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26 暗転――隼人の真相3

中学の時、俺の成績は学年で1,2を争っていた。

体育でも俺が参加したチームが負けることなんて滅多に無かった。

文武両道という言葉は俺のためにあるようなもんだった。

高校が県内随一の進学校に決まった時、俺は思った。

そんな学校にいる奴なんて、どうせ眼鏡かけた運動音痴ばかりだろう。

仮に俺が勉強で負けたとしても、スポーツで頑張れる。

それがどうだ。入ってみればこの通り。勉強でもスポーツでも、俺より優れている奴はいくらでもいた。

常識が無いわけでもなく、流行もしっかり分かっている。

中学のスーパースターが高校では平均以下。そんな落差に幾度となく叩きのめされた。

俺は思いあがっていただけ。井の中の蛙。

こんなことなら、大海を知るんじゃなった。

誠は言った。大海を知った蛙が絶望するか、闘志を沸かせるかは自分次第だと。

誠は後者だった。


ただ一つ、俺が勝っていた分野が、昆虫だった。

小学生の頃、バッタやカマキリやトンボ、クワガタやカブトムシ、ミミズにアリと、片っ端から虫かごに入れていた。

母親は珍しく虫が嫌いじゃない人間だったが、さすがに蜘蛛や毛虫を持ち帰った時は嫌そうな顔をしていたな。

そうそう、トラップに引っかかったゴキブリを可哀想に思って飼ったこともあった。

うちの中は虫かごだらけで、時々逃げ出して騒ぎになったっけ。

生き物の飼い方を記した本もたくさんあった。ペットショップに行ってイトミミズやミールワームを買ったこともある。

そのうち飽きてきて親が世話をすることになるのはお決まりのパターンで、未だに庭にはたくさんの墓がある。

純粋な都会っ子はどうか知らないが、男の子にはそういうのに夢中になる時期がある。

でも、大抵小学生低学年でその熱は冷める。

俺はそれが今までずっと残ってきたというだけのこと。

そんなくだらない長所。

でも完膚なきまでに長所を封じられていた俺は、そいつに飛びついた。

帽子に固執しているのも、童心を忘れたくないという気持ちの表れかもしれない。

俺は生物部に所属していた。



「風見、お前どういうつもりだ?」

そう言って詰め寄ってきたのはジュニアだ。

本名は尾崎栄一郎だが、尾崎教頭の息子なので俺はジュニアと呼んでいる。

「何がだよ」

「うちの部の領土を侵略するつもりか!」

「何言ってんだよ。うちの部もお前の部も人数変わらねーじゃねーか。

 加えてこっちには生き物が色々いるんだよ。なのに文芸部が生物部の倍の部室を持ってるのは不当だろ。

 そもそも文芸部は人数の割に領地が広すぎるんだよ。当然の訴えをしたまでだ。

 てかそういうのは現部長に言え。俺はまだ部長じゃない」

うちの学校は大抵の部活では2年が部長をやる。

3年は受験勉強で忙しくなるし、夏休みで大体引退するからだ。

だから1月くらいになると、次期部長が1年の中から大体決まり、少しずつ役割を移していく。

生物部はマイナーな部活で人数が少ないし、来年は俺が部長をやることにほとんど決まっていた。

対して文芸部はジュニアが部長候補らしい。

父親に生徒会に部活。着実に権力を増してるね。これで委員長でもやれば最強じゃねーの?

でも独裁政権にも異分子はいるもの。学校は民主的だから尚更だ。

「話はそれだけか? もう帰るぞ、用事があるんだ」

あれから2週間、実質初めてのデートに、俺の心は急いていた。

「……ろし……る……」

生徒会室を後にする俺の背中に向かってジュニアが何か呟いたが、よく聞き取れなかった。



俺は独り、待ち合わせの場所に突っ立っていた。

……あれ、待ち合わせの時間って5時だったよな? 午後の。

現在17時30分。

そういえば前々回もこうだったっけ。急な集まりがあったとかで。

また急いで走ってくるあの姿を見られると思うと、自然と笑みがこぼれた。


18時。

集会が長引いているのだろうか。

それとも……

嫌な想像を頭から追い出す。


18時20分。

さすがに遅すぎる。

忘れてしまったと考えるのが適当だろう。

でも、かすかな望みにかけて、俺は待ち続けた。

ここで逃したら、次は無い。

何せ、連絡手段が無いのだから。


18時40分。

ここまで来ると、たとえ集会が長引いていたとしても、向こうは俺が帰ったと思うだろう。

覚えていても忘れていても、どちらにしろ来ない……


18時50分。

あと10分。

あと10分だけ待って、帰ろう。


19時。

約束の時間から2時間経っても、綾乃は現れなかった。

俺は帰宅するために駅へ向かった。

くそ、せっかく一旦家に帰って服装を整えてきたのに。


でも、約束を破られたという怒りや悲しみよりも、もう会えないという喪失感のほうが強かった。

連絡のとりようがないから、また偶然を待つしかない。

それはいつになるのだろう。



……言い知れぬ不安、というのはこういうことを言うのだろうか。

ライブで出会ったとき、綾乃は言っていた。

「クラスに大勢ファンがいる」と。そして綾乃もその一人であると。

加奈とかいう奴は興味が無いらしいが、他にも友達はいるはずだ。

にもかかわらず、綾乃は一人だった。一緒に聴きに来た人がいなかった。


同時に、今日耳にはさんだ噂話が思い出された。

数日前、南高校で、とある生徒がクラスメートを殺して自殺したらしい。

で、殺された奴の霊が殺した奴を探して夜な夜な校内をうろつきまわっているとか。

後のは尾ひれだろうし、そもそもそんな事件が起きたのかさえ疑わしい。


何の脈絡もない2つの胸騒ぎ。

……だから、どうしたってんだよ。

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