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24 共通――隼人の真相1

「誠! じゃあ俺先に帰るな!」

「はいはーい。いってらっしゃーい」

その日は俺のお気に入りバンドのライブの日だった。学校でタラタラ勉強なんかしてたら遅れちまう。

そんなわけで俺は放課後の勉強をさぼり、授業が終わると同時に家へ直帰した。

宿題なんて今日寝る前にでもやればいいさ。


中間テストの出来はイマイチだった。学年203人中121位。

100位以内に入れば携帯を買ってもらえる約束になっていた。

期末こそは良い点取って携帯を手に入れてやる。携帯を持っていないメリットなんて何一つ無い。

通信料なんてのは親が払うんだし。

でも携帯を買ってもらっても安心はできない。成績が悪くなれば解約させられるかもしれない。

……どうも俺はこうやってアメやムチを使わないと勉強意欲ってのが出ないらしい。



会場の入り口で、知った顔を見つけた。

向こうも俺に気付き、こっちへ向かってきた。

「あれ、えっと、隼人君、だよね?」

「……ああ」

「もしかして、隼人君も聞きに来たの?」

「そういうそっちもか」

「へーっ、奇遇だね! あれ? 誠は?」

「あいつは勉強だよ。興味無いだとさ」

「なーんだ。あはは、誠らしいね。加奈もそうなんだよな。でもかわいそうだね、この素晴らしさが分からないなんてさ」

「やっぱりそう思うか! そうだよな、おかしいよな。俺のクラスの奴ら誰も分かってくれないだぜ」

「うそー!? 私のクラスなんかファンだらけだよ?」

「まじか!? そっちの学校に行けばよかった」

その言葉には別の意味も含まれていた。

1ランク低い高校だったら、俺はまだヒーローでいられたかもしれないという気持ち。

とにかく俺達は意気投合した。席は自由だったので隣に座り、いかにそのバンドが素晴らしいかを語り合った。


「そういえば隼人君の髪と帽子って、ギターの『隼』の影響受けてたりする?」

「やっぱ分かる? 本当はバンダナなんだけどな、帽子で代用」

「でも髪染めるのもまずいんじゃないの?」

「何度も注意されたけどな、最近はもう一々言われなくなった。諦めたんじゃねーの?」

「へー、そんなもんかあ」

「そんなもんさ。まあ……これで何か問題起こしたらまずいだろうけど」

一度ライブを見るために授業をさぼったことがある。あの時も怒鳴られたっけ。

当時はまだ染めてなかったから問題にはならなかったが、今はさすがに出来ないだろうな。

でも未だに執念深い尾崎教頭先生様は根に持っておられるようで。

「で、何で『隼』が好きなの? やっぱり名前が似てるから?」

「それもあるし、エレギの音に惚れたってのもある」

「ふーん。私は『雛』が好きだな」

「あー、ピアノのね。そうだよな、ピアノって古今東西の曲に合うもんなぁ。

 テンポもリズムも関係なしに。てかそれ以前にあの演奏技術は神。あと初期の曲に『雛』が作った曲もあったな」

「え、うそ。どれ?」


楽しい時間は矢のように過ぎていく。

2時間のライブも終わりを迎えた。

アンコールが3回もあった後、会場から人が流れ出る。

「ふあー、今回もすごかったね。ていうか、隼人君ってホント詳しいよ。ボッパーオブボッパーだね」

「CDは全部シングルで買ってる。あと、サイトでキリ番取るとサイン色紙貰えるだろ? 11万ヒットで貰ったの俺」

「凄っ! そういえばさ、この前の全国ツアー見に行った?」

「さすがに全てのライブには参加できないけど、出演する番組は全部録画してる」

「え!? じゃあさ、9月15日頃の特番も録ってある?」

「探せばあると思う」

「マジ!? それ貸してくれない?

 『雛』のブログでさ、その時のが一番良く弾けたって言ってたんだけど、私それ見逃しちゃってさあ〜」

「あー、そんなことも言ってたな。いいけど?」

「よっしゃ! じゃあさ、私のアドレス渡しておくから……って、隼人君携帯持ってないんだっけ」

「……」

こういう時だよ、無いのが不便に思うのは。どうしてこの前のテストでもっと頑張らなかったのか悔やまれる。

「だったらさ、今度アルバムでるじゃん。

 私あれの初回特典のポスター欲しいから初日に買いに行くつもりだけど、隼人君はどう?」

「当然買いに行く。初日に行くつもりはなかったけど、そうするか。何時にする?」

「5時ならもう学校終わってるでしょ。それくらいに……『カドミウム』っていう店知ってる? この辺なんだけど」

「ああ、あの店だろ。CDのレンタルと販売やってる」

「そうそう、そこの2階でどう?」

「ああ、分かった、そうしよう。来週木曜の5時にビデオを持って『カドミウム』の2階に行けばいいんだな?」

「うん、じゃあね。来週が楽しみ」


鼻歌を歌いながら帰途についた。心なしか鼓動が速い。

家に着くなり宿題を片付けにかかった俺を見て、母親が訝しげな顔をしていた。



それが、相川綾乃との再会だった。

あの事件から2ヶ月が経過していた。

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