表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/43

23 偶然――亜深の真相

……須賀智彦さんか?

突然呼び出して悪いな。警察のものだ。

ああ、お宅の社長の件でな。


神林が轢かれて救急車で運ばれたとき、

同乗したってのはあんただよな?

ちょっと気になることがあってな。

神林のポケットに合鍵が入っていた。

それには指紋もついていたし、

それを以って神林がお宅の社長を殺したと考えた。

でもな、少しおかしな点が。

その鍵に血が付いていたんだよ。

しかも指紋の形でな。

つまり、神林は轢かれた後にその鍵を触ったことになる。

でも神林は救急車が到着したときには既に意識不明だった。

だから無理なんだよ。


神林が「自分で」鍵を触るのは。


事故の後に神林に近づいたのはあんたと、救急隊員と、病院先の人間。

でも救急隊員や医者が、自分が神林を担当することになると予測できるか?

いつ緊急の患者が来るか分からない現場だ。

自分が別の担当に急遽変えられることも珍しくない。

だから、前もって確実に神林に近づけると分かるのはあんただけなんだ。


……ああ、そうだ。

あんたが犯人なんじゃないかって言っているんだよ。


分かってみれば至極簡単な事件だった。

でも、神様の気まぐれで、2つの偶然があんたに味方した。

1つは、神林が偶然、トラックに轢かれて死んだこと。

もう1つは、神林が偶然、最近怪死した高校生たちと面識があったこと。


あんたはもともと、神林に罪を着せることなんか考えていなかった。

何か別のトリックで、自分を容疑者から外そうとした。

誰かが社長を探して密室の中で死体を見つける。

で、あんたは死亡推定時刻にその部屋に出入りできなかったと

主張するつもりだった。

おそらく合鍵を自分は使うことができなかったと言うんだろう。

具体的にどんなトリックだったのかお聞かせ願いたいね。

そうすりゃあ、これ以後、

同じようなトリックを使う輩をすぐに捕まえられる。

別の鍵を社長の部屋の鍵と見立てて掛けておくとかか?


……まあいい。

そして神林が死体を発見し、警察に通報しようとした。

そう、交番に向かったんだ。

ここからなら110番して警察が来るのを待つより、

直接連れて来た方が早い、そう判断したんだろうよ。

だがその途中、不幸にも事故で死んでしまった。

あんたにとって、1つ目の幸運。

それを聞きつけたあんたは、すぐさまトリックを変更した。

自分のアリバイを作るより、

偽の犯人を仕立て上げた方がいいと思ったんだろ?

神林がいつものんでいたビタミン剤の瓶の中身を捨て、

犯行に使った毒に詰め替えてトイレのゴミ箱へ。

処分したと警察には思われるが、逆に発見されやすい場所。

そうすれば毒の入った瓶に神林の指紋が残っているのは当たり前だ。

とっさにそんなことを思いつくとは、感服するよ。


さらに、神林と救急車に乗り込む。

救急隊員の話によれば、あんたは神林の拳を

両手で掴んで励ましていたそうじゃないか。

その拳の中に、鍵があった。

あんたは、意識の無い神林に、鍵を握らせて指紋を付けた。

例え死体でも、死んだばかりなら指紋は付く。

そしてそれを、救急隊員の目を盗んで神林のポケットに入れる。

ただ、神林の手に血が付いていたのはミスだったな。

そしてポケットには血が飛んでいなかったのも。


しかも同時期、高校生が同級生を殺して

自殺するという事件があったんだよ。

いや、地方紙では大々的に報じられていたから、あんたも知ってるか。

神林も社長を殺して死んだように見えた。

だから、何か共通点があるんじゃないかと考えてしまったわけだ。

同一犯の犯行の可能性に意識が向いてしまった。

……まさか、あんたそこまで考えて……

いやはや、機転の利かせ方が恐ろしいね。

その才能をもっと別のことに活かすべきだった。

でも、実際に神林が彼らと関係があることは知らなかっただろ?

それが、あんたにとって2つ目の幸運だよ。

そうじゃなかったら、最初から

独立した事件として処理されていた可能性が高い。

俺ももっと早くここに来れたはずなんだがな。


上手く行ったよな。

同僚が皆して仕事着だった。

だからあんたが同じように帽子にマスク、

エプロンに手袋をしていても何ら不思議は無い。

おかげであんたが犯人だとする証拠はなかなか出なかった。


でもな、悪いことってのは結局ばれるんだよ。

犯行に使われた毒薬の入手ルートが割れた。

密売グループが捕まってな。

奴ら、律儀にも名簿を作ってやがった。

後でそれをタネにゆすろうとしていたんじゃないか?

偽名で登録してたようだが、

それくらいじゃ誤魔化されないんだな、これが。


……一応、動機を聞こうか。

いや、言いたくなければ言わなくていいけどな。



……そんな動機で?

そんなの、完全にあんたの逆恨みだろ。

……ククク、そんなの関係ないってか。

あんたにとって悪なら殺すってか。

ククク……ハッハッハ!


……いやいや、なんでもないさ。

半年前、同じような動機で人を殺した人間がいたんでな。

そいつか?

そいつは俺の部下を人質に取った後、

銃で自分の頭を撃ち抜いて死んだよ。


あんたも気をつけな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ