20 順序――誠の真相1
さっき加奈さんから電話があった。
綾乃さんが、知らないはずのことを知っていた。
そんなわけないと、僕は否定した。
去年もそうだった。
お年玉は、1万円。
別段買いたいものなんて無い。
ゲームは小学生のときに散々買ってもらった。
パソコンも中学に入ったときに買ってもらった。
去年のクリスマスに携帯を無理矢理買わされた。
これ以上欲しいものなんて無い。
おやつを食べる習慣は無い。
映画を見に行く習慣も無い。
新しいゲームも漫画も、結構どうでも良かった。
スポーツ用品にも、興味は無かった。
本を読むのは好きだった。
でも、図書館で借りれば、お金は必要ない。
時々、ふと考える。
隼人はどうしてこんな人間と付き合っていたのか。
僕は別にクラスに馴染めていないわけじゃない。
でも、それほど仲のいい人もいない。
自分が面白い人間だとは思わない。
なのに隼人とは、いつも一緒だった。
一度、本人に聞いてみたことがある。
「ああ? そんなん覚えてねえよ。
帰り際に偶然一緒になったとか、そんなんだろ。
何となく馬が合った、みたいな」
凸凹コンビってのは、こういうのを言うのだろう。
体格的には、隼人の方が少し背が低いけど、あまり差は無い。
性格的には、僕が凹で、隼人が凸。
でも、そんな関係が楽しくて、嬉しくて、ありがたかった。
隼人がいなくなって、心が欠けた。
学校が楽しくない。
勉強にも身が入らなくなって、
そもそも何で勉強しているんだろうと考えて。
ただ、与えられた課題をこなすだけの毎日。
隼人はきっとこんな気持ちだったんだろう。
今更、分かる。
うちの高校は私立校だから、日程が少し他の高校と違ったりする。
授業日が公立より長くて、春休みなんて、ほんの10日程度。
まだ、学校に行かなくちゃいけない。
行きたくないなんて理由で学校を休むことは許されない。
もう寝る時間だ。
明日の時間割を確認して、電気を消す。
……そういえば、換気のために窓を開けておいたんだった。
電気をつけなおすのも面倒だ。暗い中、窓を乱暴に閉める。
何となく、イライラしていた。
さっきの加奈さんの電話のせいかもしれない。
あれをきっかけに変なことを考えてしまったからかもしれない。
鍵をかけて、内側の窓も閉める。
うちの窓は2重窓だった。
普通の窓の内側に、鍵も無い簡単なもの。
障子のようなものだといえば、分かりやすいだろうか。
断熱のために内窓を冬だけつけていた。
カーテンも閉める。
布団に横になる。
寝ながら事件について考えるのが、最近の日課になっていた。
亜深さんの死を聞いたときには、僕はもう気付いていた。
人を殺して、自分も死ぬ。
これが第一の法則。
動機が無い。
これが第二の法則。
そして、第三の法則。
あいかわあやの。
かざみはやと。
かんばやしあみ。
みなきまこと。
わたはらかな。
3人は、五十音の順に死んでいる。
だから、次はきっと僕だろう。
そして僕が死ねば、最後は加奈さんだろう。
それが分かるだけで、少し余裕ができる。
分からないことこそ、最大の恐怖。
つまり、僕が生きている限り、加奈さんは安全。
自分の命を守ることは、
僕が殺す誰かの命を守ることにつながり、
加奈さんの命を守ることにもつながる。
殺される前に、犯人を見つけ出す。
呪いなんてものではないはずだ。
ましてや、常磐さんの呪いであるはずは絶対に無い。
常磐さんは、誰かを道連れにしたいと思いながら、
一方で自分の暴走を止めて欲しいとも思っていた。
そして実際、僕達は殺されなかった。
常磐さんは僕達を解放してくれた。
真犯人の命と引き換えに。
彼は真面目な人間だ。
一度した約束は、破らない。
仮にそうだとしても、彼は言っていた。
自分の力では、僕達を車内に閉じ込めるのが精一杯だったと。
そしてその力も尽きかけていると。
半年も経った今、もう僕達を殺せるような力が残っているはずが無い。
だから、この事件の犯人は、常磐さんの名を騙った誰かの仕業。
でも、だったら、犯人はどこでそれを知ったのだろう。
あれについて知っているのは当事者である僕達5人だけのはず。
あんな現実的に考えてありえない話、誰もしようとは思わないだろう。
言ったって馬鹿にされるだけ。
僕は誰にも話していない。隼人もそうだ。
一番怪しいのは、警察の人だった。
あの事件のことを、知っていた。
僕達のことは知らないといっていたけど、それは嘘かもしれない。
だったら犯人は……
違う違う。
この前はそう考えて、結局推理が破綻した。
事件の前の学校に警察の人が来たなんて話はなかった。
身分を隠せば、なおさら学校に入るのは無理だ。
隼人と尾崎君を殺すには、見慣れない人間であってはならない。
学校の入り口には、警備員がいるのだから。
方向を変えてみよう。
動機の面から攻めてみる。
僕らに共通点は全く無いと言っていい。
あるとすれば、半年前のあの事件のみ。
だから僕は考えた。
犯人は、もともと特定の殺したい人物がいた。
そこで偶然、半年前の事件を耳にする。
それを使えると思った。
殺人を呪いでカムフラージュする。
本当の動機を無意味な法則で覆い隠す。
昔読んだ、ABC殺人事件だ。