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02 手紙――綾乃の事件2

「殺されたのは鶴羽真希。この丹木南高校の女生徒です。

 加害者は相川綾乃。被害者のクラスメートで、クラス代表を務めていました。

 凶器は鉄パイプ。近く行われる3年生を送るイベントの台の骨組みのものだそうです」


制服姿の若い警察官が手帳を読み上げていた。

顔は整っていて体が細く、声も高い。髪もやや長く、遠くからなら女性のようにも見える。

傍らでしゃがみこみ、チョークでかかれた人型を見ていたもう一人は

首だけを動かし、校舎を見上げた。

こちらは中年の域に差し掛かった、いかつい男だ。


「生徒らの話によると、突然加害者が近くにあった凶器を取り上げ、殴りかかったそうです。

 側頭部に一撃、倒れたところを後頭部にもう一撃。2撃目が致命傷になったと思われます。

 直後、加害者は窓から……えっと……落ちた……とか」

「落ちた? 飛び降りたんじゃないのか?」

「いや……えっと……窓の外に転落防止用の手すりがありますよね?

 そこに背を外にして腰掛けて……こう……後ろにくるりと。鉄棒みたいに」

物部が身振りで説明する。

「そうすると背中が校舎の壁にぶつかって、

 手だけで逆さにぶら下がっている形になりますよね?

 そこからそのまま手を離して落下したらしいです。頭から」

自分がそうしているところを想像でもしたのだろう。

物部は顔をしかめ、後頭部に手をあてる。

「一体何がしたかったんでしょうね。狂気の沙汰としか思えませんよ。

 落ちる前に加害者は狂ったように笑っていたらしいですし」

「加害者の人となりは? 動機の見当はついているのか?」

「元気で明るい子だったそうです。

 成績はとりわけ良かったわけではないらしいですけど、

 さっきも言ったとおりクラス代表を務めていますし、

 学校行事にも積極的に取り組んでいたと。クラスの中心人物だったはずです。

 最近特に変わった様子もなかったということなので、動機はよく分かりません。ただ……」

物部がそこで一旦口を閉じる。手帳の別のページを探しているようだ。

「……ただ?」

「……半年ほど前に、一度問題を起こして訓告処分をくらっています。それが関係あるかと」



「……なるほど、な」

一時期、クラス内で不幸の手紙が出回った。

綾乃が後に、自分がやったと名乗り出たのだ。

しかし何故やったかについては口を開こうとしなかった。

教師側も特に目的も無かったのだろうと思い、深く追求はしなかったという。

「今時そんなものが広がるなんて思いませんでしたけどね。

 携帯やパソコンのチェーンメールに取って代わられたかと。

 でも考えてみれば、それだと差出人がばれますもんね」

そう、送り主が分かってしまうからこそ、電子メールのチェーンメールは

「幸福の」メールになっているのだろう。

それに対して、これはアナログの典型的な内容だった。

受け取ったら呪われる。読んだら呪われる。死にたくなかったら同じ文面を別の人に送れ。

「でも普通と違うところがひとつだけ。対象になった人数が極めて少ないことです」

手紙には、「同じクラスの女子に」と書かれていた。

広く出回ることを目的としていたのなら、そんな但し書きをつけるのは逆効果だ。

単なる愉快犯ではないことがうかがえる。

そして呪いを解くために出すべき数は3通。

これも早く広めたいならもっと大きな数字にするはずだ。

最初にその手紙を受け取ったクラスメートも3人だったから、

ばれても自分の机に入っていたんだと言い張るつもりだったのだろうか。

そのために見つかる危険性を抑えて数を少なくしたのだろうか。

だったら、何故、同級生全員の前で自分から告白した?

当時疑いは全く持たれていなかったのにもかかわらず、だ。


「担任は、いたずらのつもりでやったが良心が咎めたので

 出すべき手紙の少なさも、自分から打ち明けたのも、

 被害を少なくしようとしたのだろうと考えたそうです」

普通ならそう考えるだろう。熱心な優等生だったのだ。

当時、不幸の手紙はクラスを越えて学年中に広まろうとしていた。

女子だけでなく、男子にも届くようになっていた。

1クラスだけでは飽和状態になっていたのだ。

出しても出しても、新たな手紙が届く。

机の中、下駄箱の中、果てはわざわざ切手を貼って自宅にまで。

それほどの大騒ぎになったにもかかわらず退学や停学処分にならずに済んだのは、

自分から罪を認めたこと、彼女の素行が極めて良かったこと、

そして手紙の内容が比較的穏やかだったことによるものだろう。

だが、このような事件が起こった以上、

その事件の真の動機がこの事件の動機に関係してくる可能性は十分にある。

本当にただのいたずらだったという可能性も否定できないが。


「関係あるだろうな、かなり高い確率で。何しろ……」

普通なら、不幸の手紙なんてものを相手にするのは一部の人間だ。

しかし当時このクラスでは、いや、この学校の生徒全体が呪いを信じていた。

半年前、最初に不幸の手紙が届き、それを皆の前で破り捨て、

その日のうちに交通事故で意識不明に陥るという、

手紙が蔓延する原因となった人物の一人が、

今回殺された鶴羽真希なのだ。


「……双方の両親に話を聞こう。物部、行くぞ」

風浪は他の警官に後を任せ、車に乗り込んだ。

相川綾乃:

加奈の友人 クラスメートを殺した

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