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19 孤独――加奈の真相3

携帯電話の呼び出し音で、目が覚めた。

パソコンは、まだあのページを表示していた。

見たくないから、消す。


電話は警察の人からだった。

両親と綾乃ちゃん以外からの初めての電話。

そうじゃなくても、警察から電話が来るなんてこと、そうあるもんじゃない。

何か新しいことが分かったのだろうか。

電話番号を教えてから、もうすぐ1ヶ月。

綾乃ちゃんが死んでから……もう2ヶ月。

「……もしもし」

「風浪です。訊きたいことがある」

「何ですか?」


昨日の誠君との話についての質問だった。

何でそんなことを聞くの?

何でそのことを知っているの?

あたしがそのことを聞く前に、電話は切れた。


嫌な予感がした。

誠君の電話にかける。

1分待ったが出ない。

警察の人にリダイヤル。


「誠君の電話にかけたけど、全然出ません。

 何かあったのかもしれないから、様子を見に行ってもらえませんか?」

「……」


沈黙。

後ろが、なにやら騒がしい。

どうやら屋外にいるらしい。

どうして?

警察の人が誠君について質問してきて、

騒がしい屋外にいる。

どうして?


頭の中に、黒い霧が立ち込める。

この前の比じゃない。

もっと、どす黒い。

触れたものを真っ黒に塗りつぶして、飲み込んでしまうような、悪意の塊。

焦りが込み上げる。

「ねえ! どうして黙っているんですか!? 聞いてるの!?」


彼は、ゆっくりと、低く、でもはっきりと、言った。


「……水樹誠は、今朝、自宅で転落死した」


電話が、手から滑り落ちた。


綾乃ちゃんが死んだ。

隼人君が死んだ。

神林さんが死んだ。

呪いが、誠君にも。

また、誰かを殺して。

ミンナシンダ。

アタシノセイデ。


「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

机の上に、カッターナイフがあった。

あたしは叫びながら、それを携帯電話に突き刺した。


違う!

嘘だ!

知らない!

認めない!

本当なわけがない!

あってたまるものか!


ガッガッガッガッ。

何度も、何度も、刃を立てる。

携帯は、既に機能を失っていた。

ボタンは外れ、液晶は割れ、ひびだらけになり、中身が見える。

それでも、あたしは突き刺し続けた。

この携帯こそが、誠君の死を伝えるこれこそが、

現実そのものであり、

これを壊せば、事実を否定できると思った。

これが粉々になれば、誠君の死を無かったことにできると思った。


そんなわけないなんて、すぐに気付く。

いや、最初から分かってる。

あたしはとうとう携帯を放り出す。


怒りの矛先を自分以外の何かに向けたくて、枕を本棚に投げつける。

何冊かが床に落ちてドサドサと音をたてた。

それでも心を傷つける刃物は向こうを向いてくれなかった。

掛け布団をベッドから引き剥がして、

床にぶちまけ、そこにうずくまって泣いた。


おまえのせいだ。

おまえのせいだ。

おまえのせいだ!


そう。

全て、あたしのせいだ。

あたしがいなければ、綾乃ちゃんは死ななかった。

綾乃ちゃんが死ななければ、多分他の人も死ななかったのだろう。

あたしさえいなければ。

関わっちゃいけなかった。

あたしは、存在しちゃいけなかった。



これ以上、迷惑はかけたくない。

きっとあたしも死ぬ。

その前に、誰かを殺す。

そんなのは嫌だ。

これ以上犠牲は増やさせない。

思い通りになってたまるものか!


だから。


あたしは自ら命を絶つことを選んだ。



準備はできた。

後はこれを首にかけて、

ちょっと足を曲げるだけ。

早く、確実に死ななければならない。

もうすぐ誰かが来る。

呪いの主が来る。

それまでに、あたしが死ななければならない。

分かってる。

分かってるのに。


怖い。

死ぬのは、怖い。

でも、人を殺すのはもっと怖い。

大丈夫。

死ねばみんなに会えるよ。

だから……


ドンドンドン!


ドアを乱暴に叩く音が聞こえた。

来た!

呪いが、やってきた!

ダメだダメだ。

もう時間はない。

あたしの体が乗っ取られる。

その前に、使い物にならないようにしなくちゃ!


あたしは、跳んだ。



ごめんなさい。

みんなあたしが悪かった。

あたしのせいで、綾乃ちゃんは、壊れてしまった。

恩を仇で返すような真似をした。

だから、会う資格なんてないのかもしれない。

隼人君も、その同級生も、

神林さんも、その社長さんも、

誠君も、彼が殺した誰かも、

みんな、あたしのせいで死んでしまったのかもしれない。

根拠なんて、ない。

でも、きっとそうなんだ。

あたしが納得できれば、それでいい。

あたしにとって「論理的」なら、それでいい。


だから、あたしはやっぱり一人ぼっち。

誰にも会う資格なんてない。

これからは、永遠に一人ぼっち。

あたしと関わると、不幸になる。

だから、誰も関わらないで。


……でも。

でも。

最後に……ひとつだけ。

ううん、ふたつだけ。

ごめん、みっつだけ。

みんなに言わせて。



ごめんなさい。


ありがとう。


さようなら。

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