18 自責――加奈の真相2
どうして!?
どうして当の本人が知らないの!?
「綾乃さんが知っているはず無いけどな……
会ってないし、話もしてない。
だから、多分去年の話をしたんだと思うよ。
去年も同じだったし、そのことは綾乃さんに話した覚えがある」
そんなわけない!
だって……普通去年の話なんかしないでしょ!?
新年に、わざわざ1年前の話なんかする!?
あたしは、しばらくその場に呆然と立ち尽くしていた。
「加奈さん……加奈さん?」
「……あ……うん……ごめん……ありがと」
「ううん、役に立てたならいいけど」
「そっちは何かある?」
「……いや、何も……」
「そう。じゃあもう遅いし、切るね」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
なかなか電話が切れなかった。
携帯のボタンが、上手く押せなかった。
指が震えていた。
意味が分からない。
綾乃ちゃんが知るはずのないことを知っていた……
そして、するはずのないことをした。
人を殺して、自殺した。
今になって考えてみると、
そこまで気が動転することもなかった。
綾乃ちゃんはあたしに誠君の話をしたがっていたから、
正月らしい話題として、古い話を引っ張ってきたのかもしれない。
多分今年もそうだろうと思って話したのだろう。
……でも、話の流れ的に、今年のことじゃなかったっけ……?
そんなはずない。
だって、実際不可能なんだから。
ベッドの上に大の字になった。
天井を見上げる。何の変哲もない灰色の平面。
あたしはそこに、心の中で絵を描く。文字を書く。
久しぶりに綾乃ちゃんとの思い出に意識が向いたのだ。
綾乃ちゃんは、あたしの恩人。
綾乃ちゃんがいなければ、きっとあたしは
中学の頃と同じことになっていただろう。
悲しみと自己嫌悪の暗闇をさまよい続けていただろう。
生きてすらいなかったかもしれない。
天井に、あたしが綾乃ちゃんともしも会っていなかったらの光景が写る。
見たくないから、右手を伸ばして、それをぐちゃぐちゃにかき混ぜた。
綾乃ちゃんはこうやって、あたしの暗い未来を叩き潰して、
混沌から、一から、光り輝く世界を造り出してくれた。
周りの人から見れば、それはごくごく普通の、当たり前の世界。
ううん、むしろ薄暗い世界かもしれない。
でも今まで暗闇で生きてきたあたしにとって、それはあまりにも眩しくて。
たった3年間。
それだけの短い時間暗闇の中にいただけで、
こんなにも眼は弱ってしまうんだと驚いた。
でも、それは幸せなこと。
「不幸」から見た「普通」は、「幸福」。
だからあたしは、幸せだった。
静かだった。
両親は、買い物に行ってくるとか言っていたような気がする。
その時あたしは眠っていたから、具体的にどこへ行ったのかは知らない。
最近は一日の3分の2以上はベッドで横になっていた。
堕落した生活。
こんなんじゃいけない。
こんなんじゃいけないんだ。
理性の声が、ようやく体に届く。
重たい体を起こして、鈍重な頭に喝を入れる。
とりあえず、あの事件をマスコミがどう書いているか、
改めて見てみよう。
目撃者の視点からではなく、傍観者の視点から。
当事者の立場からではなく、一般人の立場から。
テレビとか、新聞とか――
パソコンのスイッチを入れた。
あたしはパソコンのことは全然分からない。
インターネットしか使えない。
メールは携帯で済ます。
綾乃ちゃんと両親からのメールを除けば、
広告メールと迷惑メールしか受信したことが無かった。
でも、学校もテレビ局も新聞社も出版社も
自分達のサイトを持っていることは知っている。
流し読みするなら、これが一番手っ取り早い。
丹木南高校と、相川綾乃で検索をかける。
ものすごい数のヒット件数があった。
学校の校長の謝罪文。
若者の心の闇と題した特集記事。
異常者だと罵る個人サイト。
不幸の手紙事件と結び付けて、
綾乃ちゃんが自分の呪いにやられたなんていうオカルトページもあった。
どこもかしこも、面白半分でこぞってこの事件を取り上げて――
え?
目を疑った。
たくさんのサイトの中で1つだけ異色を放つ「それ」の存在を、
あたしは信じられなかった。
「それ」の真偽を確かめるために、
あたしはベッドに戻り、目をつぶって、ここ半年の記憶を追体験する。
それこそが、傍観者。
既に決まっている過去。
今の意思は反映されない。
変えることのできない過去。
断片的な記憶の中に、あたしはたくさんの綾乃ちゃんの姿を認める。
信じられなかった。
「それ」をじゃない。気付かなかったあたし自身を。
どうして!?
どうして気付けなかったの!?
見えなくなっていた。
あたしには、見えなくなっていた。
安心という名の、ブラインド。
依存という名の、障害物。
「そういう視点」で過去を振り返れば、簡単なことだった。
ふとしたところで見せる綾乃ちゃんの表情が、仕草が、
全てを物語っていた。
どうして半年も経った今になって呪いが起きたのか。
その謎も、解けた。
呪いは、半年前から起きていたのだ。
あの事件の直後から起きていたのだ。
それを、綾乃ちゃんはずっと……
ごめんなさい。
あたしのせいだ。
アヤノチャンヲコロシタノハ、アタシダッタ。