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16 動機――論議と仮説3

漠然と考えてはいたが、相浦が上手く整理してくれた。

5人の中に犯人がいるとすれば、水樹しかいない。

最後に死んだのは綿原だが、彼女は風見も神林も殺せない。

神林はこの半年4人の誰とも会わなかったわけだし、

風見と相川に至っては3人、4人を心理的に操るなんて不可能だ。

水樹が犯人ならば、相浦の言った通りに事を運べる。


水樹が犯人ならば。



水樹について聞き込みをすると、全員の証言の中に含まれている。

「生真面目な人だった」と。

遅刻はしない、授業中に居眠りはしない、校章は付ける、

アルコールは飲まない、赤信号は渡らない、深夜徘徊など以ての外だ。

俺は立場上、皆そうすべきだと言わなくてはならないのだが。

俺の印象でも異論はない。真面目だが、気が弱い人間。

半年前、常磐について聞き込みをしたときも同じだった。

「真面目すぎるくらいの人間で、自殺なんかしそうにない」。

話を聞いていると、それ以外でも何となく、人物像が似ているのだ。

だから俺は相浦の話を聞いて、動機があると思った。

水樹自身には動機はない。あるのは常盤だ。

綿原の言ったとおり常磐は成仏していなくて、

怨霊が水樹に取り憑いて今回の事件を起こしたのではないか。

水樹と常磐は思考回路が似ていたため、操ることができたのではないか。


半年前の事件で常磐が5人を異空間に閉じ込めたのは、

死体を興味本位で見に来るような奴には

ロクな奴がいないと考えたからだと思われる。

一度は水樹に説得されたものの、

死体を見に来るだけで死に値すると考え直したのではないか。


だが同時に、漠然と感じていた違和感も、

相浦が説明してくれたことではっきりしてきた。

何よりも、水樹が神林を殺すのは非常に難しい。

あそこで偶然神林に出くわし、

しかも轢いたトラックの運転手が偶然居眠りをしていた。

そんなことがありえるだろうか。

神林と会う約束をしていたのだとしたら、

もっと確実な方法があったはずだからそれもありえない。

神林の件は本当に事故だったとしても、

相川に何と言えば凶行を誘発できるのか。

綿原に何と言えば自殺を誘発できるのか。

……綿原については相浦が例を示したので、それでいいかもしれないが。

風見と尾崎を殺したのなら、何故返り血を浴びていないのか。

どうして半年も経った今になってなのか。


そもそも、水樹の死はどう見ても事故だ。

自殺にしても他殺にしても不確定要素が多すぎる。

もっと確実な死に方、殺し方は五万とある。

自殺だとしても、どうせ死ぬ気なら綿原を殺してから死んだほうが確実だ。

綿原を自殺に追い込むこと自体も不確定要素なのだから。

だから水樹が死を偽装したのだとも考えたが、死体は相浦の写真で確認した。

前に会っているから分かる。あれは紛れもなく水樹誠本人だった。


しかし、だからと言って他に容疑者がいるわけでもない。

だからと言って水樹が犯人だという証拠もない。

本当に、偶然に偶然が重なっただけなのかもしれない。

全ての事件は独立していて、何の関係も無いのかもしれない。

……いや、綿原の死だけは、止められたはずだな。


怨霊がそれぞれの人間に取り憑いては殺し、取り憑いては殺しを

繰り返してきたというのも無理がある。

狂わせて自殺させればいい話だ。

鶴羽や尾崎を殺す意味が無い。2人は何の関係もない。

力が尽きかけてきて、新たな魂を求めた?

……ククク、随分とオカルト染みてきたな。馬鹿馬鹿しい。


「常識」で説明できないことなんてそうそう無い。

半年前の事件がずるずると尾を引きずっている。

切り捨てなければ。

「常識」で説明しなくてはいけない。

この事件も、「常識」で説明すべきなのだ。



今まで散々言ってきておいて、今更こんなことを言うのも難だが、

実のところ、動機は分からなくても構わないのだ。

決定的な証拠さえあれば、捕まえることはできる。

……今回は犯人が既に死亡している可能性もあるが。

だから、動機など気にせず、証拠だけを探し回ればいい。

それでも調べずにはいられないのは、人間が説明を求めるからだ。

人は意味の分からないもの、正体の分からないものを恐れる。

どう対処すればいいのか分からないものを恐れるのだ。

だから、説明を求める。対処法を求める。

それは自分にとって危険なのか、関係はあるのか、

あるとすればどうすればいいのか。

それは知的好奇心や探究心とは同じようでいて、まるで違う。

向上心から来るものではなく、死への恐怖から来るものだ。

生きたいという気持ちと死にたくないという気持ちは別のものなのだ。


水樹誠が犯人なのか。

だとしたら動機は何なのか、証拠はあるのか。

別の人間が犯人なのか。

だとしたら、それは誰なのか、動機は何なのか、方法は何なのか。

個々の事件は独立したものなのか。

だとしたら、つながりのある人間がこんなにも次々と死ぬことがあっていいのか。

3つのうちのどれでもないのか。

だとしたら、どういうことなのか。



……こういうものは、まとめて考えるから分からなくなる。

1つ1つ、考えていけば分かるはずなのだ。

分かるところから潰していく。

クロスワードパズルと同じだ。


とりあえず、社長殺しに関してはもう目星が付いていた。

藤崎祥子:

綾乃の小学生時代の同級生 いじめを受けていた

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