13 法則――誠と加奈3
ここへ来る途中、車の中で相浦に詳しいことを話した。
ただ、半年前の事件については触れず、
同じ頃に親友を失った高校生同士が知り合いで、
その2人が遭遇した事故で死んだ人間も
たまたま2人の知り合いだったという話にしておいた。
物部にもそう説明するよう言ってある。
「……綿原が、自分は死神だみたいな妄想に取り憑かれちゃいないかな」
「あるかもしれないな」
似たようなもんだろう。
ただ違うのは、自分が死ぬかどうかだ。
死神なら、自分は殺さない。
呪われているなら、自分も殺されるだろう。
「さっきの話だが」
「ん?」
「お前が電話で聞いた、相川が水樹のお年玉の話をしたっつう話、怪しいな」
「……」
「勘違いかも知らんが、本当だとしたら、嘘をついてんのは誰か」
「相川か、水樹か」
「綿原の可能性もある。そもそもそんなのは作り話」
「会話内容を誤魔化したってことか」
「だとすると、何のために?」
急いで綿原の体を地面に下ろす。まだ温かい。
救急車を呼ぼうとすると、相浦に止められた。
「アイちゃんにかけるよう言っといた」
家の前で見張りをしている藍井だ。手際がいい。
余談になるが、相浦の本名は相浦明。
当然の如く小学校の頃から常に名簿番号1番だった。
去年彼女が新しく配属されてきたときは相当悔しがり、
当初は目の仇のようにしていた。
それが今では大のお気に入りだ。こいつの考えていることはよく分からない。
家には誰もいなかった。夫婦で買い物にでも行っているのか。
リビングのテーブルを見ると、そのようなことが書かれたメモが置いてあった。
相浦が、珍しく小難しい顔をしていた。
「……綿原の携帯電話……見たか?」
「……ああ」
「相川も、風見も、神林も人を殺してる。水樹だけが……違う」
「綿原加奈は、頚椎骨折で即死だった。
窓もドアも鍵がかかっており、現場は密室。布団が散乱していた」
「……全員……死んだ……」
休み明けに、物部に状況を説明した。
「現場には、カッターナイフで滅多刺しにされた携帯電話。
俺との通話が途切れたのは、それが原因だと思う」
これは俺の責任だ。
言い逃れは出来ないと思って、事実をそのまま言ってしまった。
綿原はこの前俺に会ってから一度も学校へ行っていなかったという。
神林の死が、余程ショックだったのだろう。
もっと、言葉を選ぶべきだった。
彼女の死の原因は俺にある。
罪は、重い。
……彼女が本当に錯乱していたというのなら。
「俺達……大丈夫なんですかね……俺達も常磐正志に会っているんですよ……?」
「お前も呪いだなんて言い出すのか?」
「……だって……」
「俺がお前を殺すとでも? それとも、お前が俺を殺すのか?」
そう、前に共通点として、人を殺して自分も死ぬ、
少なくともそう見えることを挙げた。
しかし今回は単なる事故死と自殺。
とうとう法則は破綻した。
ただ、綿原が水樹を殺したとすればこの法則が当てはまる。
物部はそう主張する。
相浦も、冗談っぽく言っていた。
それは、ない。
自分の命を捨ててまでその法則を貫く理由が無い。
いや、動機が無いのも共通点だったな。
しかし、目的を持って自殺するのは、
誰かを貶めるためか、何かを守るため。
そんなものは非常に特殊な例だ。綿原には無い。
それに水樹が死んだのは本当に事故だ。
当時、綿原は両親と共に自宅にいたし、通話記録も無い。
どうやったら、水樹を操れるというのか。
明日の朝に、家族に内緒で家を出ろとでも言うのか。パジャマのままで?
そうだとしても、殺すのは無理だ。
確かにあの家は、屋根から頭を下にして滑り落ちると
頭が塀にぶつかるようになっている。
しかし、それは水樹が足を滑らせなければならないし、
しかも頭から滑り落ちなくてはならない。
しかも打ち所が悪くなくてはならない。
そんな不確実性に賭けるというのか。
そんなことを繰り返していたら、絶対に疑われる。
水樹にではなくとも、少なくとも我々には。
ただ、この短期間に高校生が4人も死んだのは、
他の条件を取り除いても異常だ。
呪いだったらいいと、俺も思う。
それなら、綿原が死んだのは俺のせいじゃない。
でも、それは責任転嫁だ。
責任を虚構になすりつけているだけだ。
現実から逃げているだけだ。
償わねばならない。
そのためにも、この事件は解決させねばならない。
相浦が、変なことを言っていた。
「首吊り死体って嫌なんだよな。糞尿まみれで臭くて。
片付ける側のことも考えて欲しいわぁ。
……でも、綿原はそうじゃなかった。
お前も体がまだ温かかったこと、覚えてんだろ?
部屋の中でもかなりの寒さだったのに。
だから俺も、これは気管圧迫か、それプラス動脈圧迫だけで、
これなら後遺症はあっても助かるって思ったんだが。
俺達があそこまで行くのに20分くらいだったっけな。
にもかかわらず、あれは首を吊った直後っぽかった。
鬱血していなかったし、首についた縄の痕も薄かったからな。
だから、お前との電話の直後じゃなくて、
俺たちが突入する直前だったんだよ、綿原が死んだのは」
藍井愛:
相浦の部下 ほぼ確実に名簿番号1番