11 墜死――誠と加奈1
あれから半月以上が経った。今日は祝日。
それでも俺は今日の当番だったので署に向かった。
特にやらなくてはいけないことも無い。
とりあえず、今までの事件を整理してみよう。
初めに断っておくが、
これらの事件が関連していると言う証拠は何も無い。
バラバラの事件を、半年前の出来事にこじつけただけとも言える。
何しろ半年前だ。現在までに、一体どれだけの出来事が起こっている?
一日だけでも数十、細かいものを含めれば数百のイベントに遭遇する。
その中の1つを選んで使っているに過ぎない。
死亡事故・事件も、この2ヶ月で12件起きている。その中の3件だ。
ただ、これらの事件がどことなく不可解で、
不思議な繋がりがあるように思えるのも否定できない。
一番大きいのは、その繋がりである半年前の事件の内容。
それが、常識的には考えられない内容だから、
俺達には想像もつかない何らかの共通点があるのでは、
意志が働いているのではと思ってしまうのだ。
まずはそのことについてまとめなくてはならない。
これまでずっと半年と言ってきたが、調べたところ正しくは4ヶ月だった。
年をまたいでいるので遠いことのように思える。
だが、まあ便宜上「半年前」とこれからも言うことにする。
去年は例年より暑く、当時はまだ夏のようだった。
とはいえ、さすがに夏休みの気分も抜けきった頃だ。
ある日の夜、列車に線路脇から人が飛び込んだとの
知らせを受けて俺達が駆けつけた。
その飛び込んだ人間というのが、常磐正志だった。
しかしいくつかの不審な点があり、俺はそれを運転手加納清二が
トリックを用いて事故に見せかけた殺人だと結論づけた。
加納は全てを白状し、物部を人質に取って逃走を試みた。
その直後、怪物が現れたのだ。
そいつが消えた跡には加納の死体と腰を抜かした物部、
そして立ち尽くしている俺がいるだけだった。
その頃、水樹らは乗客の消えた車内で常磐と行動を共にしていたらしい。
いや、正しくは、常磐は途中で死んだように見せかけて
水樹らを観察していたという。
死んでいた人間が死んだふりをするというのもおかしな話だ。
相川綾乃の事件。
これは大勢目撃者がいる。
だから、事実関係は正しいはずだ。
ただ、理由だけが分からない。
計画的な犯行なのか、突発的なものなのか。
前者とは考えづらい。
それならもっと人目につかないところにすればいい。
それとも、何かの見せしめだった?
でもそれよりも、かっとなって殴ったというほうが合点がいく。
殴ったことで興奮状態に陥り、もう一発。
問題はその後だ。
何故自殺したのか。
そして何故単に飛び降りなかったのか。
普通に落ちても体のバランスから、頭から落ちることになる。
そうでなくても、下がコンクリートなら全身打撲と内臓破裂で死ぬ。
わざわざ頭を下にするということは、より死を確実にしたかった?
自殺するという、強い意志があったのか。
そして、そのまま落ちず、わざわざ振り返って手すりに腰掛け、
クラスメート達を見渡せる格好から後ろに落ちたのは何故か。
これもまた、後頭部を打ちつけるためなのか。
それとも、何かを言い残そうとしたのだろうか。
理由なんて無く、錯乱していただけなのか。
風見隼人の事件。
目撃者がいないから推測しかできない。
ただ、風見がナイフを手にしたことは指紋から分かっている。
ナイフがどちらのものだったのかは分かっていない。
だから、逆に尾崎が風見を刺したという可能性もあるのだ。
自殺なら胸を刺すより首を切るだろうという意見もある。
ただ、そうするとナイフが風見の近くにあったことが疑問だ。
尾崎が自分の首を切った後、薄れゆく意識の中で
罪を着せるために、ナイフを倒れている風見に持たせた?
そんなことができるのか?
第3の可能性もある。
別の誰かが2人を殺し、鍵をかけて出て行ったということだ。
正直、俺はこれを疑っている。
密室と言っても、簡単な鍵だ。
合鍵も作れるし、慣れているものなら針金で開け閉めできるかもしれない。
鍵が落ちていたのも、隙間から投げ込めないこともない位置だ。
何かしらの道具を使えば、あるいは……
神林亜深の事件。
結局神林が社長に恨みを抱いているなんてことは聞き出せなかった。
実は他の社員のほうが動機がありそうだったりする。
神林が疑われている理由は、
毒の入った瓶に神林の指紋が大量に付着し、
日頃から持ち歩いていたことが推察されることと、
ポケットに合鍵があり、それ以外に扉を閉める手段が無いことだけだ。
慌てていたというのも、後から作られた記憶かもしれない。
いや、「だけ」というのが、俺の偏見である。
物的証拠はあるのだ。
風見の事件と違い、社長のいた部屋は合鍵以外の開閉は不可能と思われる。
会社の貴重品と学校の貴重品では重要度が違うからだ。
しかし合鍵にわずかに血液反応があったのが気になる。
それは神林の血液だった。しかも新しい。
ポケットの中にまで血は入っていなかったし、
指に怪我をしていたなんてことも無い。
なら、この血はいつ付いたんだ?
ジリリリリリ。
その音が、俺を現実に呼び戻した。
机の電話が鳴っていた。
受話器を置いたとき、俺は手を抜いてしまったことを心底後悔した。
やはり、警護をつけなくてはいけなかった。
水樹誠が、転落死した。
加納清二:
「半年前の事件」の引き金
 




