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甘い飴をくれる狼にはご用心  作者: ミケ~タマゴ
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♡02話 警告音が鳴り響きます



「お嬢様、お迎えの方がいらっしゃいました」


 ちょうど、支度が整ったところでメイドの声がかかりました。ユリリーサナは頷くと部屋から出ます。


「お気をつけていってらっしゃいませ」

「よい舞踏会になりますように」

「お嬢様に幸運がありますように」


 背後から支度をしてくれたメイド達が声をかけてくれます。


「どうぞ、こちらでございます」


 呼びにきたメイドがユリリーサナの前を歩き始めました。


「あちらでお待ちです。どうぞお気をつけていってらっしゃいませ」


 玄関ホールにつくと、先導してくれたメイドは一礼して下がっていきます。


 メイドが、下がる前に手の平を向けた方に視線を向けました。


 屋敷の扉近くに家令のワースと一人の青年が立っています。兄は殿下の側に侍るため、すでに王宮に向かったのでこの場にはいません。


 ワースの隣に立つ青年を目にした瞬間、ゾクリと寒気のようなものが背筋に走りました。背が高く、一目で美形だと思う青年でした。

 珍しい藤色の髪は、真ん中から分けられて後ろの方へと流されています。艶のある綺麗な青紫色は目を引きます。


 青年の髪型に一瞬、息を飲みました。そう、真ん中分けです。危険な真ん中分けです。学院時代、あの髪型をした男子は容赦なく揶揄されたものです。

 あの髪型は揶揄をものともしない顔の形のよい、バランスの取れた顔をした者にしか許されない禁忌でした。この青年にはとても似合っています。


 スッと描いたような眉、切れ長の紺色の目は深い海を思わせます。吸い込まれそうです。

 形のよい鼻はこの鼻で世界を手に入れてやるぜ! と叫んでいるようです。口の端を持ち上げた笑みを形づくる口は淡い紅色で、見る者の胸を妖しくときめかせる艶があります。


 バランスのとれた細身の逆三角形の上半身、引き締まった腰からはスラリと長い足が伸びています。

 綺麗な立ち姿ですが、どこがどうとは言えない、こちらの胸をざわつかせる雰囲気があります。いけない事に誘われているような妙な色気のようなものを漂わせているのです。

 白い蝶ネクタイに黒のテールコートを身に纏う青年には妖しい魅力がありました。


 兄の友人が来るとは聞いていましたが、このような方とは思っていませんでした。


 微笑んだ青年が何かを口にしようとした瞬間、スッとワースが前に出ました。


「お嬢様、これはお美しい。白いドレスがよくお似合いでございます。まるで白い薔薇の花のようでございますね」


 側の青年の眉がピクリと動きます。


「あんなにお嬢様を溺愛し、大切に、それはもう大切に、お嬢様に手を出す者は容赦なく叩き潰し、宝物のようにお育てになった旦那様や奥様が、こんなに美しいお嬢様のお姿を直接ご覧になる事が出来ないのは誠に残念でございます」


 側の青年がギョッとしたように目を見開きます。


 ワースの言葉にユリリーサナは軽く首を傾げました。そこまで大切に育てられた覚えはありません。どちらかと言えば放任されていたと言えるのではないでしょうか。

 でなければ、あんなやつが婚約者にはなりません。両親よりは兄の方がユリリーサナの事をよほど気にかけてくれています。


「あっ、お嬢様。こちらのお方がアンドリューズ様の仰られていた御仁です」


 ワースが丁寧に青年に向けて手の平を向けますが、青年に向けるまなざしには敵意のようなものが籠っています。


 青年は苦笑いのように口元をちょっと歪めた後、前に一歩出ました。手を胸に当てての優雅な挨拶です。


「兄上の学生時代の同級生で、エセルバート・ニコラス・タラシーダ・マンダーウルフと申します。本日はこんな美しいご令嬢の手を取れるかと思うと心が浮き立つようです」


 目を少し細めて口元を持ち上げた、獲物を物色するような笑顔を見せられました。とたんに背筋がゾワゾワとします。妖しい色気がただ漏れです。


 この青年は危険です。愛読書で培った『耳年増センサー』が警告音を鳴らしています。


 コホッコホッとワースの不自然な咳払いでハッと我に返ります。つい、青年に見入ってしまいました。ドレスを摘まむと膝を曲げて挨拶を返します。


「ユリリーサナ・リリアナ・スズネ・サウスワイズリードですわ。わたくしもこんな素敵な方に一緒にいていただけるなんて、心が弾むようですわ」


 青年がこちらに近寄ろうとした所で、青年の進行を阻むように、またワースが前に出ました。


「お嬢様、馬車の用意は出来ております。アンドリューズ様によ~く言われておりますので、王宮に着くまでは私もご同行させていただきます」


 スッとワースの手が差し出され、ユリリーサナはその手に手を重ねました。


 青年の眉がまたピクリと跳ね上がるのが、目に入りました。


「あっ、どうぞついてらして下さい」


 ユリリーサナの手を引いたワースが青年に軽く声をかけます。口調は丁寧ですが、敬意は全く感じられません。青年はまた苦笑いを浮かべると、黙って背後から付いてきました。




           ◇◇◇



 王宮に着くと先に降りたワースに手を取られ、馬車から降りました。馬車ではワースが隣に座り、向かいの席に青年が座りました。

 青年との会話はことごとくワースに阻まれました。絶対に親しくはさせないぞ! という意気込みを感じさせられた時間でした。


「いいですか、お嬢様。王宮には様々な方がおります。狼のようにお嬢様を食べようと狙う方もきっといます。危険な方もいるのです。身近な人間に狼が潜んでいるかもしれません。油断してはいけません。くれぐれもご用心なさいませ」


 ギュッと手を握られ、真剣な目で言い聞かせられます。


「はあ……」


「そろそろ、いいかな?」


 気の抜けた返事を返した所で、側に立つ青年から声がかかりました。


 ワースが名残惜しそうに手を離すと、青年の手が差し出されます。その手に手を重ねるとワースが殺意の籠ったような目を青年に向けました。


「あなた様は命を大事にされる方とお見受けしました。お嬢様を大切に扱いくださるようお願い申し上げます。

 決して、ええ、決して邪な思いに囚われる様な事はないと信じております」


「ええ、大切に心を込めてエスコートさせていただきますとも」


 ワースにニコリと微笑んで青年は、ユリリーサナの手を引きました。


「お嬢様、絶対に油断してはいけません! ご用心を! くれぐれもご用心を!」


 背後から心配そうなワースの声が、しつこく投げかけられました。


 受付を済ませ、二人で腕を組んで大広間に向かいます。天井の高い、赤い絨毯の敷かれた広い廊下を歩いていると、クスクスと隣の青年の笑い声が聞こえました。


「すごいなあ。すごい牽制だった。アンドリューズにも散々言われたけど、あの人はまたすごかったね。どんな事を聞かされているんだろ? 君はとても大切にされているんだねえ」


「はあ……」


 独り言のような青年の言葉に適当に相槌を打ちます。大切にされているのとは違うような気がします。


「フフッ、実はね、君はとても私好みの女性なんだ。あそこまで言われると逆に闘争心を掻き立てられるというか……。高嶺の花を手折るのに挑戦したくなるよね」


「はあ……」


 何やら不穏な事を口にした青年に返事を返すと、青年は足を止めてこちらを見ました。


「君の髪はアンドリューズより明るい青なんだね。とても綺麗だ。目も澄み渡った空の色だね。こんな美しい目はずっと見つめていたくなる……」


 青年の視線を感じ、そちらを見ました。目と目が合います。青年の深く濃い青色の目は妖しくきらめいています。背筋にゾクリとした痺れが走りました。


 ──うっ、邪眼!


 クラリと目眩のようなものを感じます。


「君のような素敵な女性と、もっと親密な関係になりたい……」


 ──くっ、エロボイス!


 青年が耳元に口を寄せて囁いてきます。

 腰砕けになりそうなエロボイスです。もう、どうにでもしてという気にさせる声です。


 ボウッとしかけたところで、コホンッコホンッと廊下に立った衛兵から咳払いが聞こえました。ハッと我に返ります。

 青年の口から小さな舌打ちのようなものが聞こえました。


「チッ……うん、時と場所は選ばないといけないよね。こんなところでは何もできないか。後でまた挑戦させてもらおうかな。じゃ、行こうか」


 また独り言のような言葉を言って、顔を前に向けて歩き始めました。ユリリーサナは一緒に歩きながら、青年の横顔をソッと窺います。


 ──危険!危険です。この青年は危険だと『耳年増センサー』の音が大きくなっています。『狼だよ!』『エロ魔神出現!』と赤い光が点滅しています。


 そう、油断してはいけません。簡単にいただかれてしまうわけにはいきません。用心しなければと気を引き締めました。


 大広間につくと王族の方々に挨拶をするための人々の列に並びます。後一組で自分の番になる所で、ドキドキと心臓が緊張で高鳴り始めました。

 ポンポンと隣の青年が組んだ手を軽く叩いてきます。青年の方を見ると「大丈夫、落ち着いて」と囁やかれ微笑まれました。

 何故か、スゥッと緊張がとれていきます。エロ臭くない笑顔でした。意外なお役立ちをみせてくれた青年にチョコッと感謝しました。





          ◇◇◇



 王宮大広間に白いドレスが花びらのように翻ります。


 今はこの舞踏会で社交界デビューする女性のためのダンスの時間です。かかっている曲は夏の訪れを歓迎するワルツです。


 王族への挨拶は無事に済みました。主要な方々への挨拶も無難にこなしました。王太子殿下には、他の方よりも親しげな言葉をかけていただきました。

 赤髪の青年とともに殿下の背後に控えた兄は、友人であるはずの青年に、射殺しそうな厳しい視線を向けていました。青年は何も感じてないような笑顔で、その視線に応えていました。








 

 ★揶揄(やゆ)……からかうこと。

 ★禁忌(きんき)……してはいけないこと。



 青年の髪色を藤色→(すみれ)色→藤色


 ある人気作品を読んで、容姿が被ってる気がして、慌てて髪色を変えたのですが、今まで読んでくださった方のイメージを変える方がよくないと思い直しました。混乱してました。

 何度も修正をして、すみません。1日の変更でしたが、ご不快な思いをされた方がいたら申し訳ありません。m(__)m

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