会合
目が覚める。いつも通りの天井を見て、いつも通りカーテンを開ける。
春の日差しは気持ちがいい。快晴というのは、特に何かあるわけではないとわかっていても浮かれるものだ。
「また同じ親子丼を食べるのも芸がないよな・・・よしマヨネーズを大量にかけてみよう」
俺は味覚の探検家、速水玄徳である。
世にあるバターと醤油などの黄金の組み合わせは、きっと俺のような好奇心溢れる探検家たちが見つけ出してきたのだろう。
そして俺は今日、親子丼とマヨネーズという黄金の組み合わせを生み出すのであった。
「うん・・・普通に親子丼とマヨネーズだな」
・・・たまにはこういうこともある。エジソンだって失敗を繰り返して電球を発明したんだ。俺だって失敗はするさ。
少し油っこくなった親子丼を食べ終えると大きく伸びをしてから身支度をする。
昨日見た映画「駆動騎士ガムダス~反逆のアズマ~」の原作を買いに行くのである。
「いや、アレは名作だった。小説版は心理描写も上手く描かれているだろうし、絶対面白いわ」
小説から映画化した作品は、時間の都合上心理描写をカットすることが多い。
小説が原作の映画は、先に映画を見てから小説を読むのが玄徳のこだわりである。
「こんな快晴に外に出ないのは人生の損失だね。もったいないもったいない」
靴を履き、体感で1週間ぶりの外へ出る。
暖かな春の日差しが玄徳を包む。
「そうだな。今日は自転車じゃなくて歩いて行くか」
彼の家は東京の西にある。
駅前はそこそこ開発され、デパートもビルもあるのだが、駅から15分ほど歩くと川や畑が見える発展途上の街である。
ちょうど畑が見えそうな位置にあるアパートに母親と二人で暮らしている。
最近駅前には大手デパートがいくつも建ち、周りの市からは調子に乗っていると思われているが、まさにそのとおりである。
音楽を聴きながら少し遅めに歩いていると30分ほどで駅に着く。
混雑したその街はゴールデンウィークだからか、家族連れやカップルが非常に多い。
「今ここに爆弾落ちたりしねえかなあ・・・」
物騒な事をつぶやきながら本屋へと向かい、目的にのものを購入する。
オシャレに喫茶店で本を読もうと少し速めに歩いていたら、
「お、速水君じゃないか!久しぶりだね!元気にしてるかい」
こ、この人は中田雄太・・・高身長イケメンを地で行っている人物で、俺の幼馴染である要杏の彼氏でもある。
「お久しぶりです。お、俺はいつも通りです」
「そうかいそうかい。また戻ってきたかったら僕から店長に言っておくから!またね!!」
俺が高校を卒業してからすぐ始めたバイト先のコンビニで、彼もアルバイトをしていた。
何かあるといつも気にかけてくれる良い先輩だったが、なぜか好きにはなれなかったんだよなあ。
嫉妬なんかじゃない断じてない。
「あ、はいありがとうございます。ではまた」
イケメンってやつは、どうしてこうも俺にエネルギーを使わせるんだ。
変な汗が全身から止まらないぜ。
まあ母親以外の人と、久しぶりに喋ったってのもあるな。
それにしても急いでたな。
ゴールデンウィークだし、杏にでも会いに行ったかな・・・。
要杏・・・。
俺の幼馴染で、3つ歳上の22歳OL、なかなかの美人だ。
父親が亡くなって引っ越しするまでは隣の家に住んでいて、何かと俺をからかったりしてきたが面倒見は良いやつだ。
今では杏もこっちに来て一人暮らしをしているらしい。
今度顔出してみるか。
「なんだか少しブルーになったぜ・・・。早く小説読も」
俺はそのまま喫茶店へ寄ることもなく家に向かった。