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未知との出会い


「本当にこれは、いよいよ以て複雑怪奇だぞ」


斬り捨てたゴブリンの亡骸を眺めて厳爾は呟いた。

所持品を漁ったところ、謎の干し肉らしきモノを持っていたが、何の肉かも知らない上に未知の細菌による食中毒も考えられる為、口にするのは躊躇った。

人に襲い掛かるのを見ると人肉の可能性も否定出来ない。


「やはり食べないのが正解だろうな、うん。」


腹は減っているのだが……。


グゥ


……。


「もしや餓鬼道なのか……?」


まだ、あの世である可能性を捨てきれていない厳爾であった。


まあ、本当に死にそうな程腹が減っていたら、この謎干し肉でも構わずかぶりついていただろうが、生憎まだ大丈夫だから遠慮させて頂こう。


頭上を見ると大きな猛禽類が数匹飛び回っている。

どこから嗅ぎ付けたのか、恐らくゴブリンの亡骸が目当てに飛んで来たのだろう。

今の私にわざわざ穴を掘って葬ってやる余裕は無いから、せめて動物達の腹に納められて血肉となってくれ。


厳爾は立ち上がり、先の見えぬ旅の続きを再開しようとした。


「……むっ」


また同じ鳴き声が聞こえ始めたので前方を見据える。


「今度は三体か」


厳爾は収めた刀を再び抜き放つ。

もしやこいつは斥候だったのだろうか?

両断されたゴブリンの亡骸をチラリと見ながら厳爾は考える。


「三人ならば勝てると、踏んだのか?それとも勘定抜きで仇討ちか……」


どちらにせよ面倒な事この上ない。

三体のゴブリンは、ただひたすら厳爾へ向かって来る。


ギャッギャッギャッギャッ


顔がハッキリと見える距離まで詰められた事で分かったが、彼らの浮かべている表情は間違いなく憤怒だ。


「殺意を込めて得物を振られた以上、相応の対処をしただけのつもりだが……同胞を討たれればそんな事は関係ないか」


実に自分勝手な怒りなのだが、人間も似た様なモノだと厳爾は良く理解している。

知性ある者だからこそ、怒りに身を任せ、仇討ちに走る事もあるものだと。

彼らの怒りを向けられる事を理不尽とは思わなかった。


「分かりきった事、再び剣を交えるのみ!」



厳爾は思いっきり地を踏みしめて、右方へ勢い良く跳んだ。


「ギャッ!?」


横並びで突進して来たゴブリン達は、眼前に居た厳爾の取った突然の動きに一瞬だが身を止めてしまう。

そして跳んだ厳爾の方へ身を向けた瞬間――


「ハッ!」


ズンッ


右端に居たゴブリンの眼孔に、厳爾の刺突が炸裂した。


「ギュアアッ!!オゴッ」


厳爾はそのまま刀を深く刺し進め、左手でゴブリンの喉へ拳骨を喰らわせる。

そして右端のゴブリンを真ん中のゴブリンへぶつける形で突進し、素早く刀身を引き抜くと蹴り飛ばした。

仲間の身体をぶつけられた真ん中のゴブリンはバランスを崩し、左に居たゴブリンは思わず後ろに飛び退き距離を取った。

仲間をカバー出来る範囲外に出たと判断した厳爾は、その隙を見て、身を屈め疾風の如く近づき、真ん中のゴブリンの腹を叩き斬る。


「ギャッ……ギョッ」


ボタボタと臓腑を地に撒きながら、腹を抑え前屈みのまま倒れ伏す真ん中のゴブリン。


「あと一人!」


これで一対一。

厳爾は残った左側のゴブリンを鋭く睨みつけ、一気に肉薄する。


「ギャギャァッ!!!」


慌てたゴブリンは、厳爾目掛け錆びた剣を全力で横から振り抜いた。

だが、手応えは無く。


「終わりだ」


身を屈め回避した厳爾は、下からゴブリンの下顎を狙い刺突し、脳天まで貫いた。


「グッ……」


声をあげる事も無く、最後のゴブリンは絶命する。

力なくダラリと下がった手から、錆びた剣が地に落ちて鈍い鋼の音が響いた。



「はぁ……」


厳爾はまだ息のあった二体のゴブリンにトドメを刺し、絶命を確認するとようやく一息ついた。

久しかった、生ある者を殺めるこの感覚。


「必要な殺生を躊躇する気は微塵も無いが、やはりこの感覚……好みでは無いな。」


溜め息が出そうだが、生を殺める行為に快楽を見出す事をヨシとしなかった厳爾とって、この世界に来てからもそんな感情が自分に残っていた事は嬉しいと思えた。

厳爾はフッと鼻で笑い、天を仰ぎ目を瞑った。


その時



「先ほどの戦いぶり、実にお見事!!」



背後から発せられた凛とした女の声が耳朶を打った。


振り向くとそこには、煌びやかな装飾が入った鎧を着込み、背嚢を背負い、腰に短剣を差し、立派な長剣を携えた……

そして何よりも目を惹いたのは、その美しい白金色の髪と、整った顔立ちの女性が立っていた。


「……どなたかな?」


「ああ!これは失礼。」


彼女は一呼吸おいて一礼すると、ゆっくりと口を開いた。


「私はエーリカと言う者だ。エーリカ・ヴァイス・クリューガー。ここら一帯の治安維持と害種討伐を行う騎士団の長をしている。」


……騎士団?

これはこれは、いやはや……。


「そなたは異国の者だな。そして先程の戦いぶりと、その剣と整った衣を見るに軍人であろう?」


「……そうだな、その通りだ。」


異国どころか世界自体が違う気もするのだが、ややこしい事になりそうなので黙っておくべきだな。


「その慣れた反応を見るに、私の様な異国人は珍しくないのかな?」


「うむ、そなたに似た顔立ちや服装の異国人は確かに珍しいのだが、何度か見た事はある。」


これは間違いなく最重要情報だ。

同胞達が来ている可能性も頭に入れておかなければな。


「ところでエーリカ殿は先程のゴブリン達を、もしや討伐する為に此処へ?それならば手柄を奪ったようで申し訳ない。」


「ハハハッ!討伐ならば部隊を引き連れて来る!今日の私は非番でな、修行として単身でここを彷徨いていたに過ぎん。何も気にするな。」


「なるほど、それは良かった。」


ふむ、休みも自己の鍛錬に励むとは感心。

自信と誇りに満ちている、なんとも気持ちの良い話し方の女性だな。


「して、そろそろそなたの事も教えてはくれぬか?」


いかんいかん

そういえば私の自己紹介を忘れていたな。


「私は……」


果たして本当の事を言うべきなのか少し迷う。しかし彼女の話を聞いた限り、ここへ来る異国人は多いらしく目立たないだろうし、同胞が気付いてくれる可能性を踏まえると、敢えて正しい身分情報を示した方が良いのかもしれない。

厳爾はそう判断した。


「私は、大極東帝國陸軍・終身統括元帥、軍馬厳爾(いくさばげんじ)だ。」



それを聞いたエーリカはギョッと目を丸くして、いきなりプルプルと小刻みに震えだした。


「げ、げ、げっげげげ……」


「どうしたエーリカ殿」



「元帥だってぇーーーーーッ!!??!?」



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