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第3章 現れし絶望

「……はぁ……はぁ

くそっ! なんで俺がこんな目に……!」

 俺は今、この上なく困惑していた。

 目の前で人が死んでいるのである。

「くそっ、どうすればいい」

 考えがまとまらないまま、時間だけが過ぎていく。

 そもそもなぜこうなったのか、事の起こりは三時間前に遡る……。


「昨日未明、東京都サテライト市サティスファクションタウンの路上で、変死体が発見されました。警察によると、まだ被害者の身元は分かっておらず、現在調査中との……」

 朝起きてテレビを点けると、いきなり物騒なニュースが報道されていた。

「うへー、うちの近くじゃん。やべーな」

俺はいつものくせで独り言を呟いた。どうも一人暮らしが長く続くと独り言が多くなっていけない。

「あいつ、大丈夫かなぁ」

 ふと、離れて暮らしている妹のことを思い出す。「あのこと」があってからあいつとはあっていない。あれからどうなったのだろうか。

「まあ、いいか。どうせ関係ないし」

 そう考え、俺は学校へ向かった。

 俺、川口俊朗が通うのは、市立高崎台高校。偏差値50代の、ありふれた平凡な共学だ。

 午前中、いつも通りの退屈な授業を睡魔に耐えて乗り切った俺は一人で校舎裏のベンチへ向かった。普段は誰もいない、ひっそりとした場所だ。仲の良い友人も恋人もおらず、人付き合いを避けてきた俺にとって、唯一安らげるのはその場所だけなのである。

 けれども、その日、俺はその場所でおぞましい光景を目にしてしまった。同じ高校の制服を着た男子生徒の屍体が、血だまりの上に横たわっていたのである。

「……C……」

 途方にくれている俺の耳に、かすかな声が聞こえた。

「ま、まだ生きているのか…?今すぐに保健室に連れて行ってやるからな!」

 俺は血まみれの男子生徒に駆け寄り、体を抱き起こした。

「ぐっ……この肉体は……もう使い物にならん……すまんが少年……"寄生"させてもらうぞ……」

「何だって!」

 瞬間、男子生徒は俺の顔を覗き込んだ。異様な外見だった。彼の左目はルビーのように紅く、不思議な輝きを放っていたのだ。

「お前が、Cを、殺せ!!」

「ぐああああ!」

 俺の左目に激痛が走る。俺はその場に倒れ伏し、気を失ってしまった。




 気がつくと、目の前に全裸の女の子がいた。

 全裸の女の子は、俺に向かって笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。

 しかし、俺は彼女に恐怖ともいうべき感情を抱き、後ずさりをした。

 彼女の目だけがどうみても、笑っていなかったのだ。

「Cを……殺すのです……」

 Cという単語で、俺はさっきの血まみれの男のことを思い出す。

 あいつは俺にCを殺せとか寄生だとかなんだとか言っていた。ということは、彼女はあの男と関係があるのではないか。だが、それでも全然、まるで意味がわからない。

 俺は彼女にこの状況について聞こうとした。だが、コミュ障の俺からは

「ア…アァ……」

 という声しか出てこなかった。

「Cを…殺すのです…」

 彼女はそれだけを繰り返し言いながら、俺に詰め寄る。俺は何も言えず後ずさる。それにしても随分と後ずさりを続けたように思うが、そもそもここはどこなのだろう。行き止まりにぶつかることはなく、ずっとこのまま行けるようにすら思える。


 ついに痺れを切らした彼女は俺に襲い掛かってきた。彼女の身体能力は常識では考えられないもので、俺はなすすべもなく押し倒された。

 押し倒された時の感覚で、俺はあることに気づく。彼女だけでなく、俺も全裸だったのだ。ということは、俺は始めから全裸だったのか。ますますわけがわからなくなってきた。


「C……C………!!」

 全裸の彼女の迫り方が激しくなってくる。声が俺の頭の中にガンガン響くようになった。

「ア…アァ……!」

 疑問は未だ解決されないまま、気が狂いそうな状況へと悪化していく。

 ここはどこだ。

 彼女は何者なのか。

 というかCってなんだ。

「C……C……!!」

「ア…アァ…!!」

 もはや考える余裕すらなくなった。

 自分という存在すらよくわからなくなってきた。


「C……C………C!!」


 そして俺と彼女は一つになった。




 いっけな〜い、遅刻遅刻〜!!

 あたし皆部眞子、ごく普通の女子高生!ある日突然、憧れの田中先輩から突然呼び出されちゃったの。

 人気のない校舎裏に先輩と2人きりって……!? どうなっちゃうのあたしの高校生活〜〜〜!?


 ……って、もう。なんでこういうときに授業は延長するのかしら。

今までの積極的なアプローチの甲斐あってようやく掴んだチャンスなのに。

でも、きっと大丈夫。流れに身を任せれば全てうまくいくはず。


 あたしは校舎裏へ駆け出していった。新たな希望を信じて――


 ――信じて、いた。


 でも、辿り着いた校舎裏には信じがたい光景が広がっていた。



 血まみれになって倒れた田中先輩とその横に立つ1人の男の姿。



 あまりのおぞましい光景にあたしは条件反射的に悲鳴を上げそうになった。

 しかし、あたしは声をあげることすらできなくなった。その時、気配に気づいたのか男があたしの方に向いたのだ。あたしは、彼の放つ殺気に恐怖した。


「お前が……C……なのか……?」

 男はあたしに問いかける。全く意味がわからない。もちろん、何も言うことができない。


 恐怖は、あたしの全身を支配していた。声をだすことだけでなく、身体自体が金縛りのように動けない。

 あたしは勇気を振り絞って何か行動を起こそうした。しかし、その勇気からは、

「あ…あぁ…」

 と言葉にならない声しか出なかった。


 どすっ。


 鈍い衝撃が身体に響く。


 一体何が起こったのかもわからない。だが、左胸あたりを中心に生暖かい感覚が広がっていくことでようやくわかった。


 あたしの心臓が男の手刀で貫かれていたのだ。


「あ…あぁ…」


 男の手があたしから引き抜かれであたしは力無く斃れる。

 この感情は何だろう。恐怖? 絶望? そんなものでは説明しきれない。今自分の身に起こっていることでさえ受け入れられてないのだから。

 そんなところに男の一言が追い討ちをかける。


「お前はCではない。Cはこのような一撃などものともしないだろう。」


 ……え? 勘違いってことなの? それじゃあ何故あたしはこんなことにならなければならなかったの?

 あまりの理不尽さ、やるせなさに怒りと憎しみのみがあたしを支配していく。

 しかし、世界は無慈悲にも廻っていく。何もすることも出来ずに意識は遠退いていく。


 ……これが、人生だ。



 ――かくして、皆部眞子 ―川口俊朗による連続猟奇殺人の第一犠牲者― の生涯は、幕を閉じたのであった。




「最近、猟奇殺人が横行してますね。最近のトレンドなんでしょうか」

「かもな。取り敢えずウチの科とは関係ないし、昼飯でも買いにいこうぜ」

「あーいいっすねー」

 二人の警官、皆部と水木は他愛もない話をしながら警視庁のエレベーターに乗り込んだ。


 一階につくと、数人の警官が慌ただしく廊下を駆けてきた。

「おいどうした、そんなに慌てて」

「知らないんですか、水木さん!?(((・・;)

警視総監が緊急の記者会見を開くらしいんだ。それが全国中継されるって!」

「なんだって、それは本当かい!?」

 ただならぬ気配を感じた水木と皆部はそれに追従して、TVのある休憩室へと向かった。

「もう、みんな殺すしかないのです!」

 画面一杯に映った水瓶警視総監が叫ぶ。

 続いて記者団からのヤジが飛んだ。

「何を言ってるんですか!ちゃんと説明してくださいよ!」

「警視総監!この首都圏を丸ごと爆破するって、どういうことですか!?」

ざわめきの中、警視総監が激昂する。

「だから、もう殺すしかないのですよ! 

いいですか!? 皆さんもご存じでしょう、猟奇殺人事件のことは! この一件は結構やばいんです! で、犯人は多分首都圏にまだ潜伏中なんですよ! だから、首都圏ごと殺すしかないのです!」

 警視総監は早口にまくし立てる。

 あまりに無茶苦茶な警視総監の主張に、液晶前の皆部らも息を呑んだ。

 なんだ、一体何が起こっている?

「いいですか皆さん!最近は、学校の校舎裏に行ったら血塗れの死体や殺人現場に出会うことが当たり前になっています。これが現実なんです。だから首都圏ごと殺すしかないのです!」

「なんだそれは!滅茶苦茶だ!だったら校舎裏だけ爆破しろー!」

 記者団がどんなに追及しても、警視総監は「殺すしかないのです」の一点張りだった。


 その一部始終を見ていた皆部らも声を荒げた。

「あのジジイ、とうとうボケたか」

「痴呆もここまでくると迷惑だよなあ」


 その時、一人の警官が休憩室のドアを勢いよく開け放った。

 TVに釘付けになっていた視線が一斉にそちらに向く。

「おい、どうした」

「たいへん……です…….」

 警官は肩で息をしながら、言葉を繋げる。

「皆部さんの娘さんが……ついさっき……猟奇殺人に巻き込まれて亡くなりました」

 皆部は全身から血の気が引いていくのを感じた。

「よし、そうとなったら決まりだ! 警視総監に協力するぞぉ!」

 皆部は、周りの水木らを巻き込んで決起する。最初は戸惑っていた水木らも、彼の覚悟を悟ってか、次第にそれに同調していった。

「お、おぉ……そうだよな! やろーぜやろーぜ!」

「東京都爆破とか、俺も一回やってみたかったんだよなー!」

かくして、多数の住民の反対を押しきり、東京都における大規模爆破掃討作戦が実行されることとなった。


「さぁ、最高のショーの幕開けだ。皆、楽しんでいただこう。待っていろ、C」

 警視総監は一人、にやりとほくそ笑んだ。


 しかし、最終的に東京都爆破が行われることはなかった。その前に東京都が、いや日本が完全に消滅してしまったからである。



 人々の恐怖や狂気が最高潮に達したとき、東京都の地下に眠っていた「それ」は目覚めた。「それ」は目覚めたときに、大きな欠伸をした。そして、それだけで日本はまるで最初からそこに存在しなかったかのように消滅した。欠伸をし完全に目が覚めたのか、「それ」は大きく翼を広げ、どこかへと飛び去っていった。


 ある次元

「非常に大きなエネルギーを確認!分析したところ、奴だとおもわれます! 」

「馬鹿な!奴はわずか数十年前に、Cの手によって再封印されたはずだ!目覚めているはずがない!」

「しかし、主任!これは間違いなく奴の波動です。間違えようがありません! 」

「くっ、肝心のCは狂気に飲まれ、世界を守るどころか破壊せんとしている。おまけに事態を大きくしようと、裏で糸をを引いている連中がいるようだ。くそっ、どうすればいい!」


 ある次元

「くくく、ようやく奴が目覚めたようだ。これで、私の計画はもはや誰にも止められない」

「この後は、いかがなさいますか、マスター」

「ふふふ、何もせずともよい。ただ無意味に抗う虫けらどもを眺めようじゃないか。さあ、ショータイムの始まりだ」



 ある次元

「もはや、残された手段はただ一つ。あれを使うしかない……」



 ある次元

「おっぱい」



 ある次元

「これで、ようやくCを殺せる。さあ全てを無に帰せ、DHD、ディスコンストラクションハルマゲドンドラゴン! 」




 それから30年の歳月が過ぎた。

 咆哮と共に目覚めたディスコンストラクション・ハルマゲドン・ドラゴンは1145141919893もの世界を終焉に導いた。

 このままではあらゆる世界がハルマゲドンによって消滅してしまうードラゴンの危険性にを認識した「次元交信者(ディメンション・チャネラー)」達は、「屠龍騎士団(ドラゴンスレイヤー・ナイツ)」を結成した。

 一方のディスコンストラクション・ハルマゲドン・ドラゴンは、破壊した世界の女性たちと交わることで「龍の血族」と呼ばれる眷属を生み出し、騎士団を絶滅させるために彼らを各次元に送り込んだ。

 こうして騎士団と血族との「多次元大戦マルチ・ディメンション・ウォー」が幕を開けたのである。


第3章・完 第4章に続く


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