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第1章 伝説の始まり

「くっ、今朝も寝坊しちまったぜ」

 俺の名前は小野寺京一。私立三本木学園に通う高校一年生だ。今、俺は学園が建つ丘の坂道を全力で駆け上がっている。腕時計は既に始業時刻を指していた。

「はあ、はあ、ようやくたどり着いたぜ」

 息を切らせ、汗だくになりながら、俺は教室のドアを開けた。しかし、次の瞬間、予想だにしなかった光景が目に飛び込んできた。

「……な、なんだこれは」

 教室の中は、鮮血とバラバラになったクラスメイトの死体で埋め尽くされていた。

「嘘……だろ……」

……これは夢だ、夢に違いない。しかしいくら頬をつねっても、俺はこの異常事態から抜け出すことができなかった。

「一体誰がこんなことを……」

「その疑問には私が答えるわ」

 背後から投げ掛けられた声は、俺の妹である小野寺 里流(りる)のものだった。

「里流!? なぜ里流がここに!? 自力で登校を!!?????」

里流はいつも俺と一緒に登校しているが、たまたま色々あって今日は一緒に家を出られなかったのだ!!!

「そう、全ては偉大なるあの方のために。だから一緒にお兄ちゃんと登校せずに、色々準備をしていたのよ」

「くっ、どういうことかわからないぜ」

「このクラスの人は私が殺したのよ」

「な、なんだってーーー!(>_<)」

 驚きで俺はへたりこみ、里流はつかつかと俺の方へ歩み寄ってくる。

「やめろ、来るな!」

「お兄ちゃん、死んで」

 里流は懐から刃渡り20㎝はあろうという包丁を取り出した(ちなみに、20㎝というのは正確な数値ではないが、貴重面な里流のことなので、大体それくらいの長さであろうことは推測できる)!

「くっ、まずいぜ」

 俺は近くにたまたまあった花瓶(結構重い)を里流に投げた。

「ぎゃあああ」

 顔面直撃! でも案外里流は平気そうだった。

「何!?花瓶があたったのなら、顔面は破壊されるのではないのか!?くっ、ここは逃げるぜ!」

 昨日見たアニメの台詞のオマージュで自分を鼓舞しながら俺は扉の方へと走った。

 でもこれで、妹と俺の関係はおしまいだ。終わってしまった。凄く残念だ。

 俺と妹の薔薇色の近親相姦生活の夢が、今くだけ散った。

 僕はついていけるだろうか――――君のいない世界のスピードに。

 そんなことを心の底で思いながら、俺は走った。

 走った……心を無にして走った。荒涼としたサバンナを疾走する猛虎のように、心がクリアになっていく。今なら使える。見るがいい、猛虎と化した俺の本当の力を「トラガガガーッ!?」

 いくつもの花瓶の破片が背中に次々と突き刺さった。俺はうつ伏せに倒れた。里流の足音が近づいてくる。里流の顔は、花瓶になっていた。妹は顔面が破壊される寸前に花瓶を吸収し、花瓶人間になっていたのだ!

「お兄ち花瓶ゃん、死花瓶んで」

 妹はナイフin花瓶を俺に投擲した。俺は自分もまた花瓶人間にされることを覚悟した。花瓶とはいえ妹に殺されるのなら、悪くない人生だったぜ。これからはずっと花瓶の中で一緒だ。俺は猛虎人間としての死と、新たな人生の幕開けを覚悟した。

 瞬間!  真の野生の咆哮を轟かせながら、教室の扉を突き破ってバイオゴリラが襲来! 俺の頭部を花瓶化せんと飛来するナイフin花瓶を一撃で粉々にし、そのまま里流を巻き込んで高速回転!  妹と花瓶を7:3の割合で混合したミンチが生成されていく!

 バイオゴリラは妹を粉砕し教室を破壊、壁も崩れて学校全体が倒壊していく。圧倒的暴力の渦の中、俺は確かにバイオゴリラの無感情な呟きを耳にした!

「ジャングル トラヨリ ゴリラ ツヨイ」

 花瓶人間と化した妹、唐突に襲来したバイオゴリラ、崩壊する学校。あまりにも非現実的な出来事の連続によって俺の精神は限界を迎えていた。

(もういやだ……。俺の日常を返してくれ)

 その瞬間、俺の脳内に謎の映像が浮かびあがる。「俺」がここではないどこかで、何かと戦っている。それは、俺、小野寺京介が見たことのない記憶。しかし、確かにそれは「俺」が経験した出来事。

「思い……出した……!」

 そう、俺の真の名はC。愛の伝道師Cだ!

 Cの力――それは、かつて他のある次元を滅ぼした程のものであることは言うまでもなく理解できることだろう。

「こんなクソみたいな現実は、私の力で、書き換えてやることにしよう」

 そう言うと愛の伝道師Cとして覚醒した京一は、Cの持つ能力の一つーユトリ・バニラ・コントスークを起動した。

「全ての生きとし生けるものよ、私の理想へと還れ!!」

こうして一つの世界は再構築され、日常は取り戻されたのであった。




 自分が小野寺京一なのか愛の伝道師なのか分からなくなってしまった京一の虚ろな呟きが、殺風景で何もない、ただひたすら真っ赤な地平の広がる景色に……煉獄の世界に木霊する。京一の自我は元通りになってなどいない。「彼」は愛の伝道師としての自分を取り戻してなどいなかった。

 クラスメートが全滅、妹には襲われ、その妹も花瓶人間と化し、さらにはバイオゴリラが登場、妹をミンチにした挙句学校を破壊、猛虎人間としての京一の存在すらも否定された。「彼」の自我はとっくに、取り返しのつかない狂気に侵されてしまっているのだ。

 そんな状態の「彼」が、本来は自由に使えたはずの規格外リセット能力を……世界の再構成能力を発動したらどうなるだろうか? 答えは想像に難くない。「彼」の狂気が、この世界全体を包んだのだ。「彼」を狂気から完全に解放しない限り、すなわち「彼」をこんな状態に至らしめた張本人たるバイオゴリラを……そして、妹を操っていた黒幕を倒さない限り、「彼」の煉獄は終わらない。

 「彼」の狂気はやがてあらゆる次元を侵食し、食い尽くすだろう。そして、黒幕もバイオゴリラも、世界の再構成から逃れるべく、既に別次元に逃げ込んでいるのだ……あらゆる次元に、この世界と同様の破壊をもたらすために!

 各次元でそれぞれの生活を送る、愛の伝道師に忠誠を誓った者達……秘密組織「サティスファクション組合」の団員たちにも、バイオゴリラと黒幕の魔の手が迫る。果たして彼ら彼女らは次元を超えた脅威に立ち向かい、愛の伝道師を救い出すことができるのだろうか。

 今……次元を超えた愛の物語が、始まろうとしていた。


第1章 完 第2章へ続く


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