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7. vs 純粋たる金髪の貴公子 世界に響け日本の文化編

多くの人に読んで頂けありがたい限りです

「もうすぐ日本か……」


 風に少し揺れる飛行機内。僕は窓の外に映る夜空を見つめつつ感慨深げに呟く。ようやく、ようやくこの国に来ることが出来た。

 クリストファー・アルタ。それが僕の名前。僕はこれから日本に行き、そして天ノ宮学園に入学するのだ。手続きが色々滞り入学式からは少し経ってしまったけど、そんなの関係ない。僕は日本で、そして天ノ宮でたくさんの友人を作り、そして色々と学びたい。だって、ずっと日本に憧れていたのだから。

 手元の本に目を落とす。それは日本の有名な観光地や芸術、それにカルチャーなどを記した本だ。今回日本に来るにあたって僕はこの本を何度も読み返しては思いを馳せている。

 僕がこんなにも日本に憧れるのは幼い頃に見たある絵が理由だ。両親に連れられて訪れた美術館。その一角にあったのはあの葛飾北斎の絵。海外でも評価の高いあの人の絵に幼いながらも僕は引き込まれたのだ。自分達の国とは違う、日本独特の感性で描かれた引き込まれる様な絵。それがきっかけで僕は日本に興味を持ち、色々と調べてるうちに好きになってしまった。今回の留学も親に無理を言ってなんとか許可を得たものだ。パピーもマミーは半ば呆れた様子ではあったけど最後は笑って送り出してくれた。グランパには怒られ妹にも大泣きで反対されたのがちょっと心残りだけど。けどそれでも僕は来たかったんだ、日本に。

 ふふ、日本に着いて落ち着いたらどこへ行こうかな……まずはやっぱりフジヤマだよね。北斎の絵にも描かれたあの山には行かずにはいられない! それに浅草という町も気になる。それに京都に奈良に……。


「旅行ですか?」


 不意に声をかけられた。慌てて本から顔を上げると美しい金髪の女性が微笑みかけてくれた。誰だろう? あ、格好からするとスチュワーデスさんか。制服きてるし。


「いえ、実は留学生としてしばらく日本で生活するんです」

「まあ……お一人で?」

「ええ、家族は本国に。今回も僕が無理を言ったものなので……」

「成程……けどまだ若く見えるのに一人で外国に留学なんて凄いですね」

「いえいえ、結構そういう人は居ますよ」


 金髪のスチュワーデスさんはコロコロと笑いながらも褒めてくれた。本当に大したことじゃないんだけどなんか気恥ずかしく感じて僕は照れてしまう。そうこうしてるとスチュワーデスさんは僕の手元の本に気づいた。


「その本……日本の文化に興味が?」

「はい。ずっと憧れていたんです。この本も何度も読み返していて」

「そこまで日本に興味を持ってくれて嬉しいです」


 スチュワーデスさんは嬉しそうに微笑む。それを見て僕はふと不思議に思った。


「あの……あなたは日本人なのですか? いえ、失礼とは思いますがあまりそうは見えなく……」

「無理も無いですね。私はクォーターですから。けどずっと日本で育ってきましたらから心は完全に日本人です。それより、日本に着いたらやはり観光もされるんですか?」

「勿論! 今はどこから行こうか悩んでいる所です。JINNJYAやOTERAにも興味はあるけど色んな所にあって目移りしてしまって」

「…………テンプレ小僧め」

「え?」

「いえ、なんでもないですよ。それより日本の文化に興味があるのでしたら丁度良い雑誌があります。如何ですか?」


 何か一瞬スチュワーデスさんの顔に影が差した気がしたけど、そんな事より僕は彼女のいう雑誌に興味を持った。完全に営業トークであるけれど、日本に住んでいた彼女がおすすめする雑誌と言うのなら読んでみたい。


「是非。いくらでしょうか?」


 僕が財布を取り出そうとすると彼女はいえいえ、と笑って首を振った。


「これはサービスです。本当は売り物では無いのですが、そこまで日本の事を好きなあなたにもっと知ってほしいという私のお節介ですよ」

「え……しかしそれは悪いんじゃ」

「いいんです。私がしたいと思った事なんですから。これを読んで日本の事をもっと深く広く知って下さいね?」


 そういうと彼女はどこからともなく数冊の雑誌を僕に渡すと去っていく。


「…………不思議な人だったな」


 けど優しい人だ。見ず知らずの僕の話をあんなに喜んでくれて、それに本までくれるなんて。これが話に聞く日本人のGIRIとNINJIYOUか!


「ありがとう」


 僕は日本人の暖かさに感動し、去っていく先ほどのスチュワーデスさんの、左右に揺れる金色の巻き髪(・・・・・・)に向けてもう一度お礼を告げると渡された雑誌に目を落とした。何冊か渡されたそれらにはこう書かれていた。


『電撃G's magazine』

『メガミマガジン』

『娘TYPE』





「ふふふふふ、作戦成功ね」

「お疲れ様です春華様」

「ほ、本当にやりましたね……」


 スッチー(死語)の制服を着こんだ私は専用の控室で己の首尾の完璧さに酔いしれていた。近くでは同じくスッチーの制服を着た理奈と美奈が控えている。


「クリストファー・アルタ、通称クリス。存分に日本を知るが良いわ。日本人の業の深さをね」

「なんというかもう春華様手段選びませんよね。こんなコスプレまでして……」

「コスプレじゃないわ。これは本物よ。金にモノを言わせて借りたけど」

「正直なのは良い事です春華様」


 いつも通りの笑顔の理奈に私は頷く。

 そもそもなんでこんな事をしているか。それは当然、あのクリスと神山姫季のフラグを叩き潰す為である。

 古今東西、乙女ゲーだろうとギャルゲーだろうと高確率で登場するキャラがいる。ずばり、外国系日本かぶれキャラだ。どこで知ったのかも不明な謎の日本知識を持っていたり、日本の文化に憧れていたり、最初からオタクだったりと多種多様なバリエーションはあり、当然鉄板ネタを通すストラボにもそのキャラは居た。それがあの金髪美青年、クリスだ。そしてこのクリスルートは鉄板ネタを挟みながらもある意味異色だ。

 日本の文化に憧れて留学生として来日したクリス。各種手続きを終えた彼は学園に通い始める事になるのだが、その初日に道に迷ってしまう。それをヒロインである神山姫季が助けた事がきっかけで二人は話すようになる。そして日本に不慣れなクリスを神山姫季が色々と案内する運びとなり、その中で二人は距離を縮めていくのだ。


「確かに鉄板ネタですね」

「ええ、だけどクリスルートはここから先が凄いわ」


 急速に距離を縮めていく二人。しかしそこで邪魔者が現れる。あ、ちなみに私じゃないわよ。ゲームだと私こと綾宮春華は二人が距離を縮める前からネチネチ嫌がらせしてるから。

 話を戻そう。新たな邪魔者、それはクリスの妹であるセリカだ。兄を溺愛していた彼女は自分を置いて日本に渡った兄を追って自らも訪日。しかしそこで見た兄とヒロインの様子に腹を立て、元よりクリスの日本行きに反対していた祖父の力も使って無理やり帰国させてしまうのだ。


「溺愛っていうかもうそれヤンデレとかの域なんじゃ」

「まあ美奈の言うとおりそんな感じだったわね」


 さて、愛しい人が強制的に帰国させられた事で落ち込むヒロイン。しかしそんな彼女の姿を見て他の選ばれなかった攻略キャラたちが立ち上がる! 自分達では彼女の隣には立てなかった……だけど、彼女の悲しむ姿は見たくないと! そして彼らに発破をかけられたヒロインはクリスの母国へ向かう! 


「おぉ、盛り上がってきましたね!」

「そうですね。負け犬達の最後の矜持という感じですね」

「そうよ、そしてここからがストレボのトンデモ展開の始まりよ」

「と、言いますと?」


 美奈の問いに私はふっ、と笑うとその意味を告げる。


「実はクリスは北欧の小国≪聖ラブドキキューン王国≫の第一王子だったのよ!」


 ぶほっ、と美奈と理奈が同時に咽た。うん、わかるよその気持ち。


「な、何なんですがその頭の悪い女子高生が携帯小説で衝動的に書きなぐった様な爛れた国名は!?」

「一瞬思考が飛んでいしまいました。しかし王子とは……まさかっ」


 理奈が何かに気づいた様だ。彼女に私は頷いてやる。


「そうよ。つまり金髪美青年留学生は実は外国の王子様だった!? と、来ればこの後に来る展開なんてもう決まった様な物! クリスの幽閉された王城(笑)に辿り着いたヒロインたちだけど逆に捕まってしまう! そしてクリスの妹セリカがまさにヒロインたちに制裁を咥えようとした時、どこからともなく現れたのは――――――白馬の騎士」

「う、うわあ……まさかそれって」

「そう、ぶっちゃけて簡潔に言うと白馬の王子様って奴ね。当然それはクリスよ」


 理奈と美奈が二人同時に何とも言えない顔をした。うん、だからわかるよその気持ち。


「そこまで行けば後はお約束ね。そもそもテメエ幽閉されてたんじゃねえのか何自由に歩き回ってんだコラとかいうプレイヤーのツッコミを差し置いて、クリスはセリカの命令でヒロインたちを捕えようとした衛兵たち蹴散らしヒロインを攫う! 当然ヒロインと一緒に来ていた攻略キャラたちは放置! そしてそのままクリスの祖父の元まで向かうと彼は高らかに宣言する。『この女性こそ僕の運命の人! この愛は何億年経とうとも消えること無い真実の愛だ!』と」

「すいません。正直言ってる意味が分からないんですけど」

「美奈、こういうのは勢いが大事なのよ。細かい事は気にしては駄目」

「理奈の言うとおりよ。まあとにかく、あとはご都合主義ね。何か知らないけどいきなり祖父が改心して『これが真実の愛!』とかなんか言い出していきなり二人の仲を認めて大円満……。それがクリスルート。どう? 頭が痛くなってきたでしょう?」

「はい……その、何と言うか鉄板ネタも組み合わせ次第では無限の破壊力を秘めているというかなんというか」


 同感よ。ストラボファンの中でもクリスルートは異色過ぎて色々言われてるし。イロモノすぎるとか、逆にそれが良い! とか。


「それで春華様。そのクリスとやらにあの雑誌を渡した理由ですが……」


 漸く本題に戻ってきたわね。


「簡単ね。クリスは日本の文化に興味があってやってくる。そしてその中でヒロインと出会う。ならば二人の出会いを阻止するかとも考えたわ。これまでやってきたように。だけどね、それじゃあ甘いと気づいたのよ」


 私は己の握りしめた拳を見つめ先日の戦いに思いを馳せる。


「クマスティーナとの死闘、あれは凄まじいものだったわ。そしてあの戦いは私に学ばせた。待っていれば死ぬ。ただ攻めるだけでも駄目。死にもの狂いで攻め続けろと」

「あの……春華様? 一応念の為に聞くんですけど元々ストラボって恋愛ゲームなんですよね? 何か聞いてると戦争系FPSでの教えみたいな感じが。あとクマスティーナって何ですか」

「何を言っているの美奈。貴方も先日仕留めた後一緒に食べたじゃない」

「熊っ!? あの熊の名前ですか!? ネーミングセンスねえ! と言うか仕留めて喰った相手に名前つけてるとかどこのアマゾネスですかっ!?」


 外野が煩いわね。だが私は続ける。


「そこで私は考えたわ、超攻撃的なフラグ消滅作戦を。それこそつまりゲームの内容にキャラが登場する前からフラグを叩き折れば良いという事よ! ふふふ、クリスの乗る飛行機を見つけられたのは僥倖だったわ。本国に居る時は流石に手は出せないけど、この飛行機の中ならこっちのモノ! 今のうちに爽やか金髪美青年をヒロインがドン引きするくらいの日本のサブカルチャーで染め上げてフラグを消滅させる! ふはははは! どうだ世界のISHI! 所詮ゲーム通りに進める事しか能のない貴様には、このゲーム本編外での攻撃には対処できまい!」


 ふははははははは! 勝利、圧倒的勝利! 日本に着き、ヒロインと出会うまで残り37時間。その間に必ずやクリスを重度のオタクに染め上げてヒロインをドン引きさせてやるわ!


「まあ、春華様が嬉しそう。まるで魔王の様に……」

「最近春華様の言動がどんどん危険な感じになってる気がするんですけどやっぱり前世とやらのせいなんでしょうか……」

「何をコソコソ言ってるのかしら! それより次の作戦に行くわよ! 次はクリスにシスプリを仕掛け妹萌えの概念を叩き付ける! な~に、心配いらないわ! 彼は元々妹のセリカを大事にしていたし素質はある! 次におねティとハッピーレッスンの合わせ技を加え年上教師系キャラにも適合! AIKAとナジカ電撃作戦で白パンを脳裏に刻みんだところでカレイドスターで泣かせる! その後はISで適度にバトルも見せたらゼロ魔シャナとらドラの釘宮コンボで落とす!」

「悪魔だ……悪魔がここに居る……」

「それだけじゃ終わらないわ! 日本に着いた後からも攻勢を仕掛け続ける。リトバスを齧らせ無きゲーの概念を刻み、そしてバルスカをやらせさりげなく18禁の壁を乗り越えさせたらつよきすでコンボを仕掛けそして―――」

「ど、どうするんですか……?」


 ふっ、と笑い私は笑顔で告げる。


「戦国ラ○スでトドメよ」

「が、ガチだ………」

「春華様は詳しいですねえ」


 ふふふそうでしょう?


「ふふふ。これだけやれば学園に登校する頃には完璧に染め上ってる筈よ。楽しいわあ、真っ白の半紙を染めていくようなこの感覚。だけどねこれは作戦の一部よ」

「と、いいますと?」

「。あくまでこれは種よ。彼を深みに嵌らせるための種。ゲームではね、神山姫季がクリスをあちこちに案内するの。と言っても日本全国は無理だから近場の観光地などをね。そのタイミングは5月の大型連休、つまり来週のGWね」


 しかしっ! 私は口元を吊り上げる。


「私の計画が上手く行けばクリスのGWは戦国ラ○スで終わる。かつての私の様に」

「アンタ前世で何やってんですか……」


 美奈のツッコミに私は目を逸らした。良いのよ、女でも楽しければいいの。悪いのは一日が24時間以上に感じるゲームを作ったメーカーよ。


「さあ行くわよ理奈、美奈! 私達の未来の為! もう決して止まれな――」

「あれ? 綾宮さん?」


 え? 

突如聞こえた声に私の体は硬直した。そんな、何故? 何故の今この声が……あの子の声がするの!?


「そ、そんな……」

「これは一体……」


 美奈と理奈は私の背後を見て硬直している。嫌な予感を感じつつ私は恐る恐る振り返り、そして見た。


「あ、やっぱり綾宮さんだ! こんな所で偶然ですね!」


 嬉しそうにはにかむ少女……それは神山姫季。そう、彼女が何故かここに居た。


 それも春麗のコスプレで。


「ってなんでだあああああああああああああああああああああああああああ!?」


 私の怒号が機内に響き渡った。


作者の青春自体要素が多分に含まれています

黒歴史ノートで色々やらかしたのでもう怖いものはありませんありませんとも

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