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12. vs 策略と捨て身の決意! 手段を選ばない生徒会長編

大変遅くなりました

「呼び出しですか?」

「なんでまた突然?」

「わからないわね……」


 既に今日の授業は終わった放課後と呼べる時間、私は理奈と美奈を伴って廊下を進む。二人は私のすぐ後ろに並ぶように歩きながら首を傾げている。私も同じ気分だ。

 事の始まりは今日の朝。登校するなり、生徒会役員を名乗る生徒が私の前に現れこういった。


「本日の放課後、生徒会室に出頭しろ」

「いや出頭て」


 思わず突っ込みを入れた私と唖然とする理奈と美奈を残してその事象生徒会役員は去っていたのだ。これで何を言われるのか予想しろと言うのも酷でしょう?


「春華様、心当たりは無いのですか?」

「そうですよ~。例えば生徒会役員の弟を歪みねえ存在に仕立て上げたとか家族を犬しか愛せない様な畜生に洗脳したとかモロッコでの改造手術の資金を提供したとか」

「やあねぇ美奈。私がそんな残酷なことする訳じゃないじゃない」

「え?」

「え?」


 私達の間に沈黙が訪れる。ねえ、美奈? 何で貴方は蒼い顔で彼方を見つめているのかしら? しかも脂汗をそんなに流して。理奈、貴方はどう思う? 訊いてみると理奈はにこり、とほほ笑んだ。


「はい。春華様は今日も平常運転で安心致しました」

「答えの様で答えになってないわよそれ」


 何故だろう。私に対する二人の評価が何かおかしい気がする。私のそんな怪しむ視線に気づいたのか、美奈は慌てた様に口を開く。


「そ、それよりも春華様! 本当に心当たりは無いんですか?」

「うーん、そうねえ……実をいうと全く無い訳でも無いんだけど……」

「その悩み方ですと……やはり攻略キャラ関連ですね」


 理奈が成程、と言った風に放った言葉に私は少々驚き振り返った。すると美奈までもが『ああ、やっぱり』と頷いている。


「あら? 生徒会について語った事あったかしら?」

「いえ、ありませんがここまで来たら予測は出来ていたので」

「そうですよねえ。成金、委員長、不良、ショタ、王子様、教師と来たら、残る学園モノでの攻略キャラなんて限られてますし」


 うんうん、と納得したように頷く二人を見て私も合点がいった。確かにここまできたら学園モノで残された鉄板攻略キャラなんて限られている。そう、即ち、


「生徒会長。それが次のターゲットですね」


 理奈の言葉に私は静かに頷いた。




 天ノ宮学園生徒会長、氷帝正也。もう名字からしてラスボス臭漂うこの男もまた、ストレボの攻略キャラの一人である。

 氷帝のルートは他と少々違いある特殊な条件がある。それは入学してから一か月、ヒロインこと神山姫季が誰ともフラグを立てずにいる事だ。不慣れな場所、そして悪意を持って接する生徒達(筆頭は当然綾宮春華)からの嫌がらせ。それらを誰ともフラグを立てず、自分一人の力で乗り切っていく事で、その心の強さを買われ氷帝自らが生徒会に勧誘するのだ。


「あれ? そうなると勧誘フラグ立ってません?」

「そうですね。今までありとあらゆるフラグを叩き折ってきましたし……」


 二人が首を傾げているがその通りだ。ゲーム通りであるなら既にフラグは立ってしまっている。……ゲーム通りであるなら。


「設定だとね、氷帝は神山姫季の逆境に負けない心の強さを買って勧誘したのよ。天ノ宮には一流の資産家子息令嬢達が通うけれども、どうしても我が強い生徒が多いわよね? そう言った連中は不良とかとは別の意味で扱いが難しく、時たま問題を起こしているわ。そういった連中の手綱を握る為にも、奴は心身共に強い者達を生徒会に集めているの」

「は、はあ」

「なんというかそれって生徒会の仕事なのかと思ってしまいますね」

「過剰な位な方がゲーム的には映えるからね。それはともかく、とにかく氷帝は強い存在を求めている。故にどんな苛めにも挫けない神山姫季に目を付けるのよ。だけどね、そもそも彼女ってそんなに苛められてるかしら?」

「そういえば……」

「普通に学園生活エンジョイしてますよね」


 美奈の言うとおり神山姫季は至って健全かつ普通の学園生活を送っている。理由は簡単、ゲームでは苛めの先導者となっていた綾宮春華、つまり私にその気が無いからだ。無論、庶民の出という事で下に見たり、多少なりと嫌味や悪態を付く者達も居るがそれほど目立っていない。元々人当たりも良く容姿も整っている彼女は普通に人気者になりつつある。

 つまり、心の強さも何も生徒会長が目を付ける理由が無いのだ。


「だからこそ分からないのよね。確かに、世界のISHIが何かしら仕掛けてくるとは思っていたけど、私を呼びだすっていうのは予想外だったし」

「確かにそう考えると妙ですね。今までの世界のISHIの干渉も基本は神山姫季と攻略キャラのフラグを立たせる事に特化してましたが、今回は春華様へ干渉してきていますし」

「今更ですけど私達の会話って大分ファンタジーですよね……」


 私と同じように理奈が悩む素振りを見せ、美奈はまたしても遠い目で彼方を見つめていた。気にしては駄目よ。


 そんな会話をしている内に生徒会役員室の前まで来た。ここまで来たら悩んでいても仕方ない。何を言われるかは分からないが障害は叩き潰すまでだ。


「行くわよ二人共」

「はい」

「ええ」


 二人が頷くのを確認し、私は生徒会役員室の扉を開き――


「綾宮春華へダイレクトアタック!」

「パツキンドリル流カウンターノーズブレイクッ!」


 突然飛びかかってきた男子生徒(よく見たら私達を呼んだ奴だ)の鼻っ面に容赦なく拳を叩き付けた。


「ぐほぉ……」


 崩れ落ちる男子生徒。その向こうでは部屋の奥のデスクに肘を乗せ指を組み、怜悧な眼をした男がこちらを睨みつけていた。そいつは切れ長の瞳を一層鋭くさせ、静かに口を開く。


「よく来たな、綾宮春華。この学園の風紀を乱す悪魔の女め」

「随分な挨拶ね、氷帝会長」


 さあ、ラスボスとの対面だ。私は今しがた潰した男子生徒を踏み越え、この部屋の主にして最後の敵と向かいあう。後ろに続く美奈が『あ、もう今しがた起きたバイオレンスな出来事には触れないんですね』とぼやいているが気にしない。

そんな私達を視線から逸らさず氷帝はふん、と鼻を鳴らした。


「貴様をこの程度で仕留められてるとは思っていない」

「……私が言うのもアレだけど生徒会長の台詞じゃないわね」


 少なくとも恋愛ゲームの台詞じゃない気がする。まあ今更か。


「それで、こんな所に呼び出して何のつもりかしら? 私も暇じゃないのだけれど?」

「そうだな。本題に入ろう」


 氷帝が頷いた瞬間だ、それまで黙っていた会長以外の生徒会メンバーが一斉に動き出した。まず2人が入口を塞ぎ、残る4人が部屋の両端――私達から見て左右に並ぶように陣取る。その動きには私達を逃がさないという意思が感じられた。


「あらあら、穏やかじゃないわねえ」

「お、おおう? 何なんですか!? やりますか? やるんですか!?」


 理奈が困った様に頬に手を当て、美奈は慌てて身構える。


「これ以上、お前達に好き勝手にこの学園を荒らさせん」

「……どういうことかしら?」


 氷帝を睨みつけると彼はふっ、と笑った。


「ここ最近で君達に関わった者達が尽く道を外れいる……いや、君達によって外されているのは知っている」


 ばさっ、と氷帝がいくつかの書類を放った。ひらひらと床に舞い落ちるそれに視線を向けると知った名前がいくつもある。丸山卓也、荒木健二、加持若彦etc……。それらの名前を見て私はうん、と頷く。


「皆自分に素直になった子達ね」

「貴様が洗脳したのだろうが!」


 ダンダンッ、と氷帝がテーブルを叩いた。あらやだ癇癪かしら。


「洗脳なんてしてないわよ。確かにちょっとばかし過激な未来へのレールを引いたり物理的に心を折ったり牛を紹介しただけよ」

「何が『だけよ』だ! というか最後の牛とは何だ!? 取り繕いもしないのか!?」

「会長落ち着いてください!」

「感情を乱しては相手の思うつぼです!」

「ステイステイステーイ!」


 何人かの生徒会役員たちが激高する会長を押さえつけている。ちょっと見てて楽しいわコレ。だがそんな彼らの尽力もあって氷帝は平静を取り戻した。……どうしても良いけど確か氷帝って冷静沈着なキャラだった気がするけど随分と騒がしいわね。


「はあ、はあ、はぁ……。あくまでシラを切るつもりだな……。だがこれ以上お前の好きにはさせん」

「と、言うと?」

「俺は、貴様の横暴を止める為ありとあらゆるものを調査した。そしてその結果、貴様の弱点を見つけたのだよ」

「弱点……?」


 なんの事だ? そりゃ人間だから急所の一つや二つはあるが。訝しむ私だが氷帝が放った言葉に凍りついた。


「―――――神山姫季」

「っ!?」

「……その反応。やはり当りか」


 氷帝がにやり、と笑う。しまった、突然の事に思わず驚きを表に出してしまった! しかしここでヒロインの名前? ということは……


「貴様はやけに神山姫季をマークしているな? 最初は疑問だったが調査の末に合点がいった。そして知ったよ、貴様の弱点もな」

「何ですって?」


 まさか氷帝は私の目的――ヒロインに恋愛させない為にとことんフラグを叩き折る――に気づいている? だとすれば弱点という言葉にも合点がいく! 私の目的はフラグを叩きおる事! 目的を知られるという事は対策を練られるという事だ!

 驚く私の顔に気を良くしたのか、氷帝は立ち上がると威圧を込めた視線を持ってこちらを睨みつける。


「綾宮春華……お前の弱点はただ一つ。 己を蹴り飛ばし病院送りにした神の脚を持つ少女、神山姫季の足技だな!」

「………………は?」


 あれ? 何だろう? 何か、何か恐れていた自体とはちょっと違う解釈をされている気がする。


「入学式の日、貴様は神山姫季と戦った!」


 いや戦ってないけど。運命とか世界のISHIとかとは戦ってたけどさ。


「そして死闘の末、敗れた!」


 いやだから戦ってないから。死闘って何だ。確かに自宅から10kmの距離を走り抜けた挙句最高速度20km/hとかいうイカれた威力を秘めた蹴りをどてっぱらには喰らったけど。


「その日以来、お前は神山姫季の足技を恐れている!」


 恐れているのはその神山姫季がイケメンどもと恋仲になる事でいずれ訪れる自身の破滅よ。


「だからお前は神山姫季に近づくであろう生徒達を次々に潰しているのだな。只でさえ天天敵の神山姫季に仲間が加わり、いずれ己が討伐されるのを恐れて!」


 討伐って何だ。私は鬼か巨人か。進撃するぞこの野郎。

 数々のツッコミどころ満載の持論を述べた氷帝が満足げに笑みを浮かべる。


「その顔、どうやら俺の予測は正しかった様だな」

「この顔は会長の予測が妙な方向に行ってる気がする故なんだけれども……」

「無駄な誤魔化しだ。だがこれではっきりした。やはりお前の弱点はあの神山姫季だと。ならばすることは簡単だ。彼女を味方に引き込めば貴様を倒せる!」

「っ、しまった!?」


 不味い。そう気づいた時には遅かった。控えていた他の生徒会役員たちが一斉に私達に飛びかかり拘束してきたのだ。突然の事に私も理奈も美奈も反応できず動きを封じられてしまった。


「貴様をここに呼んだ理由は簡単だ。放っておくと何をされるか分からないからな。この場で監視させて貰う。その隙に俺は神山姫季を手中に入れる」

「……っ、そう簡単に行くかしら? 会長の思想に彼女がそう簡単に同意するからしら?」


 苦し紛れの反撃。だが氷帝は見下した眼で笑った。


「そうするのさ。その為の天啓は受けている」

「は?」


 天啓ってなんだ? 首を傾げる私達に会長は笑みを深くした。


「夢を見たのだ。とても不思議な夢だったが何故かとても心地よい夢だ。そしてその夢の中で俺は謎の老人に教わった。神山姫季を手中に入れる為の手段を」


 何だと……? そんな都合の良い夢を会長が見た理由なんて一つしかない。


「世界のISHI……やはり仕掛けて来たわねっ! けど一体何を会長に吹き込んだというの……?」

「簡単な事だ。神山姫季を落とす為に必要な要素、それは成金、委員長、不良、ショタ、王子様、教師、そして生徒会長ということだ。ならばこうするしかあるまい!」


 氷帝が自らの制服の掴み、そしてばさぁっ、と音を立ててそれを脱ぎ捨てた。そして現れたその姿に私は息を止めた。


「神山姫季を手にし、貴様を倒す為の手段。それがこれだ!」


 現れたのは生徒会長氷帝正也の本気の姿だった。

 一度も染めた事が無かったであろう黒髪は、天を突刺す金髪のトサカヘッドへと変貌。おまけに謎の王冠も装備ときたもんだ。氷帝正也は校則を棄てた。

 脱ぎ捨てたブレザーの代わりに現れたのはピンク色のフリルが付いた学ラン。可愛らしいそれは乙女の心を鷲掴み。私達の恐怖も鷲掴み。氷帝正也は男を棄てた。

 右手に持つのは分厚い広辞苑。左手に持つのは何故か札束を握りしめたテディベア。首から下げるのは紐のついた出席簿。ひょっとしたらアレは委員長と成金と教師をさしているのだろうか。氷帝正也はバランスを棄てた。

 そう、その姿は確かに全ての要素を持っていた。成金的な札束も、不良っぽいトサカや学ランも。可愛い物好きらしいピンクのフリルとテディベアも。何かもう苦し紛れの教師要素の出席簿も。だけど、だけどさ……


「可愛らしさと不良らしさ。その表現には悩んだがこのピンクの学ランが全てを解決した今、この俺に出来ない事は何もない! 待っているが良い綾宮春華! 俺はこの姿で必ずや神山姫季を手に入れ、そしてお前に引導を渡す!」


 そう高らかに宣言すると生徒会長どうみてもへんたいさんは『ふははははは!』と嘲笑を上げながら廊下へと飛びだしていった。

 そうして残されたのは拘束された私達と、それを見張る生徒会役員達。そんな彼彼女らに私は慎重に、しかし心のそこから感じていた事を聞いてみた。


「学園の風紀が……なんだって?」


 生徒会役員達は一斉に私から眼を逸らした。


リアルが忙しすぎて大変遅くなりました。年末年始は地獄や……

そして待ち構える期末が怖くてたまりません


本編もついに最終決戦です。

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