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10. vs 冷静と情熱と本能の狭間 矜持と本能行く先は北の国から201X春編

リアル忙しすぎて泣きそうな鬱憤を文章にぶつけるという当作品

お待たせいたしました

 女なんて単純だ。

 我儘で自分勝手。自分の思い通りにならないと直ぐ機嫌が悪くなるくせに、良い男が居れば街灯に群がる蛾の如く引き寄せられていく。少しでも甘い言葉をかければ簡単に騙され、そしてこちらの思うように動く。笑えるくらいに単純だ。だからこそ俺は女が嫌いだ。


「加持先生! これ、受け取って下さい!」

「先生、今日も素敵です……」

「加持先生!」

「先生!」


 今日も俺に言い寄ってくる女子生徒たち。どいつもこいつも目を輝かせて寄ってくるのが鬱陶しい。だが同時に滑稽でもある。


「ありがとう。君達もとても綺麗だよ……おっと、こんな月並みな言葉じゃ不満かな?」

「そんな事ありません! 先生にそんなお言葉を頂けるなんて……っ!」

「ああ、今日もとても良い日になりそうだわ!」


 仮にもお嬢様と言えるべき少女たち。それが自分の一言でこうも思い通りの反応するのは本当に面白い。思っても無い事を適当に告げてやれば勝手に喜ぶ姿はなんとも間抜けで、それを自分がコントロールしているという事実に俺は心の中で腹を抱えて笑っていた。


「加持先生」

「……ん? 君は?」


 そんな女子生徒たちの中から一人、特徴的な子が現れた。煌びやかな金髪の巻き髪。つり目がちの相貌は自信に満ち溢れ、優雅さとどこか猛獣の様な強さを感じる生徒。綾宮春華だ。


「やあ綾宮君。どうかしたかな?」

「いえ、先生は今日も凛々しくて思わず見とれてしまいました」

「はは、おだてても何も出ないよ」


 何が凛々しくてだアホらしい。俺はこの生徒が嫌いだ。彼女の中等部時代の悪事は良く知っている。金と権力に任せて好き勝手に我儘し放題。彼女に泣かされた生徒や教師は数知れない。事実、先ほどまで俺に群がっていた女子生徒たちも綾宮春華の登場で顔を青ざめて引いていった。

 自身の容貌と権力。それに絶対の自信を持ち相手を蹂躙する女。それはあの忌まわしい母親を思い出させる。だからこそ俺はこの生徒を嫌っている。不思議と高等部に入学してからは以前のなりを潜め、比較的おとなしく生活していると聞くが、その胸の内ではどんな腹黒い事を考えているのやら。


「ご謙遜を。……ですがそんな先生に今日はお願いがあるんです」

「お願い? 何かな?」


 不穏な言葉に警戒する俺を尻目に、綾宮春華は封筒を取り出した。


「綾宮グループは多種多様な業界に進出しています。その中には普通の飲食店は勿論、大人の皆様がご利用されるお店もあるんです。あ、大人と言ってもいかがわしいお店ではありませんよ?」

「成程、それで?」

「この度新しいお店がオープンしたのですが今回は中々新しい試みの為、色々とデータが欲しいんです。ですので是非、女性の扱いに長けてい(・・・・・・・・・・)る先生にもお願いしたくて」

「……へえ?」


 挑戦的な目つきでそう言い放った少女に思わず俺は笑う。成程、腐ってもこの国有数の名家のお嬢様。僕の本性に感づいているのかもしれない。だがそうだとすると目的は何だ?


「それで、どんなお店なんだい?」

「大人の女性と歓談しながらお酒を飲む、所謂キャバクラです」

「キャバクラ? これは驚いたな……。女性の君からそういうお店を紹介されるとは」


 思わず問い返すと、綾宮春華はくすり、と小さく笑った。その笑いがどこか馬鹿にしている様で思わずイラッとする。


「別に普通ですよ? 経験の無い方は勘違いしている事もあるようですが、キャバクラは別にいかがわしくもなんともない、普通のお店です。会話で相手を楽しませるスキルを持った女性が、そのスキルを駆使してお客様と歓談する。そういうお店です。無論、多少は例外もありますが、先生の想像しているような事はありませんよ」

「っ」


 間違いない。この少女は俺を馬鹿にしている。キャバクラという業種を知らない事では無く、誤った先入観を持って問うた事をだ。


「ああ、ですが先生はそういうお店には行ったことが無いのですね。ならばこのお願いは酷でした。いつも女性に囲まれている先生ならとても良いデータが頂けると思いましたが仕方ありません。別の先生に――」

「待て――」


 ことさらわざとらしい少女の言葉。いいだろう、乗ってやろうではないか。データを取るというその目的の裏に何が隠れているのかは知らないが、ここまで馬鹿にされては黙っていられない。


「いいだろう。そのデータ取りとやらに協力させてもらうよ」

「本当ですか!? ありがとうございます。先生の様な方にご協力頂けるとは感無量です」


 白々しい。一体何を企んでいる……? まあいい。説明を聞くところによると、この封筒の中のカードを見せれば一週間はその店で無料で酒を飲めるらしい。ならば精々利用させて貰うとしよう。その上で彼女の目論見を看破し、その忌々しい自信に満ちた顔――あの母親を思い起こさせるその顔を悔しさで彩ってやろうじゃないか。


「では先生、よろしくお願いしますね」


 綾宮春華は説明を終えると去っていく。俺はその背中を仮面の様な笑顔で見送ると封筒の中からカードを取り出した。一体どんな店なんだ―――


『乳牛キャバクラ MowMowホルスタイン』


「ちょっと待てぇぇぇぇっ!?」




【一日目】


「結局来てしまった……」


 仕事を終えた午後八時。俺はその店の前に立っていた。

 あれから色々考えた。どう考えても店の名前がいかがわしいだとか乳牛キャバクラってなんだとかそりゃもう色々と。だがここで引いたらそれはあの綾宮春華に敗北した事になる。それだけは耐え難い苦痛だ。この俺が女に屈するなどあってはならない。そんな葛藤の末、俺は重い足取りでここにやってきた。


「店構えは普通だな……」


 下手すればどこかのAVか風俗店かと勘違いしそうな名前の件のキャバクラだが店構えは案外普通だった。煉瓦作りの外壁と派手すぎないネオンの看板。安っぽさは無く、だからと言って高級感に溢れている訳でも無い。平均的な年収のサラリーマンが敬遠することなく入れるような配慮だろうか。


「だが、だが何故入口の隣に干し草がある……」


 何故か無造作に積まれた入り口横の干し草。まともな作りの店構えと謎の干し草のコンビネーションはどこかカオスな雰囲気を漂わせている。

 その雰囲気に心が押され気味だがいつまでもこうしては居られない。それにタダで酒が飲めるのだ。ならば精々利用してやる。

 俺は気を改めるとその店の扉を開いた。


「いらっしゃいませ! お一人様ですか?」

「牛!?」


 扉を開けて飛び込んできた光景。それは白と黒の斑点模様のドレスを着た異様に乳のデカい……熟女。


「あら、このカードは……? 店長! MowMow特急券をお持ちのお客様です!」

「そんな名前だったのかこのカードは!?」


 俺の叫びなどどこ吹く風、牛熟女の呼び声に店の奥からゾロゾロと似たような牛ドレスを着た女たちが現れる。何故か全員熟女で、そして異様に乳がデカかった。


「いらっしゃいませ。今日は楽しんでくださいね?」


 笑顔で迫りくる牛熟女達。思わず後ずさるが直ぐに壁に追い込まれる。


「あ、ああ……っ!?」


 動揺する俺の腕が掴まれ、そして俺は牛女達の中に飲み込まれていった。




【二日目】


「昨日は恐ろしい目にあった……」


 翌日、俺はまたしても同じ店の前に居た。たった一日でねを上げてしまったらそれこそ綾宮春華に負けた気がするからだ。

 昨日、俺は牛熟女達の波に飲まれた後はずっとそれらに囲まれていた。そのインパクトと勢いに飲まれて上手くペースがつかめず、気が付けば結構な量の酒を飲んでいた。そのせいか若干頭が痛い。


「そういえばあの夢は何だったんだ……」


 酔い潰れる寸前で帰宅し直ぐに寝た俺だが妙な夢を見た。夢の中では何故か学生服の少女――それも犯罪スレスレのラインの制服を着た少女達と過ごす夢。女など嫌いなはずなのに夢の中の俺はその少女達と夢の様に楽しい時間を過ごしてた。

 何故この俺がそんな夢を見るのか。まるでロリコンではないか! 何かしらの悪意のある意思が働いているとしか思えない。今俺の頭の中では昨日の牛熟女達と夢の中の少女達が渦巻いている。

 そんな異常な状態であるからこそ酒を飲みたい。酒を飲んで妙なことなど忘れてしまいたい。昨日は牛熟女達に押され気味だったが、あれがくると構えていればどうとでもなる!

 そういえば昼に綾宮春華とすれ違った。こちらを一瞥した彼女は小さく『駄目ね、もっと押さなきゃ……』と呟いていたがいったい何の事だろうか……。


「よし」


 気合を入れなおして店の扉を開ける。どうせまたあの妙な牛熟女達が押し寄せてくるに違いな―――


「いらっしゃいませ。今日も来てくれたなんてロザリー嬉しい!」

「ぐほっ!?」


 咽た。思わず咽た。扉を開けた俺の眼に飛び込んできた光景。それは昨日の牛熟女(ロザリー。名刺も貰っていた)が居たからだ。

 それも牛のラバーマスクを被った状態で


「ぎゅ、牛鬼…………」

「いやん、そんなこと言わないで加持っち! それより今日も楽しくお話しましょう!」


 そう言って連れられた店内。そこには同じような牛のラバーマスクを被った熟女たちが待ち構えていて。


「―――――――――」


 俺は声にならない悲鳴を上げた。



【三日目】


 一体俺はどうしてしまったんだ。頭の中から昨日の牛熟女の姿が離れない。女なんて、女なんて嫌いなのに! 見下しているのに! その姿が離れない。

 しかも、だ。また夢を見た。前回と同じく制服姿の少女たちの夢。しかもなんだか年齢が下がっていた。もう犯罪確実レベルに。もう完全にロリコンだ。ペド野郎だ。一体俺はどうなってしまったんだ!?

 ……そういえば今日も綾宮春華と出会った。自らの侍女を連れていた彼女はこちらを見ると侍女と何かを話していた。


『ちっ、まだ表面上は普通ね。次の策は――』

『春華様、新しい牛熟女を投入して何とかロリコンを――』

『あの、お二人共? 本当に熟女押しなんですよね? 何故牛が――』


 途中までしか聞こえなかった。一体何の話だ。あの店の事を言ってるのは分かるが何を企んでいる? 

 俺は疑問を持ちながらも今日も店の前に立つ。この扉を開ければまた何かしら形容し難に女達に囲まれるのだろう。だが俺は耐えて見せる。その上で綾宮春華の企みを看破し、逆に反撃してやろうではないか!


「いらっしゃいませ。加持様、本日もお越しいただきありがとうございます」


 意外な事に今日は先制攻撃は無かった。普通に男の店員が受付で応対している。というかこの店にも居たんだな、男。


「ご指名はございますか?」

「いや、無いよ。適当に頼む」

「フリーですね。では――――――――私がお相手するわ」

「へ?」


 男の店員の口調が変わる。彼は突如スーツを脱ぎ捨て、その下から――白黒斑点模様のドレスが姿を現した。いつの間にか顔も化粧が乗っていてカツラも装着済みである。


「ふふ、さあいらっしゃい」

「ちょっと待て!? ここは確かに異様なキャバクラな気はしていたがいくらなんでもそれは無いだろう!? ニューハーフキャバクラなんて聞いてないぞ!?」

「言ってないし書いてないもの。だけどあらゆるお客様のニーズに応えるのがこの仕事の使命……っ! 圧倒的使命っ! さあ、素敵なおしゃべりをしましょう? 因みに私の名前はエリよ」

「ま、待て―――――」


 俺の抗議の声は空しく、俺は意外にごつごつしているエリ(男)に連れられて行った。



【四日目】


「女なんて……。いやだけど男よりは……むしろ牛が……、って違う! 俺は、俺は……!」


 俺は自分でも良くわからない位に混乱していた。頭の中では自らの矜持と新しい何かがせめぎ合っている。

 昨晩もやっぱり夢を見た。やっぱり制服姿の少女と新婚の如くいちゃつく夢だ。夢の中の自分は楽しそうで、本当はそれが自分の本性な気がしてきた。いや、違う! 女なんて、女なんて駄目だ! 別に男が好きと言う訳じゃないが、あの忌々しい母親と同じ女なんて認めてやるものか……っ! しかしあの牛熟女達は俺を優しく包み込む様で……ああああああ違う! 違う! あんなものに惑わされるな!

 連日にわたり結構な量の酒を飲み、あまつさえ妙な夢のせいで寝不足なのがいけないんだ。そうに決まっている。今日はあそこに行くのはやめよう。そうだ、それがいい――。

 そんな事を考えているとまたしても綾宮春華とその侍女とすれ違った。


「ちっ、流石に男は違ったか――」

「ホモでは無いという事ですね。では――」

「前例がありますからねえ――」


 何やら彼女達が話しているがその殆どは俺の耳に入らなかった。今日は寝よう……。



【五日目】


 昨夜は店に行かず、まっすぐ家に帰ると直ぐに寝た。またしても少女の夢を見たのは問題だが、酒を飲んでいない分多少なりと復活した。そして俺は例の店の前に居る。

 大丈夫だ。一日間を置いて少しは冷静になれた。牛熟女だろうが牛男だろうが俺はもう惑わされない。残り三日。せいぜいこのカードを使って酒を楽しませて貰うとしよう。

 店内に入ると先日とは違う男が受付に居た。若干の警戒を見せつつカードを見せると店内に案内される。


「あ、加持っち! 昨日は来てくれなかったから心配したよ」

「はは、すまないねロザリー」


 相変わらず白黒斑点模様の巨乳牛熟女ロザリーのインパクトに若干押されるがぐっとこらえる。もうこの程度では動じないぞ俺は!


「すぐ女の子つけるから待っててね。まだ新人だけどとても可愛い子が入ったのよ」

「へえ、一体どんな―――」


 案内された席。そこで見た物に俺は硬直した。


 白黒斑点模様。艶めかしい脚。慎みとどこか包容力のある瞳。そして数席分を占領する巨体。


「紹介するわね、北海道の大岩井農場からやってきた佐代子よ」


 紹介された佐代子はのっそのっそと近寄るとその頭部にある逞しい角を掲げつつ『モォーー』と鳴いた。そう、鳴いたのだ。だって当然だ。目の前に居る佐代子はどう見ても――――牛だから。


「び、ビーフ100%……っ!?」


 思わず呻く俺の前で佐代子(牛)はもう一度『モォ―』と鳴く。

 その声はどこか艶めかしかった。



【六日目】


「女……少女……乳……熟女……牛……牛……」


 虚ろに呻きつつ俺は店を目指す。それは何故か? 自分でも良くわからない。

 昨日の記憶はあまり残っていない。佐代子(牛)のインパクトに押されなされるがままだった。覚えているのは佐代子(牛)はザルだった事。そしてその巨体とは裏腹に俺を慈しむような、全てを包み込むような温かさを持っていた。何なのだこの感覚は……。

 そういえばまた夢を見た。夢の中では遂に制服少女と俺はX指定なアレコレをしていた。ああ、認めよう。ここまで来たら認めよう。俺はきっとロリコンなのだろう。嫌っていた女に対してももしかしたら妙な願望があったのかもしれない。そんな自分に吐き気がする。この俺が女に……それも年下に対してこんな感情を持っていたなんて。そう考えると頭が痛くなってくる。今にも狂いそうだ。ああ、だからこそ俺は……俺はきっとあの慈しむような、全てを包み込むような瞳を求めているのかもしれない――。

 フラフラとした足取りで俺は店に付くと、まるで縋りつく様に扉を開けた。

 そこで俺を待っていたのは―――


「いらっしゃいませ。この子は新人で、佐代子の娘のアンドロメダよ」

『モォ―』

『モォ―』


 佐代子(牛)の隣にもう1頭可憐な牛が居た。


「――――――――――――――っ!」


 そこから先はもう覚えていない。




【7日目】


 夢の中で制服姿の少女があられもない姿で俺に迫ってきた。

 その直後、凄まじい速度で走ってきた2頭の牛がその少女を弾き飛ばした。

 俺の答えは出た。




 調理実習当日、私こと綾宮春華は焦っていた。


「まずいわね、遂に料理実習当日よ」

「加持先生の姿が見えませんね」


 焦る気持ちを何とか抑えようと深呼吸する。だが駄目だ。落ち着くことが出来ない。


「やっぱり作戦が失敗だったかしら。加持若彦を生徒に惚れるロリコンから脱却させる為に熟女軍団で攻める『年上の実力。熟女の乳で溺れ狂え作戦』は」

「日に日に憔悴している姿は見受けられましたがどれほど効果があったかは……。最終日にはお店にも姿を見せなかったそうです」

「くっ……」


 ロリコンを矯正するには熟女しかあるまいと思っての作戦だったが失敗だったか! 包容力をプラスする為に巨乳熟女ばかりを集めたというのに! ただの『巨乳熟女キャバクラ』じゃどこの風俗店だと思って苦し紛れに牛要素を追加してはみたが……っ。


「とにかく春華様、今は目の前の料理に集中しましょう。加持先生の行方は美奈が探しています」

「そうね。念のために料理も練習してきたし」


 何も手段は一つじゃない。最悪の事態を想定して私も準備してきたのだ。この日の為に世界一硬いらしいウルツァイト窒化ホウ素製の包丁とまな板を準備し、連日料理の訓練に励んだ。私だって女の端くれ、例えこの肉体が不器用でも訓練すれば何とかできる。


「そう、思ってたのよね……」


 現実は甘くなかった。今日の実習のテーマはカレー。私は理奈の助けを借りつつ挑んだのだが……


「何故でしょうか。私も見ていた筈なのにカレーだったものがいつの間にかファンタジーで言う所の魔女がかび臭い棒でかき混ぜている怪しげな液体に酷似しているのは」


 理奈の呻きに思わず私は顔を覆った。何故かって? 私が知りたいわ!


「春華様、神山姫季の班も作り終わったそうですよ」

「でしょうね……」


 ちらりと横目で見ると神山姫季の班の周りには人が集まっていた。皆で味見をしているようで、あの騒ぎから見ると相当美味しいのだろう。理奈も気になったのかそちらに向かうと、少しして小皿を持ってきた。


「少々頂いてきました。確かに美味しいです」

「そう……本当ね」


 私も口にして感じるこの敗北感。うん、文句なしに美味しい。しかしだからこそ不味い。これを加持若彦が食べたらもう完全にフラグ達成じゃない!


「理奈……こうなったら奥の手よ。加持先生が現れ次第その意識を刈り取ってどこかに監禁しましょう。世界のISHIの妨害があるだろうから注意して」

「承知致しました。ではここは――」

「は、春華様ぁぁぁ!」


 理奈がバチバチと音を立てるスタンガンを取り出した時、息を切らした美奈が料理室に飛び込んできた。


「美奈? 丁度良いわ。早く武器を――」

「そ、それどころじゃありません! 加持先生を見つけました! ですが、ですがっ!?」

「どういう事……?」


 その様子に首を傾げる私と理奈。

 そんな私達は美奈が報告した内容に息を飲むのだった。





 柔らかい風が吹く。草と木。そして動物立ちの息吹を体に感じる長閑な田舎道。遠くの田んぼで作業を行っている老人がこちらに気づくと手を振ってきた。俺も小さく笑って手を振りかえす。


「まだ少し寒いな……」


 もう春だというのにここは少し寒かった。だがそれが心地よい。この長閑さと寒さ。それがこの大地の特徴であるからだ。


「なあ兄ちゃん、本当にいいのか?」

「ええ。ここまでありがとうございます」


 俺達をここまで運んでくれたのはたまたま通りかかった軽トラに乗った老人だ。彼は首を捻りつつも俺に手を振ると去っていった。


「さて、ここからだな」


 俺は目の間に広がる広大な大地を前に覚悟を決める。もう迷いはない。妙な夢にも惑わされない。何故なら俺には本当に大切な物が何か、もう分かっているからだ。だからこれは最初の一歩。今までの愚かな自分を棄て、新たな自分に進む為のスタートライン。


「まずは、親御さんに挨拶しないとな」


 微笑み隣を見ると彼女達も微笑んでくれた。その姿に俺は頷く。この選択は間違って無かったと。とても回り道をしてしまったけれど、俺は自分の本当の姿を知った。だからこそ俺は先に進むのだ!


「さあ行こう、佐代子、アンドロメダ! お義父さん達に挨拶だ!」


 俺は彼女達に微笑みかけると彼女達の故郷、北海道の奥地、大岩井農場に向けて進みだした!


今回の戦績

パツキンドリル    熟女フェチにしようとするも失敗

世界のISHI      夢を使ってロリコン化をもくろむも失敗

大岩井農場チーム   跡取り兼労働力GET!


ジャンル:恋愛(重要)

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