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第5話 想刃標的化


想刃標的化エクスプレッションレス・スナイプ



「ハァ…ハァ…」


「今のをくらって立てるとは、なかなかしぶとい。さすがは霧裂 想刃、噂に聞くだけあるね」


森の中では、荒い息遣いをする白髪の青年と頭から捻れるようにして伸びた角が生えた、10歳くらいの小柄な少女が居た。青年は剣を杖として、やっとの思いで立っているのに対し、少女は両手を腰に当てて余裕綽々と言った様子だ。


「うるせぇ…俺はお前みたいなガキの姿した化け物を見てきた。そしてそれを倒してきた…。今から俺は、お前も倒す…」


「威勢と威圧だけは妖怪並みかそれ以上だね。されど人間程度、中身がどうあれ、お前が私に勝つ事は…」


少女が言葉の最中、少女の右頬から鼻を通り、左頬に掛けて横一閃に斬り傷が奔った。少女は青年を見たが、青年は剣を地面に突いて杖の要領で立っていて、攻撃出来る様子で無い、とすれば二人のこの闘いに誰かが介入するなんて、何かがおかしい…


「その考えに至るのは、おかしいだろ。今この場には俺とお前しか居ないし、この何の意味が無いような闘いに、俺とお前以外の誰かが介入するなんて考えは、おかしいだろ?」


少女の耳に青年の声が聴こえた時、青年はモノの見事に立ち上がっていた。先ほどまで立っているのがやっとの姿は何処(いずこ)に消え、右眼を緑色に変えていた。


ーーまさかこの人間が私の顔を斬ったとでも言うのか⁈


『その"まさか"なんだよ、もっと早くに気付いて俺を殺しておけば良かったな、化け物が!』


青年は瞬く間に少女の横を通り過ぎ、その直後に少女の全身が空高く舞い上がった。青年は剣をしっかり握って構え、舞い上がった少女の方へと大跳躍する。


「くッ、まずいか!」


身の危険を小さな身体全身で感じ取った少女は体を霧状に変化させ、そのまま霧そのものとなって霧散した。すると青年は剣を逆手に構え、右眼に力を集中させた後、少女が霧散した場所を無数の斬撃で断ち切った。


しかし、ただ霧が散らばっただけでやはり何の効果も無く、そのまま霧は大気中に溶け込んでいった。かなりの高度から青年は地面に無事着地し、表情を歪めて舌打ちをした。


「逃げたか、それなら追われる事は無い。これ以上元気で居られるのは御免だからな」


改めて青年こと想刃は、剣を横に軽く振ると、剣の柄を支点手元で多少回した後に逆手に持ち、歩み始めた。想刃こうやって闘いを挑まれるようになったのは、自身が吸血鬼を倒した事と、チルノとかから聞いた"射命丸"と言う名の天狗が自分の情報を広めた事だ。



ーーーーーー


様々な者から狙われ始めたのは、今からホンの小一時間ほど前。チルノを倒し、来た道を戻っていた時に、突然想刃の目の前に首から下が無い赤髪の女の頭部が現れた。


「!?」


いきなりで驚いた想刃は剣を順手で構えつつ女の頭部から少し距離を取った。赤髪の女の頭部は不気味に笑いながら闇へと一度消え、消えた闇の中から今度は胴体がしっかりある状態で現れた。


「アハハ、吸血鬼を倒したところで所詮は人間、私の姿に恐れおののくが良いわ…!」


「誰だテメェは」


「私は赤き首無しの轆轤首(ろくろくび)、名を赤蛮奇(せきばんき)と言う。噂に聞いた外来人、霧裂 想刃。お前を倒して、私の名を幻想郷中に知らしめてやるッ!」


「ならやってみろ…」


赤髪の女こと赤蛮奇は恰好を付けながら自身の名を名乗り、想刃を指さして自信満々である。しかし、その最中に想刃は一瞬で赤蛮奇の懐を捉え、一瞬で剣の刃を赤蛮奇の首に向けていた。


「ふふっ、甘い甘い、人間よ。その攻撃では私を倒せない! 首符『フライングヘッド』!」


女は自らの頭部を胴体から離し、目からレーザー、胴体は不規則な線を辿るような中弾幕の連なりを放つ。相変わらず光景慣れしてる所為か、二度目に頭部が離れた状態を見ても想刃は何とも思わず、弾幕を避けながらレーザーも躱す。


ある程度避けた想刃だが、蛇のように忍んだ赤蛮奇の弾幕に被弾して爆煙が舞い、続けざまに他の弾幕やレーザーも爆煙の中で更に被弾し、爆煙を舞わせた。


「やった! 霧裂 想刃を倒した! これで私も今日から…」


離れた首を戻し、歓喜した油断の一瞬、白を纏った黒い風が僅かに吹き付ける…。まさかと思った赤蛮奇は恐る恐る視線を下に向けた時、彼女の眼前には靴の底が映っていた。


「えっ…?」


「天崩『蛇翔葬天牙』…」


次の瞬間には、赤蛮奇の頭部は空高く宙を舞い、胴体はバランスを崩して仰向けに倒れた。直後想刃は地面を両足で強く蹴り赤蛮奇の頭部が飛んだ位置まで跳躍する。


「うぅッ⁉ 何なのあの霧裂 想刃って奴! あの強さ、ひょっとして人間じゃないんじゃないの⁉」


赤蛮奇が頭部のまま宙を舞っていたところに想刃が目の前に現れ、不敵な笑みを浮かべる。そして、顔が驚愕の表情に一瞬で変わった赤蛮奇の口辺りを猿轡のように掴んで嗤う。


「そ れ で も 人 間 な ん だ よ」


言葉の直ぐ後に想刃は頭部だけの赤蛮奇を真上へ投げ、左脚に力を溜める。頭部が落下して自分の頭上まで来た瞬間、想刃の左脚が真上へ伸び、円月の如き弧を描く…


グギャッーーーー


赤蛮奇の頭部は想刃の爪先付近の脛に見事直撃した。想刃は上半身を捻りつつ真上に振り上げた左脚を更に強く振り、鈍い音を立てながら想刃の左脚は赤蛮奇のコメカミを蹴り潰す。


そのまま左脚を振り下ろし、赤蛮奇の頭部を赤蛮奇の胴体目掛けて勢い良く蹴り飛ばす。音速の弾丸が如く赤蛮奇の頭部は瞬く間に胴体と激突し、同時に撃沈した。


想刃は颯爽と地面に着地し、赤蛮奇を無視して先に進もうと歩いた。すると、背後から唐突の殺気と雄叫びが聞こえたので、想刃は剣を地面に突き刺し、低く跳躍、渾身の右足を後ろに放った。


後ろに放った右足に確かな感触があったので、剣を引き抜き、右足を繰り出した方向へ突っ走る。さっきまで居た湖が見えたところで右頬を押さえる頭に獣の耳がある女が倒れていた。


「痛い痛い痛い痛い痛ぁぁぁぁぁいッ!!! 何で、何でいきなり蹴るの⁉ 普通、普通ならまずは私が脅かしてから怯えて腰抜かすとか叫ぶとかあるよね⁉ 仮にも私は気高い狼なのに何で人間に顔をいきなり蹴られるのォ⁉」


「おいお前」


「何⁉ ってヒィッ⁉ 私を蹴った人間⁉ わ、私は今泉 影狼(いまいずみ かげろう)、人間のクセにあなた、なかなかやるじゃない」


「頬真っ赤に腫らして涙目で言っても迫力は皆無だ」


「うぅぅぅ…! あんだがいきなり蹴らなきゃこうはならなかったのよ! バカ! バカバカ! 人間のバカッ!」


その時、想刃の頭の中に有る一本の細い線が突然、何の前触れも無くハサミで切ったような音を立てて切れた。その直後、想刃は縮地で影狼に一瞬で接近、影狼の胸ぐらを掴み上げ、鋭利な刃の如く目の形が変貌した。


「今すぐ死ぬか、犬野郎」


想刃は剣を再び地面に突き刺し、影狼に向かって拳を構えた。そこから瞬く間に想刃は超高速の無数の拳撃と蹴撃を影狼に叩き込み、トドメに『蛇翔葬天牙』で何処かに蹴り飛ばした。


スッキリした想刃は地面に突き刺した剣を引き抜き、先を急ごうとしたところ、誰かの怯える声が耳に入った。湖を見ると、陸近くでガタガタと震える青髪の女だった。


剣を順手でしっかり持った想刃は縮地で女の目の前まで接近し、胸ぐらを掴んだ後に剣を喉に突き立てた。怯える女の全身をよく見ると、下半身が魚の尾である事に気付いた。


「そこまでにしときなよ、人間。いや、紅魔殺し、霧裂 想刃」


幼くも気迫と余裕の溢れる声は想刃の背後から聴こえた。想刃が振り向くなり、その鋭い眼で捉えたのは捻れた角を頭に二本持つ小柄な少女だった。


「その人魚は関係無い、憂さ晴らしがしたいんなら、私に付いて来い」


少女に言われるがまま想刃は掴んでいた人魚の胸ぐらを放し、少女の後を付いて行く事にした。場所は湖から遠く離れて、森の奥深くまでやってきていた。


「おい、どこまで行くつもりだ」


「此処で良いよ、お前の墓にゃピッタリの孤独な場所だ。まぁ尤も、墓と化すまでお前がそこ等の妖怪食われなきゃだがな」


少女のこの言葉を聴いた瞬間、想刃の中で落ち着いた筈の線が脆くも解けて、同時に右眼が緑色に変色する。想刃の眼が緑色に変色すると同時に、少女の右頬が横に切れた。


ーー今すぐ此処で殺してやる…!


即座に前傾姿勢を執り、ものの0.数秒で少女の目の前まで接近し、逆手に持った剣を振るった。剣は空気を斬り裂き、少女の首を刎ね飛ばさんとするが、突如として剣はその殺人行動を止めた。


 少女が右腕を肘を支点に立てて想刃の腕を止め、攻撃そのものを防いでいた。体格差から言えば少女の華奢(きゃしゃ)な体では想刃のような大人の力を止める事は不可能な筈なのだ。



「さすが噂に聞いただけある、速さはあの天狗を軽く上回っている。しかし力も攻撃の速さも所詮は人間だな。酔符『鬼縛りの術』!」


少女は手首に着けている手錠らしき物から鎖を降ろし、それを自身の上に翳して回す。鎖の先端の重りが重い風切り音を立てて高速で回転し、少女が鎖を想刃に投げると重りが想刃を目指し、それに続くように鎖の胴体が直進する。


想刃は体を逸らすものの、少女の投げた鎖は想刃の左手を捉えた。鎖は鞭のようにしなり、想刃の左手から肘までを縛り、見事想刃を捕まえた。


「何⁉ 鎖が⁉」


「さぁ動くなよ? ジッとしてろよォ? こっからはちょいと痛いぞ!」


少女は右腕を勢い良く回して、直後に想刃に向かって思い切り走り始めた。足は然程速く無いが、少女が駆けた地面は抉れと足の跡が多分にあり、また想刃の左手を縛る鎖もまたかなり重い…


少女は想刃に十分接近した後、右腕を思い切り引き、左足でブレーキを掛けつつ引いた右腕の拳を想刃の腹部に突き出した。瞬間、想刃は腹部にこの世のモノとは思えない壮絶な重みを感じた。


腹の中の臓器全てが押し潰される重量を受け、彼の意識は一瞬の僅かな間だけ飛んだ。後ろに自身の体が吹き飛ぶ時には意識は戻り、右手に離さずに持っていた剣を強く握り締めた。


幸いにも吹き飛んだ先に木は無く、吹き飛んだ後にそのまま地面を転がっていっただけに留まった。腹部に受けたダメージは押さえても意味が無いくらいに痛み、腸の辺りから微妙な嘔吐感が下顎を通して伝わる。


想刃は右手の剣を逆手に持ち、地面に突き刺して杖のようにして立ち上がる。そこへ、様子を見に来た少女が想刃の立っている姿を見て仰天した。


「ほぉ! やるね、今のをくらって立てるとは、なかなかしぶといね。よし、冥土の土産として私の名前を教えてやろう。私は伊吹 萃香(いぶき すいか)、鬼だ。いやはや、さすがは霧裂 想刃、噂に聞くだけあるね」


ーーーーーー



「伊吹 萃香…覚えとこう。いつかまた会った時、今度は逃がさない為に」


想刃は小さく呟き、剣を逆手に持って先を進む事にした。だが突然、彼の目の前に、背後に黄色の毛並の九つの尻尾を持った女が現れ、それを目にした時、全身から力が崩れ落ちるように抜け、意識が暗黙へと落ちた。


「彼か、紅魔館の吸血鬼を倒した者は。漸く見つけたぞ。しかし重傷のようだ、ここは一度戻るしか無さそうだな。紫様には、後で報告するとしよう」


九つの尻尾を持つ女は想刃の傍に駆け寄り、彼の状態を調べた後に抱え上げ、直ぐ様に消えるように走り去った。果たして、想刃の安否は如何に…








続く


九つの尻尾を持つ謎の女に連れていかれた想刃…


そして、彼は自身が助けた"少年"と再び出会う事になる…

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