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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第92話 ハルカ御一行様、異世界遠征修行へ

 ……ん? …何だろう? 何か、柔らかくて暖かい。それに、良い匂いがする……。それに凄く良い気分……。その時、何かが手に触れた。それはとても柔らかくて、それでいて、程よい弾力が有る。あまりにも触り心地が良いから、つい揉みしだく。あれ? 何か突起が有るな? しかも、だんだん固くなる。気になって摘まんでみた。


「ひゃっ!!」


 あれ? 何、今の声? 今度は摘まんで軽く引っ張ってみた。


「痛いって! ハルカ,寝ぼけてないでさっさと起きな!!」

 

 ハルカ?……どうにも頭がボーッとしていて、すぐには分からなかったけど、それが自分の事だと思い出すと、じきに頭がはっきりしてくる。しかし、さっきから揉んでいる温かいゴム毬みたいなのは何かな? 変な突起も有るし。そう思って、自分の手が揉んでいる物を見ると……。


 そこには肌色で、先端に綺麗なピンクの突起の付いた、二つセットの立派なお山が有りまして。つまりはナナさんのおっぱいで。で、僕はそれを盛大に揉みしだいた挙げ句、乳首を摘まんで更に、引っ張っていた訳で。そりゃ、ナナさんも痛がるよね……。


「……おはようハルカ。随分と斬新な朝の起こし方だね? 私も長生きしてるけど、胸を揉まれた挙げ句、乳首を摘まんで引っ張られるなんて、初めての経験だよ」


 ナナさん、笑顔だけど、目が笑ってない。怒ってる。


「このバカ弟子!! 師匠のおっぱい好き放題に弄りやがって! お返ししてやる!!」


「ごめんなさい! ナナさん!! わざとじゃないんです!!」


「うるさい!! おかげで朝から身体が火照るんだよ!! 責任取って、あんたの身体で発散させろ!!」


 寝ぼけていた僕のせいで、朝イチからスイッチの入ってしまったナナさん。昨日の夜にあれだけ激しくしたのに、凄くパワフル。その後の僕の記憶は朧気。ただ、凄く気持ち良かったのは確か。後、事が済んだナナさんが活き活きとしていた。元気ですね。







「ったく、朝からとんだ目に合ったよ。ハルカ、おかわり」


「それはこっちのセリフですけどね。はい、どうぞ」


 ぶつくさ文句を言いながらも、しっかりご飯を食べて、空になったお茶碗を差し出すナナさん。僕もお返しの文句を言いつつ、お茶碗を受け取って、おかわりをよそって返す。それを受け取り、ナナさんはまたご飯をモリモリ食べる。朝からよく食べるなぁ。まぁ、その、昨夜、今朝と、ベッドの上で激しく運動をしたしね……。


 朝イチからの、一戦。昨夜に勝るとも劣らぬ激戦をベッドの上で繰り広げた結果、事が済んだ時には、既にすっかり外は明るくなっていた。その後、2人揃って汗を流しに朝風呂へ。ナナさん、更に一戦やろうと誘惑してきたものの、さすがに朝御飯が遅くなるからと断った。本当にナナさんは好きなんだから……。


 で、今は遅めの朝御飯。時間は既に午前9時を回っていた。今朝はチーズオムレツとサラダ。ご飯に味噌汁。卵は良いよね。安くて栄養が有るし、レパートリーも豊富。しかし、未だにツクヨの作ったあのオムライスのふわとろ感が出せない。ぐぬぬ……。


「ハルカ。今日は遠出をするよ。昨日、女狐から買った新しい武器を色々試してみようと思ってね。さすがにウチのトレーニングルームでは手狭だし。せっかくだから、他の奴らにも声を掛けておこう。あいつらの武器の性能も知りたいし、連携とかも上手くこなせる様にしとかないとね。何せ、相手が相手だし」


 朝御飯を食べている最中、今日の予定を話すナナさん。遊羅(ユラ)さんから買った新しい武器の性能を試したいとの事。確かに、新しい武器の性能を確かめるのは大事。それに、新しい武器に早く慣れないといけない。更には、他の人達も交えての訓練にするらしい。ナナさんだけで勝てる程、真の神は甘くないからね。


「分かりました。何時ぐらいに出ますか? 後、お弁当も作らないといけませんね」


 遠出をする以上、色々と用事を済ませる必要が有る。洗濯や掃除を早めに片付けないといけないし、お弁当も用意しないと。


「そうだね。昼前ぐらいにするか。それじゃ、私は他の奴らに連絡しておくから、あんたは自分の用事を済ませな」


「分かりました」


 他の人達への連絡はナナさんが引き受けてくれたので、僕は自分の用事に専念する事に。とりあえず今は、朝御飯を食べよう。さっさと食べて、洗い物に洗濯、掃除。お弁当も作らないといけないし、忙しくなるな。







「ハルカ、そろそろ行くよー」


「はい、すぐ行きます」


 時間はお昼前。そろそろ出発の時間だ。ナナさんは既に準備を済ませている。僕の方も、戸締まり確認や、身だしなみを整えたりと自分の用事を済ませ、玄関へ。


「お待たせしました」


「よし、じゃ行くよ。まずはスイーツブルグ家に集合する。そこから、今回の目的地に飛ぶからね。そこに数日間留まって、みっちり鍛える予定さ。ビシバシ行くからね、覚悟するんだよ」


「分かりました」


「分かれば良し」


 最後に玄関の戸締まりをして、スイーツブルグ家へと出発。今回の行き先はどんな所だろう?







 ナナさんと一緒に街を歩き、王都の外周部の一般地区を抜け、中心部の貴族用地区へ。高い塀と広く深い堀に囲まれ、一般地区と隔絶したその光景は、いつ見ても好きになれない。


「不満そうな顔をするんじゃないよ。あんただって分かっているだろう? この世は所詮、不平等、不公平。だからこそ、世の中は流転する。もし、完全な平等、公平な世界なんてのが有るとすれば、そりゃ、一切の変化も何も無い、虚無の空間だろうさ。私はそんな世界、御免だね。ゾッとするよ」


 さすがはナナさんと言うべきか。的確に僕の気持ちを読み取り、たしなめる。現代日本から来た僕にはどうにも馴染めないけど、これがこの国のルール。郷に入らば郷に従えと、ことわざにも有る。僕が口出しすべき事ではない。それに、ナナさんの言う通り、この世は所詮、不平等、不公平。完全な平等、公平なんてあり得ない。少なくとも、人が人である限りはね。


「すみません、ナナさん」


「ま、他所から来たあんたにゃ、馴染めないのも仕方ないさ。ほら、さっさと行くよ。遅くなると、エスプレッソの奴に嫌味を言われるからね」


 ナナさんに謝罪すると、特に責められる事も無く、先を急ぐ事に。確かに、ミルフィーユさん達を待たせる訳にはいかないね。それに他の人達も来ているかもしれないし。


「そうですね、急ぎましょう」


「よし、それじゃ、スイーツブルグ家まで競争だよ。負けた方が、ジュース1本奢りで。じゃ、スタート!」


「あっ! ナナさんズルい! 待ってくださいー!!」


 そう言うが早いか、猛ダッシュで走り去るナナさん。完全に虚を突かれたせいで、出遅れてしまった僕に勝ち目は無い。とはいえ、このまま普通に歩いて行く訳にもいかず、慌てて後を追いかける。ちなみに、後日、貴族地区で屋根から屋根に猛スピードで飛び回る2つの人影が現れたと騒ぎになり、オカルト雑誌が盛り上がったのは別の話。







「ようこそ、おいでくださいました。ハルカ嬢。後、ついでにナナ殿。おや? 何やらハルカ嬢は随分と息が上がっておられますな。これをどうぞ。冷たい水です」


「……あ、ありがとうございます……」


「ふん、この程度で息が上がるとは情けないね」


 ナナさんとの高速追いかけっこは結局、ナナさんの勝利。でも、そのせいで、予定よりスイーツブルグ家に着くのが遅れてしまった。ナナさん、あちこち逃げ回るから。おかげで僕はすっかり息が上がる始末。対して、ナナさんは息一つ乱さず涼しい顔。改めて、自分の未熟さと、ナナさんの強さを痛感する。とりあえず、エスプレッソさんの差し出してくれた冷たい水を飲んで、息を整える。そして案内され応接間へ。


「既に他の方々は来ておられます。ナナ殿とハルカ嬢が最後です」


 案内中、エスプレッソさんから、僕達が最後だと伝えられる。


「すみません、本当なら、もっと早く着くつもりだったんですが」


「まぁ、何事も予定通り行くとは限りませんからな。ましてや、ナナ殿と一緒とあれば。何はともあれ、無事に到着されて何より」


「ふん! 悪かったね!」


 遅れて来た事を謝罪。幸い、エスプレッソさんは特に責めなかった。ナナさんはふてくされていたけどね。






「待たせたね」


「すみません、遅くなりました」


 応接間にはエスプレッソさんの言った通り、他の人達が既に揃っていた。まずは遅くなった事へのお詫び。


「お待ちしておりましたわ、ナナ様、ハルカ。これで全員揃いましたわね。とりあえず、ソファーにお座りになって。エスプレッソ、紅茶と茶菓子を用意なさい」


「かしこまりました。直ちにお持ちいたします」


 皆を代表してミルフィーユさんが迎えてくれ、更にエスプレッソさんに紅茶と茶菓子を用意する様に命じる。で、僕達はソファーの空いている場所に座る。ほどなくして、エスプレッソさんが人数分の紅茶と茶菓子のスコーンを持って来てくれた。そして、皆に手馴れた様子で配り、それが済んだらミルフィーユさんの後ろに控える。


「改めて言うけど、遅れて済まなかったね。じゃ、今回の予定について、話を始めようじゃないか」


 口火を切ったのはナナさん。まずは今回の予定について。







「今回の遠征は三泊四日を予定している。その目的は幾つか有る。まずは、女狐から買った新しい武器の性能チェック及び、扱いに慣れる事。続いて、主戦力たる私、クローネ、ファム、エスプレッソの4人を鍛え直す事。その為に、私達4人による模擬戦をやる予定さ。ごちゃごちゃ言うより、手っ取り早いからね。そして、最後にハルカとミルフィーユ。あんた達も鍛えるよ。あんた達には自分の魔力の『根源』ってもんを見付けてもらう。更なる高みを目指すなら、避けては通れないよ。言っとくけど、覚悟しておくんだよ。半端な覚悟で行ったらケガするぐらいじゃ済まないからね」


 いつものぐうたらぶりなど微塵も無い、真剣な態度で話すナナさん。こういう真剣なナナさんは凄くカッコいい。いつもこうなら、良いんだけど……。ただ、今回の説明の中で、気になる部分が。魔力の『根源』って何だろう?


「ナナさん、質問が有ります」


 気になった僕は右手を上げ、ナナさんに質問。分からない事はそのままにしない。幸い、頼りになる師匠がいるし。


「何だいハルカ?」


「あの、今の説明に有った、魔力の『根源』って何ですか?」


「それなら、説明してやるよ。よく聞きな」


 そしてナナさんは、魔力の『根源』について説明を始めた。


「魔力の『根源』。それは人それぞれに備わる、魔力の源の形。これを知っていると、いないとでは、魔力の運用に大きな差が出る。あんた達にはこれを知ってもらう。本当はもう少し先でやるつもりだったんだけどね」


 ここまで話した所で、ナナさんはミルフィーユさんをチラ見。


「ミルフィーユが異世界で、予想外の大幅なパワーアップを遂げたじゃないか。こりゃ、私の弟子たるハルカも遅れを取る訳にはいかないしね。それにね、あんた達は若い。まだまだ未熟。だがそれは裏を返せば、これから先、まだまだ伸びるという事。あんた達には期待しているんだよ、私は」


「ナナ様にそう言って頂けるとは、光栄ですわね」


「全くです。頑張らないといけませんね」


 ナナさんから、期待していると言われた以上、僕達もきちんと成果を出さないと。何より、自分の命が掛かっているし。


「それじゃ、そろそろ行くよ。準備は良いかい?」


 一通りの説明を終え、ナナさんは出発の確認を取る。そして全員の了解を確認し、転移魔法を発動。床に魔法陣が現れ、光を放つと、直後に僕達は見知らぬ場所にいた。


「よし、到着。ここが今回の修行場所さ。ほら、さっさと準備しな。準備が済み次第、始めるよ」


 やる気満々のナナさん。さぁ、修行の開始だ。







 さて、修行を始める前に、改めて今回の遠征地を見てみる。


「酷い場所ですね。何もかも、滅茶苦茶に破壊されています。やっぱり、戦争か何か有ったんでしょうね」


 今回来た場所。そこはかつては大規模且つ、近代的な都市だったと思われる。でも、今は無惨に破壊され、廃墟の広がる荒野と化していた。よく有る、世紀末物の作品みたい。


「その通りだよハルカ。ここはかつて、高度な科学文明が繁栄していたのさ。でも、戦争が起きて、このザマさ。今回は、市街戦を前提としているんだ。敵がわざわざ、他に誰もいない、障害物の無い開けた場所を選んでくれるとは限らないからね。幸い、この世界は既に滅びているから、遠慮無しにやれる」


 そう話すナナさんに僕も納得。敵がわざわざ、こちらに有利な場所で戦うだろうか? 否、それはない。いかに相手が不利になる様に仕向けるかが常道。かつての、ナナさん対ツクヨの戦いがそうだ。あの時は僕を人質に取られたせいで、ナナさんは大火力の魔法を使えなかった。下手に使えば、僕まで巻き込まれるから。


「それじゃ、まずは私達、大人組から始めるよ。今回は連携を考慮に入れて、コンビを組んで二手に分かれての模擬戦さ。戦力的にバランスを考えて、私とエスプレッソ。クローネとファム。この組み合わせで行くよ。良いね?」


「私はナナ殿と組むのですか。まぁ、戦力的には仕方ありませんな。接近戦を得意とする、ナナ殿とクローネ殿。中距離戦やバックアップを得意とする、私とファム殿。妥当な判断かと」


「ふむ、主戦力とバックアップの組み合わせか。我に異存は無い」


「模擬戦とはいえ、久しぶりだね、こうして戦うのは。頑張っちゃうよ♪」


 まずはナナさん達、大人組による模擬戦。ナナさんとエスプレッソさん。クローネさんとファムさんの二手に分かれてのタッグ戦。連携を考慮しての内容だ。


「ハルカ、ミルフィーユ、あんた達は離れていな。危ないからね。かなり派手にやるつもりだから」


「……やり過ぎないでくださいね。いくら、この世界が滅びているからって、限度は有りますから」


 かなり派手にやるつもりと、怖い事を言うナナさんに一応、釘を刺す。まがりなりにも、伝説の魔女のナナさん。その力は絶大だ。しかも、同格であるエスプレッソさん、クローネさん、ファムさんまでいる。このメンバーで暴れられたら、冗談抜きに世界が危ない。真の神に対抗する為の修行に来た結果、死んだら、本末転倒だ。


「分かってるよ。ちゃんとルールも決めるし、結界を張って、範囲も限定するからさ」


 ナナさんもその辺はちゃんとわきまえている。バカじゃないからね。


「この都市は全部で24区に分かれているんだ。ちなみに、ここは13区。今回はこの13区を舞台にする。ここから出たら失格。他の区域に影響を及ぼす行為も失格。降参、気絶、戦闘不能で負けとする。逆に言えば、それ以外は何でも有りさ」


 で、今回のルールを話してくれたけど、本当にギリギリな内容だな。でも、それでこそナナさん。これは試合じゃない。実戦に向けた模擬『戦』なんだから。


「大丈夫です、ハルカ嬢。この不肖、エスプレッソ。ナナ殿の暴走は断固、阻止致しますので」


「お前達、若手にもしもの事など起こさせぬ。安心して見学するが良い」


「そうだよ。アタシ達4人で、しっかり結界を張るから」


「……そうですね。では頑張ってください。僕とミルフィーユさんは離れて見学します」


 エスプレッソさん、クローネさん、ファムさんからも心配無用と告げられ、僕とミルフィーユさんは、ナナさんに転送されその場を離れる。着いた先は廃墟と化したビルの屋上。周りをよく見渡せる。ナナさん達は……あそこか。目測で300メートルぐらい先。既にタッグを組み、対峙している。……真の魔王の身体は便利だね。はっきり見えるよ。ところでミルフィーユさんは大丈夫かな?


「あの、ミルフィーユさんは見えますか? 僕は見えるから構いませんけど」


 僕と違い、あくまでも人間のミルフィーユさん。見学しようにも、距離が離れ過ぎ。見えなくては意味が無い。でも、それは無用な心配だった。


「ご心配無く。ちゃんと見えますわ。視力強化の術を使っていますから」


「そうですか。なら、良いんです」


 ミルフィーユさんは火系の魔法の使い手。そして、火系は自らの能力強化に長けている。ましてやミルフィーユさんなら、視力強化ぐらい出来るか。ならばと、再び視線をナナさん達へと向ける。その直後。


 響き渡る轟音と地響き。舞い上がる土煙と共に、ナナさん達の周りの廃墟ビルが崩れ落ちる。『バラバラに切断されて』。


「分かってはいましたが、派手ですわね」


「初っぱなから、飛ばしますね。どうやらエスプレッソさんの仕業みたいですよ、あれ」


 ビルがバラバラになる直前、手が動いていたからね。恐らく、新しい武器の力か。凄いな。出来れば近くで見たいけど、危ないし。


 ナナさん達の、実戦に近い模擬戦。初っぱなから飛ばしているそれから学ぶべく、見ている僕とミルフィーユさん。しかし、この時、僕達は知らなかった。他にもこの光景を見ている者がいる事を。


「『師匠』に言われて来たけど、これは想定外。余計な人達がいる。へぇ、師匠には劣るけど、かなりの実力者揃い。少し『挨拶』しようかな。でも、どちらにしよう? ……決めた、不完全とはいえ、『真の魔王』の方にしよう」







「ここが無人の世界で良かったですね。無茶苦茶してますよ」


「でも、あのメンバーからすれば、手加減していますわ。その気になれば、大陸を沈める事すら可能と聞いていますもの」


「何それ、怖い」


 廃ビルの屋上から、ナナさんの模擬戦を見学しながら、ミルフィーユさんと感想を交わす。戦いは、初っぱなのビル崩壊から、廃墟を縦横無尽に駆け巡る内容へと移り変わっていた。障害物だらけの舞台。罠、待ち伏せ、不意討ち、何でも有りだ。突然、爆発が起きたり、コンクリートがバラバラに切り裂かれたり、激しい攻防が繰り広げられる。でも、基本的に地味。あくまでも白兵戦の域。ナナさん達レベルでの話だけど。


 そもそも、今回の模擬戦は市街戦を想定したもの。どこかの白い魔砲少女みたいに、砲撃魔法をぶっ放して終わりとはいかない。ちなみにナナさん、高○な○はに対し、芸の無い火力バカ且つ、正義バカと評価が低い。僕自身、あの某管理局はどうかと思う。いくら才能が有るからといって、小学生を入れるかなぁ? まぁ、清廉潔白な組織なんて無いだろうけどね。それはともかく、ナナさん達の戦いは白熱していた。あ、ビルから4人が飛び出してきた。


「ミルフィーユさん、ナナさん達が向こうへ行ってしまいます。場所を変えますよ」


「分かりましたわ、行きましょうハルカ」


 ナナさん達は戦いに集中していて、僕達の事はそっちのけの様。今の場所では見えない。仕方ないから、場所を変えようとしたその時。どこかの腹ペコ王ばりに直感を感じた。咄嗟に愛用の小太刀を抜き、上へと振り抜く。ほぼ同時にミルフィーユさんも黒い短剣を抜き、上から来る何かに突きを放つ。それは凄まじい速さで延び、何かに襲い掛かる。しかし……。


 ギギィン!!


 鋭い金属音2つが響き渡り、僕達の攻撃は防がれる。その事に僕達は驚きを隠せない。僕の小太刀は、オリハルコンさえ豆腐の様に容易く切り裂く魔水晶製。ミルフィーユさんの黒い短剣も、素材は違えど、同じく、オリハルコンを容易く切り裂く。にもかかわらず、防がれるなんて。でも、それ以上に驚かされた事が有る。


「気配を悟られない様にしたんだけど……。やっぱり師匠みたいにはいかない。私の名は竹御門(タケミカド) 竜胆(リンドウ)。貴女方は実に腕の立つ方々と見た。強き者との戦いこそ、自らを高める糧。貴女方には私が更なる高みに至る為の糧となってもらう。お覚悟!」


 突然の襲撃者が、見た目は僕達と同年代の少女であった事。そして、彼女は名乗りを上げるや、銃剣付きの銃を構え、勝負を挑んできた。


「ハルカ!」


「やるしかありません!」


 突然の襲撃者に戸惑う僕達。でも、やるしかない。彼女の繰り出す、猛烈な連続突きを二本の小太刀で捌く。その隙を突いて、ミルフィーユさんが長剣サイズにした黒い剣で斬り掛かるものの、僕への連続突きから、一瞬で切り替え、銃把で殴り付ける。


「キャアッ!」


 たまらず吹き飛ばされるミルフィーユさん。助けに行こうとした所へ、一発の銃声。そして砕ける瓦礫。


「他人の心配より、自分の心配をした方が良い。……死にたくないなら」


 うっすらと煙の上がる銃口をこちらに向け、襲撃者の少女は語る。彼女が手にする武器。『銃』。その恐ろしさを痛感する。引き金を引くだけで、容易く人を殺せる武器。しかも彼女が手にするのは、明らかに戦闘用のライフル。以前、聞いたけど、ライフル弾の初速は音速を超えるとか。


「1対1なんて、温い事は言わない。戦いに卑怯、卑劣は無い。死にたくないなら、戦え」


 銃剣付きのライフルを構え、襲撃者の少女は淡々と話す。間違いない、彼女は僕達なんかより、遥かに場数を踏んでいる。


「すみません、ミルフィーユさん。どうやら僕達、とんでもない相手に出会ったみたいです」


「その様ですわね。全く、貴女といると退屈しませんわ」


 復帰し、僕の横に並び立つミルフィーユさんに、そちらを見ずに話すと、同じく、僕の方を見ずに返してくる。巻き込んですみません。後で安国さんのお店でケーキを奢ります。……生きていたらですけど。


「お喋りは終わった? じゃ、……死ね」


 余裕の表れなのか、わざわざ僕達の会話が終わるまで待っていた彼女。そして、再び牙を剥く。2対1、にもかかわらず、押される僕達。頼みの綱のナナさん達は遠く向こう。


「余計な事を考えていると死ぬ。というか、死ね」


 繰り出された銃剣の一撃を受け止める。しかし。


「危ない!」


 ミルフィーユさんが叫び、僕に足払いを掛ける。突然の一撃を食らい、バランスを崩して倒れてしまうが、直後に銃弾がさっきまで僕のいた位置を通り抜ける。危なかった。銃剣付きの銃がここまで厄介とは。


「ち、なかなか息が合っている。まぁ、そうでないと、戦う価値が無い」


 再び、銃剣付きの銃で刺突の構えを取る襲撃者の少女、竹御門(タケミカド) 竜胆(リンドウ)。ナナさん達がいない今、僕達はこのピンチを切り抜けられるのか?





読者の皆さん、こんにちは。作者の霧芽井です。僕と魔女さん、第92話をお届けします。


遊羅(ユラ)から手に入れた新装備を用いた修行、及び、ハルカとミルフィーユを更に鍛える為、無人の異世界へと向かった、ハルカ達。まずはナナさん達、大人組による模擬戦が行われる事に。しかし、それを見学しているハルカとミルフィーユに予想外の襲撃者が。


竹御門(タケミカド) 竜胆(リンドウ)と名乗る少女は銃剣付きのライフルを自在に操り、ハルカ達を圧倒。頼みの綱のナナさん達は遠く、自分達より格上の相手を前に、2人は如何に?


最後に。謎の少女、竹御門(タケミカド) 竜胆(リンドウ)。名前は割りと適当に決めましたが、姓は少々、伏線有りです。ヒントは彼女の『師匠』。


では、また次回。

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