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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第8話 将来の夢

 僕対、メイドさん達30人の勝負は僕の勝利で決着。重傷者や死者は無し。せいぜい打撲程度。そこまでは良かったんだけど……。


 今、僕は勝負を見ていたメイドさん達に囲まれ、困っていた。


「凄いです、どうしたらあんなに強くなれるんですか?」


「ご出身はどこですか?」


「彼氏はいるんですか?」


「サイン下さい!」


 この辺はまだ良いけど。


「うわ~、サラサラの銀髪。羨ましい~!」


「お肌もきめ細かい、スベスベだわ」


「青い瞳も綺麗、宝石も顔負けね」


 だんだんエスカレート。挙げ句の果てに、


「胸のサイズはどうかしら?」


 と言って胸を触ろうとする始末。さすがに僕もこれ以上は困ると言おうとしたら、侯爵夫人が怒った。


「貴女達、いい加減にしなさい! ハルカさんが困っているでしょう! 勝負は終わったのです、早く仕事に戻りなさい!」


『申し訳ありません、奥方様!』


 メイドさん達は、慌てて仕事に戻って行った。さすがは侯爵夫人、凄い迫力。


「メイド達が迷惑をかけて申し訳ありませんでした。疲れたでしょう、客間でお茶をご馳走しますわ。貴女とゆっくりお話もしたいですし」





 場所を移して現在、客間。ソファーに座っている僕達。僕と向かい合う形で侯爵夫人とミルフィーユさん。


「ハルカさん、今回は貴女を試して申し訳ありませんでした。見事な腕前を見せて貰いましたわ。当家の精鋭揃いのメイド達30人を誰一人、重傷者も死者も出さずに全滅させるとは。しかも使った魔法は短剣にかけた魔力付与のみ」


「魔物相手ならともかく、生身の人相手に必要以上に怪我をさせたり、殺したりするわけにはいきませんから」


 僕はナナさんに鍛えられているけど、戦いは好きじゃない。不必要に人を傷付けたくないし、人殺しにもなりたくない。ナナさんからも人殺しは固く禁止されている。


「優しい人ですね、貴女は」


 そこへミルフィーユさんが、侯爵夫人に尋ねる。


「お母様。私、聞きたい事が有りますの。今朝、出掛けられたはずなのに、何故戻って来られたのですか?」


「エスプレッソから連絡が有りました。例の銀髪のメイドのお嬢さんが来たと」


「やっぱり。エスプレッソったら!」


 エスプレッソさん、貴方が今回の騒ぎの元凶でしたか。さすがは悪魔。


「ハルカ、今日は本当に申し訳ないですわ。せっかく訪ねて来て下さったのに、迷惑をかけてしまって……」


「いえ、気にしないで下さい。僕なら平気ですから」


 別にミルフィーユさんの責任ではないからね。それにしても、ナナさん達は遅いな。もう夕方なのにまだ帰って来ない。大丈夫かな?


 そう思っていたその時。


 シュン!


 ナナさんとエスプレッソさんが帰って来た。


 2人ともボロボロの格好だ……。


「お帰りな……」


 僕がここまで言ったところで、いきなりナナさんに抱き締められた。


「ハルカ。あんた、どこにも行かないよね? 遠くへ嫁に行ったりなんかしないよね? 私を捨てないでおくれよ~!」


 大号泣されました……。一体、何が有ったんですか?


「お帰りなさい、エスプレッソ。ところでこの騒ぎは一体、なんですの?」


「ただいま戻りました、ミルフィーユお嬢様。いや、大した事ではありません。ナナ殿と、ハルカ嬢の事で少々お話しただけです」


 エスプレッソさん、貴方、ナナさんに何を言ったんですか?





 異世界での2人の争いは、途中から口喧嘩になったそうだ。


 そしてナナさんはエスプレッソさんから、僕がナナさんにとって、いかに過ぎた存在かと散々に言われたんだって。ナナさん、まだ僕を放してくれません。


「大丈夫ですから、僕は嫁になんか行きませんよ。僕はナナさんのメイドです。ナナさんにクビにされない限り、そばにいます」


「本当かい? 本当に嫁に行かない? クビになんか絶対しないよ! だから私のそばにいておくれよ!」


「本当ですから!」


「良かった~。それを聞いて安心したよ~。あんたは本当に良い子だよ~。絶対、手放さないからね! あんたは私のメイドなんだからね!」


「それは良く分かりましたから、いい加減、放して下さい。それにナナさん、ボロボロの格好じゃないですか。僕まで汚れましたよ……」


「あっ、ごめんよ! すぐに綺麗にするから」


 次の瞬間、ナナさんの服装は元通りになり、僕のメイド服も綺麗になった。流石は伝説の魔女。


「いやはや、ナナ殿はハルカ嬢を溺愛しておられますな。とても悪逆非道の限りを尽くした伝説の魔女とは思えませんな」


「あんたは黙ってな! エスプレッソ!」


 あぁ、また2人の間の雰囲気が険悪に。これは止めないと!


「ナナさん、やめて下さい。僕はナナさんの過去は気にしませんから!」


「エスプレッソ、いい加減にしなさい!」


 僕がナナさんを止め、ミルフィーユさんがエスプレッソさんを止めてくれた。


「分かったよ、ハルカがそう言うなら仕方ないね」


「申し訳ありません、ミルフィーユお嬢様。つい調子に乗ってしまいました」


 ふぅ、危なかった。また、どこかに行かれたら困るよ。僕、まだ転移魔法は使えないから、ナナさんがいないと帰れないよ。


 そこへ、今まで空気を読んでいたのか、黙っていた侯爵夫人がナナさんに話しかけた。


「初めまして、貴女がハルカさんの師匠のナナさんですわね。私はスイーツブルグ侯爵夫人にして当主、ティラミス・フォン・スイーツブルグと申します」


「あぁ、そうだよ。私がハルカの師匠のナナさ。保護者で雇用主でもあるけどね」


「ナナさん、侯爵夫人に対して失礼ですよ!」


「侯爵夫人だろうが、何だろうが、私には関係無いからね」


 もう、ナナさんったら、少しは礼儀をわきまえて欲しいよ……。でも侯爵夫人は一向に気にしていない模様。


「私は構いませんわ、ハルカさん。この方は、それだけの実力を持っていますわ。さすがはその名も高き、『名無しの魔女』」


「知っていたのかい」


「ハルカさんが来られた事と合わせて、エスプレッソから伝えられまして。色々と因縁の有る相手だとも。貴女の弟子ならば、ハルカさんの強さも納得ですわね」


「私から見れば、まだまだ未熟者のヒヨッコだけどね」


 凄いな、侯爵夫人。伝説の魔女のナナさんを前にして一歩も引かない。僕は異世界から来たせいでナナさんの事を知らなかった事もあって初対面の際もそんなに緊張しなかったけど、この世界の住人の侯爵夫人なら『名無しの魔女』の凄さを知っているはずなのに……。


「もうすぐ、夕食の時間ですわ。お近付きの印にご一緒しませんか? ハルカさんも、お腹が空いていませんか?」


 侯爵夫人から、夕食のお誘い。確かにそろそろ夕食の時間だし、お腹も空いた。侯爵家の夕食か、 貴族だから、やっぱり豪勢なんだろうな。興味有るね。


「旨い飯と酒を頼むよ! 不味いと許さないよ!」


 ナナさん、お願いですから、もう少し礼儀正しくして下さい。侯爵夫人、すみません!





「うわ~~、凄い……」


 これが僕の第一声。スイーツブルグ家の夕食に招かれた僕はとにかく驚いた。貴族の食事だから、豪勢とは思っていたけど、実際に前にすると、気圧されてしまう。庶民の僕とは無縁の異世界がそこに有った。料理も食器も全てが素晴らしい物ばかり……。どうしよう、僕緊張してきちゃったよ。侯爵夫人やミルフィーユさんの前でみっともない事は出来ないよ! でも僕、庶民だし、こういった場所での礼儀作法なんて知らないし。ナナさん、助けて下さい! でも、当のナナさんは、


「ふん、まあまあって所だね。これぐらいなら、勘弁してやるよ」


 と、失礼な発言をかましてくれました。侯爵夫人、本当にすみません! 後できつく言って聞かせますんで!





 現在、夕食中。料理は凄く美味しいけど、全く落ち着けません。庶民の僕に貴族の世界は無理です……。侯爵夫人やミルフィーユさんは気品有る態度で優雅に食べているけど、僕は緊張でガチガチです……。それに引き換えナナさんは、見事なフリーダムぶりを発揮、礼儀作法なんて完全無視! 僕はもう、諦めました……。侯爵夫人も完全スルーしています。ミルフィーユさんは渋い顔だけど、僕と視線が合うと、澄まし顔に戻りました。





「どうしてそんなに離れるんですの、ハルカ?」


「いや、それはその……、すみません、僕にも事情が有るんで……」


 今、僕は非常に困っていた。何故なら、ミルフィーユさんと2人でお風呂に入っているから。夕食後、ミルフィーユさんの部屋で、話をしていたら、一緒にお風呂に入りましょうと誘われてしまった。断りたかったものの、結局一緒に入る事になってしまった。で、今に至る。


 あう~、目のやり場に困るよ~。僕自身やナナさんのせいで女性の身体は見慣れているけど、同年代の女の子、しかも美少女のミルフィーユさんの全裸を直視は出来ないよ。でも、ナナさんがいないのは幸いだったね。絶対、セクハラをするから。ちなみにナナさんは夕食時にお酒を飲みまくった挙げ句、寝てしまい、既に客室に運ばれました。よって僕達は今日、スイーツブルグ家に泊まる事になりました。


 そんな事を考えていたら突然、胸を触られた!


「ひゃうっ!?」


 いつの間にか、ミルフィーユさんが後ろにいました。


「やっぱり、私より大きいですわね……」


「ちょっと、何するんですか、ミルフィーユさん!」


 お願いですから、ナナさんみたいな事はしないで下さい! しかし、ミルフィーユさんは僕の話を聞いていない。


「あれだけ強くて、美少女な上、私より胸が大きいなんて……」


 何か黒いオーラを放っています。凄く怖いんですけど。僕何か悪い事したかな?


「あの、ミルフィーユさん、僕何か気に障る事でもしました? だったら謝りますけど」


「い、いえ、何でもありませんわ!」


「そうですか、なら良いんですけど……」


 僕は身体は女だけど、中身は男だから、女心って良く分からない。難しいなぁ。そこへミルフィーユさんが話しかけてきた。


「ハルカ、貴女はナナ様にクビにされない限り、そばにいるとの事ですけれど、本当にそれで良いんですの? もっと他の道を歩んでみたいとは思いませんの?」


「……僕はナナさんのメイドですから。既に話しましたけど、恩が有りますしね」


「本当に律儀と言うか、義理堅い人ですわね、貴女は……」


「良く言われます」


 セクハラを始め、色々迷惑を被っているけど、僕にとってナナさんは、異世界に来た僕を雇い、色々教えてくれた恩人。


「ミルフィーユさんこそ、どうなんですか? 他の道を歩んでみたいとは思わないんですか?」


「そうもいきませんわ。魔道の名門、スイーツブルグ侯爵家の娘として産まれたのですから。それに私自身、歴史に名を残す様な大魔道師になりたいと思っていますし」


 ミルフィーユさんは凄いな。単に魔道の名門に産まれたからだけではなく、自分の意思で大魔道師を目指して頑張っている。


「それに、貴女に出会って一層やる気が出ましたわ。私と同年代で圧倒的に強いのですから。私も負けてはいられませんわ!」


 燃えているなぁ、ミルフィーユさん。熱血な人だね。でも、申し訳ない気がする。だって僕は元は一般人で、今の強さの源は転生者だからこそだし。本当の事は言えないけどね。





 その夜、僕は客室のベッドで横になって考える。将来の夢か……。ミルフィーユさんは大魔道師を目指している。ならば僕は、立派なメイドになる事かな。ナナさんのメイド兼弟子として恥ずかしくないように。そしていつかナナさんに一人前になったと認めてもらうんだ。


 ありがとう、ミルフィーユさん。貴女のおかげで今まではっきりしなかった将来の夢の形が定まりました。さて、もう寝よう。おやすみなさい。




やっとナナさん達が帰って来ました。しかしナナさん、ハルカを溺愛しまくり。このまま行けばヤンデレ化しそうです。作者はヤンデレ嫌いなんですが、怖いから…。後、この小説に対する感想、ご意見、お待ちしています。m(_ _)m

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