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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第87話 女狐は令嬢の事を気に入った様です

 色々な意味で嫌な場所で出会ってしまった。それが私が一番に思った事。厄介な相手が更に厄介になって現れたのですから。しかも場所はトイレ。狭くて動きにくいったら、ありません。


 私達の目の前には身体のあちこちが結晶化した、4人組。悪質な転生者、リゼル・シュバルツと、その取り巻きの女達のなれの果て。もはや、彼らは人間ではありません。恐るべき怪物です。油断すれば、私は異界の地に屍を晒す事になるでしょう。戦いは避けられません。私は炎の剣、百花繚乱を。女狐は刀を抜き、戦闘体勢を取ります。







 そもそもは、女狐、遊羅ユラの案内でこの世界を滅亡に導いた元凶、マスターコアを破壊すべく、その潜伏場所たる地下施設の隠しルートの有る教職員用トイレへと向かったのですが、しかし時、既に遅し。マスターコアは外へと出た後でした。そこへ現れたのが、彼らだったのです。恐らくマスターコアによってコアを植え付けられ、下僕と化したのでしょう。


「な屋根や田畑なやたま20783.wtjmt.かやたら!」


 奇声を上げ、取り巻きの1人である女剣士が緑色の巨大な剣を振り上げ襲い掛かってきました。狭いトイレ内でそんな物を振るうなど、本来なら、壁や天井などに引っ掛かってしまう。ですが、彼女はそんな物お構い無し。壁を天井を切り裂き、剛剣が迫ってくる。この狭い状況では逃げられない! 防ごうにも止められるか?


 ですが、その時、突如現れた灰色のモフモフが私をくるみ、直後に私は学園のグラウンドに移動していたのです。そして轟音と共に崩壊する校舎が見えました。


「大丈夫ですか? 久しぶりの良いお客様に死なれては困りますからね」


 私をくるんでいたモフモフの正体は女狐の尻尾でした。サイズを変えられますのね、その尻尾。とはいえ、助かりました。チラリと目を向ければ、校舎の一部、2階の辺りが崩壊。土煙が巻き上がっています。大剣の一撃であれ程の威力を出すとは。直撃していたら、危なかったですわ。そして、瞬時に私を守りながらここまで移動した女狐の実力もまた、計り知れません。


「ありがとうございます。助かりましたわ」


「お礼なら、全てが終わってからでお願いしますね。ほら、来ましたよ」


 助けてくれた事に対するお礼を述べるものの、後にしろとの事。そして、崩壊した校舎から飛び出し着地する人影4つ。多少なり、校舎の崩壊に巻き込まれたはずなのに、目立った外傷は無し。奇声を上げ、再び襲い掛かってきました。


「頑張ってくださいね、ミルフィーユさん。負けたら彼ら同様、コアを植え付けられて操り人形にされますよ。うん、女にモテない男好みの展開ですねぇ」


 緊迫感まるで無しの女狐。お気楽で良いですわね! 文句を付けたいのは山々ですが、今は戦闘中。全ては終わってからですわね。






「5258aw-pjmt化やたは綿隼磨はかtagxauj28759」


「から間らはなんなり間愛菜槍atpw,jt,tptmwau688」


 奇声を上げ私に向かってくるのは、大剣を手にした女剣士と槍を手にした槍士の女。どちらの武器も緑色。以前はあんな色ではなかったはず。特に剣に至ってはあんな大剣ではありませんでした。これもコアの侵食によるものでしょう。ちなみにリゼル・シュバルツと、魔道士の女は女狐が引き受けていました。悪いですが、頑張って引き受けてもらいましょう。4対1はさすがに困るので。もっとも、当の本人はというと。


「きゃー、こわーい。ころされちゃいますー(棒)」


 と、明らかに相手を舐めきった態度で、攻撃をひょいひょいと、かわしています。ああいうタイプは殺しても死にそうにないですわね。って、ちょっと! 攻撃がこっちに!


 魔道士の女の放った砲撃魔法をすんでで回避。その威力たるや、海が割れましたわ。危ない、危ない。


「あー、すいませーん(棒)」


「貴女、後できっちり文句言わせて頂きますからね!」


 相変わらずの他人を小馬鹿にした態度。よくあれで、商売が成り立ちますわね。確かに商品は素晴らしいですが。そこへ繰り出される槍の突き。回転扉の要領でかわし、その遠心力を活かしたカウンターの回し蹴りを叩き込みます。勢い良く吹き飛びましたわね。そこへ斬り掛かってきた女剣士には百花繚乱から火球をお見舞い。同じく吹き飛びます。ですが、決定打に欠けるのも事実。強力な再生力を持っており、いくら攻撃してもすぐに再生してしまいます。一撃で葬る火力が必要ですわね。


 しかし、大技を使うには、それ相応の溜めが必要ですし、何より確実に当てねばなりません。こういう時、氷系の使い手であるハルカが羨ましくなります。ハルカなら、相手を凍らせ、動きを止めるぐらい容易いでしょうし。そんな私の思いなど無視して襲ってくる女剣士と女槍士。本当に、鬱陶しいですわね!







「ぜぇ、ぜぇ……いい加減、死になさい!」


 炎の剣、百花繚乱で幾度も切り裂き、貫いたものの、一向に効いていない女2人。しかし、向こうもまた、決定打に欠けていました。確かに攻撃の威力は凄いですし、速さもかなりの物。ですが。


『ハルカと比べたら、遅い』


 ハルカと幾度も模擬戦を重ねたおかげですわね。ハルカの疾風の如き速さと比べたら、遅いのです。それに攻撃が力任せで単調。駆け引きも何も有りません。しかも2人掛かりで襲ってきているのに、連携が全くなっていません。言うなれば、力任せで知性の無い、狂戦士バーサーカー


「火生愛菜や釜かは魔かならjpaw-pj2876#8540」


「Wap,m火や棚はや眉はな657169055火やたてはよ」


 奇声を上げ襲ってくる女達との戦いは、膠着状態。しかし、このままでは負けるのは私。


 2対1の上、私はいい加減、息が上がりつつあるのに、向こうは息切れ一つしません。永久エネルギー源たる、コアの力でしょう。強力な再生力に永久エネルギー。嫌になりますわね。こんな事なら、せめて拘束系か封印系の魔法を会得しておきたかったのですが、生憎ながら、私はその手の魔法が苦手。百花繚乱は変幻自在の使い方が可能ですが、実体の無い刃故に拘束力がない。何か手は……有りましたわ!


 新装備の百花繚乱のおかげで忘れていましたが、私の武器は他にも有ります。オリハルコン製の機巧剣。実体を持つこれなら、拘束も可能。百花繚乱から持ち変え、蛇腹剣モードに変形。炎を纏った鞭と化したそれで切り刻み、縛り上げました。これならば! トドメを刺すべく、大技の溜めに入ろうとしました。しかし、コアによる強化は予想以上だったのです。


 ギシギシと軋む音、そして鋭い金属音と共に、女達を拘束していた蛇腹剣が引きちぎられてしまいました。


「くっ! なんて力ですの?!」


 あれはオリハルコンを元に王都で随一の職人に作らせた物。そこへ私の炎の魔力を上乗せしたのに、引きちぎられるとは。その動揺が大きな隙となってしまいました。そして、いくら狂戦士と化していても、いや、狂戦士だからこそでしょうか。女達の強烈な一撃を受けてしまった。


 大剣の袈裟懸けの一撃に心臓を直撃する槍の一突き。致命的なそれらをまともに食らった私。その圧倒的な威力に数十メートルは吹き飛ばされ、グラウンドを何度もバウンドし、転がった挙げ句、やっと止まりました。


 そこへ追い討ちをかけに来る女達。とっさに火炎弾を放ち、その爆発に乗じて離脱。本来なら、死んでいてもおかしくない程の攻撃でしたが、女狐の作った防具、蓮華の防御に助けられました。しかし、戦局は好転せず。むしろ悪化。武器の1つを失いましたし。無惨に引きちぎられた蛇腹剣。もはや、使えません。


「何とか動きを止められれば……」


 女達の猛攻をしのぎながら、そう思うものの、手が有りません。百花繚乱は実体剣ではありませんし。


「ミルフィーユさん、蓮華を単なる防具と思わないでくださいねぇ。経験を積み重ね、進化変形します。でもきっかけは使い手次第ですよー」


 そこへ突然の女狐の声。進化変形するとは、とことんデタラメですわね。でも、ならば……。私は思い描きます。以前、ハルカから借りたアニメに出てきた兵器を。すると、両腕の籠手に変化が。それは私がアニメで見た形そのもの。これなら!


「なゃ魔なら、刃か湯刃を無縄るは野間!」


 奇声と共に降り下ろされた大剣、それを左手の『爪』で途中から切断。大剣が切られ、バランスを崩した所を『爪』から『銃口』に切り替え。魔力弾の連続射撃で吹き飛ばす。続く槍の一突き。それをかわし、右手の『赤い蛇腹剣』で締め上げる。


「差炉田和は和ラサはやに奈由刃やかも和や!」


 再び引きちぎろうとしていますが、今度はびくともしません。更に締め上げつつ、火系魔法の筋力強化で振り回し、剣士の女に激突させてやりました。身体が結晶化しているだけに効いたらしく、ふらついています。チャンス到来ですわね! アニメで見たように両腕を前に突き出し、放つは私の最強魔法。


炎魔滅却砲インフェルノ・バスター!」


 特大の白い閃光が放たれ、一気に遥か彼方まで突き抜けていきました。後には一直線に伸びる抉れた地面のみ。コアに侵食された女達の姿はもはや、どこにも有りませんでした。


「殺りましたか……?」


 これまでとは比べ物にならない程の威力の炎魔滅却砲インフェルノ・バスターでした。間違いなく、私が放ってきた中では最強の一撃。


「そういうセリフはフラグですよ。感心しませんね」


 その声に振り向けば、女狐。生きていましたのね。


「悪かったですわね! そちらこそ、終わりましたの?」


 こうして来た以上、決着が着いたのでしょうが、一応、聞いてみます。


「えぇ、まぁ、終わりましたよ。ほら」


「………………貴女、鬼か何かですか!」


 女狐が目線で示した方には、全身を無数の刀で串刺しにされ、ハリネズミの様になったリゼル・シュバルツと魔道士の女の死体が有りました。いくら敵とはいえ、無惨な殺し方にも程が有ります。


「つまらない雑魚でしたねぇ。私の愛刀、鬼灯ホオズキを使うまでもなかったですね。再生阻害の呪詛を込めた刀で滅多刺しにしてやりましたよ。あいつらが強力な再生能力持ちと知っていましたしね。本当につまらない雑魚ですよ」


 その言葉通り、実につまらなさそうに話す女狐。私が苦戦した相手をあっさり殺してみせるとは。


「ついでにリゼル何とかの持っていた魔剣を頂いてきました。後で私が打ち直すとしましょう。あんなクズでも転生者であり、この魔剣も、一応この世の物ならざる武器。素材としては使えますしね」


 実に淡々と語るその口調に、私は恐怖しました。彼女は最初から、リゼル・シュバルツ達など眼中になかった。それこそ、路傍の小石、いえ、塵程にも思っていなかった。ここまで、他人に無関心な人は初めて見ました。極めつけはこの一言。


「良かったですね。問題の1つが片付きましたよ」


 ゴミをゴミ箱に放り込むかの様な、本当に無関心な言葉でした。







「しかし、驚きましたね。こうもあっさり、蓮華を進化変形させるとは。普通は最低、半年ぐらいは使わないとダメなんですが。いや~、凄い凄い」


「はぁ?! ふざけないでくださる! 私は必死でしたのよ!」


 リゼル達との戦いに決着が付き、ひとまず休憩の私達。そこで女狐から、とんでもないカミングアウト。


「ほら、あれですよ。ピンチの時こそ、その人の真価が発揮される奴。ま、出来なければ、『その程度だった』という事ですが。私は信じていましたよ、うん、本当ですよ。本当ですからね」


「……そういう事にしておきますわ。実際、ピンチを切り抜けましたし」


 非常に胡散臭いですが、彼女の言葉のおかげで助かったのも、また事実。


「それにしても、左手の籠手からは爪とバルカン砲。右手の籠手からは蛇腹剣ですか。また随分と攻撃的な進化変形を遂げたものです」


 進化変形した両腕の籠手を興味深そうに見ている女狐。べたべた触っては、何やらうんうんと頷いています。何を考えているかは知るよしもありません。


「以前見た、アニメにヒントを得ましたわ。ぶっつけ本番ながら、よく成功したと我ながら思いますわ」


 すると、何が可笑しいのか、女狐が笑い出しました。あ、もともとおかしい人でしたわね。


「ウフフフフ、アニメにヒントを得た、ですか。人によっては、ふざけるな! ご都合主義にも程が有る! と言うでしょうねぇ。特に踏み台転生者は」


 彼女は続けます。


「でもね、私から言わせてもらえば、ふざけているのは踏み台転生者の方。突然、力を得てやりたい放題。でも、所詮、付け焼き刃。確かな裏打ちが無い、薄っぺらい、脆いんですよ。当然ですよね、素人が突然、力を得て何もかも上手くいく訳がない」


 まだ続きます。


「対して、ミルフィーユさん。貴女は確かな裏打ちが有る。貴女が籠手を進化変形させたのは偶然ではなく、必然。貴女がこれまで積み重ねてきた経験。武具に関する知識。鍛え上げられた優れた素質。それらが重なり、貴女は籠手を進化変形させた。胸を張って良いですよ貴女は。貧相な胸ですが」


「最後が余計ですわよ! 悪かったですわね、貧相な胸で!」


「まぁまぁ、落ち着いてください。貧乳もそれはそれで需要が有りますから」


「嬉しくないですわよ!」


 真面目な話をしたかと思いましたが、最後で台無し。ですが、私の積み重ねてきた努力を認めてくれた点に関しては感謝しましょう。そして、彼女の譲ってくれた装備一式のおかげで勝利を掴めた事に。これらが無ければ、私は死んでいたでしょうし。






「しかし、マスターコアはどこに行ったのでしょう?」


 女狐の淹れた香り高いお茶を味わいながら、私は疑問を口にしました。学園地下の施設に潜んでいたはずが、既にどこかに移動した後。探してみましたが、それらしき気配は有りません。


「さぁ? それは私にも分かりません。でもね、このまま諦めるとは思えませんね。必ずや接触してくるでしょう。『種の繁殖に失敗した』マスターコアからすれば、私達は貴重な『苗床』ですからね」


 お茶を啜りながら、淡々と語る女狐。


「苗床ですか。嫌な言葉ですわね」


「事実ですからね。コアは言うなれば、寄生生物。有機生命体に寄生し、繁殖するのですから。ただ、既に話した通り、この世界の人間は脆かったが為に、苗床として役立たなかった。全人口から考えても、ほんの一握りしか残らなかった様です。正に草生えますよ。わざわざ宇宙の彼方から無駄骨、乙wwwwww」


「そう考えると、マスターコアも気の毒ですわね。だからと言って、放置は出来ませんが。向こうにも種の繁殖という目的が有るにしても、私の住む世界を侵略させる訳にはいきません。結果、向こうの種族を滅ぼす事になろうとも」


 これは善悪二元論の問題ではありません。種の繁殖をしたいコア。自分の住む世界を守りたい私。お互いに譲れない理由が有ります。この戦いはとても原始的な戦い。生存競争そのものです。その言葉を聞いて、口の端を吊り上げる女狐。


「うんうん、良いですね。実に良いですね。貴女は良く分かっている様ですね、戦いの本質を。そう、生存競争です。勝者は生き残り、敗者は消え去るのみ。アニメやラノベの主人公の定番、『俺がみんなを守る』とか、寝言は寝てから言えと。そもそも、『みんな』とは、どこまでを指すのですか? 『みんな』とやらに入らない者達はどうでも良いのですか? 本当に主人公は『正しい』のですか?」


 何やら話が脱線している女狐。この方、アニメやラノベが嫌いなのでしょうか?


「あの、失礼ですが遊羅ユラさん。貴女、アニメやラノベが嫌いなのですか? 先程から、随分な言い様ですが?」


 聞いてみたら、何を言っているのかと言わんばかりの顔をされました。


「当たり前でしょう? 愚問にも程が有りますよ。あんまりふざけた事を言うと、温厚、穏和な私もキレますよ。えぇ、火山の大噴火の如くキレますよ。バーニングファイアー! ですよ」


「そのウザい言い方はともかく、貴女がアニメやラノベを大変、嫌っているという事はよく分かりましたわ。でも、なぜそんなに嫌っているのですか?」


 実にウザい表現ながら、彼女が心底、アニメやラノベを嫌っている事はよく伝わってきました。そして彼女は語り始めました。アニメやラノベを嫌う理由を。







「私はご都合主義が嫌いなんですよ」


 実に率直な一言。それが女狐のアニメ、ラノベ嫌いの大元でした。彼女は続けます。


「最近の流行りは、最強でイケメンの主人公がゲームの世界で無双の大活躍をして、周りからチヤホヤされて、美少女達にモテまくってハーレムを作ってウハウハ。はっきり言いますね。…………無ぇよ!!!」


 これまで飄々とした態度と口調を崩さなかった女狐の初の罵声。その事がいかに彼女が怒っているかを如実に伝えてきました。しかも、まだ怒りが収まらない様です。


「既にご存知の様に、私は冥府魔道の商人にして、職人。自分で言うのもなんですが、私は私に比肩するだけの職人を知りません。会った事もありません。どこぞの魔界の名工や、妖怪刀鍛治すら、私には遠く及びません」


 今度は自分の実力自慢。しかし、言うだけの実力は有りますわね。ですが、それがどうしてアニメ、ラノベ嫌いに繋がるのでしょう?


「まぁ、それだけなら、まだ良いのです。別にどんなアニメやラノベが流行ろうが、私に比肩する職人がいなかろうが、そんな事は私にとって『どうでも良い事』ですから」


 ここで一旦、お茶を啜る女狐。しかし、腑に落ちません。『どうでも良い事』と言いながら、なぜこうも怒るのか? それは次で明かされました。


「転生者という名のクズの存在ですよ」


「なるほど。大いに納得しましたわ」


 彼女は冥府魔道の商人にして、職人。扱う商品は神々の品に匹敵する。そんな彼女の元にクズ転生者が現れるのは自明の理。


「あいつら、鬱陶しいったら、ないんですよ! やれ、自分に最強の装備をよこせだの、自分達の組織に入れだの、何だかんだ」


「あぁ、簡単に想像が付きますわね……」


 エスプレッソやナナ様達から聞きましたが、転生者は基本的にクズばかり。生前、ろくな人生を歩まなかった、いわゆる負け組が選ばれるからだそうですわね。そういう連中の方が貪欲に力を求めるからと。そして、最終的には破滅し、増大した力ごと魂を神や魔王に喰われる。要は神や魔王の餌に過ぎないと。まぁ、そうとは知らないクズ転生者が、更なる力を求めて女狐の元に来るのは当然ですわね。


「特に困るのが、ヒーロー気取りの転生者。自分は絶対に正しいと思っているから、話にならないんですよ。要求を拒否したら、無茶苦茶しますし。営業妨害ですよ。それにね、私にもこだわりは有りますよ。私の商品はそれにふさわしい相手に使って欲しいのです。装備の力を自分の力と勘違いする、アニメ、ラノベかぶれのバカに売る物は無いですね。この際、はっきり言いますが、もし、本当にアニメ、ラノベの主人公がいたら、私は即座に殺しますよ。『自分勝手な正義を振りかざし、無茶苦茶な事をする危険人物』ですからね」


 最後は一息に言い放った女狐。ですが言っている事は何も間違ってはいません。アニメ、ラノベの主人公を始めとする、登場人物達の無茶苦茶な言動はフィクションだからまだしも、現実でやったら、犯罪がザラ。


 街中で戦闘だの、鈍感主人公に暴力を振るうヒロインだの、現実でやったら、大変な事になります。器物損壊。暴行傷害。下手をすれば殺人未遂、最悪、殺人。トドメは女狐のこの言葉。


「大体、凄い武器兵器を得ただけで主人公やヒロインになれるなら苦労はしません。もし、そうなら、私は主人公やヒロインを通り越して、神ですよ」


「そうですわね」


 その理屈でいけば、規格外の商品を作り出せる女狐は主人公、ヒロインを通り越して、正に神ですわ。


「ま、世の中そんなに甘くはない。所詮、アニメ、ラノベなんてフィクション、作り話。ぶっちゃけ嘘なんですから。ま、大部分の転生者はそれが分からず、フィクションと現実をいっしょくたにして破滅するんですがね。妄想乙wwww」







 さて、その後、あちこち探し回りましたが、やっぱりマスターコアの姿は見付からず。一体、どこへ消えてしまったのか? まさか、既に私の住む世界へと移動したのでは? 最悪の可能性が頭をよぎります。


「もしかして、既に私の住む世界へと移動したのでは?」


 不安を口にした私ですが、女狐はそれを否定。


「大丈夫ですよ。そちらの世界との接続点は私が結界で塞いでおきました。とはいえ、根本的な解決にはなっていませんから、どのみち、世界接続の原因を絶たないといけませんが」


「いつの間に。しかし、結界を張って頂いた事には感謝いたしますわ。ならば、マスターコアはこの世界にいると」


「そうなりますね。ですが勘違いしないでください。別に貴女の住む世界の為に張った訳ではありません。マスターコアを逃がさない為です。仕留めて、素材として回収するんです」


「とことん、商人で職人ですのね」


 まぁ、この女狐からすれば、私の住む世界がどうなろうと、他人事に過ぎないですし。


「ではミルフィーユさん。マスターコアが姿を現すまでしばらくお付き合いください。素材を回収したいので。途中、邪魔も入るでしょうが、良い実戦経験になるでしょう。大丈夫、マスターコアは必ず現れます。必ずね。それも近いうちに。遊羅ユラさんの太鼓判ですよ!」


「仕方ないですわね。お付き合いいたしますわ」


 現状、マスターコアの行方が分からない以上、下手に動き回るのは得策ではありません。ならば、待ちましょう。探せないなら、迎え撃つまで。とりあえず……目の前の敵を落としましょう!


 向こうから飛来したパワードスーツ達。更にゾロゾロやってくるコアに侵食された者達。退屈せずに済みそうですわね!







「いや~、大漁大漁♪ ご協力感謝しますね。おかげさまで、素材がガッポリ♪ 笑いが止まりません」


「…………それは……良かったですわね…………」


「おやおや、元気が無いですね。これはいけません。今晩は精の付くメニューにしましょう。良い食材が有るんです、暖かいお鍋にしますね。締めのおじやがまた、美味しいんですよ~」


「……タフですわね……正直、見くびっていましたわ……」


「ウフフ♪ そんじょそこらの商人ならともかく、冥府魔道の商人は、タフじゃないと務まらないんですよ。ま、今日は休んでください。良く頑張りましたね」


「……嫌味にしか聞こえませんが、今はその言葉に甘えますわ……」


 ニコニコと胡散臭い笑みを浮かべながら話す女狐と、息も絶え絶えで用意されたマットに横たわる私。現在、私達がいるのは学園3階の教室の1つ。既に日は暮れ、辺りはすっかり暗くなっていました。あの後、私達は襲い来る敵達と大立ち回り。何とか、これを退けました。で、今は休んでいます。もう、くたくたですわ……。終わった時には、その場に倒れそうになりましたし。


 それにひきかえ、あの女狐、終始、息一つ乱しませんでした。愛刀の鬼灯ホオズキとやらで、次々と敵をバラバラに切り裂き、葬り去る。派手な大技を使う事無く、実に淡々とした戦い方でした。あの無駄な力を使わず、確実に敵を葬る戦い方……大いに学ぶ所の有る内容でしたわ。


「ミルフィーユさん、何か食べられない食材は有りますか? アレルギーとか怖いんで」


 何やら料理中の女狐からの声。


「大丈夫ですわ。特には有りません。しいて言うなら、人間の食べられる物かつ、ゲテモノでなければ」


「了解しました。しばらく待ってくださいね。遊羅ユラさん自慢の美味しいお鍋をご馳走しますからね。これ、味にうるさい知り合いにも実に好評なんですよ♪」


「へぇ。期待していますわね」


 食物アレルギーを心配する女狐でしたが、幸い私には有りません。人間が食べられる物かつ、ゲテモノでなければ良し。醤油系の良い匂いが漂ってきます。これは期待出来そうですわね。やっぱり、食事は生きていく上で一番の楽しみの一つですし。






「出来ましたよ~。遊羅ユラさん自慢の鍋料理です。さ、冷めない内に召し上がれ♪」


「分かりました。今、行きますわ」


 しばらく横になっていたおかげである程度、回復した私は新しい装備により馴染むべく、軽くトレーニングをしていました。そこへ女狐から、声が掛かりました。返事をしてそちらに向かいます。


 目の前にはコンロに掛けられた土鍋。中では具材がグツグツと煮えて、食欲をそそる良い匂いが漂ってきます。えぇ、『良い匂い』が漂ってきます。私は女狐に聞きました。


「なんですの? 『これ』は?」


「見れば分かるでしょう? 鍋料理です」


 どうも私の聞きたい事とは、ずれた答えを返す女狐。いや、私の聞きたい事とはそうではなくて。


「そんな事を聞いている訳ではありません。この『不気味な魚』は何ですかと聞いていますの!」


 土鍋の中には、暗褐色でぶよぶよした、見るからに不気味な魚がぶつ切りにされて入っていました。特に頭が丸ごと入っていますし。何だか恨めしそうな顔に見えます。


「不気味な魚とは失礼な。この魚は幻の高級魚と名高い、ナラクネメアゲ。捨てる所など無いとまで言われる程、美味な魚なんですよ。この私ですら、滅多に手に入らない貴重な食材。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いは無いですからね。嫌なら食べなければ良いでしょう。でも、後悔しても知りませんからね」


「……そんなに美味しいんですの?」


 ナラクネメアゲなる不気味な魚がいかに美味な高級食材か語る女狐の言葉に、私も少なからず興味が湧きました。


「とりあえず、食べれば分かります。はい、どうぞ」


 そう言って土鍋からお玉で具材とおつゆを掬い、深皿に入れて差し出してきました。


「後、お箸です。使えますか?」


「えぇ、一応」


 更にお箸を渡されました。幸い、使い方は以前ハルカに教わりました。深皿の中には不気味な魚、ナラクネメアゲのぶつ切りの身が入っています。……やっぱり不気味ですわね。しかし、女狐は平気で食べていますし。この際ですわ! 女は度胸! 思いきって、お箸で掴み、一口。


「…………美味しい!」


 月並みな表現ですが、まさにこの一言に尽きます。くせの無い白身とプルプルの皮の食感がたまりません。コクの有る醤油ベースのおつゆと良く合います。しかし、このコクはどこから?


「そうでしょう、そうでしょう。私自慢のナラクネメアゲ鍋。不味いとは言わせませんよ。ちなみにおつゆには肝をすりつぶして入れました。だからコクと滋養が有ります。しっかり食べてくださいね。ご飯も有りますよ」


 ドヤ顔で語る女狐。悔しいですが、これは本当に美味ですわ! お箸が止まりません。すぐに深皿を空にした私はお代わりを入れます。そんな私を女狐は自分の分を取りつつ、楽しそうに見ていました。







 美味しい食事を堪能し、その後、女狐が術で用意したお風呂で今日一日の汗を流して、疲れを癒した私達。すっかり夜も更け、時間も日付が変わる間近に。ですが、そこで一悶着。


「ここで寝ますの? 私としては不満ですが」


「文句を言わない。携帯式個室ポータブルルームなんて、贅沢です。そんな物認めません。マットとタオルケットで寝なさい。それでも贅沢なぐらいですからね」


 寝るに当たって、携帯式個室ポータブルルームを使おうとしたのですが、女狐の反対に合い、結局、マットとタオルケットで寝ることに。場所は変わらず、学園3階の教室です。瓦礫や白骨は片付けましたが、未だに血痕は残っていますし、何より荒れ果てた廃墟です。良い気はしません。しかし、女狐の言い分も確かです。


「分かりましたわ。今夜はここで寝ますわ。でも、遊羅ユラさんはどうしますの?」


 寝るためのマットとタオルケットは1人分だけしか有りません。


「お気遣いは無用です。私は寝なくても平気なので。見張りをしていますので、気になさらず寝てください」


「そうなんですの?」


「はい。冥府魔道の商人たるもの、いついかなる時も商売のチャンスを逃さない為にもね」


 寝なくても平気だと言う女狐に、驚かされる私。ですが、女狐は更に驚かせてきました。


「ミルフィーユさん、明日から私が直々に鍛えてあげますよ。マスターコアとの決戦に備えてね。私の見立てでは、1週間前後でマスターコアは現れるでしょう。それまでに少しでも貴女の戦力を底上げします」


 それは色々な意味で衝撃的な内容でした。思わず私は聞きました。


「貴女が私を鍛えてくださる? それ以上に、マスターコアが1週間前後で現れる?」


 すると、女狐は真面目な顔で答えました。


「貴女はなかなか見所が有りますからね。それにマスターコアとの決戦までに少しはマシにしてあげようと思いまして。そして、マスターコアの襲来の予想ですが、これに関しては企業秘密です。ですが、これだけは言えます。マスターコアは私達をより確実に仕留める為に何らかの手は打ってきますよ。と、いうことで、明日からみっちり鍛えてあげますよ。知り合いの7日間トレーニングをアレンジした物です。覚悟してくださいね」


「……お手柔らかにお願いしますわね」


 何やら不穏な雰囲気を放ちまくる女狐。嫌な予感しかしません。


「まぁ、死なない様には加減しますよ。ちゃんと治療もしますし」


「全く、安心出来ないんですが」


 加減をする。治療もすると言われても、相手が相手だけに全く安心出来ません。すると女狐も察したのか、話題を変えてきました。


「……少し昔話をしましょうか。既に話しましたが、私は確かな品質の商品を売る事を、それによる信用を何より重んじています」


「そうでしたわね」


 商品の品質と信用について語り出しました。いきなり何でしょう? 女狐は続けます。


「ですが、私は昔、若気の至りとはいえ、大変な失敗作を作ってしまいました。あれは私にとって、最大の黒歴史。あってはならない最悪の失敗でした」


 女狐が初めて見せた苦い表情。一体、どんな失敗をしてしまったのでしょう?


「どんな失敗をしましたの? ただ事では無さそうですが」


 すると女狐は本当に苦い表情で話してくれました。


「あの頃の私は、より優れた武器を作ろうと躍起になっていまして。武器の本質は敵の殺傷。故に私は武器の殺傷力をひたすら追及していました。その為に素材、知識、技術、場所、時間、その他色々、あらゆる要素を突き詰めていき、その結果、一振りの刀を打ち上げました。今でも言えますが、あれは私の作った中でも一番の出来。恐るべき刀です」


 女狐のその言葉に私は心底、恐怖しました。神々の武具に匹敵する品を作れる。強力な武具を量産出来る。そんな彼女の集大成ともいえる刀。恐ろしいにも程が有ります。


「その刀がどうしましたの?」


 私のその問いに対する返答は正に最悪でした。


「……暴走しました。製作者である私の手を離れ、適当な相手に取り憑き、大虐殺を引き起こしたのです。止めようにも手に負えません。私自身、首を刎ねられかけました。その後、次々と宿主を変えては新たな犠牲者を増やしていき、やっと捕まえたのは今から1000年前。もはや、犠牲者の数は計測不能でしたよ。その後、私と知り合い達の協力の元、厳重に封印しました。下手に破壊すると危険なので」


「大惨事じゃありませんか! なんて物を作ったんですか、貴女は!! 無責任にも程が有りますわよ!!!」


 あまりにも酷い内容に、私も大激怒。


「それに関しては、私も大いに反省しました。えぇ、それはもう」


 さすがの女狐も自分の作った刀で起きた大惨事には反省した模様。と思ったのですが……。


「制御不能になり、暴走するなど、武器兵器としてあるまじき事ですからね。ただ、性能に関しては、我ながら素晴らしい出来だと思いましたよ。あれだけの犠牲者を出して、刃こぼれどころか、傷一つ無し。むしろ切れ味が増していましたし。私の求める刀の理想形でしたね」


 女狐は数多くの犠牲者が出た事など、気にも止めていませんでした。彼女にとって大事なのは、自分の作った刀の性能のみ。反省したのは、自分の作った刀が制御不能の失敗作だった事のみでした。


「……なるほど。貴女にとって、重要なのは武器の性能のみ。それがどれ程の犠牲者を生もうが知った事ではないと」


 もはや、怒る気も失せました。この女狐は求道者ですわ。より優れた商品を作る事こそが彼女にとっての命題。絶対に曲げないでしょう。


「いかにも。ですがこの話、まだ続きが有りましてね。聞きますか?」


 私に指摘されても、全く悪びれない女狐。しかもまだ続きの話が有ると。ろくな内容ではないでしょうが、気になるので聞く事に。


「お願いしますわ」


「了解。では、話しますね」


 ニコニコと胡散臭い笑みを浮かべ、楽しそうに女狐は話し始めました。


「私と知り合い達の協力の元、やっと封印した刀。ですが、無力化した訳ではなかったのです。あくまで、動きを止めただけ。元々が非常に凶暴、残忍な性格だけに封印を破ろうとし、結果、徐々に封印が弱まってきたのです。何度も封印を強化しましたが、いたちごっこ。キリが有りません。このままでは、いずれ、封印が完全に破られてしまうという状況になってしまったのです」


「また、大変な事になっているじゃありませんの!!」


 やっとの事で封印した刀。それが再び解き放たれそうになっている。女狐の語った内容は、大惨事の再来を予感させるものでした。


「まぁ、仕方ないといえば、仕方ない。刀に限らず、道具とは使う為にあります。使われもせず、封印されていたら怒りますね」


 当の女狐は涼しい顔。でも一理有ります。道具とは使うからこそ、存在意義が有ります。使われもせず、封印されていては嫌でしょう。しかし、この刀は世に出してはならない物。困ったものです。ですが、女狐はとんでもない事を話しました。


「ですが、100年前に良い相手が見つかりましてね。その人に譲りました。ちなみに先日、初めて使ったと連絡が有りましたよ。ちょっと、死にかけたそうですがね」


「他人に譲りましたの?! しかも、初めて使って死にかけた?!」


 とんでもない事をサラッという女狐。しかし、そんな恐ろしい刀を譲り受けるとは、一体、どんな人なんでしょう?


「あぁ、大丈夫。死にかけただけで、死んでませんから。ちゃんと生きています」


「タフな方ですのね」


「はい、とにかくタフな人ですよ。そして、私の知る中でも五指に入る剣の使い手です。あの刀が自分を手にする事を許した程のね。ちなみに、封印してから何人か、刀を手にしようとしましたが、ことごとく首を刎ねられました。彼だけが認められたのです。ま、一応ですが」


 封印された刀を譲り受けた、『彼』とやらについて語る女狐。大変な実力者の様ですわね。出来る事なら、会ってみたいですわ。






「さ、おしゃべりもここまでにしましょう。歯も磨いたでしょう? そろそろ、寝なさい。明日は早いですよ」


 おしゃべりを切り上げ、そろそろ寝る様に促す女狐。


「では、そうしますわ。おやすみなさい、遊羅ユラさん」


 言われた通り、私は床に就きます。今日は色々有って疲れましたし。ゆっくり寝ましょう。その事に意外そうな女狐。


「随分、素直に寝ますね。私を警戒しないのですか? もしかしたら、寝首を掻くかもしれませんよ?」


 不穏な台詞を吐いてきました。ですが、私はこう返しました。


「警戒も何も、貴女がその気になれば、いつでも私を殺せるでしょう? わざわざ、寝首を掻く必要がどこに有ると? それ以前に貴女が私を殺してどんな利益が有ると? 貴女は筋金入りの商人。利益にならない事はしないでしょう。すみませんが、今日は疲れましたし、もう寝ますわ」


 言いたい事を言うと、私はさっさと寝ました。せめて良い夢を見たいです……わね…………。






 遊羅ユラside


「寝ましたか。まぁ、今日は色々有りましたしね」


 ミルフィーユさんが寝付いた事を確認した私は、起こさない様に静かに教室を出ました。出た際に忘れず教室に結界を張ります。よし。これで、教室の安全は確保。


「感謝してくださいね。この私がここまでサービスするのは滅多に無い事なんですから」


 眠っているミルフィーユさんにそう言いつつ、その場を後にする私。さて、そろそろ職人として働きますか。本来なら、とっくに作業に入っている所なんですがね。今日、仕入れた素材の数々を元に何を作ろうか考えます。


「そうですね、今回は素材を生かして、銃火器の類いをメインにしますか」


 今回は科学寄りの世界でしたからね。手に入る素材も、銃火器の類いがメインになります。まぁ、私にとってはさしたる問題ではありません。日用品だろうが、最終兵器だろうが、何でも取り扱う、遊羅ユラさんですからね。


「しかし、面白いお嬢さんですね。実に面白い。久しぶりの良いお客さんですよ、彼女は」


 ミルフィーユ・フォン・スイーツブルグ。よく鍛えられていますね、彼女は。良い意味で貴族です。私は彼女の言動、振る舞いを振り返ります。


「貴族のなんたるかを良く分かっていますね。権力を持つのと引き換えに、責任も伴う。厳しく自らを律していますね。その上、腕前もなかなか。人を見る目も、度胸も有る。彼女は本物ですね。信念も覚悟も無い。与えられた力を自分の力と勘違いする、全てが薄っぺらで、スカスカのクズ転生者とは違う」


 彼女は、私がその気になれば、いつでも彼女を殺せる事を指摘した上で、なおかつ、私が彼女を殺す理由が無い事を指摘。根拠として、私が彼女を殺しても利益にならないと。私が筋金入りの商人である以上、利益にならない事はしないと。実際、図星でしたし。


「いやはや、これだから世の中、面白い。こういう出会いが有るから、行商人はやめられません。それに彼女には計り知れない力が秘められていますし。実に鍛えがいが有りますね。じっくり、鍛えてあげましょう、ウフフフフ♪」


 明日から、正確には既に今日ですが、彼女を鍛える事が楽しみで仕方ないですよ。


「貴女の言った通り、実に将来有望なお嬢さんです。ねぇ、『邪神ツクヨ』」


 この場にはいない、知り合いの事を思い出しつつ、素材で武器を作る為に、学園内に有る、パワードスーツ等の整備室へと向かう私でした。





読者の皆さんこんにちは。作者の霧芽井です。僕と魔女さん、第87話をお届けします。


リゼル達との戦い。更には新手の敵との戦い。ハードな1日を過ごしたミルフィーユでした。その一方で、女狐、遊羅ユラの強さを再確認。冥府魔道の商人は、弱くてはやっていけないのです。


その夜の会話。遊羅ユラの失敗作の刀の話。いくら高性能だろうが、制御不能では困る。封印してなお、暴れる危険極まりない刀は、最終的にとある人物の元へ。遊羅ユラいわく、自分が知る中でも五指に入る剣の使い手とか。


そして、遊羅ユラが最後に言った、邪神ツクヨの名。ミルフィーユの事を既にツクヨから聞いていたと。冥府魔道の商人は顔も広い様です。


では、また次回。


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