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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第86話 誇り高き、炎の令嬢ミルフィーユ

 冥府魔道の商人、遊羅ユラから、今の私の装備一式では、リゼル・シュバルツ達の装備には敵わない。腕も立つ上、人数も向こうが上である以上、戦えば、勝ち目が無いと指摘された私。


 しかし、彼女は私にチャンスを与えると。それは、1つの問いかけ。


『私が武器を作るにあたって、何より重んじている事とは一体何か?』


 この問いかけに正解したならば、彼女が作った装備一式を譲ると。彼女が見せた商品の数々は神々の武具に勝るとも劣らない、珠玉の品揃い。こんな素晴らしい品が手に入るチャンスなど、通常有り得ません。しかし、うまい話には裏が有るとは、よく言ったもの。


 不正解及び、時間切れの場合は殺すとも言われました。制限時間はわずか、1分。私は必死に考えます。


 武器を作る上で重んずる事……性能? それともコスト? 量産性? 使いやすさ? 汎用性? ………………ダメですわ!分かりません!


 自分が相手の立場だったら。そう仮定して答えを考えるものの、考えれば考える程、答えが分からなくなる。だからといって、時間は止まりません。刻々と制限時間は減っていきます。


「ほらほら、早く答えてくださいよ。時間が無いですよ? 早く答えてくれないと……首と胴体がお別れしちゃいますよ?」


 ニヤニヤと笑いながら、私の顔を覗き込み、煽ってくる女狐、遊羅ユラ。いつの間にか、その手に一振りの刀を握っていました。


「残り30秒を切りましたよ。タイマーが鳴るまでに答えてくださいねぇ。一発勝負、やり直しは無いですよ?」


 近くの机の上に用意されたデジタル式のタイマーが無情に時を刻む。早く、早く答えないと! でも答えが分からない! 答えの候補が多すぎて絞りきれません!


「残り15秒ですよ♪ もうすぐ、この世からさよならですねぇ」


 いまだに答えられない私を嘲笑する女狐。悔しい!こんな女狐に侮辱されるなんて!


 悔しさのあまり、歯噛みすれども、答えは出ません。時間切れは目前に。私の命もここまでですの? 無念ですわ……。武器にとって、何より重んずる事とは一体? もはやこれまでと観念した時、ふと、思い浮かんだのは以前、ハルカと交わした会話。そう、あれは確か、ハルカが邪神ツクヨから貰った、とあるラノベを読んだ時の。







『所詮、凄いのは使っている兵器であって、主人公(笑)じゃないですし。何より、黒幕がいつでも遠隔操作で自由に機能停止や暴走させる事が出来る兵器なんて、怖くて使えませんよ。そんな物『信用出来ません』。ちなみにナナさんは、このラノベ、よく出版化したねぇ。素人が書いたのかい? いや、下手すりゃ、素人の方がまだマシだねって言っていました』


『ナナ様は手厳しいですわね。確かにくだらない内容でしたが。結局、全ては黒幕の仕組んだ茶番劇ですし。あの主人公は主人公の器ではないですわね。口だけで実力の伴わない、ヒーローかぶれ。所詮、黒幕の手の上で踊らされる主人公(笑)ですわ。それに製作者に遠隔操作されて制御を奪われる兵器など、論外ですわ。しかも、あの女、人を人とも思わない、どうしようもない外道ですし』


『そこへいくと、ナナさんは信用出来ます。僕はナナさんの作ってくれた物なら、安心して使えます』


『フフフ、ハルカはナナ様を信じていますのね』


『はい。ナナさんは色々と困った人ですけどね』







 なぜか思い浮かんだ、この時の会話。黒幕の手の上で踊らされる、口だけのイケメン主人公(笑)が周りの女にちやほやされるだけのくだらないラノベ。それに出てくる兵器についての話題でしたわね。製作者がいつでも、自由に遠隔操作出来るなど、あれは明らかな欠陥兵器。他にも色々欠陥が有りますが、とにかく信用ならない…………!!!


 それは正に天啓。私の頭にビビっ! と来ました。性能より、コストより、量産性より、汎用性より、何より大切なもの。少なくとも、私はこれが無い物など使う気は有りませんわ。そこへ女狐の声。


「5秒前。4、3」


 私は私なりに確信を持って、すかさず答えました。


「信用ですわ!」


 直後に鳴り響くタイマー。 それを止め、女狐は私の方を向きます。


「なるほど。それが貴女の答えですか。まぁ、ギリギリながら、制限時間内に答えたので、時間切れで首チョンパは無しですね」


 女狐、遊羅ユラは手にした刀を下ろしました。ですが下ろしただけで、納めてはいません。


「でもね、答えが間違っていたなら、やっぱり首チョンパですけどねぇ。ウフフフフフ……」


 不気味な笑い声を上げる女狐。そう、時間切れは回避しましたが、まだ正解したかは分かりません。不正解ならば、私は首を跳ねられます。果たして、私の答えは合っていたのでしょうか? 女狐、遊羅ユラはニヤニヤ笑いを浮かべるばかり。







「…………私は貴女の問いかけに答えましたわ。さぁ、結果を教えてくださいません?」


「そうですね。では、答え合わせといきましょうか」


 女狐、遊羅ユラからの問いかけに対する、私の答え。果たして合っているのか? それとも間違っているのか? もし、間違っていたならば、私の命はここで尽きるでしょう。残念ながら、この女狐から逃げられる気がしませんし。事実、彼女は刀を手放してはいません。


「答えは………………………………なんと…………………………………実は………………………………驚くべき事に………………………………」


 刀を手にしたまま、なかなか答えを言わずに焦らしてきます。……正解にしろ、不正解にしろ、早く答えてくださいません?


 そして遂に、女狐は答えました。ここが私の命の分かれ道。彼女の告げた答え、それは……。











「残念! ハ・ズ・レ♪ という事ですので……首チョンパ決定!」


 直後、彼女は手にした刀を一閃。宙を舞う感覚。それが首を跳ねられたせいだと理解するのに、しばし掛かりました。そして私が最後に見た物。それは断面から鮮血を噴き出す、首の無くなった私の身体でした。


「いやはや、残念でしたねぇ。GAMEOVER♪ ウフフフフフ……」






































「…………………………いかがでしたか? なかなか楽しい演出(悪夢)でしたでしょう?」


「え?……あっ?!」


 気が付けば、私の目の前にはニヤニヤ笑う女狐。なぜ? 私は確かに首を跳ねられたはず。慌てて自分の首を触ります。……ちゃんと繋がっていますわ。辺りに血溜まりも有りません。


「どういう事ですの? 私は確かに貴女に首を刎ねられたはずですわ」


 首を刎ねられた際の感触。痛み。首だけになって宙を舞った感覚。確かに覚えています。なのに私は生きている。すると呆れ顔の女狐。


「言ったでしょう? 演出(悪夢)と。人生には刺激が必要です。刺激の無い人生などつまらないですからね。そこで、私の愛刀、鬼灯(ホオズキ)で、素敵なスリルをプレゼントしました。斬首されるなど、なかなか無い経験でしたでしょう? ギロチンとどちらにしようか、迷ってしまいましたよ」


「悪趣味にも程が有りますわよ! 」


「よく言われます。ですが、こればっかりはやめられないんですよね」


 さも愉快そうにニヤニヤ笑う女狐。その顔を思い切り殴り付けたいのは山々ですが、ここは我慢して確かめなくてはならない事が有ります。


遊羅ユラさん。貴女は私が不正解を言ったならば、首を刎ねると言いましたわね?」


「はい。その通り」


「そして、私は貴女の問いかけに答え、今こうして生きていますわ」


「そうですねぇ」


 ここで私は核心に触れます。


「つまり、私は『正解した』という事でよろしくて?」


「フフフ、ウフフフフフ……」


 私の問いに答えず笑う女狐。笑っていないでさっさと答えなさい、この女狐!


「いや、失敬失敬。久しぶりに楽しいお客様に会えた事が嬉しくて、つい。『彼』以来ですねぇ。では、質問に答えましょう。はい。正解です。おめでとうございます! おめでとうございます!」


 どこから出したのか、鐘を振るってカランカラン鳴らすわ、くす玉を割るわ、その中から、『あんたはエラい!』と書かれた垂れ幕が下がるわとやりたい放題。ひとしきり騒いだ後、彼女は私に問いかけてきました。


「確かに貴女は正解しました。ですが、あえて聞きましょう。なぜ、『信用』だと思ったのですか? 他にも性能なり、コストなり、色々有るでしょうに」


 女狐からの問い。それに対する私の答え。


「えぇ、そうですわね。性能、コスト、量産性、汎用性、使いやすさ。その他、数え上げたらキリが無いですわ。ですが」


 私はここで一旦切ります。


「ですが、何ですか?」


 興味津々とばかりに、続きを促す女狐。言われるまでもなく、私は続きを語ります。


「ですが、それらは武器を『信用出来る事』が最前提に有りますわ。いかに高性能だろうが、低コストであろうが、量産性に優れていようが、得体の知れない。もしくは、おかしな細工が施されている。そんな『信用出来ない』物など、無価値ですわ」


 ハルカから借りた、あのくだらないラノベ。よく、あんな得体の知れない兵器を世界最強などと、もてはやしていますわね。所詮、フィクションという事ですわね。そもそも、あの口だけのイケメン主人公(笑)は、突然、力を手に入れてヒーロー気取りなものの、実際は黒幕の手の上で踊らされているだけのクズ。というか、あの主人公(笑)、踏み台転生者に置き換えても何ら違和感が有りませんわ。まぁ、私はご都合主義の塊のアニメやラノベ自体、嫌いですが。おっと、いけません。話が脱線しましたわ。


「なかなか良く分かっていらっしゃる。『信用』それは武器に限らず、全てにおいて何よりも大事な事。これを疎かにしては、話になりません。ま、ヒントというか、答えはあらかじめ、話していましたし」


 私の答えに満足したのか、笑みを深める女狐。その口を三日月型に吊り上げます。言われてみれば、確かに彼女は『信用』、『信頼』を口にしていました。


「では、約束通り、装備一式を貴女に譲りましょう。私のコーディネート力が久しぶりに火を噴きますよ!」


「……お手柔らかにお願いしますわね」







「それでは、貴女にふさわしい装備一式をこの遊羅ユラさんがコーディネートしちゃいますよ! 貴女にぴったりの装備はズバリ! これです!」


 やたらハイテンションな女狐。そんな彼女が取り出したのは……。


「 ……魔光剣マナソードの類いですの?」


 それは一見、刃の無い剣の柄。私はそれに似た物を知っています。魔力を光の刃と成す武器。魔光剣マナソード。ですがあれは、それなりの出力しか有りません。しかし彼女は冥府魔道の商人にして職人。そんな彼女の出した物が『普通の』魔光剣マナソードの訳がない。案の定、彼女は否定。


「失礼ですねぇ、そんな訳ないじゃないですか。あんな低出力のお粗末な物と一緒にしないでください。これは私が作った『量産型』魔道武器。名は百花繚乱。出力は魔光剣マナソードなどの比ではありません。しかも腕を上げれば、変幻自在の戦い方が可能です。実に使い勝手が良いと評判で、ウチの売れ筋商品なんですよ、これ。ま、試しに使ってみせましょうか。『ちょうど良い相手がいますし』」


 そう言うなり、手にした百花繚乱から、青い光の刃を出すといきなり私に向けて突きを繰り出してきました。いきなり何を?! 驚きましたが、すぐに答えが分かりました。


「ギ……ガ…………ガ……」


 突然、聞こえてきた機械的な声。女狐、遊羅ユラの突きは私をギリギリ外し、教室の外。グラウンド方向の空中に浮かんでいたパワードスーツを串刺しにしていました。機械的な声の主はそれ。危ない所でした。まさか、音も気配もさせず、接近していたとは。


「ウフフ。不意討ちが失敗して残念でしたねぇ、ガラクタさん(笑)。ま、ガラクタはガラクタらしく、さっさと処分しちゃいますよ!」


 教室の中程にいる女狐の手にした百花繚乱から伸び、パワードスーツを串刺しにしている青い光の刃が変化。今度は鞭の様にしなり、縦横無尽にパワードスーツを切り刻み、あっという間にバラバラにしてしまいました。……なんという切れ味。私のオリハルコン製の剣でさえ、火炎系の上級魔法、白炎滅尽剣フレアブレードを上乗せしてやっと斬れたというのに。ですが、それ以上に恐ろしいのは。


 彼女いわく、百花繚乱は『量産型』であるという事。つまり、他にも大量に存在するという事ですわ。数の暴力。単純であるからこそ、恐ろしい。冥府魔道の商人、遊羅ユラ。油断ならない人ですわね。







「どうですか? 百花繚乱の性能は? お気に召しましたか? 言っておきますが、百花繚乱の性能はまだまだあんな物ではありませんよ? 先程説明した様に、変幻自在の使い方が可能。攻めて良し、守って良しの便利な武器です」


「素晴らしい武器ですわね。しかも『量産型』というのが、また素晴らしい。こんな武器を作り出すとは、恐ろしい方ですわね貴女は」


「ウフフ、誉め言葉と受け取らせて頂きますね」


 胡散臭い笑みを浮かべる女狐。


「では、受け取ってください。基本的な使い方は魔光剣マナソードと同じです。分かりますか?」


「ご心配無く。分かりますわ。さっそく、試させて頂きますわ」


 女狐から百花繚乱を受け取り、魔力を送り込んでみます。すると、光の刃ではなく、燃え盛る炎の刃が出ました。女狐が使った時と違います。


「これは驚きましたねぇ。予想以上ですよ。ミルフィーユさん、貴女は私が考えていた以上の逸材のようですね」


 女狐も驚くやら、感心するやら。彼女は説明を続けます。


「通常、百花繚乱を使った場合、白い光の刃が出ます。ですが、特に強い魔力を持つ者が使うと変化が起きるのです。ほら、先程、私が使った時には青い光の刃が出たでしょう。とはいえ、初めて使った時点で特殊な刃が出るとは、本当に大した物です。これはコーディネートのしがいが有りますね。防具も貴女にふさわしい品を提供させて頂きますね」


「ありがとうございます。期待していますわ」


 手にして実感しましたが、この百花繚乱、素晴らしい品ですわ。初めて手にしたにも関わらず、実に具合が良いですわ。まるで、私の為に作られたかの様に。これで『量産型』というのですから恐ろしいですわ。


「百花繚乱に限らず、私の作った品は、使い手に最適化する様になっているのですよ。さ、お次は防具です。これをどうぞ。見た所、貴女は機動力重視の軽装なので、それに合わせましたよ」


 私の内心の驚きを読みつつ、彼女は防具を出してきました。どんな物を出してくるのでしょう?


「防具はこれです。さ、手首に着けてみてください」


 彼女が出してきたのは一見、赤い紐の様な物。ハルカが以前話してくれたミサンガに似ています。


「これは私の作った防具。名は蓮華。百花繚乱同様、変幻自在の使用が可能。とりあえず、今身に付けている防具は外してください。邪魔ですから。使い方は百花繚乱と基本的に同じです。魔力を注いでください。そうすれば、自動的に貴女に最適化されます。勿論、そこから更に変化させる事も可能。臨機応変に使えます。百花繚乱と並び、ウチの売れ筋商品なんですよ」


 自慢気に語る女狐はさておいて、私は新しい防具。蓮華を試してみる事に。百花繚乱同様、魔力を注いでみます。


「うん、良く似合っています。やっぱり私のコーディネート力は確かですね。」


 左手首に着けた蓮華に魔力を注いだ結果、両腕、両足、上半身と両肩に真紅の防具が装着されました。籠手、具足、軽鎧ですわね。何とも不思議な防具です。身に付けているとは思えない程、軽い。しかもしなやかで、動きを阻害しません。


「軽くてしなやかでしょう? だからといって、脆くはないですよ。物理的、霊的防御力も抜群です。全身装甲化すれば、大気圏突入すら可能ですよ」


「大気圏突入なんて、誰がやりますの?」


 女狐の言葉に呆れつつも、自分が手に入れた装備一式の性能には驚かされていました。そして、それらを作った、女狐こと、遊羅ユラの実力にも。







「素晴らしい装備一式、ありがとうございます。でも、本当に無料で頂いてよろしいんですの? これ程の品です。せめて、持ち合わせの分だけでも支払いますが」


 女狐、遊羅ユラから譲られた新しい装備一式を身に付けた私は、代金の支払いについて話し合っていました。いかに命を掛けた問いかけに正解した報酬とはいえ、やはりこれ程の品をタダで頂いてしまうのはね。


「お代は不要です。約束したでしょう? 私の問いかけに正解したならば、装備一式を譲ると。そして、貴女は正解した。故にそれは貴女の受け取るべき正当な報酬です。しいて言うなら、貴女が私の作った装備一式を使い、活躍する事。それが一番のお代ですね」


 ですが、彼女は代金を受け取ってはくれません。変わった方ですわね。


「私としては嬉しいのですよ。久しぶりに良いお客様に出会えた事がね。ミルフィーユさん、つかぬ事を伺いますが、貴女にとって、武器とは何ですか? その新しい装備一式をもって、何を成しますか?」


 それまでの胡散臭い笑みを消し、真面目に問いかけてきた女狐。私は、迷い無く答えました。


「武器とは人殺しの道具ですわ。そして、私は、貴女から頂いた新しい装備一式で、多くの敵を討ち倒す事でしょう。更に言えば、武器兵器の力は私の力ではありません。強力な装備一式を手にしたからといって、浮かれる気は有りませんわ。むしろ、気を引き締めて掛からねばと思っていますわ」


 その言葉を聞いて、実に満足そうに笑う女狐。


「ウフフフフ、良いですねぇ、実に良いですねぇ。実に良いお客様ですよ貴女は。『彼』以来のね。『彼』も同じ事を言いましたよ。武器は人殺しの道具だと。当たり前の事ですがね。武器兵器はガキの玩具ではありません。アニメやラノベのキャラクターはしょうもない事で、むやみやたらと使いますが、あれはフィクションならではのご愛敬。殺し、殺される覚悟の有る者だけが使う資格が有ります。私の持論ですがね」


「確かにそうですわね。武器兵器は人殺しの道具。簡単に命を奪える。フィクションの世界にツッコミを入れるのもなんですが、現実でやったら大問題ではすまないですわね」


「現実は常に辛口ですからね。ま、だからこそ、人はご都合主義にまみれたフィクションの世界を好むのでしょうが」







「さて、そろそろ行くとしましょう。貴女も新装備一式、試してみたいでしょう?」


 そう言い出した、女狐。教室でのやり取りが続きましたが、私の本来の目的はこの異世界と元の世界の繋がりを断ち切る事。それに私より先にこの異世界に侵入した黒い剣士、リゼル・シュバルツ達の事も有ります。女狐、遊羅ユラいわく、転生者との事。しかも悪質な転生者。野放しには出来ません。


「しかし、行く当ては有りますの?」


 問題はそれです。リゼル達の行方。2つの世界の繋がった原因。この世界を滅亡に導いたコアの事。少なくとも、3つの問題が有ります。行く当てが無くては話になりません。すると女狐は恒例の胡散臭い笑みを浮かべます。


「ミルフィーユさん、私は言いましたよね。数ヶ月前から私はこの世界にいると。その間、何もしない訳が無いでしょう? ちゃんと調べは付けています。私はここへコアの元凶、マスターコアを破壊しに来ました。なかなか良い素材になりそうですからね」


 驚きの発言でした。ここにコアの元凶、マスターコアが有る? しかし、なぜ? 私の疑問に彼女は説明してくれました。


「忘れましたか? そもそもコアは1人の女科学者が発表したと。実は彼女こそ、コアに乗っ取られた第一号。彼女は発表後、姿を消しましたが、どうやらこの学園の地下深くに潜んでいたらしいのです。そして、彼女こそがマスターコア。今なお、他のコアに指示を出しています。早く破壊せねば、貴女の世界が危ないですね。貴女の話によれば、既にダンジョンを通じて、そちらの世界に来ている。今は偵察でしょうが、そちらの世界に価値有りと判断すれば、本格的に攻め込んでくるでしょうね。何せ、コアはこの世界の侵略に『失敗』していますからね。外の景色、特に地面をよく見てください」


 どういう事でしょう? 言われるままに、外の景色。地面をよく見てみます。すると、奇妙な物がいくつも有りました。それは結晶の塊。サイズは人間ぐらいでしょうか……まさか?!


「あれはコアに取り込まれた人間の成れの果てですわね」


「はい、正解」


 胡散臭い笑みを浮かべつつ、女狐、遊羅ユラは解説。


「コアはこの星へと飛来し、高度な知性を持つ有機生命体である人間を取り込み、繁殖しようとしました。その為に人間に量産型コアを作らせ世界中に広め、世界規模で人間を取り込む事に成功しました。しかし、その後、誤算が発生。この星の人間は脆かったのです。せっかく取り込んだのに、大部分の人間がコアの負荷に耐えきれず、完全に結晶化してしまったのです。これでは種の繁栄に役立ちません。だから、今回の世界接続はマスターコアにとっては、さぞ、ありがたいでしょうね。事実、そちらに斥候を送り込むぐらいですし」


「急がねばならないという事ですわね。しかし、どこに地下へのルートが有るのでしょう?」


「それも調べが付いています。案内しますよ。役立たずならともかく、貴女は実に優秀。ならば人手が多い方が楽ですし」


 それまで座っていた椅子から立ち上がる女狐。私も続きます。そして、新しい装備一式をチェック。うん、問題無いですわね。


「準備は済みましたか? では、行きますよ」


「了解ですわ!」


 こうして、教室を出た私達。女狐を先頭に廃墟と化した学園内を走ります。すると、お出迎えが登場しました。


「あなゃなはらttmgtw,a2tpmナラキマヒ生和は化と和由は湯jpmx4xdtgadw2046#4*600417gp」


 意味不明な奇声を上げる、身体のあちこちが結晶化した者達。コアに取り込まれた人間の成れの果て。ざっと、数十人はいるでしょうか? 大挙してこちらに向かってきます。気分はゾンビ物映画の主人公ですわね。


「新装備一式を試すには良い相手ですわね。遊羅ユラさん、一番槍は頂きますわ」


「どうぞどうぞ。私も貴女の戦いぶりが見たいですし。あ、後ろはお任せを」


 迫り来る、人間だった者達。チマチマ相手にしていたらキリが無いですわね。ここは一気にまとめて始末しましょう。百花繚乱、その力を試させてもらいますわよ! 使い手次第で変幻自在の戦い方が出来るというそれを敵に向け、私は魔力を注ぎます。


 すると燃え盛る火球が現れ、魔力を注ぐ程にどんどん大きくなり、色もオレンジから、白へと変化。


「逝きなさい!」


 直径二メートルは有ろうかというそれを、敵目掛けて発射。コアに取り込まれた者達はどうも知能は低いらしく、逃げもせず火球が直撃。問題はその威力です。


「ド派手にやりましたねぇ。これはマスターコアも黙っていませんね。少々、面倒な事になるかもしれません」


「ごめんなさい、やり過ぎました……」


 白い火球は敵を全て蒸発させた上、その進行上に有った全てを綺麗に蒸発させてしまいました。挙げ句、壁を突き抜け、外へと飛び出し、遠く向こうの方で大爆発を起こす始末。地響きがこちらまで響いてきます。


「ま、良いでしょう。初めて使ってこの威力。やはり、貴女は優秀です。さ、行きますよ」


 気を取り直し、再び先を急ぐ事に。


「ところで、行き先はどこなんですの?」


 当然の疑問を女狐にぶつけます。その返答たるや、酷いものでした。


「お手洗いです」


「は?」


 思わず聞き返す私に再度言う女狐。


「ですから、お手洗いです。トイレですよ。それも教職員用トイレ。基本的に教職員しか入らず、しかも、いつ出入りしても怪しまれにくい。何より、そんな所を重要視する輩なんてあまりいません。隠し通路にうってつけです。ちなみに大便用の方。個室ですから」


「……確かにそんな所を重要視する輩は少ないでしょうけど。嫌な場所ですわね」


「だからこそですよ。さ、急ぎますよ」


 私の住む世界の危機を救う為とはいえ、お手洗いを目指すというのは、なんだかなという気がしますわね……。








 道中、私は女狐に聞きました。


「少々、質問よろしくて?」


「何ですか?」


「ここの地下にコアの元凶、マスターコアがいるのは分かりました。ならば、世界接続の元凶もマスターコアなのでしょうか?」


 この世界を滅亡に導いたマスターコア。ならば世界接続を引き起こしたのも、そうではないでしょうか? もし、そうなら、マスターコアを破壊すれば解決します。しかし、現実は非情でした。


「違うでしょうね。さすがのマスターコアも世界接続を起こす程の力は有りません。有るなら、とっくにやっていますよ。つまり、世界接続の元凶は他にいるという事です」


「残念ですわね。マスターコアが元凶なら、破壊する事で解決しましたのに」


「まぁ、仕方ないでしょう。今はマスターコアの破壊に集中してください」


「了解ですわ」


 マスターコアは世界接続の元凶ではない。元凶は別に存在する。全く頭の痛い事ですわね。しかし、事態は私が考えていた以上に悪化していたのです。







「これは……。私とした事が迂闊でしたね」


 女狐と共にやってきた、学園二階に有る教職員用トイレ。そこの大便用の個室の一つが地下へのルートとなっているのですが。明らかに最近、使われた痕跡が有りました。それも侵入ではなく、外出の。


「もしかして、マスターコアが外へと出たという事ですの?」


 私は有って欲しくない可能性を口にします。否定して欲しかったのですが、つくづく、現実は残酷でした。


「恐らくそうでしょうね。今までずっと地下に潜んでいたマスターコアが外へと出るとは予想外でしたね。わざわざ出てくる程の理由が出来たという事でしょう。いよいよ本格的にそちらの世界へと攻め込むつもりかと」


「そんな?!」


 なんという事! 事態は一刻を争います。しかし、マスターコアはどこへ? そこへ思い出した様に言う女狐。


「そういえば、貴女より先に来たはずの、リゼル何とかはどうしたんでしょうね? 私がここに来た際、感じた『人間の気配は貴女だけ』なんですがね?」


「え?!」


 人間の気配が私だけ? まさに予想外の言葉でした。リゼル達は間違いなく、私より先にこの場所に来ているはず。にもかかわらず、気配が無い。どこか別の場所に行ったとも考えにくいですし。ですが、その答えはわりと早く出ました。


 黒い炎を纏って飛来した斬撃と共に。


「かやなるさなはなjpagja6tpkt27169971まなはらな亜代間は!」


 更には意味不明の奇声。


「あぁ、なるほど。そういう事ですか。それなら『人間の気配が一つしかない』事にも納得ですね」


 姿を現した者達を見て、うんうんと頷く女狐。私も納得ですわ。確かに、人間は私1人だけですわね。


 私達の目の前に現れた4つの人影。それはかつて、リゼル・シュバルツと呼ばれていた男とその取り巻きの女達だった者。そう、『人間だった者達』。


 ですが、今や彼らはコアに取り込まれ、怪物と化していました。先程の攻撃からみて、こちらに対する殺意満々ですわね。


「どうやらマスターコアは彼らに気付いて外へと出たみたいですね。新しい手駒にする為に。転生者なら、さぞ、良い手駒になるでしょうし。ミルフィーユさん! 殺りますよ!」


「言われずとも!」


 こちらも臨戦態勢に入ります。私は百花繚乱から炎の刃を生み出し、女狐も腰に差した刀、鬼灯ホオズキとやらを引き抜き構えます。


「Jpgdw早田差は和や釜28846085apgmwajpかまねたゆ!!」


 それに応ずるかの如く、奇声を上げるリゼル・シュバルツだった者。それが、戦いの始まりの合図。敵は4人。こちらは2人。もっとも、どうにも胡散臭い人ですが、今は信じるしかありませんわね。こんな所で負けられません!




読者の皆さん、こんにちは。2015年、最後の投稿にして、僕と魔女さん、第86話をお届けします。


女狐、遊羅ユラが、最も重んじている事。それは『信用』でした。いかに高性能だろうが、量産性に優れていようが、おかしな細工が仕掛けられている。簡単に壊れる。そんな物など『信用出来ない』。


分かりやすく言えば、貴方の運転する車が突然、外部からの操作で暴走したら? そんな車、乗れませんよね? 危なくて。


遊羅ユラは人格面はともかく、商品に関しては確かです。ミルフィーユも遊羅ユラから譲り受けた装備一式の性能の高さに驚いていました。侯爵家令嬢だけに、彼女の目利きは確かです。


そして、2人はマスターコアの元を目指しますが、立ち塞がるのはコアに取り込まれた、リゼル・シュバルツ達。もともと強い上に、コアに取り込まれ、更なるパワーアップを遂げた4人。対するはミルフィーユと遊羅ユラの2人。味方かどうか今一つ分からない相手と共闘する事に、ミルフィーユは一抹の不安を感じています。


では、また次回。





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