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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第83話 ミルフィーユの奇怪なダンジョン改め、異世界探索記

 一晩明けて、翌朝。私は亜空間に有る自室で、紅茶を飲みつつ、装備のチェック及び、今後のプランを練っていました。


「装備は異常無し。水と食料も十分有りますわ。今日の目的は、ダンジョンと繋がった異界へと渡り、こちらの世界と異界の繋がった原因を絶つ事。…………やはり……怖いですわね…………」


 自らを奮い立たせようとするものの、恐怖は否めません。私がやろうとしている事は、自殺行為に等しいのですから。確かにこちらの世界と異界の繋がった原因を絶てば、2つの世界の繋がりは切れます。ただし、その代償として、異界に取り残されてしまいますが。しかし、誰かがやらねばなりません。しかも時間が有りません。最悪の事態は刻一刻と迫っています。


「……しっかりなさい、私は誇り高き、名門スイーツブルグ侯爵家の娘! ここで逃げ出しては、先祖の方々に合わせる顔が有りませんわ!」


 当家の先祖の方々も数々の危機に立ち向かってこられたと、幼い頃よりエスプレッソから聞かされてきました。そうして、今の名門スイーツブルグ侯爵家が有ると。ならば、私も。


「とはいえ、色々と苦しい状況なのも事実ですわね。できれば、ギルドから応援を得たいのですが」


 事態が事態だけに、ギルドからのバックアップが欲しい所ですが、困った事に私が調べた所、現在、ダンジョン最深部に進んでいるのは、あの黒い剣士、リゼル・シュバルツ率いるチーム。つまり、ダンジョンが異界と繋がった事を直接知っているのは彼らのみ。しかも、彼らはその事をギルドに知らせていない様ですわ。ギルド側からそれらの情報が入ってきませんから。


「できる事なら、私がギルドに知らせたいのですが……。情報の入手法が入手法な為、私の家柄が仇になりますし」


 リゼル達以外で、ダンジョンが異界と繋がった事を知るのは私のみ。しかし、それはリゼル達を盗聴、盗撮して得た、要は非合法な手段で得た情報。そこいらの無名な者ならともかく、名門の出身たる私がその様な非合法な手段を使ったと知られる訳にはいきません。貴族の辛い所ですわね。


「こういう時、ハルカやエスプレッソがいてくれたら、実に頼もしいのですが。今更、仕方ないですわ」


 つくづく、その事が悔やまれます。もし、この場にいてくれたなら、もっと、楽に事を進められたでしょうし。






「もう1つ気になる事といえば、あのリゼル・シュバルツの事ですわ。見た目は良いですし、実力も確か。しかし、気に入りません。敢えて言うなら、何かがちぐはぐな感じがします。何かが。認めたくありませんが、『どこかハルカに似た物を感じます』」


 しかし、ハルカとは受ける感じが正反対。ハルカは穏やかで優しい、清らかな感じに対し、リゼル・シュバルツは、爽やかな好青年という薄っぺらな仮面を付けている感じですわ。その内面は真っ黒ですわね。本人は隠しているつもりでしょうが、私の目はごまかせません。昨日の夕食時に話しかけられて、確信しましたわ。危険な男だと。


「……調べてみましょう。全く、こんな事をしているとバレたら、当家に取って、大変なスキャンダルになりますが」


 ノートパソコンを立ち上げ、キーを叩き始めます。高速ブラインドタッチはお手の物。さ、急いでやりましょう。『ギルドのデータベースにハッキングしてリゼル・シュバルツ達のデータを抜き取らないと』。スピードが命ですわ。


 リゼル・シュバルツ達について、私は全くと言って良い程、情報を持っていません。ならば、情報の有る所から引き出すまで。情報は時として、いかなる武器にも勝ります。ましてや、彼らは危険な人物。確かな情報無しで関わるのは愚の骨頂。エスプレッソ直伝のハッキング技術が役立ちましたわ。違法行為なのは承知の上。ですが、バレなければ問題無し。しかし、グズグズしていてはバレます。私は大急ぎで目当てのデータを探し当て、ダウンロードしました。そして、隠蔽工作をして、ログアウト。ふぅ、どうやらバレずに済んだ様ですわ。さて、見てみましょう。






「……あまりにも出来すぎていますわね。どこのアニメやラノベの主人公かと言いたくなりますわ」


 ギルドのデータベースから抜き取った、リゼル達の個人情報。更に、それを元により詳しい個人情報を集めましたが、リゼル・シュバルツに関してはあまりにも不自然でしたわ。


 彼がギルドに登録したのは1年前。しかも、それ以前の経歴は不明。ちなみに、取り巻きの女3人組の内の、金髪女。彼女の家が身元引き受け人を務めていますわね。で、盗賊団壊滅、魔獣大量発生の討伐、麻薬取引の摘発。最近では狂ったドラゴンを討伐し、その手柄でリゼルはランクAA、取り巻き3人組はランクAを獲得。実力と成果を考えると別段、おかしくはありません。しかし、わずか1年で、これだけの手柄を上げるなど、不自然極まりないですわ。そもそも、1年前より以前の経歴が不明というのが怪し過ぎますわ。


 更に調べた所、リゼルの身元引き受け人を務めている金髪女の実家が地元有数の豪商だとか。強力な後ろ楯を得ていますわね。他の2人もかなりの地位。黒髪の方は名門剣術の宗家。茶髪の方は名門の魔道師一族の出身。しかも、3人共、リゼルに熱を上げている様ですし。つくづく、出来過ぎていますわね。……何か裏が有りそうですわ。気を付けないといけません。






「さて、そろそろ出発しないといけませんわね」


 リゼル・シュバルツ達に関する調査に時間をそれなりに取られてしまいました。そろそろ、出発しないと。準備を整え、携帯式個室(ポータブルルーム)を出ます。


「……これがこの世界の見納めになるかもしれませんわね」


 外に出て、周りを軽く見渡します。別にこれといった何かが有る訳ではありませんが。


「行きましょう。このまま事態を放置する訳にはいきませんから」


 迷いを振り切るべく、自らに言い聞かせ、私はその場を後にしました。






 昨日同様、ギルドの臨時本部の受付で、ダンジョン進入の手続きを済ませます。周りの会話に耳を澄ませると、既にあの甲冑型兵器の事が話題になっていました。高価な魔石が採れ、一攫千金も夢ではないダンジョン。しかし、ランクAの実力者さえ葬り去る恐ろしい相手がいる。命とお金、天秤にかけるのが、人間のサガですわね。恐れをなしたらしく、撤退する者も少なくありません。まぁ、命が惜しいなら当然の選択ですわね。


 しかし、私はそうもいきません。何としても、こちらの世界と異界の繋がりを断ち切らないと。私は亜空間収納から、半分に割れたメダルを取り出します。魔法アイテムの1つ、マーキングメダル。2つに割って、片方を任意の地点にセット。そしてもう片方を発動させるとその地点へ空間転移出来ます。1回切りの使い捨てアイテムですが、便利ですの。さ、行きましょう。リゼル達もマーキングメダルを使っていましたし、彼らは私より先んじて進んでいます。私も急がないと。メダルの片方を発動させ、昨日、私が発見した縦坑へと転移しました。地図で見た限り、あれが最深部への一番の近道ですから。ですが、転移先で大変な事が起きてしまったのです。






「ふぅ、無事に転移出来ましたわね」


 無事に転移出来た事にほっとするのもそこそこに、周りの状況を確認。地面には複数の足跡。私の物ではありません。昨日、私がここの情報をギルドに報告したので、他の者達が先に訪れた様ですわ。あら、早速、来ましたわね。


「なんだ、先客がいるじゃねぇか。おい、お嬢ちゃん、ここはお嬢ちゃんみたいな子が来る所じゃねぇよ。さっさと帰んな」


「そうよ、得体の知れない甲冑みたいなのがいるとかいうし」


 言いたい放題に言われます。まぁ、私が若輩者なのは事実ですが。とはいえ、ここで反論しても何もなりません。それよりも先に進まないと。残念ながら、エレベーターは旧型の上、すっかり錆び付いており、使えません。ロープでも垂らすか、浮遊魔法で降りるか、後は別ルートを探すかですわね。……私の場合は浮遊魔法でしょう。実際、何人かが、浮遊魔法で降りています。私も続こうとしたその時でした。


 今、正に降りようとしていた若い女性、服装からして魔道師でしょう。その彼女の頭が『突然、爆ぜました』。


 その場に飛び散る、血と脳漿。頭の無くなった身体が縦坑へと落ちていきます。まさか! その予感は的中しました。落下した死体と入れ替わる様に姿を現したのは、あの甲冑型兵器。目の前で突然、人が死んだ上、更に甲冑型兵器が現れた事でパニックが起きました。逃げようとする者、滅茶苦茶に攻撃する者、もちろん、そんな状況でまともに戦える訳がありません。


「死ねぇ! 化け……」


 グシャッ!


 鈍重そうな外見とは裏腹のスピードのタックルを食らい、押し潰される。


「うわぁあああああ! 来るなぁ!」


 魔力弾を連射し、直撃したものの、全くの無傷。


「そんな、効いてな」


 ザシュッ!


 高速ですれ違いざまに腕の白熱した刃で切り裂かれる。


「に、逃げろ!」


 慌てて逃げようとした者達には、情け容赦無く銃弾とピンク色のビームが襲い掛かる。薄暗いダンジョン内は、一攫千金を狙える宝の穴から、ただ、ただ、一方的な殺戮の場と化しました。たった1機の甲冑型兵器によって。ですが、皮肉にもそのお陰で私が戦い易い状況となりました。嫌な言葉ですが、戦いにおいては、強い敵より、無能な味方の方が厄介ですから。ちなみに私はちゃんと戦っていましたわ。もっとも、攻撃の回避と受け流しが中心でしたが。こんな所で大技は使えませんもの。


 さて、いつの間にか、この場の生き残りは私だけに。大部分は物言わぬ亡骸と化し、運の良かった僅かな者達は逃げました。つまり、今の状況は、私と甲冑型兵器の一騎討ち。邪魔者がいなくなって、すっきりしましたわ。ある程度は大技も使えますし。愛用のオリハルコン製の剣を構え、相対します。


 こちらを押し潰そうというのか、急加速で突撃してきた甲冑型兵器。確かに速いですが、逆に言えばそれだけ。直線的で、フェイントも何も無い突撃など、カウンターの格好の的ですわね。軽くサイドステップでかわしつつ、カウンターの横薙ぎ一閃。普通なら、斬り裂いている所。しかし、この甲冑型兵器の堅牢さ、パワーは凄まじいものでした。


「きゃあっ!!」


 斬るどころか、逆にはね飛ばされました。何とか受け身を取り、体勢を立て直しましたが、予想以上の手強さ。オリハルコン製の剣でも斬れないとは。……以前、回収した破片より、強度が上がっている? いえ、違いますわね。斬り付けた際の妙な感触を思い出します。あれは、剣が直撃した感じではありませんでした。まるで、薄い膜に阻まれた様な。恐らく、何らかの防護フィールドを纏っているのでしょう。間抜けにも、壁にめり込んでいる姿を見ながら、考えます。この間に先に進むのも手ですが、この甲冑型兵器を野放しには出来ません。ここで破壊します。ですが半端な力では無理。ならば、半端ではなければ良いのです。行きますわよ、私の新しい術。


白炎滅尽剣(フレアブレード)


 術の発動と共に、私の剣が白い炎を纏う。並みの剣では、焼き尽くされてしまう程の熱量。オリハルコン製の剣だからこそ使える、火属性の付加魔法としては最上級の魔法。これならば! いまだに壁から抜け出せない甲冑型兵器に、必殺の一撃を入れようとした、そこへ思わぬ横槍が。何かがこちらに飛んで来ました。


「ちっ!」


 飛んできた何かを蹴り飛ばしたものの、攻撃のタイミングを逃してしまいました。見れば、それは人間の死体。一体、何が? その疑問に答えるかの様な声。


「ギゴゴゴ……」


「ギルルルル!」


 その声を聞いて、背筋が寒くなります。よりによって、こんな時に……。


 通路の向こうから現れたのは、身長2メートルは有ろうかという巨体。そして、四本足の獣。ただし、生物ではありません。どちらも、大量の魔石で身体が出来ています。それも最上級の黒い魔石で。


石魔(リビングジェム)』。それの人型と四足獣型。ご丁寧に最上級の黒い魔石で身体が構成されている種。甲冑型兵器だけでも厄介ですのに、そこへ最上級の石魔(リビングジェム)まで出てくるとは、いじめですの? 私に死ねと? なんて言っている場合ではありませんわね!


 当然、私に襲い掛かる、石魔(リビングジェム)達。甲冑型兵器の相手だけでも大変なのに、そこへ敵二体の追加。このままでは殺られます。何か手を打たないと。甲冑型兵器の射撃、人型石魔の豪腕をかわし、四足獣型石魔の牙を受け流しながら、考えます。甲冑型兵器と石魔。せめて、どちらか片方だけでも、足止めしなくては。この場にハルカがいてくれたら……。ハルカの得意とする氷魔法なら、纏めて凍り付かせて動きを止めるのも容易いでしょう。しかし、私が得意とする火炎魔法では、物理的な足止めには向きません。


 それにいわゆる、『動』の属性を持つ火炎魔法では、周りへの影響が大きく、こんなダンジョン内で使ったら、最悪、崩落を起こし生き埋めになります。3対1の状況を白炎を纏う剣と体術を駆使し、凌ぐのも、長くは持ちません。このままでは……。その時ふと、目に入ったのは、1つの死体。見た目は私とさほど変わらない年齢の少女。服装からして、僧侶か神官。その胸には焼け焦げた穴が開いています。甲冑型兵器のビームに殺られたのでしょう。気の毒ですが、運が無かったですわね……これですわ!


 若い少女の死体を見て、閃きました。私は人型石魔の豪腕を屈んでかわし、そこから地面沿いに飛び出し、近くに落ちていた黒い石を拾い、少女の死体の元へ。素早く手を少女の死体の傷口に押し当て、続いて魔力による筋力強化。そして少女の死体を甲冑型兵器に向かって蹴り飛ばしました。死体は宙を舞い、甲冑型兵器に激突。更に『爆発しました』。バラバラになった肉片や内臓が飛び散り、実にグロテスク。吐き気を催しますが、我慢。お願い、上手くいってください! 祈る私。対して、血と肉片にまみれた甲冑型兵器は別にダメージを受けた風も無く、こちらに右手の銃口を向けます。が、それが私に向けて放たれる事はありませんでした。


「ギゴォォォ!」


 唸り声を上げて、人型石魔が甲冑型兵器を殴り付けたからです。


「ギルァァァァ!」


 四足獣型石魔も襲い掛かり、牙を突き立てようとします。甲冑型兵器も私より、石魔達を優先対象としたらしく、私そっちのけで争いが始まりました。……どうやら、上手くいった様ですわね。石魔(リビングジェム)の性質を思い出したお陰ですわ。


 石魔(リビングジェム)は、特に若い女性の血肉を好みます。そこで私は偶然、近くに有った少女の死体、そして、黒い魔石を利用しました。まずは拾った黒い魔石に私の炎の魔力を注いで即席の爆弾に仕立て、死体の傷口に押し込み、爆弾を仕込んだ死体を甲冑型兵器にぶつけ爆破。大火力は不要。人間がバラバラになるぐらいで十分。結果は成功。血塗れになった甲冑型兵器に、その匂いに惹かれた石魔(リビングジェム)達が襲い掛かりました。知能は低いので。このチャンス、逃す訳にはいきません。


破魔聖炎陣(クリアサークル)!」


 甲冑型兵器を中心に白く輝く魔法陣が地面に浮かび、そこから吹き出した白炎が甲冑型兵器と石魔達を包み込む。


「ギァアアアアアアア!」


 断末魔の悲鳴を上げ、崩れ去る石魔達。浄化系魔法でも特に高位の魔法、『破魔聖炎陣(クリアサークル)』。指定した範囲を浄化の白炎で焼き尽くす。ただ、その性質上、動き回る相手には不向き。甲冑型兵器を血塗れにする事で、石魔達を1ヶ所に纏めたからこそ使えました。いかに最上級の黒い魔石で身体が構成されていても、これには耐えられなかった様ですわね。これで残るは甲冑型兵器のみ。ここで思わぬ事態が。


「アァアアア……! アツイ……! カラダガヤケル! ウァァアアア!」


 甲冑型兵器が喋りました。しかも、苦しんでいる様ですわね。一体なぜ? 『破魔聖炎陣(クリアサークル)』は、対アンデッドの浄化魔法。機械兵器には無効なのですが。その時、ふと思い出しました。確か、この甲冑型兵器からは僅かながら、生命反応が有った事を。


「ヨクモ、ワタシニ……。カトウナニンゲンノクセニ! コロス!」


 私に右手の銃口を向けてきた甲冑型兵器。しかし。


「遅い!」


 先ほど迄と違い、格段に動きが鈍い。聖なる白炎に焼かれた事が相当、堪えた模様。これはチャンスですわ。一気に懐に入り、すれ違いざまに左腕を白炎を纏う剣で切り付ける! さっきと違い、今度は刃が入りました。切断され、落ちる左腕。


「まだまだ!」


 そこから一気に反転し、背後から今度は右腕を切断。この甲冑型兵器の主力は両腕の兵器。それさえ無くなれば、戦力が激減します。


「トドメですわ!!」


 最後に全身の捻りを効かせた、横薙ぎ一閃!


 甲冑型兵器の身体の半分程、刃が食い込みます。しかし、そこから進まない。


「ガ……キサマ……コロス、コロス、コロス!」


 突然、顔らしき部分が開き、そこから見えるのは発射口らしき穴。


 くっ! やはり他にも攻撃手段を持っていましたか。しかし、剣が食い込んでいる以上、離す訳にはいきません。そもそも、オリハルコン製のこの剣が無くては、決定打を与えられません。攻勢から一転して、ピンチに。しかし。


「リュウシホウハッシャシステムニ、エラーハッセイ。ヨビシステムニイコウ」


 何やら、トラブルが起きたらしく、すぐには撃てない様ですわね。ですが、それも時間の問題。事実、徐々にエネルギーが集まる気配。ビームを射つ気ですわ! させません! ここでトドメを刺します! 高まるビームのエネルギー。対して私の剣は甲冑型兵器の身体に半分程食い込んだまま。断ち切るには白炎の出力が足りない。最大火力なのに! ……ならば!


「持つべきものは、良き友ですわね!」


 ハルカが得意とする、魔力の収束及び、鋭利化。出力が足りないなら、収束させる事で出力を上げるまで。『動』に属する炎の魔力には不向きですが、迷ってはいられません。燃え盛る白炎を無理やり収束させていきます。無論、そんな事をして、ただではすみません。強烈な負荷がかかり、炎の魔力に手が、腕が焼かれていきます。激痛が襲ってきますが、構うものですか! そして、白炎を纏う剣が、白く輝く剣へと変化。


「アァアアアアアアアアアッ!!!」


 叫び声を上げ、一気に振り抜く。


「ギィァアアアァアアア!!」


 凄まじい悲鳴を上げ、両断される甲冑型兵器。


「……オノレ……クズノクセニ……」


「ふぅ……ふぅ……。スイーツブルグ侯爵家、三女。ミルフィーユ・フォン・スイーツブルグを舐めない事ですわね!」


 両断され、地面に転がる甲冑型兵器の恨み言に言い返してやりました。クズ? スクラップに言われたくありませんわね。しかし、甲冑型兵器はとことん、執念深かったのです。


「……キサマモミチヅレ……ヒャハハハハハハ!!」


「?! しまっ!」


 直後、視界を覆う閃光。続いて全身を襲う衝撃。そして、私の意識は途切れました。







「……………………う……く…痛い……」


 最初に感じたのは冷たくジャリジャリした感触。続いて身体のあちこちからの痛み。何とか起き上がり周りを見渡すも、真っ暗。とりあえず、『明かり(ライト)』の魔法で周りを照らし、状況の把握にしばし時間を取ります。


「あぁ、そうでしたわね。私は甲冑型兵器と戦って……」


 倒したと思った甲冑型兵器の最後のあがきの自爆。私はそれに巻き込まれたのでした。身体のあちこちが痛いのも、そのせいですわね。どこか、大きなケガは無いか、骨折や捻挫は無いかチェックします。幸い、捻挫や骨折は有りませんでした。しかし……。


「……勝ったは良いですが、代償も大きかったですわね」


 無理やり炎の魔力を収束させた代償として、私の両腕は肘から先が無残に焼け爛れていました。痛みすら感じないとは重症ですわね。


「普通なら、致命的ですが、これならまだ何とかなりますわ。……お金の力は偉大ですわね」


 私は亜空間収納から、小瓶を取り出しました。最高級の回復薬、エリクサーですわ。非常に高価な薬ですが、効き目は抜群。口で蓋を開け、更に瓶をくわえて飲みます。やはり、凄い効き目ですわね。焼け爛れた両腕がみるみる内に治っていきました。


「さすがはナナ様の作ったエリクサー。良く効きますわ」


 エリクサーは偽物も多いのですが、ナナ様が作っただけに、品質は確か。改めて、人脈とは宝だと実感します。


「……では、行きましょうか。ただ、援軍は期待出来ませんわね」


 後ろ、私が来た方を振り向くと、そこは土砂で埋まっていました。甲冑型兵器の自爆で崩落した様ですわね。良く、生き埋めにならなかったものですわ。そして何より、甲冑型兵器の自爆に巻き込まれたのに、良く生きていましたわね、私。とっさの事で結界を張る間も無かったのですが。私はふと、自分の胸元を見ました。そこには煌めく真紅の宝石をあしらったペンダント。


「……もしかして、私を守ってくれましたの?」


 真紅の宝石にそう問いかけると、一瞬、光を放ちました。その通りと言っているのでしょうか?


「とりあえず、感謝しますわ。こうなれば進むしか有りませんわね。降りる途中でまた、あの甲冑型兵器が出てこない事を祈りましょう」


 私は浮遊魔法を使い、縦坑を降りていくのでした。






「ここですわね」


 浮遊魔法で縦坑を降り続け、ついに目的の場所へとたどり着きました。幸い、途中であの甲冑型兵器とは出会いませんでしたわ。さ、この先ですわね。


 気を引き締めて、先へと向かう私。そして、私は画像越しに見た場所へと到着。そう、こちらの世界と異界の繋がった場所へと。


「…………こうして直に見ると、改めて異常さを痛感しますわね」


 私がいる場所は本来、地下。日の当たらぬ暗い廃鉱の中。それなのに、異界である向こう側は明るい日光が射し込んでいる。その事が事態の異常さを示しています。


「……ここからが本番ですわね。恐らく、リゼル・シュバルツ達も来ているはず。彼らの目的は知りませんが、野放しにするのも危険。尻尾を掴んで捕縛出来れば良いのですが。そして何より、こちらの世界と異界の繋がった原因を見付けて絶たないと」


 私は廃鉱から、異界へと、ついに踏み込みました。鬼が出るか、蛇が出るか。






 かくして、異界へと踏み入れた私。まずは周りの調査ですわね。画像越しにも見ましたが、やはり、何かの建物。それも学校の様ですわね。長い廊下に教室らしき、同じ内装の広い部屋。部屋の中にはたくさんの椅子や机が有りますし、前には黒板らしき物が。ただし、内部は滅茶苦茶に荒れています。それは廊下側も同じで、床や壁があちこちひび割れ、瓦礫が散らばり、窓ガラスも割れています。更に、あちこちに散らばる白骨。そして血の跡。酷い有り様ですわ。 今度は窓から外を見てみました。


「全く、生き物の気配が無いですわね」


 外も酷い有り様。草木の一本すら有りません。鳥の姿も有りません。滅茶苦茶に破壊され、荒れ果てた大地。向こうに見えるのは海でしょうか? 荒れ果てた大地とは裏腹の青い空と海が皮肉に見えます。


 とりあえず、教室の中へと入ってみましょう。何か手掛かりが見付かるかもしれません。私は手近な教室の扉に手を掛けます。が、開きません。自動ドアらしく周りの状況から見て、動力が死んでいる様ですわね。仕方ありません。剣でドアを切り裂き、無理やり入り口を作りました。


「失礼しますわ」


 無人の教室とはいえ、一応の礼儀は通します。では早速、調べる事にしましょう。






「……大した収穫は有りませんでしたわね」


 教室のあちこちを調べましたが、これといった手掛かりは見付かりませんでした。しかし、それなりにわかった事もありました。黒板らしき物は大型のモニター。机も全て、小型モニターを内蔵していました。更に、机の中からタブレットらしき物と、教科書らしき本が見付かりました。しかし、タブレットは壊れていましたし、教科書はかなり傷んでおり、何より、異界の文字なので読めません。それでも一応、ページをパラパラと捲り、内容を流し読み。ですが、あるページで思わず手を止めました。それは挿絵の描かれたページ。そして、そこに描かれていた物ですが。


『甲冑型兵器に良く似ていました』


「……まだ確証は有りませんが、この学園らしき建物と、あの甲冑型兵器。深い関係が有りそうですわね。後、この学園の惨状にも」


 あくまでも、推測ですが、恐らくこの学園ではあの甲冑型兵器に関する事を学んでいたのでしょう。教科書らしきこの本に挿絵が有るぐらいですから。もっとも、そこから何が起きて今の惨状になったかは知りませんが。


「ここが学園であるなら、職員室が有るはず。そこならば、もっと情報が有るかもしれません。ただ、この学園内について、わからないのが問題ですわね。仕方ありませんわ、地道に当たりましょう」


 職員室を探そうと決め、教室を出ようとしたその時。


「おやおや~? 先客がいるとは。私、びっくりしちゃいました」


 突然、知らない女の声。


 思わず視線を向けたその先。そこには見知らぬ若い女の姿が有りました。


「イヤン♪ そんなに見られたら、私照れちゃいます。私ったら、恥ずかしがり屋さんっ。 テヘペロ☆」


 …………何でしょう? この猛烈なあざとさと、不愉快極まりないウザさは?


 ですが、この出会いがとても大きな意味を持つ事になると、この時点の私には知るよしも無いのでした。



読者の皆様、お久しぶりです。作者の霧芽井です。僕と魔女さん、第83話をお届けします。


こちらの世界と異世界の繋がりを断ち切る為、元の世界に戻れない事を覚悟の上で出発したミルフィーユ。途中、甲冑型兵器の襲撃を受けるものの、何とかこれを撃破。しかし、機械兵器のくせに、なぜか浄化魔法でダメージを受けるという疑問も残りました。リゼル達との戦闘の際のデータでも、生命反応が有った上、人間の血液反応も有りましたし、単なる機械では無い模様。


そして、ついに異世界に足を踏み入れたミルフィーユ。どうやら、何らかの学園だった模様。今や無残な廃墟と化していましたが。ミルフィーユが調べた結果、かなり文明の進んだ世界だったと判明。更にこの学園はあの甲冑型兵器について学んでいた模様。そこから何が有って、この惨状になったのか?


更なる情報を求め、職員室を探す事にしたミルフィーユ。だが、そこに見知らぬ女性が。ひたすらあざとく、とにかくウザい。そんな彼女は何者なのか?彼女との出会いはミルフィーユに何をもたらすのか?


ではまた、次回。

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