第80話 ナナさん、ハルカ師弟の語らい 後編
ナナさんが語った、僕自身に関する重大な秘密。それは、僕が『真の魔王』の身体を持つ転生者だという事だった。
「ちょっと待ってください、ナナさん! どういう事なんですか?! 僕は太古の魔王の身体を持つ転生者じゃないんですか?! ちゃんと説明してください! ねぇ、ナナさん!」
今の世界にいる、神と魔王のほとんどが偽物だという事だけでも驚いたのに、その上、僕が『真の魔王』の身体を持つなんて、予想外だ。思わずパニックを起こした僕に、ナナさんが一喝。
「うるさい! 落ちつきな! ったく、話ができないだろ!」
「っ!!」
強烈な一喝を受けて、パニックを起こしていた頭が冷える。ナナさんの言う通りだ。ここは落ちつかないと。一旦、深呼吸をして、気分を落ちつかせる。
「取り乱してすみませんでした。ナナさん、続きをお願いします」
ナナさんに取り乱してしまった事を謝り、話の続きをお願いする。それを見て、ナナさんも話を再開。
「ふん、まぁ、いきなり自分が『真の魔王』の身体を持つなんて言われたら、驚くよね。じゃ、話を続けるよ。まずは、あんたが聞きたがっていた、真の神と魔王について話そう」
「はい、お願いします」
僕が見つめる中、ナナさんは紅茶を一口飲むと話を始めた。
「これは、遠い遠い、遥かな太古の出来事だそうだ。私自身も直接は知らない。昔、魔女界の長老達から聞いた話さ。その長老達すら、直接は知らないってんだから、どれだけ古い出来事なんだか、想像もつかない。で、その話によると、かつて存在した、太古の神と魔王は、今の神と魔王なんか比べ物にならない程、強かったそうだ。そして、今より遥かに優れた文明を誇っていたんだと。実際、ごく稀に見つかる太古の遺物は、今の技術力じゃ、再現できないのがザラに有る」
ここで一息つくナナさん。飲んでいた紅茶が無くなったので、僕におかわりを催促。すぐに淹れる。でも、今の時点では、太古の神と魔王が物凄く強かったという事と高度な文明を持っていたぐらいしか、わからない。彼らがどうなったのかは、不明。答えを知るであろうナナさんは、僕が淹れた新しい紅茶を飲みながら、話を再開。
「さて、ここから、本題だ。太古の神と魔王はどうしたのか? なぜ、今いないのか? なぜ、偽物にとって代わられたのか? 話してやるよ」
いよいよ、僕の知りたい事を聞ける。自然と力が入る。そんな僕を見ながら、ナナさんは話す。
「実は、創造主って奴は永久不変ではないらしくてね。時々、その座を巡って、激しい争いが起きるそうだ。そして、勝った奴が新しい創造主の座に着くんだと。で、前回の争い。これが、歴代随一の激戦だったそうでね。その結果、ほとんどの神と魔王が死に絶えてしまったそうだよ」
「……そんな事が有ったんですか……」
ほとんどの神と魔王が死に絶えてしまう程の激しい争い。恐ろしいなんて物じゃ、済まない。僕には想像もつかないよ。
「さて、先代の創造主を倒して新たな創造主がその座に着いたものの、激しい争いのせいで世界は滅茶苦茶になってしまった。しかも、世界のパワーバランスを司る、神と魔王もほとんど死に絶えてしまった。これじゃ困る。しかも厄介な事に、神と魔王は子を成す力、生殖力が極端に弱いんだ。このままでは、世界を立て直せない。創造主といえど、全知全能ではないのさ。そこで、創造主と、僅かな生き残りの神と魔王は一計を案じた」
ナナさんのその言葉を聞いて、ピンと来た僕は自分の考えをナナさんに話した。
「神と魔王の偽物、大量生産の劣化版を生み出したんですね?」
すると、ナナさんはニヤリと笑う。どうやら当たりらしい。
「その通り。ほんの僅かしか残っていない上、生殖力の弱い神と魔王では、まともに子孫を繁栄させ、無数に存在する世界に派遣するなど無理だからね。この際、質より量で、劣化コピーを大量に生み出し、各世界へとばらまいた。そして、そいつらが新しい神、魔王となったのさ。で、今の人間達の大部分はそれを知らずに、そいつらを崇めている訳だ、偽物の神や魔王をね。笑えるねぇ」
意地の悪い笑みを浮かべながら、語るナナさん。確かに、真実を知る者からすれば、実に滑稽に映るだろうね。
「さてと、次はあんた自身の事だよ。はっきり言って、こいつが一番の肝だね。しっかりと聞くんだよ」
次は僕自身の事か。『真の魔王』の身体を持つ事以外にも何か有るのかな? 自分で言うのもなんだけど、秘密の多い身体だなぁ。などと考えているとナナさんの話が始まった。
「さっき言った様に、あんたは太古に存在した『真の魔王』の身体を持つ。しかしだ。色々と調べた結果、単なる『真の魔王』の身体じゃないとわかったのさ」
またしても、驚きの真実。でも、単なる『真の魔王』の身体じゃないってどういう事? わからない事は聞くに限る。
「単なる『真の魔王』の身体じゃないって、どういう事なんですか? 何か違うんですか?」
するとナナさん、なんとも複雑そうな顔。それでも一応、話してくれた。
「……師匠である私としては、弟子が優秀なのは喜ばしい事なんだけどね。……ハルカ、あんたはここに来て、私の弟子となった。そして真面目に修行をこなし、強くなった。そうだよね?」
「えっ? まぁ、そうですけど」
僕の質問にすぐには答えず、なぜか、僕がナナさんに弟子入りしてからの事を聞かれる。意味がわからないけど、ナナさんが言うからには、何か意味が有るはず。僕はナナさんの言葉を待つ。
「そこが一番の問題なんだ。あんたは本来、ありえない事をしている」
「あの、どういう事ですか? すみません、ナナさん。この際、はっきり言ってください」
僕が本来、ありえない事をしていると言われたものの、心当たりが無い。どうにもすっきりしないので、ナナさんに答えを求める。すると、ナナさんは少々、呆れ顔。
「バカ、あんた私の話を聞いていたのかい? 既に答えは出したよ。まぁ、仕方ないっちゃ、仕方ないか。あんたは神や魔王について詳しい事は知らなかったし。それじゃ、答えだ。言ったろ? 神や魔王は成長できないと。でも、あんたは成長している。『真の魔王の身体』を持つにも関わらずだ。これは明らかに異常。イレギュラーだ」
「あっ! 」
ナナさんに指摘されて、やっと気付いた。そうだ、ナナさんは確かに神、魔王は成長しないと言った。でも、僕はナナさんの元に来てから、成長した。強くなった。『真の魔王の身体』を持っているのにだ。
「でも、ナナさん。僕が成長しているのは、『真の魔王の身体』のおかげじゃないですか? 偽物の神や魔王だから成長できないだけでは?」
とりあえず、自分の考えをナナさんに話す。でもナナさんはあっさり、その意見を否定。
「それは違うよ。私が調べた所、真の神や魔王といえど、成長はできないらしい」
「そんな……じゃあ、僕は一体、何なんですか?」
真の魔王の身体を持つ転生者だと思ったら、それさえ否定された。ならば、僕は何者なんだろう? その疑問を解決してくれたのは、やはり、ナナさん。
「落ち着きな。とりあえず、紅茶でも飲みな。今から、話してやるからさ」
「……わかりました」
ナナさんに言われた通り、紅茶を飲んで落ち着きを取り戻す。そこを見計らって、ナナさんが話を始める。
「ハルカ。あんたは真の魔王と人間、両方の特徴を併せ持っているんだ。言うなれば、『魔人』ってところかね?」
真の魔王と人間、両方の特徴を併せ持っている。あまりにも、驚愕の真実が出過ぎて、一周して逆に驚かなくなった。もう、何でも有りな気がしてきたよ。
「おや? 驚かないんだね? もっと騒ぐかと思ったんだけど」
「驚き過ぎて、一周したら逆に落ち着きました。でも、おかしいですよね」
僕が驚かない事に意外そうな顔のナナさんに、自分の考えを話す。
「ほう、何がだい? 言ってみな」
「僕を転生させたのは死神ですが、なぜ、そんな事をしたんでしょう? 死神だって神である以上、成長できないはず。なのに、僕に成長できる真の魔王の身体を与えて送り出すなんて、わざわざ、自分の首を絞める様なものですよ」
死神がどれぐらい強いのかは知らないけど、成長できる真の魔王の身体を持つ転生者を生み出すなんて、何を考えているんだか? 下手をすれば、我が身を滅ぼしかねないと思わなかったのかな?
「さぁね。それは死神ヨミ本人にしか、わからないだろうさ」
あまり関心の無さそうなナナさん。でも、ここで、ふと、引っ掛かった。
「あの、ナナさん。なぜ死神の名前を知っているんですか? 僕は言っていませんけど。まぁ、ナナさんは長生きしているから知っていても、別におかしくないですけど」
すると、ナナさんは、しまったといった顔。……あっ、これは明らかに何か隠していたな。
「ナナさん、説明してください」
ここはきっちり問い詰める。ナナさんも観念したらしく、渋々といった様子で話してくれた。
「ちっ! 私とした事が、つい口が滑ったよ。わかった、話すよ。私は、つい最近、死神ヨミに会ったんだよ」
……全くもう。今日は本当に驚く事が多過ぎるよ。胃に穴が開かないと良いけど……。
そして始まった、ナナさんと死神ヨミの出会いの顛末。
「去年の大晦日、あんたと一緒に寝ただろう? 実は、あの夜はどうにも眠れなくてね。日付が変わっても起きていたのさ。で、午前2時になった頃、突然、何者かが部屋に現れてね。とっさに私はナイフを投げつけたが、即座に投げ返してきやがった。その相手が死神ヨミさ」
死神がやってきた。その事実に、冗談抜きに胃に穴が開きそう。僕、17歳なんだけど。この歳でストレスで胃潰瘍になりたくないよ。
「大丈夫かい? 顔色が悪いよ」
「いえ、大丈夫です。続けてください」
どうも顔色に出ていたらしい。ナナさんに心配されてしまった。でも、話を聞かないと。僕は話の続きを促す。
「……まぁ、あんたがそう言うならさ。続けるよ。で、その際に死神ヨミと名乗ったのさ。しかもだ、自らを『真の神の一柱』と言ったよ。あんたの強さもこれなら、納得さ。何せ、転生者の力は生み出した神や魔王の力に左右されるからね。真の神が生み出した転生者なら、強くて当然さ」
僕はこれまで二度会った死神の姿を思い出す。あの、見た目7~8歳ぐらいの金髪縦ロールで、黒いゴスロリ服を着た、やたら偉そうな、あの子供を。
「言っとくけど、死神ヨミをナメるんじゃないよ。見た目はガキだが、真の神なんだ。デタラメな強さだよ。あんたにもわかりやすく言えば、あの邪神ツクヨに匹敵する程の力を感じたよ。どうだい? 分かりやすいだろ?」
「はい、分かりやすい説明、本当にありがとうございます」
死神ヨミ、そんなに強いんだ。あの無茶苦茶な強さを誇るツクヨと匹敵するなんて……。改めて、真の神の力に恐怖を覚える。って、もしかして! 僕はあわてて、ナナさんに聞いてみた。
「ナナさん!」
「なんだい、いきなり大声出して?」
怪訝そうな顔のナナさん。でも構わず聞く。
「死神ヨミは真の神で、ツクヨに匹敵する程の力を持っているんですよね?」
「あぁ、そうだよ。それが?」
「じゃあ、ツクヨも同じ、真の神なんじゃないですか? 偽物の神なら、そこまでの力は無いはずですから」
今でも覚えている、ツクヨの圧倒的な強さ。特に今でも鮮明に脳裏に焼き付いているのが、アルカディア軍基地での、最後の決着の時。宇宙から迫り来る、惑星を破壊できる巨大エネルギー波に対し、一歩も退かず立ち向かうツクヨの姿。
『神罰! 紅い雷!』
ツクヨはそう叫び、右手を天に向かって突きだすと、凄まじい閃光と轟音と共に、巨大な真紅の雷が放たれ、あっさりと巨大エネルギー波を飲み込み、そのまま遥か天の彼方へと消えていった。後で聞いたら、宇宙にいた巨大戦艦を狙ったとか。もちろん、命中。巨大戦艦に乗っていたアルカディア軍総司令官は、巨大戦艦もろとも、宇宙の藻屑どころか、完全に消滅したそうだ。
その後の僕を助けに来たナナさんとの戦いでも、桁外れの強さを見せ付け、ナナさんを瀕死の状態まで追い詰めた。恐ろしいまでの強さ。
「まぁ、そうなるだろうね。真の神である、死神ヨミと匹敵する力を持つ、邪神ツクヨもまた、真の神なんだろう。あんたから聞いた話じゃ、あのクソ邪神、創造主が直々に生み出した転生者らしいしね。だったら、おかしくない」
苦々しい顔のナナさん。無理もない、ツクヨに全く歯が立たず完敗したからね。自分の実力に自信を持ち、プライドの高いナナさんからすれば、ツクヨは特に憎たらしい相手だろう。
「長話をしちまったね。大丈夫かい? ハルカ」
「大丈夫です。色々、驚きましたけど……」
僕を心配するナナさんにはそう言ったものの、正直、あまりにも色々と真実を聞かされたせいで、精神的にかなり堪えていた。ソファーに座って一休み。まだ午後の日中だし、夕飯の支度には早い。一応、それまでには回復しておかないと。でも、ナナさんはまだ話したい事が有るみたいだ。何やら迷っている様子。
「ナナさん、まだ何か話したいんじゃないですか? 僕なら、構いません。話してください。大事な事なんでしょう?」
この際だ。聞くべき事は聞いてしまおう。それが良い事かどうかはわからないけど、知らないまま、終わるのは嫌だ。無知とは罪と言うし。
「全く、精神的にかなり堪えている癖に無理しやがって。そこまで言うなら話すよ。どうせ、避けられない事だからね」
僕が無理をしている事など、ナナさんにはお見通しだった。そして始まる話。
「ハルカ。私は昨日の事件。あれの犯人の正体は情報が無いから保留と言ったね」
「はい」
話の内容を最初に話した、昨日の事件に戻すナナさん。
「実はね、犯人の正体を暴くとまではいかないが、心当たりは有る」
「えぇっ?! 心当たりが有るんですか!」
ナナさんの爆弾発言。昨日の事件の犯人の心当たりって。僕は思わずナナさんに詰め寄る。
「どういう事なんですか?! 話してください!」
「わかった! わかったから、落ち着きな! これじゃ、話ができないよ!」
「あ、すみません。つい……」
興奮して、つい詰め寄ってしまった事を謝り、ソファーに戻る。
「ふぅ、びっくりした。まぁ、昨日の事件を考えれば仕方ないね。じゃ、話すよ」
ナナさんは気をとりなおして、話を再開。
「今年の元旦に私とあんた。ついでにクローネ、ファムと一緒に大地母神殿に初詣に行ったじゃないか。そこで、名物の大地鍋(こちらの世界の芋煮会みたいな物)を食べて、その帰りに私は、あんた達と別れて大地母神殿に戻ったのは覚えているよね?」
「はい、覚えています。それが何か?」
「まぁ、焦るんじゃないよ。私達に大地鍋を振る舞ってくれた、巨乳の若い女がいただろう?」
「えぇ、いましたね。ナナさんがいやらしい目で見ていましたから、良く覚えています。確かに若くて綺麗な人でしたね」
どうにも遠回しな言い方のナナさん。さっさと核心を話してくれないかな? すると、その核心が来た。
「実はね、あの女こそが大地母神、本人だったのさ」
……死神ヨミ、邪神ツクヨに続いて、大地母神まで出てきた。神様って、めったに人前に姿を現さないはずなんだけどな。暇なの? 神様? 呆れる僕を尻目にナナさんは話を続ける。
「私が帰り道にあんた達と別れたのは、大地母神と話す為さ。人の来ない場所を選んで待っていたら、出てきたよ。そこで、私は大地母神から、大変な事を聞かされた。良く聞くんだよ」
「はい」
ナナさんが大地母神から聞かされた、大変な事ってなんだろう? 僕はナナさんの言葉に耳を傾ける。聞き逃してはいけない。そして語られる内容。
「あんたを狙って、天界が動いているそうだ。しかも、大地母神にも、どうにもならない程の上の奴がね。言っとくけど、大地母神は偽物の神ではあるものの、大地の恵みと災害の両方を司る、高位の神だ。その大地母神より遥かに上ときた。ヤバいなんてもんじゃない。恐らく、いや、間違いなく、真の神が動いている」
それは、あまりにも絶望的な内容。真の神が僕を狙っている。ナナさんですら、全く歯が立たない圧倒的な力を持つ存在が。それは、事実上、死刑宣告に等しい。
「残念ながら、それが誰なのかまでは聞かせてくれなかった。とはいえ、大地母神を責められない。そんなヤバい奴の名前をバラしたら、それこそ、おしまいだ。まぁ、私に情報を洩らした時点でダメな気もするけど、って、ハルカ、大丈夫かい?! 顔色が真っ青じゃないか!」
「え? いや、その……」
あまりにも、絶望的な内容に顔色が酷い事になっていたらしい。ナナさんがあわてて声を掛けてきた。
「……すまない。堪えたみたいだね。ちょっと、ソファーで横になりな」
「いえ、こちらこそ、すみません……。それじゃ、お言葉に甘えます」
真の神に狙われているという事実は、僕にはあまりにも荷が重過ぎた。ソファーに横になって、休む。そこへナナさんがタオルケットを掛けてくれる。しばし、お互いに言葉も無く、時間だけが流れる。やがて、ナナさんが口を開いた。
「……すまないね、ハルカ。私にもっと力が有れば、あんたを狙う真の神なんか、ぶっ殺してやるのにさ。でも、私にはそれだけの力が無い。何が伝説の三大魔女だよ。情けないったら、ありゃしない。ちくしょう! 悔しいね……」
うつむくナナさん。顔は見えないけど、涙が落ちるのが見えた。僕はそんなナナさんに話しかける。
「ナナさん。泣かないでください」
「でも、ハルカ……」
ナナさんは何か言おうとするが、そこへ畳み掛ける。
「未熟者の僕の意見ですけど、聞いてください。確かに真の神は強いです。でも、決して『無敵』でも『不滅』でも無いはず。もし、そうなら、先の戦いで死ぬはずが無いです。それに、ナナさんが教えてくれたじゃないですか。戦いとは、強い者が勝つとは限らない。どうなるかは、決着が付くまでわからないって。……ナナさん、探しましょう。真の神への対抗法を。彼らが無敵の存在で無いなら、どこかに穴が有るはずです!」
僕はここぞとばかりに、一気に言い切った。正直、真の神への対抗法なんて、有るのかわからない。でも、彼らが無敵、不滅の存在で無いなら、可能性はゼロではないと思う。たとえ、それが、単なる気休めに過ぎないとしても……。しかし、僕の言葉がナナさんの心に火を着けた。
「……ふん、未熟者の癖に、一人前の口を叩きやがって。良いだろう、やってやろうじゃないか! 私は伝説の三大魔女の一角、名無しの魔女こと、ナナだ! 真の神への対抗法、必ず見つけ出してやるよ!」
真の神の圧倒的な強さに、心が折れかけていたナナさんは再び奮い立つ。うん、これでこそナナさんだよ。勝ち気で強気。ひたすら攻めの姿勢。いつものナナさんが戻ってきた。
「ありがとよ、ハルカ。私ともあろう者が、まだ見ぬ敵に怯えて、勝負を投げるなんてね。私もまだまだ未熟だね。確かにあんたの言う通り、真の神も決して無敵、不滅じゃない。当ても有る。先の大戦、ここに奴らに対抗する手がかりが有るはずさ」
「いえ、未熟者の分際で、出過ぎた事を言ってすみませんでした。でも、ナナさん、頼りにしていますからね」
「何、言ってんだい、あんたも手伝うんだよ」
「あ、やっぱりですか」
「当たり前だろ、狙われているのは、あんたなんだからさ。当事者がサボるな」
「わかりました。頑張りましょうナナさん!」
「もちろんさ!」
最後は2人で、決意を語り合う。二度目の人生を早々に終わらせるなんて嫌だからね。
そして、日も暮れ、晩御飯の時間。今日は僕もナナさんも大好きなハンバーグ。ナナさんのリクエストで目玉焼きを乗せた奴。ポテトサラダに、コーンスープも付けてみた。
「ナナさん! 晩御飯ですよ! 今日はハンバーグですよ!」
「すぐ行く!」
その言葉通り、すぐに来たナナさん。さっそく、テーブルに着く。
「うんうん、いつ見ても旨そうだね。ちゃんと私の注文通り、目玉焼きも乗ってるし」
大好物のハンバーグに目を輝かせるナナさん。ここまで喜んでくれる人も珍しいよね。僕としても、嬉しい。
「それじゃ、ナナさん。冷めない内に食べましょう」
「あぁ、そうだね。じゃ、いただきます!」
「いただきます」
こうして、楽しい晩御飯が始まった。2人で、色々な事を話す。修行の事、最近のニュース、その他、諸々。
「ハルカ。あのクソ邪神からもらったアニメやラノベが有るじゃないか」
「はい」
「率直に聞くよ。『どう思った?』
ナナさんが話題にしてきたのは先日見たアニメ。ちなみに今日、ナナさんが読んでいたラノベもそれ。僕は言われた通り、率直に思った事を言った。
「僕はあの手の事に関しては素人ですから、あまり偉そうな事は言えません。でも、言わせてもらえば、あり得ないの一言に尽きます」
例えば学園ラブコメ物なら、生徒も教師も誰も彼もが、主人公を持て囃し、賛美する。やってはいけない事をしても正当化される。異常だ。
「お~、控えめなあんたにしちゃ、言うねえ。ま、私も同感だね」
ポテトサラダを食べながら、話すナナさん。
「ところでハルカ。ありがちなアニメや、ラノベの主人公は、何かにそっくりだと思わないかい?」
意地悪な笑みを浮かべ、僕に問いかけるナナさん。
「いわゆる、踏み台転生者ですね。それまで何の力も無かったのに、突然、力を得てヒーロー気取り。でも、実際は黒幕の手の上で踊らされているだけ。最後は破滅する。違いますか?」
僕自身、アニメを見て思った事を話す。ありがちなアニメや、ラノベの主人公は、まさに踏み台転生者のテンプレだからね。
「はい、正解。ま、フィクションだから、どうせ最後は何か凄い奇跡が起きてハッピーエンドになるんだろうけど、現実的には、あんたの言う通り、破滅一直線さ」
心底、バカにした口調のナナさん。ついでにごはんのお代わりも頼んできた。お茶碗を受け取り、ごはんを大盛りにして渡す。少ないと怒るんだ。で、またごはんを頬張りながら、ナナさんは話を続ける。
「実はね。昔、同じ様な事が有ってね。最新型のパワードスーツを手に入れてヒーロー気取りのバカがいたのさ。でも、全てはパワードスーツの製作者が仕組んだ事だったのさ。そのバカを使って、世界を引っ掻き回すゲームというね。で、ヒーロー気取りのそのバカだけど、最後は黒幕である、製作者の『飽きた』の一言で、機体を暴走させられ、宇宙にまで飛ばされて、ドッカーン!! ド派手に散ったよ」
ナナさんはそう言うと、手を握って、開く。あまりにも哀れな末路だった。やっぱり、現実は甘くない。
晩御飯も終わり、片付けも済んだ。後はお風呂に入って、寝るだけ。リビングに行って、一休み。お昼同様、ソファーにはナナさんが座って、今度はマンガを読んでいる。
「ナナさん、そろそろお風呂に入ってくださいね」
するとナナさん、マンガから目線を放し、僕を見る。
「おや、そんな時間かい? わかった。でも、どうせなら一緒に入ろうじゃないか。その方が無駄が無いし」
お風呂に一緒に入ろうと誘ってきたナナさん。確かに一緒に入った方が無駄が無いし、もう慣れたしね。
「わかりました。一緒に入ります。でも、変な事はしないでくださいね。掃除するのは僕なんですから」
「はいはい、わかりました。それじゃ、行くよ」
「はい、ナナさん」
こうして、ナナさんと一緒にお風呂へ。本当に変な事をしないと良いけれど……。
「ふぅ~~、良い湯だね~~。我ながら、良い出来だよ。屋敷を建てるにあたって、風呂と寝室には特に力を入れたからね」
「そうなんですか」
2人揃って、湯船に浸かってお喋り。ナナさんご自慢の広いお風呂は、2人入っても余裕で足を伸ばせる。おかげでゆっくり、くつろげる。
「当たり前だろ。私にとって、風呂と寝室は聖域。じっくりねっとり、お楽しみの場所だからさ」
「僕、上がりますね」
ナナさんがバカな事を言い出したので、すぐさま湯船から上がろうとする。
「ゴメン! 冗談だからさ! まだ風呂に浸かったばかりだろ。ちゃんと温まりな」
「……次は無いですからね」
ナナさんに言われて、とりあえず湯船に戻る。実際、お風呂に浸かったばかりで、温まっていないし。そして、湯船に浸かりながら、またお喋り。
「あのクソ邪神、ちゃんと考えて、あんたにマンガや、ラノベ、ブルーレイなんかを渡したみたいだね」
「そうですね。色々と考えさせられる内容の作品ばかりでしたし」
悲惨な結末のま〇かマ〇カ、歪んだ正義を感じるリリ〇ルな〇は、主人公を始め、ろくな人間がいないイン〇ィニット・スト〇トス。その他色々。見ていて悲しくなったり、呆れ果てたり、思う所が多かった。色々と考えさせられた。そんな中、ナナさん。
「ハルカ、良く覚えておきな。武器、兵器は人殺しの道具。武術は殺人術。フィクションの世界にツッコミを入れるのもなんだけどさ、アニメや、ラノベの主人公はそこがわかっていない。自分の得た力が、簡単に人を殺せるとわかっていない。だからこそ、ああも軽々しく、守るなんて言えるんだよ。あんたに聞くけど、仮に私があんたを守ると言って、人を殺しまくったとして、嬉しいかい?」
「ふざけないでください! そんな訳ないじゃないですか!」
恐ろしい事を言うナナさん。いくらなんでも、言って良い事と悪い事が有る。さすがに僕も怒る。
「落ち着きなって。仮にの話だよ。でも安心したよ。あんたは歪んだ正義に囚われていない。良い子だ。覚えておきな。悪より恐ろしいのは、独善さ。自分は絶対に正しいと思い込み、疑問を持たない。その果てに暴走し、大惨事を招く。私は過去にそんな奴を何人も見てきた」
「怖いですね……」
「あぁ、怖いよ。ハルカ、歪んだ正義にはくれぐれも気を付けな。決して飲み込まれるんじゃないよ。所詮、善悪なんて、人間の作った概念に過ぎない。絶対の善悪の区別なんて無いんだから」
ナナさんは話を続ける。
「誰かを守る為に戦うって事は、逆に言えば、他の誰かを犠牲にする事だ。しかも、それだけじゃない、その誰かに家族がいたら? 更にその家族に支えられている人がいたら? そう、誰かを守る為に別の誰かを犠牲にした結果、連鎖的に他の誰かまで犠牲になるかもしれない。世の中、見えない繋がりが有るからね。守る為に戦うなんて、結局、自己満足なのさ」
ナナさんが語る重い現実。僕は黙って話を聞き続ける。
「ハルカ。良く、道化や、ピエロと言ってバカにするよね」
「はい、アニメや、ラノベなんかで良く聞きますね」
新しい話題を振るナナさん。突然、道化、ピエロについて語り出した。
「私は道化、ピエロを嘲りの言葉として使うのはどうかと思う。なぜなら、彼らは他人から笑われる事が仕事。言い方を変えれば、自分の意思で他人から笑いを取っている」
言われてみればそうだ。確かに道化、ピエロは笑い者。でも彼らはそれが仕事。自分の意思で周りから笑いを取っている。つまり、笑われているのではなく、『笑わせている』。でも、それがどうしたのかな?
「それはわかりましたけど、だから何なんですか?」
「難しい事じゃないさ。自分でしっかり考えて、行動しろって事さ。自分で考えず、流されるだけの奴にはなるんじゃないよ。大部分の転生者、後、ありがちなアニメや、ラノベの主人公。あれは、道化、ピエロですらない。自分で何も考えず、黒幕の手の上で踊らされる、哀れな操り人形さ。あんたも私の弟子なら、そんなみっともない真似するんじゃないよ」
「はい、ナナさん」
「よしよし。それでこそ私の弟子だ。それじゃ、身体も温まった事だし、頭と身体を洗うよ」
その後、無事にお風呂を済ませ、歯を磨いて寝る事に。自分の部屋に戻りベッドの中へ。
「今日は色々と聞かされたな。転生者の存在する理由。太古の真の神、魔王と、現在の偽物の神、魔王。僕自身の事、僕を狙う真の神。そして、現実の厳しさ。やっぱりフィクションはご都合主義でしかないか」
一番怖いのは当然、僕を狙う真の神。でも僕は1人じゃない。ナナさんがいる。みんながいる。必ず、真の神への対抗法を見付けてみせる。
「僕は負けませんよ、真の神!」
決意を胸に、僕は眠りに就いた。
読者の皆さん、こんにちは。作者の霧芽井です。僕と魔女さん、第80話をお届けします。
前回に引き続き、ナナさんとハルカの語らいがメイン。様々な事が明らかになりました。現在の偽物の神、魔王と太古の真の神、魔王の事。創造主の事。邪神ツクヨも真の神である事。
そして、何より、ハルカが真の魔王の力と人間の成長を併せ持つ存在である事。更にハルカを狙うのが、真の神である事。とてつもない強敵に、ナナさん、ハルカ師弟は大ピンチです。しかし、2人は諦めない。真の神も決して無敵、不滅ではないと、対抗法を探します。
後、ナナさんから、守るという事について聞かされたハルカ。それがいかに重い言葉か、良くわかった様です。まぁ、元々ハルカはありがちなアニメや、ラノベの主人公と違って、ヒーロー願望は無いですからね。現実的なんです。
ただ、こうしている間にも、天界はハルカを抹殺すべく動いています。ナナさんはハルカを守れるのか? ハルカの命運はいかに?
では、また次回。