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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第79話 ナナさん、ハルカ師弟の語らい 前編

 ナナさんとの高速飛行の修行のはずが、謎の敵による狙撃を受けるという一大事となった、その翌日。


「ハルカ、今日の修行は休みにするよ。さすがに昨日の一件は私も堪えたからね。ましてや、あんたはずいぶんな無茶をしたし」


 ナナさんは大事を取って、今日は休みにしてくれた。実際、無茶をしたし。ナナさんを助ける為とはいえ、上空700メートルから急降下した上、取って置きの切り札、『魔氷女王化クイーン・モード』まで使ったし。あれは一時的に飛躍的なパワーアップができる反面、反動が強烈だからね。


 そんな訳で、自分の部屋でゆっくり読書を楽しむ事に。幸い、ナナさんが大のオタクなだけにマンガ、ラノベ、その他色々、選び放題。僕もマンガやラノベは嫌いじゃないしね。でも、今、僕が読んでいるのは、その手の本じゃない。本のタイトルは、『特選! 転生者・異界人(バカ)共の爆笑末路集 』。ナナさんが去年の大晦日にプレゼントしてくれた物だ。


 酷いタイトルだけど、実際、為になる。反面教師という意味でね。しかし、転生者、異界人達はろくな事をしない奴らが多いな。同じ転生者として恥ずかしいよ。


「それにしても、異世界というか、現実をナメている人が多いよね」


 僕は本を読んで、特に思った事を呟く。転生者、異界人で一番よくいるタイプが自分が主人公になったと思うタイプ。これが一番タチが悪い。ナナさんも言っていたけど、自分は主人公だから何をしても構わない。それどころか、自分こそが絶対に正しいと思い込み、しかも、周りにもそれを押し付ける。いわゆる狂人だって。確かにそんな奴は僕も嫌だ。


 続いて、この世界がアニメやゲームといった架空の世界だと思っているタイプ。これに至っては論外。


『所詮、架空の世界は架空の世界。存在しないからだ』


 つまり、二次創作によく有る、アニメやゲームの世界に入ってしまったというのは、無い。不可能なんだ。これはツクヨから聞かされた事。ツクヨが更に上である創造主様から聞いた話だそうだけど、アニメやゲームの世界なんて、理不尽というか、明らかに色々と無理が有るから、世界として成り立たないそうだ。と、いう訳だから、これまた二次創作によく有る、原作知識で上手く立ち回るというのも無い。アニメやゲームの世界に入ったら、原作知識で無双しようと考えていた人、御愁傷様。


 でも、そういうバカな人が後を絶たない。そのおかげで、この本が刊行されたんだけど。以下、収録されている内容の一部抜粋だよ。


 爆笑末路その1


 異世界に飛ばされて、そこで女性が魔物に襲われているのを目撃。たまたまその場面がそいつのやり込んでいたゲームのチュートリアルとそっくりだった為、ゲーム内の必殺技名を叫んで突撃。しかし、ゲームではない為、必殺技名を叫んだところで何も起きず、即座に魔物に喰われて死亡。この間、3分にも満たず、その無様さ、あっけなさから、以降、鉄板ネタとなった。


「……あのさ、一般人がいきなり魔物に勝てる訳ないよ。後、いくら必殺技名を叫んでも何も起きないよ。ゲームじゃないんだから。魔法だって、ちゃんと術式を理解して、必要な魔力が無いとダメなのに。ヒーロー願望って怖いね」


 あまりのバカな行いに呆れつつ、次のネタへ。


 爆笑末路その2


 中世レベルの異世界に転生。幸い、裕福な商人の子として生まれたので、現代知識と家の財産を利用し、本来ならもっと未来で登場する品を作って儲けようと画策。実際、途中までは上手くいった。しかし、所詮、専門家ではない。かじった程度の知識。ある程度まで行くと、行き詰まり始めた。より高度な品を作るには、それ相応の設備や施設が必要。更に言えば、それらの設備や施設を作る事自体に道具や設備が必要。しかし、中世レベルの異世界にそんな物は無い。そして、周りからすれば、明らかに異様な行い。最終的には、悪魔の子と騒がれ、処刑されてしまった。


「……現代知識が有れば良いってものじゃないよね。いくら中世レベルの異世界だからって、ナメ過ぎ。世の中、そんなに単純じゃない」


 ナナさんや、ツクヨ辺りの実力者ならともかく、少々、現代知識が有るぐらいで世の中変えられたら、苦労しない。歴史上の技術革命を成し遂げた方々に失礼だよ。それにナナさんも言ってたっけ。権力者って奴らの執念をナメるなって。あいつらは、多大な犠牲を支払い、権力の座を得た。だから、それを揺るがす様な危険な存在を放っておかない、潰しに掛かると。僕の場合はナナさん達、三大魔女。更にはスイーツブルグ侯爵家という、大きな後ろ楯が有るおかげで助かっている。僕、恵まれているなぁ。


「ハルカ! 腹が減ったよ! 昼飯まだ~~?」


 感傷に浸っていたら、ナナさんの声。時計を見たら、そろそろお昼だ。つい、読書に夢中になっちゃった。これは、早くお昼ごはんを作らないと。ナナさん、お腹が空くと、とたんに機嫌が悪くなるから。


「早くしな! 私を飢え死にさせる気かい?!」


 またしても、お昼ごはんを催促する声。急がないと。


「はい! 今行きます!」


 ナナさんに大きな声で返事をすると、急いでキッチンに向かった。お昼ごはんは何にしようかな?






「全く、あんたって子は。私が腹が減ったと言ってるんだから、さっさと来な! ほら、早く昼飯を作る!」


 ナナさんは既にテーブルに着いていて、ご機嫌斜め。お昼ごはんの催促をしてくる。言われた通り、早く作らないといけないな。となると、手早く作れて、お腹も膨れる、チャーハンにしよう。僕は、冷蔵庫を開けて、中を確認。今回はとにかく、手軽さが大事。最低限の材料で手早く作る。幸い、必要な食材は揃っている。


「ベーコンに刻みネギ。ご飯は朝の残りが有る。後はっと」


 流し台の下の扉を開け、ニンニクの醤油浸けの瓶を取り出す。塩、胡椒も用意。よし、やるぞ。


「早くしな! メシ! メシ!」


 カンカン!


 ナナさん、お箸でテーブルを叩き始めた。子供じゃないんですから、おとなしく待ってくれませんか? そもそも、ナナさんは何歳なんだろう? そんな事を考えていると。


「女に年齢と体重の話は禁句と言っただろ!」


 殺気を放ちながら、怒ったナナさん。さすがですね。心を読みましたか。余計な事を考えるのはやめにして、お昼ごはんの調理開始。コンロに火を起こし、中華鍋を熱する。その間にベーコンと醤油浸けのニンニクを細かく刻む。。


 中華鍋が十分熱くなったら、油をひいて、刻んだベーコン、刻んだ醤油浸けのニンニク、ご飯を投入。塩、胡椒、醤油を軽く振りかけ、よく混ぜながら炒める。


「お~~香ばしい匂いだね。食欲をそそるねぇ。ハルカ、早くしな!」


 炒めた具材の香ばしい匂いが漂う。ナナさんも匂いに食欲を刺激されたらしく、催促をしてくる。僕もお腹が空いたし、早く仕上げよう。


 最後は刻みネギをパラパラとかけて、軽く炒めて、はい、できあがり! 天之川家のお手軽メニュー、ニンニクライス。熱い内に、お皿に盛り付ける。それと、即席のかき卵スープを2人分。今回はとにかく、早く仕上げる事が重要だからね。


「待ってたよ! さ、食べようじゃないか」


「はい、ナナさん」


 お皿に盛り付けられたニンニクライスを前に、ご機嫌のナナさん。簡単なメニューだけど、美味しいからね。


「それじゃ、いただきます!」


「いただきます」


 毎度恒例、ナナさんのいただきますで、お昼ごはん開始。







「うん、醤油ベースの香ばしい味がたまらないね。カリカリのベーコンも嬉しいし。ハルカ、ビール出して」


 ニンニクライスをもりもり食べるナナさん。ビールを要求してきた。でも、僕としては明るい内からのお酒は感心しない。


「ナナさん、明るい内からお酒はダメです。お茶にしてください」


「ケチ! 別に良いじゃないか、1本だけで良いからさ」


「ダメです!」


 1本だけと言うナナさんと、明るい内のお酒は許さない僕。お互いに退かない。テーブルを挟んで、睨み合う事、しばらく。


「……ちっ! 今回は私が折れてやるよ。このまま、睨み合ったところで、せっかくの飯が冷めるだけだからね。ほら、お茶淹れて」


「わかりました。緑茶で良いですか?」


「あぁ、それで」


 急須に茶葉を入れて、お湯を注ぎ、しばらく待つ。揺らすとダメ。そして、ナナさん愛用の湯飲みに注ぐ。もっと本格的な淹れ方も有るけど、身内だからね。ナナさん、堅苦しいのが嫌いだし。


「どうぞ」


「頂くよ」


 お茶を入れた湯飲みをナナさんに差し出し、それを受け取り、お茶を啜るナナさん。


「ふぅ、あんたの淹れた茶は美味いね」


「まぁ、良い茶葉とお湯を使っていますからね。ナナさんのおかげです」


「ふん、私は不味い物は口にしたくないんだよ」


 ナナさんはそう言うけれど、僕が初めて来た頃は酷かった。冷蔵庫の中にはビールとツマミばかり。どこかの組織の作戦部長の様な有り様だった。それに僕が猛烈に抗議して、各種食材を置いてもらう事に。それは良かったんだけど、今度は、高級食材が山盛りに届いて、びっくり! この時に魔女専門の通販サイト『ア魔女ン』を知ったんだ。以降、僕も愛用している。


 まぁ、そんなこんなで、美味しくお昼ごはん。僕の作ったニンニクライスと、かき卵スープはめでたく完売。


「「ごちそうさまでした」」


 最後は2人揃って、ごちそうさまを言う。やっぱり、平和な食卓って良いな。






 食後の後片付けも終わったので、リビングへ。ナナさんがソファーに座って、何かラノベを読んでいる。


「おや、片付けは済んだのかい?」


 こちらに気付き、声を掛けるナナさん。


「はい、リビングで一息つこうと思って。ナナさん、何か飲みますか? お酒以外で」


「ケチ! ……紅茶で。さっきは緑茶だったしね」


「わかりました。ちょっと待ってください」


 くつろぎの一時には、やっぱり飲み物が欲しい所。先手を取って、お酒以外と釘を刺す。ナナさん、渋々ながら、紅茶で了承。エスプレッソさんからもらった、良い紅茶が有るので、それで行こう。後、お茶うけにクラッカーを出すか。ナナさん、甘い物はあまり好きじゃないし。






「ナナさん、お待たせしました。紅茶とクラッカーを持ってきました」


「お、来たね。それじゃ、ティータイムとしゃれこもうか」


「はい」


 リビングのテーブルに2人分の紅茶とクラッカーの入ったお皿を置く。さっそく、ナナさんはクラッカーをつまんで、紅茶を一口。


「良い香りだね。緑茶も良いけど、紅茶もまた違った良さが有る。できれば、ブランデーを少し垂らしたいね」


「お酒はダメだと言ったでしょう、ナナさん」


「言っただけだよ。全く、お堅い子だね」


 とにかく、お酒を欲しがるナナさん。そんなにお酒は美味しいのかなぁ? 僕は未成年だから、わからない。当のナナさんは、紅茶を飲みながら、クラッカーをパクパク。余談だけど、ウチではクラッカーは常備。お茶うけになるし、チーズなんかを乗せれば、オードブルになる。砕いて、サラダに使う事も有るし。


 それから、2人で紅茶を飲みながら、クラッカーをかじりつつ、のんびりとした時間を楽しむ。そんな中、話を切り出したナナさん。


「ハルカ。せっかくのティータイムをぶち壊すみたいで悪いんだけど、昨日の一件について、反省をしようと思うんだ。昨日はそんな気分じゃなかったけど、一晩経って、多少は落ち着いたしね。良いかい?」


 昨日の一件か。今、思い出してもゾッとする事件だった。でも、ナナさんの言う通り、反省は必要だと思う。それも早い内に。時間が経つと記憶や恐怖が薄れてしまう。忘れない内に、しっかり反省する事が大事。同じ事は繰り返したくないからね。そう思い、僕もナナさんに同意する。


「はい。構いません」


「そうかい。じゃ、始めるよ」


 こうして、僕とナナさんの2人による反省会が始まった。







「まずは、昨日の一件だけど、ざっくり言えば、あんたを狙った狙撃が有り、それを私が身代わりに受けて、落とされた。で、あんたが助けてくれた。もっとも、その後2人して倒れてしまい、気が付いたら、2人共、完治していた。何とも、おかしな事件だったよ」


「確かに、おかしな事件でしたね。僕達を殺そうと思えば簡単に殺せるチャンスをみすみす逃すなんて。しかも、誰かが僕達を助けた様ですし。……やっぱり、僕達を狙った刺客なんじゃないですか? 助けてくれたのは。あの場にいた相手なんて、僕達以外じゃ、刺客ぐらいだと思いますし。助けた理由は分からないですけど」


 まずは、ナナさんと僕、それぞれの事件の感想、及び、自分の考えを述べる。


「……まぁ、私達を助けた相手。及び、その理由に関しては今のところ、保留だね。情報が無いからどうしようもない。それよりもだ」


 何やら、不機嫌そうな雰囲気を放つナナさん。何か怒らせる様な事をしたかな? やっぱりお酒を出してあげるべきだったかな? などと考えていると。


「ハルカ。なぜ、私の言うことを聞かなかった? 私は言ったよ。私を見捨てて逃げろと」


 ナナさんは底冷えのする様な冷たい口調で、昨日の僕の行動について言った。確かに、ナナさんはあの時、そう言ったけれど。でも、僕も反論する。


「確かにナナさんはそう言いましたよ。でも、ナナさんを見捨てて自分だけ逃げるなんて……」


 そこまで言った時だった。


「この……大バカが!!!!」


「ヒッ?!」


 突然、大声を上げて怒鳴り付けてきたナナさん。そのあまりの剣幕に思わず悲鳴を上げてすくんでしまう。それでも、何とか、意見を言う。


「そんなに怒らなくても……。それに、僕もナナさんも助かったじゃないですか……」


 そう言った、直後。


 パン!


 鋭い音と共に、左の頬に強烈な痛み。何が起きたかすぐにはわからなかった。でも、左の頬から伝わる痛みが教えてくれる。……ナナさんに叩かれた。


「どうして叩くんですか?!」


 思わず、ナナさんに食って掛かる。ショックだった。ナナさんに叩かれるなんて。ナナさんは修行で殴る蹴るはするものの、普段はけっして、僕に暴力を振るわなかったから。当のナナさんは、今まで見た事が無い程、怒っていた。僕の襟首を掴み、持ち上げ、怒鳴り付けてきた。


「どこまでバカなんだい、あんたは! 私は情けないよ! あんた、自分が魔王の身体を持っているからって、いい気になっているんじゃないかい?! 自分を過信するのも大概にしな! 小娘の分際で、のぼせるんじゃないよ!」


 見れば、ナナさんは泣いていた。涙を流しながら、ナナさんは続ける。


「確かに、結果を見れば、あんたの言う通り、私達は助かった。でもね、一つ間違えば、私もあんたも死んでいた。そう、もし着地に失敗していたら。着地の後、倒れた私達に刺客がトドメを刺していたら。今、私達がこうして生きているのは、運が良かっただけだ」


「………………」


 涙を流しながら話すナナさんに、反論なんてできなかった。事実、ナナさんの言う通りだから。一つ間違えば、僕もナナさんも死んでいた。


「ハルカ。あんたは優しい子だ。自分を犠牲にしてでも、誰かを助けようとする子だ。でもね、ハルカ。あの状況では、私を見捨ててでも、あんたが助かる道を選ぶべきだった。あんたも知っての通り、私は長生きしてるし、何より重罪人さ。死んでも文句は言えない。でも、あんたは若い。これからだ。大体、あんたは一度死んだ身だ。せっかく、転生して二度目の人生を歩み始めたのに、1年経たずに終わらせる気かい?」


 最初と違い、落ち着いた口調で諭してくれるナナさん。その言葉が胸に突き刺さる。ナナさんは僕に問い掛けた。


「ハルカ。私があんたに初めて稽古を付けてやった時に言った事を覚えているかい?」


「この世界は現実。ゲームじゃない。コンティニューもリセットも無い。都合の良い裏技もバグも無い。死ねばおしまい。ざっと言えば、こんな感じでしたね」


「ふん。覚えていたかい。なのに、あんな無茶しやがって。……このバカ弟子。一度死んだ身のくせに、命を粗末にするんじゃないよ!」


 再び泣くナナさん。でも、僕も言いたい事が有る。


「ごめんなさい、ナナさん。確かにナナさんの言う通り、僕は自分の命を粗末にしていました。たとえ、ナナさんが助かっても、僕が死んだら意味が無いです。でも」


 僕はここで一旦、話を区切る。


「その逆だって同じなんです! たとえ、僕が助かっても、ナナさんが死んだら意味が無い。ナナさんこそ、自分の命を粗末にしないでください! 過去にどんなに重い罪を犯したにしてもです! ……僕はナナさんの過去について、責める気は有りません。過去は変えられません。でも、未来は決まっていません。だからナナさん。生きてください! 僕はナナさんから、もっともっと、色々教わりたいんです!」


 我ながら、自分勝手だなと思う。ナナさんに殺された過去の犠牲者達は間違いなく怒るだろう。でも、僕にはナナさんが必要なんだ。失いたくない。


 そこまで言い切ると、ナナさんは呆れた顔をしていた。


「やれやれ、この私に向かって随分な言いぐさじゃないか。私が重罪人と知りながら、生きろってか。……ふん、そこまで言われたら、さすがに死ねないね」


 ナナさんは苦笑を浮かべ、すっかり冷めてしまった紅茶を飲む。


「長話をしたせいで、すっかり紅茶が冷めちまったね。ハルカ、悪いけど、おかわりを頼むよ」


「はい、ナナさん」






 2杯目の紅茶を淹れて、ティータイム再開……とはいかなかった。紅茶を飲みながら、ナナさんは新しい話題を切り出してきた。


「ハルカ。もう少し、私の話に付き合ってもらうよ。これはあんた自身にも深く関わる話だから、良く聞くんだよ」


「はい、わかりました」


 どうやら、またしても長話になるらしい。それも僕自身に深く関わる話ときた。ちゃんと聞かないと。僕が話を聞く姿勢を取ったのを見て、ナナさんは話を始める。


「ハルカ、あんたに限らず、転生者って奴は普通の人間には無い異能を持つ。これは今さら、言うまでも無いね」


「はい」


 まずは転生者についてのおさらい。転生者は基本的に異能の持ち主でもある。


「しかしだ。大部分の転生者は破滅する。なぜだかわかるかい?」


 続いて、大部分の転生者が破滅する理由を聞いてきたナナさん。僕はかつて、ツクヨから聞いた理由を話す。


「以前、ツクヨから教わりました。転生者の持つ異能は、人間には過ぎた力。過ぎた力に魂を蝕まれ、狂気に染まり破滅すると」


「ふん、あのクソ邪神に聞いたのかい。あぁ、その通り。異能なんて、普通の人間には過ぎた力なのさ。さて、ここからが本題だよ。ハルカ、あんたは『なぜ、転生者が存在するのか』考えた事は有るかい?」


「えっ?」


 ナナさんからの問いかけ。『なぜ、転生者が存在するのか』。言われてみれば、考えた事が無いし、わからない。ナナさんは言う。


「まさか、くだらないWeb小説でお約束の、神がミスして死なせたから、そのお詫びに転生させた。なんて言わないだろうね?」


「それは無いと思いますけど。ナナさんはやっぱり、知っているんですか?」


 まぁ、僕としても、Web小説なんかで良く見るご都合主義まみれの理由は無いと思う。世界の神話を見ても、神なんてそんなに甘くはない。それに僕自身、死神と邪神ツクヨの2人の神と会っているしね。そして、答えを知っているらしいナナさんに聞く。すると、ナナさんは紅茶を一口飲むと話してくれた。


「あぁ、知っているよ。……良く聞くんだよ、ハルカ。転生者って奴はね、言ってしまえば神の餌なんだ。神はね、強い代わりに成長できない。そのままだと、いつまでも力の強さが変わらないんだ。でも、そんな事、神には我慢ならない。そこで神が目を付けたのが人間さ。人間は弱いが、その代わり、成長できる。しかも、愚かで強欲だ。これを利用しない手は無いってね。そこで生み出されたのが転生者。生前、ろくな人生を歩んでこなかったクズにわざと力を与えて送り出す。クズはバカだからね、突然、与えられた力に浮かれて、神の思惑なんて知ろうともしない。好き勝手したあげく、やがて、力に魂を蝕まれ、狂気に染まり破滅する。で、成長した力を神が回収、また新しい転生者を生み出す。以上さ」


 一気に言い切るナナさん。その内容は衝撃的だった。転生者は神が強くなる為の餌。でも、考えてみれば、僕も死神から実験体だと言われたし、ある意味納得。でも、ここで少し疑問。ナナさんに聞いてみる。


「ナナさん、疑問が有ります。転生者が神の力を強くする為の餌という事はわかりました。でも、なぜ、転生なんて回りくどいやり方をするんですか? それなら、最初から強い人間から力を回収すれば良いじゃないですか」


 どうせ回収するなら、手っ取り早い方法を選ぶだろうに、なぜそんな回りくどいやり方をするのか? 対するナナさんの答え。


「そりゃ、簡単な理由さ。最初から力を持つ奴、いわゆる勝ち組は、それが当たり前と考え、更なる力への執着が弱いんだ。それにね、そういう天然物の奴からは力が回収しにくい。対して、生前、負け組の奴らは力に対して、凄まじい執着を持ち、貪欲に力を追い求める。力を成長させて回収するのが目的の神からすれば、そっちの方が力の成長が早いし、破滅するのも早い。何より、力を回収する為に生み出しただけに、効率的に力を回収出来て好都合なのさ」


「負け組はとことん、負け組ですか……」


「まぁ、そういう事さ。うまい話には裏が有る。全く、真理だね」


 同情の欠片も無い口調のナナさん。でも、言っている事は正しい。うまい話には裏が有る。使い古された言葉だけど、逆に言えば、それだけの歴史の裏打ちが有るという事だから。







「さて、これで最後だ」


「まだ有ったんですか?」


 ナナさんの話はまだ終わらない。今度は何かな?


「今度はあんた自身に直接関わる事だ。一番大事な話だから、マジで良く聞きなよ」


「はい!」


 最後の話題は僕自身に直接関わる事らしい。改めて、姿勢を正す。そして、ナナさんの話が始まる。


「さっきも言った様に、転生者って奴は基本的に神の餌。でも、あんたは違う」


 僕をまっすぐ見つめながら、ナナさんは話を進める。


「大部分の転生者は、生前、負け組だった奴ら。目先の欲に目がくらんで破滅の道を歩むクズだ。対して、あんたは優しく、清らかな良い子だ。そして、太古の魔王『魔氷女王』の身体を持っている。そんじょそこらの転生者なんかとは比較にならない。あんたと比べたら、大部分の転生者なんて、ゴミだね。色々な意味で」


「……どうも」


 なんとも、対応しづらかったりする僕。


「しかしだ、この『太古の魔王』ってのが、大きな問題でもあるのさ」


 一転して、冷たい口調になるナナさん。本題はここからか。


「ハルカ。この事をあんたに言うべきか私も悩んだ。でも、あんたが『太古の魔王の身体』を持つ以上、いつまでも避けてはいられないからね。話す事にしたよ。ただし、今から話す事は他言無用だよ。色々とヤバいからね」


「……はい」


 ナナさんがここまで言うなんて、初めてだ。何かとても重大な事を話すらしい。ナナさんは一旦、目を閉じ、少し間を開けてから、やっと話してくれた。


「数多くの神や魔王がこの世界には存在する。それは知っているね」


「はい、高位の魔法の力の源として、契約を交わしたり、宗教の崇拝の対象だったりしますから」


 なぜか、神と魔王の存在について語り出したナナさん。それがどう関係するのかな? 疑問に思っていると、ナナさんは話を続ける。


「その通り。神や魔王は魔法の力の源、そして、崇拝の対象だったりする。でもね、奴らが必死に隠している事が有る」


「何を隠しているんですか?」


 神と魔王が必死に隠している事? 何だろう? その疑問にナナさんがズバリ答えた。


「それはね、『今の神と魔王のほとんどは、偽物』なのさ。そんな事、絶対に知られたら困るんだよ、奴らはね」


 ナナさんの口から語られたのは、驚愕の内容だった。今の神と魔王のほとんどは、偽物。確かにそんな事がおおっぴらになったら、世の中がひっくり返る。大変な事になるよ。でも、そうなると、本物の神と魔王はどうしたんだろう?


「ナナさん、今の神と魔王のほとんどが偽物なら、本物はどうしたんですか?」


 僕は当然の疑問をナナさんにぶつける。でも、すぐには答えてくれない。


「それは後で話してやるよ。それより、もっと大事な事が有る。あんた自身の重大な秘密だ」


「僕自身の重大な秘密?」


「そうだ。覚悟を決めて聞くんだよ」


「……はい」


 今の神と魔王のほとんどが偽者の件について聞きたかったけれど、ナナさんはそれよりも大事な事を話すと言う。僕自身の重大な秘密。ナナさんの真剣な目が、それがどれだけ大変な物なのかを物語っている。一体、何を聞かされるのか? 物凄く緊張する。そして、ナナさんが、ついに秘密を語ってくれた。僕に秘められた大変な秘密を。


「ハルカ。あんたこそは遥か太古に存在し、そして消え去った、『真の魔王』の身体を持つ転生者なんだ」





読者の皆さん、こんにちは。僕と魔女さん、第79話をお届けします。


今回は、ナナさん、ハルカ師弟が昨日の事件について語り合いました。一つ間違えば、2人共、死んでいただけに、ナナさんはハルカを厳しく叱りました。ナナさんはハルカを溺愛していますが、決して甘やかしてはいません。叱るべき時は、叱ります。もちろん、ハルカもその事はわかっています。


そして、ハルカはナナさんから、転生者がなぜ存在するのか聞かされました。更には神と魔王の事、そして自分自身に関する秘密も。


ナナさん、ハルカ師弟の語らいはまだ続きます。では、また次回。

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