第7話 スイーツブルグ侯爵夫人、登場
僕とミルフィーユさんのお茶会の最中にメイドさんから、ミルフィーユさんのお母さん、スイーツブルグ侯爵夫人から呼ばれていると伝えられた僕達。
そして到着した、侯爵夫人の部屋。スイーツブルグ侯爵夫人と初対面。侯爵夫人はミルフィーユさんと良く似ていた。親子だね。それにしても名門スイーツブルグ侯爵家の当主だけあって凄い迫力だよ。僕、こういう人苦手だなぁ……。
「初めまして、お嬢さん。私はスイーツブルグ侯爵夫人にして当主。ティラミス・フォン・スイーツブルグと申します」
「は、初めまして。僕はハルカ・アマノガワと言います!」
「貴女の事は娘のミルフィーユから色々伺いましたわ。その若さで魔法、武術共に非常に優秀だそうですね。魔蟲の森ではミルフィーユがお世話になりました。お礼を言いますわ」
「いえ、お世話だなんて。それに僕はまだまだ未熟者ですし」
「謙虚な人ですわね、貴女は。さて、この度、貴女に折り入ってお願いが有るのです。宜しいかしら?」
侯爵夫人が僕にお願い? 何だろう? 正直、嫌な予感がするけど断る勇気は無いです。
「良いですよ、僕に出来る事なら」
「ありがとう。では、私に付いて来て下さい」
侯爵夫人と共に部屋を出る僕。ミルフィーユさんも、
「私も行きますわ!」
と言って付いて来た。
そして、侯爵夫人に案内されて着いた場所。そこはとても広い部屋だった。いわゆるトレーニングルームだ。しかも、そこにはたくさんのメイドさん達がいた。ざっと数えて30人。全員、強い力と戦意を感じる。どうやら嫌な予感は的中らしいね。すると侯爵夫人が言った。
「貴女に、彼女達と戦って欲しいのです。彼女達は当家のメイド達の中でも、特に腕の立つ者達ばかり。貴女の強さを聞いて、是非とも戦いたいと希望しています。私も貴女の強さを見てみたいですし」
やっぱりね。こういう展開か。ミルフィーユさんが、迷惑をかける事になりそうだと言うわけだよ。とはいえ、断れる雰囲気じゃない。受けるしかないね。
「分かりました。お受けします。対戦方式とルールを教えて下さい」
「対戦方式は、メイド30人対貴女です。勝敗はメイド達を戦闘不能か、降参により全滅させれば貴女の勝ち。貴女が戦闘不能か降参すればメイド達の勝ち。武器は木製の物のみ。魔法の使用も認めます。時間は無制限」
その内容にミルフィーユさんが怒る。
「30人対1人なんてあんまりですわ! しかも精鋭揃いではありませんか! いくらなんでもやり過ぎですわ!」
「お黙りなさい、ミルフィーユ。実戦はそんなに甘くはありません。こちらが1人だからといって、敵が容赦してくれるとでも?」
「……………」
侯爵夫人に正論を言われて、黙ってしまうミルフィーユさん。
「僕なら大丈夫ですよミルフィーユさん、心配しないで下さい。ナナさんに鍛えられていますから」
「でも……」
「本当に大丈夫ですから。僕を信じて下さい」
「分かりましたわ。でも、無理はしないで。危なくなったらすぐに降参して下さいね」
そう言って、ミルフィーユさんは下がった。本当に優しい人だな、ミルフィーユさん。
さて、ミルフィーユさんには、ああ言ったものの正直、厄介だな。
一番の問題は生身の人相手ということ。しかも30人。魔物相手なら遠慮無く戦えるけど、生身の人相手ではそうもいかない。必要以上に怪我をさせられないし、殺すなど論外。
魔法でまとめて眠らせるといった手も使えない。そんなやり方で勝ったところで納得してもらえない。いきなり降参も却下。
つまり、僕は腕利きのメイドさん達30人を、必要以上に怪我をさせず、殺さず、全滅させる必要が有る。本当に厄介だね。でも今の僕なら出来る自信が有る。ナナさんに鍛えられたんだもの。それにミルフィーユさんにも大丈夫と言ったし、この勝負、勝つよ! さて、勝負に備えてウォーミングアップをしないとね。
ウォーミングアップを済ませた僕は、木製の短剣2本を受け取り、メイドさん達30人と向き合った。全員、僕を見ている。戦う気満々だ。
トレーニングルーム内には、他のメイドさん達も集まっていた。どうやら僕達の勝負を見に来た様だね。
そして、侯爵夫人が口を開いた。
「お互いに準備は整った様ですね。この勝負はメイド達が全滅するか、降参。もしくはハルカさんが戦闘不能か降参で決着とします。それでは、始め!」
かくして、僕対、腕利きのメイドさん30人の戦いが始まった。
今回の勝負では、武術中心で戦う事にした。生身の人相手にむやみに魔法は使えない。木製短剣に対魔法の魔力付与を使うぐらい。僕は全員、気絶させるつもりだ。降参はしてくれそうもないし。悪く思わないで下さい、メイドさん達。
ヒュヒュッ! ヒュオッ!
まず3人。
それぞれ一撃で気絶させた。
手加減しながら、戦うのも大変だよ。
「なっ! 速い!」
「一瞬で3人やられた!」
「いくら速くても相手は1人だ。取り囲めば……」
ヒュオッ!
隙有り。また1人仕留める。
僕はメイドさん達を翻弄する。僕は単に速いだけではないよ。
「この、チョロチョロと!」
「ちょっ、こっちに来ないで!」
ドスン!
僕の動きについていけず仲間同士ぶつかってしまう。もちろん、その隙に仕留める。
「食らえ!」
向かって来る僕にカウンターを繰り出すも、かわして逆にカウンターを決める。
高速かつ、変幻自在の動き。高機動魔法メイドとして鍛えられたのは伊達ではないよ。
更に言うと僕は目の前の事だけではなく、周りの状況も把握しながら、自分にとって最善かつ、最も効率的な行動を取る。前世で家族に散々こき使われた結果、身に付いた能力。まさかこんな形で役立つとはね……。
思い出すなぁ。次々と降りかかる家族の我が儘を切り抜けながら、家事全般をこなす日々。正に戦いだったよ。
そうしている内にも、次々メイドさん達を倒していく。そして遂に残り3人になった。今回の30人の中でも別格の3人。出来る人達だよ。
見た目からして、人間、エルフ、獣人だね。人間のメイドさんは長い棒を持ち、後の2人は素手。この3人はいきなり僕に挑まず、様子見に徹していた。そして今、僕の前にいる。
「残りは貴女達、3人だけですよ」
「私達を他の者達と一緒にしないで頂きたい」
「ハルカさんを甘く見た連中とは一味違いますよ」
「我らの力を受けてみるがいい」
そして、3人が僕に挑んできた。まずは人間のメイドさん。持っている棒が途中で変形した。三節棍の使い手か。通常の棒とは違う変則的な攻撃が来る。
続いて、黒い鎖が突然襲って来た。拘束魔法「封縛呪鎖」、エルフのメイドさんの仕業だ。魔法使いらしいね。魔力付与した木製短剣で斬って防ぐ。
そこへ、獣人のメイドさんの剛拳が迫る。何とか捌いて逃れる。この人は格闘家か。
う~ん、本当に強いよ、この人達。
「貴女達、何者ですか? 他のメイドさん達と格が違います」
「私達はかつて、とある暗殺組織に所属していました」
「その組織内で私達3人はチームを組んでいました。組織内でも最強のチームと呼ばれていました」
「だが、組織は他の組織との争いに敗れ、壊滅。居場所を失った我らは、奥方様に拾われた」
うわ~、元、本物の暗殺者ですか。しかも組織内最強チームのメンバー同士ときた。その強さ、抜群の連携ぶりも納得だよ。
「ハルカさん、貴女こそ何者ですか? その若さでその強さ。ただ者ではないですね」
「僕はメイドです。僕の保護者兼、雇用主兼、師匠のナナさんに鍛えられました」
「なるほど、良い師匠に恵まれた様ですね」
「師匠としては確かに凄い人ですね。その他で問題が有りますけど……」
「さて、お喋りはこの辺にしましょう。行きますよ、ハルカさん!」
僕とメイドさん3人組の勝負再開!。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ! バシュッ! バシュッ! ガガガガ……。
人間のメイドさんの三節棍による変則的な攻撃、獣人のメイドさんのパワフルな格闘術、更にエルフのメイドさんの魔法攻撃と他の2人への補助魔法。本当に見事な連携ぶり。正直、今のままではキツい……。仕方ない。
「貴女達、3人の強さは良く分かりました。でもこれ以上長引くのも困るので、スピードアップしますね」
「「「何っ!?」」」
驚く3人。この3人組は強い、これ以上長引くのは得策じゃない。必要以上の怪我をさせない事を優先して手加減していたけど、スピードアップさせてもらう。
シュンッ!
勝負は一瞬で付いた。メイドさん3人は、その場に倒れた。スピードアップしたから不安は有ったけど、3人共気絶しているだけ。良かった。
「勝負有りましたね。この勝負、ハルカさんの勝利です!」
侯爵夫人が高らかに宣言し、僕対、腕利きのメイドさん達30人の勝負は終わった。あ~、精神的にキツかったよ~。
思ったより続くスイーツブルグ家での話。しかし我ながら、下手ですね。特にバトル描写が下手。カッコいいバトルシーンを書きたいのですが…。
後、この世界の王族、貴族等に仕えるメイドや執事は魔法、武術の心得が有るのが基本です。主を守るのも仕事の内なので。