第70話 私はハルカの保護者だからね
「行っちまったね」
「はい」
ハルカの妹、彼方が突然現れた事件。なんだかんだ有ったものの、最後は元の世界へと帰っていった。そして彼方を見送った私とハルカは言葉を交わす。私達の目の前には開きっぱなしのクローゼット。ついさっきまで、この世界とハルカの元いた世界を繋ぐ『門』の役目を果たしていたそれは、その役目を終え、ただのクローゼットに戻っていた。
「ハルカ」
「何ですか、ナナさん」
先ほど同様、短い言葉を交わす。……どうも、こういうのは性に合わない。私は言葉より実践だからね。
「無理はしなくて良いからね。私はあんたの保護者なんだから」
対するハルカはしばらく黙っていたけれど、やっと口を開く。
「……それじゃ、お言葉に甘えます」
それだけ言うと、ハルカは私に抱き付いて大泣きを始めた。やっぱり辛かったんだね。二度と会えないと思っていた妹とやっと会えたのに、また別れる羽目になったんだから。とりあえず、私にできる事はハルカが泣き止むまで付き合ってやる事ぐらいか。……伝説の三大魔女の一角ともあろう者が情けないね。やはり、力だけではどうにもならない事は有る。
「落ち着いたかい、ハルカ?」
「……ご迷惑をおかけしてすみません。はい、なんとか落ち着きました」
あれから30分ぐらいか。散々泣いた挙げ句、やっとハルカは泣き止んだ。とはいえ、大泣きしただけに、目は真っ赤に腫れてるし、顔も涙と鼻水でぐしゃぐしゃ。せっかくの美人が台無しだよ。よし、こういう時こそ、私が保護者としてこの子を導かないと。さっそく、実行に移す。
「ハルカ、風呂に行くよ。そんな酷い顔を誰かに見られたら、どうするんだい? 風呂に入ってさっぱりしな」
「そうですね」
私の言葉に素直に従うハルカ。今時の10代とは思えない程、素直な良い子だ。それじゃ、一緒に風呂に行くかね。この屋敷は私の技術の集大成。風呂も私の意思一つですぐに入れる様になっているのさ。
「ふぅ、良い湯だねぇ。ほら、ハルカ。肩までしっかり浸かる」
「もう、子供扱いしないでください」
「そうやってムキになる所が子供なんだよ」
「む~!」
ハルカと他愛ない話をしながら、私自慢の広い湯船に2人で仲良く浸かる。今回は美肌とリラックス効果の有る薬湯さ。鮮やかなエメラルドグリーンの湯からは、ほんのり甘い香りが漂う。
「ナナさん」
湯船に浸かってくつろいでいたら、ハルカが話しかけてきた。
「なんだい? ハルカ」
「彼方は無事に帰れたんでしょうか?」
彼方の事が心配なんだね。そりゃ、あの子が『門』に入った後、どうなったか分からないしね。現状、連絡も取れないし。心配するのも無理はない。
「心配いらないよ。あのブローチに仕込まれた術式は完璧と言っていい。無事に向こうに帰っているさ」
「……ナナさんがそう言うなら、大丈夫ですね。ただ、帰ったところで母さんに間違いなく、怒られているだろうな。いきなり、いなくなった訳だし」
心配するハルカにフォローを入れておく。幸い、ハルカも気持ちを切り替えてくれた。この子に暗い顔はしてほしくないからね。
「ところでナナさん」
「なんだい?」
また、新しい話題を振ってくるハルカ。
「ナナさんは今回の事件は何者かが仕組んだ事だって言いましたよね」
「まぁね」
「一体、誰なんでしょうね? 凄く高度な術式が組まれていたんでしょう? ただ者ではないですよね。しかも、使い手の少ない天界式。やっぱり、天界の関係者絡みだと僕は思うんですけど」
……やっぱり、そこを聞いてくるよね。まぁ、私も同じ立場なら聞くだろう。誰だって聞くだろう。
「まぁ、天界の奴ら絡みは確かだろうね。目的は分からないけどさ」
「気になりますよね」
「ハルカ、あんまり考え過ぎるんじゃないよ。今はゆっくり風呂を楽しみな」
「はい、ナナさん」
ハルカはまだ気になる様子だったけど、私に言われて素直に湯船でくつろぐ。実際、考えたところで、どうなるものでもなし。だが、ハルカに言った事に反して、私は今回の事件について考えていた。
今回の事件の発端となった、黒百合のブローチ。あれは、常軌を逸した品だった。仕込まれた術式が基本は天界式である事、2つの世界を一往復する1人用の品である事、起動方法、これら3つは分かったものの、中核を成す部分は全く未知の術式が組まれていて、この私の力を持ってしても分析不可能だった。あれを作ったのが誰かは知らないが、計り知れない実力者だ。以前の邪神ツクヨといい、ハルカはまた、厄介な奴に目を付けられたのかもしれない。
「あの、ナナさんどうしたんですか? もしかして寝てるんですか?」
「……あぁ、ゴメン。ちょっと考え事をしててさ」
考え事に没頭してしまった私を心配して話しかけてきたハルカ。寝てると思われたか。
「さ、ハルカ、風呂から出な。身体と髪を洗ってやるよ」
気分を切り替える為に、一旦、風呂から出る。それにハルカの身体と髪を洗ってやるのは良い師弟のコミュニケーションになるからね。
「大丈夫ですよ。僕1人で洗えますから」
自分で出来ると言うハルカだけど、ここは保護者権限発動。
「ごちゃごちゃ言うんじゃないよ。せっかく保護者の私が洗ってやるって言ってるんだ。あんたは言う事聞きな」
「……分かりました。それじゃ、お願いします」
なんだかんだ言っても、素直なハルカ。おとなしく言う事を聞いて、シャワーの前の風呂用椅子に座る。
「よし、まずは身体から洗うからね」
専用のスポンジにボディソープを泡立てて、ハルカの身体を洗う。しかし、いつ見ても綺麗な肌だねぇ。よく、白雪の様な肌と言うけど、ハルカの肌はまさにそれ。シミ一つ無い、白くてスベスベのみずみずしい肌。艶やかでサラサラの銀髪と相まって、神秘的な美しさだよ。同じ女である私ですら、思わず見とれる程さ。おっと、見とれてないで、ちゃんと洗ってやらないと。
ハルカの肌は肌目細やかな分、繊細でもあるからね。乱暴にゴシゴシ洗う訳にはいかない。真っ赤に腫れてしまう。だからボディソープの泡で汚れを浮かせて洗い流す。私はこんな生ぬるいやり方は嫌いなんだけどね。しかし、ハルカの肌を傷物には出来ないし。という訳で、ハルカの身体を優しく洗ってやる。
「気分はどうだい?」
「とても気持ち良いです。ナナさん、身体や髪を洗うのが上手ですね」
「……まぁね」
ハルカは素直に誉めてくれるが、私としては内心、複雑。なぜなら。
『過去に私が洗脳を施し、操り人形と化した美少女達の肉体を欲望のままに貪ってきたおかげだからね』
つまり、私は女の身体について知り尽くしている。どこをどうしたら女は気持ち良いかなど、今や手に取る様に分かる。絶対にハルカには言えないけどさ。
「よし、身体の方は終わり。次は髪を洗ってやるからね」
「はい、お願いしますね」
まぁ、今さらごちゃごちゃ考えても仕方ない。さて、今度はハルカの髪を洗ってやるか。髪は女の命っていうからね。特にハルカの銀髪は素晴らしいし。真心込めて、丁寧に洗ってやろう。
さてさて、無事にハルカの身体と髪を洗い終えたので、今度は私がハルカに洗って貰う番だ。現在、ハルカはボディソープを泡立てたスポンジで私の身体を洗ってくれている。
「それじゃ、流しますね」
「あぁ、頼むよ」
身体を洗い終えて、シャワーで洗い流してくれる。さて、次は髪を洗うか。昔は適当に済ませていたんだけど、きちんと手入れをして洗う様になった。ハルカも綺麗な髪だと褒めてくれたし。
「ありがとう。次は髪を洗うのを手伝っとくれ」
「はい、ナナさん」
素直な良い子だね。そして、ハルカに手伝って貰い、髪を洗う。ハルカの褒めてくれた私の黒髪。きちんと手入れしないとね。
こうして、2人揃って身体と髪を洗い終えたら、最後は仲良く湯船に浸かる。
「ハルカ、ちゃんと肩まで浸かるんだよ。100、数えたら出るからね」
「ナナさん、何度も言いますけど、僕を子供扱いしないでください」
「いいから、100数えな。ほら、1、2……」
「3、4……」
子供扱いするなと言っても結局、私に合わせて数え始めるハルカ。素直で可愛いね。
「さ、もう寝るよ。夜更かしは美容と健康の敵だからね」
風呂を済ませ、寝巻きに着替えて、しばらくくつろいでいたが、そろそろ寝ないと。そう思っていたら。
「ナナさん、今夜は一緒に寝たいんですけど……。構いませんか?」
おやおや、ハルカが私に甘えてきたよ。ハルカは邪神ツクヨによる誘拐事件以来、私に甘えてくる事が増えた。あれは本当に大事件だったからね。色々と心境に変化が有ったんだろう。ま、私としても悪い気はしない。ここは包容力の有る所を見せてやらないとね。
「あぁ、構わないよ。それじゃ。さっさと歯を磨いて寝るよ」
「はい」
嬉しそうなハルカ。本当に甘えん坊だねぇ。この子、17歳のはずなんだけど。
「あの……ナナさん」
「なんだい?」
場所は私の部屋。いよいよ、寝るんだけど、そこでハルカと軽い問答。
「やっぱり脱がないとダメですか?」
「当然」
私は既に全裸でベッドインしているのに対し、ハルカは愛用のヒヨコ柄の水色パジャマ姿。悪いけど、私と一緒のベッドで寝るからには、私のルールに従ってもらう。寝る時は全裸! それが私のルール。ハルカは恥ずかしそうにしているけど、既に何度もベッドを共にしているんだから、いい加減、慣れて欲しいんだけどねぇ。などと考えていたら、ハルカも覚悟を決めたらしい。
「分かりました、脱ぎます。初めてじゃないですし……」
そう言うと、パジャマを脱ぎ始めるハルカ。いやはや、眼福、眼福。良い目の保養になるよ。一緒に暮らしている私ならではの特権さ。
「あんまり、見ないでください!」
パジャマを脱ぐ所を私に見られるのが恥ずかしいらしく、大声を上げるハルカ。何を今さら。お互いに何度も裸を見ている間柄じゃないか。ま、そうこうしている内に、ハルカはパジャマを脱ぎ終え、畳んで片付ける。はい、一糸まとわぬ全裸のハルカの出来上がり。ちゃんと胸と下の大事な所は隠しているけど。全く、恥ずかしがりなんだから。私みたいに堂々と全裸を晒しな。ハルカが来るまでは、暑い日には全裸で過ごしていたし。さ、ベッドに入れてやるか。
「よしよし、ちゃんと脱いだね。ほら、早くベッドに入りな。風邪ひくよ」
「お邪魔します」
ベッドの掛け布団を捲って入る様に促すと、きちんと断りを入れてベッドインするハルカ。礼儀正しい子だね。そして入るなり、私に寄り添ってくる。お互いに全裸だからね。肌の感触や温もり、匂いなんかが直に伝わる。ハルカはほんのり甘い良い匂いがするんだ。あ~、堪らないね。今すぐにでもハルカを私の物にしたい。ハルカの身体を貪りたい。いやいや、堪えろ私。平常心、平常心。自制心、自制心。すると……。
「あの、ナナさん。その……しませんか?」
こりゃ、驚きだね。ハルカの方からお誘いが掛かったよ。こんなのは初めてだ。ハルカも恥ずかしいらしく、頬を赤く染めている。でもね。
「せっかくのお誘いは嬉しいけどね。ダメだよ。今夜はしない」
勿体ない気はするが、ここはあえて断る。そしたら、案の定、ハルカが噛みついてきた。
「どうしてですか? ナナさんは、その……僕とするのが好きじゃないですか。何かとセクハラや夜這いをするし」
……ずいぶんな言いぐさだね。まぁ、否定はしないけど。ここはきちんと説明しよう。
「ハルカ、今のあんたは彼方が帰った寂しさを私とする事で紛らわせたいだけだ。悪いけど、そんなのはお断りさ。私はね、したい時にするんだ。これはたとえ、あんたといえども譲れない。分かったかい?」
私に言われたハルカは図星だったらしく、シュンとなる。
「……すみません、その通りですナナさん」
うつむいたまま、謝ってきた。いや、別に謝らなくても良いんだけど。ふぅ、仕方ないね。
「全く、子供なんだから。ほら、よしよし」
私はハルカを抱き寄せ、頭を撫でてやる。彼方から聞いたけど、この子、頭を撫でられるのが好きだそうだし。
「もぅ! 子供扱いしないでくださいって、言ったでしょう!」
子供扱いされて怒るハルカ。良かった、もう、落ち込んでいないね。
「ふふん、私からすれば、あんたなんて、まだまだ子供さ。ほら、さっさと寝な。夜更かしは良くないんだろ?」
「む~~、分かりました。おやすみなさい、ナナさん」
「あぁ、おやすみ、ハルカ」
ベッドの中での話はこれまで。そろそろ寝る事にする。やれやれ、すったもんだの2日間だったよ。ふと、傍らのハルカを見ると、既に寝ていた。
「すぅ……すぅ……」
「寝付きの良い子だね。もう寝てるよ。……それだけ私を信頼してくれているって事か」
安らかな寝顔を見せるハルカ。そのサラサラの銀髪を優しく撫でてやる。
「さて、私も寝るか。おやすみ、ハルカ」
既に寝ているハルカにおやすみを言うと私も目を閉じる。明日の朝飯は何だろうね? 彼方の作ったカレーが残っているから、それかね? そんな事を考えて、私は眠りについた。
「ナナさん、起きてください! 朝ですよ!」
いつもの様に、ハルカに揺さぶられて起床。既にハルカはメイド姿。朝からきちんと身だしなみを整えている。毎度の事ながら、大したもんだよ。私は大きく伸びをしながら、ハルカと朝の挨拶を交わす。
「う~ん、良く寝た。おはようハルカ」
「おはようございます、ナナさん。とりあえず、シャワーを浴びてきたらどうですか? 僕は朝ごはんの準備をしますから」
「そうだね、そうするか。じゃ、行ってくるよ。朝飯は頼んだよ」
「はい」
ハルカとの会話を済ませ、浴室へ向かう。全裸だけどね。ハルカには以前はごちゃごちゃ言われたが、最近は何も言わなくなったね。諦めたみたいだ。
「おっ、やっぱり今朝は昨日のカレーかい?」
「はい、一晩寝かせたカレーは、一段と美味しいですから」
テーブルの上には2人分のカレー。ただし、昨日と違ってカレーライスではなく、カレーだけが深皿に入っている。パンに付けて食べるなり、ご飯を入れて食べるなり、その人次第という訳だ。
「ハルカ、ご飯を入れとくれ。私はカレーライスにして食べるから」
「はい、ナナさん」
ハルカは別の皿にご飯を盛り付け、持ってくる。私はそれを受け取り、カレーの皿にご飯を投入。カレーライスの出来上がり。ハルカはパンに付けて食べるらしく、トースト2枚を乗せた皿をテーブルに置く。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
もはや、ウチでは恒例のいただきますを私が言い、ハルカがそれに続く。さ、朝飯を頂くとしよう。昨日と違って、カツは無いものの、一晩寝かせたカレーはやはり美味い。食が進む。ハルカもトーストをちぎり、カレーを付けて食べている。
「ナナさん」
「なんだい?」
それぞれの食べ方でカレーを食べていたら、ハルカが話しかけてきた。
「美味しいですね、彼方の作ってくれたカレー」
「……あぁ、美味いね。あんたには及ばないけど、それでも、良い線行ってるよ」
見ればハルカは泣いていた。色々と思う所が有るんだろう。
「ハルカ、朝っぱらから泣くんじゃないよ。彼方はあんたを泣かせる為にカレーを作ったんじゃないんだから。ほら、しっかり食べる。年末は忙しいんだろう?」
「……そうですね、すみません」
「別に謝らなくても良いから。さっさと食べる。しばらく稽古は無しにするよ。年末年始は忙しいし、そこまで私も鬼じゃなし」
「助かります。さすがに年末年始の用事と稽古の両立は辛いですから」
この子にとっては異世界で迎える初めての年末年始だからね。それぐらいの気遣い、私だってするさ。ま、落ち着いたら、また稽古の再開だけどね。覚悟するんだよ、ハルカ。新年からは、更に厳しい内容にするからね。
朝飯も終わり、後片付け。ハルカは使った食器や鍋を流し台に持って行ったんだけど、なぜか手が止まっている。普段なら、てきぱきと洗い物を済ませているんだけど。
「どうしたんだい、ハルカ? 手が止まっているじゃないか」
気になって聞いてみた。すると、しばしの沈黙の後、やっと話してくれた。
「…………彼方の作ってくれたカレーの入っていたお鍋を洗うのが、なんだか名残惜しくて。……はは、何やってるんでしょうね、僕」
またしても、泣きそうなハルカ。ふぅ、本当に世話の焼ける子だね。
「大丈夫だよ、ハルカ」
私はそう言うと、ハルカを後ろから抱き締める。
「言っただろ? あんたを元の世界へ行かせてやるって。私を信じな。あんた私を誰だと思っているんだい? 私は伝説の三大魔女の一角、ナナさんだよ。それでも信じられないかい?」
ハルカを抱き締めたまま、話を続ける。
「そうでしたね。……僕、ナナさんを信じます。ナナさんなら、必ず僕を元の世界へ行かせてくれるって」
良かった、持ち直したね。笑顔を見せてくれるハルカ。
「あぁ、約束するよ。必ずあんたを元の世界へ行かせてやる。それじゃ、さっさと洗い物を済ませな。年末は忙しいんだろ?」
「はい!」
元気に返事をして洗い物を始めるハルカ。ようやく、吹っ切れたみたいだね。さて、私も頑張らないとね。なんとしても、ハルカを元の世界へ行かせる方法を確立しないとね。我ながら、責任重大だねぇ。
???side
「ふむ、あれがハルカ ・アマノガワと、師匠の名無しの魔女こと、ナナか。実に興味深いな。特にハルカ・アマノガワ、あの『邪神ツクヨに気に入られる逸材』とはな」
「おや? 珍しいですねカオル。貴女が誰かに興味を示すとは 」
「アンジュか。いやなに、久しぶりに面白そうな奴を見つけたからな。何せ、あの邪神ツクヨが気に入った相手だ。あいつ自体は気に入らんが、見る目は確かだからな。とりあえず、ジュリに頼んで、私の作ったブローチを使い、ハルカ・アマノガワと妹を再会させてみた。家族思いの良い子だな」
「そうですね、転生者にはゲスが多いですが、彼女は実に清らかな心の持ち主と私も見ました」
「……しかし、こうして遠くから見ているだけでは、その者の本質を掴みきれんな。アンジュ、仕事を前倒しで片付けるぞ。時間を作って、私直々にハルカ・アマノガワを見極める」
「貴女がそこまで言うとは……分かりました。カオル、私も付き合います。私達、2人で彼女を見極めましょう。太古の魔王、魔氷女王の身体と力を持つ彼女を」
「すまんな、アンジュ。ハルカ・アマノガワ。私達の眼を持って見極めさせて貰うぞ。そして、事と次第によっては……『抹殺』する」
読者の皆様、お久しぶりです。僕と魔女さん、第七十話をお届けします。
今回は彼方が帰った後のナナさん視点の話でした。せっかく再会した妹、彼方と再び離ればなれになり、悲しむハルカ。確かにハルカは良く出来た子です。優秀です。でも、それ以上に一人の心優しい、繊細な子です。そんなハルカを受け止めるナナさん、なんだかんだで良い保護者です。
その一方で、不穏な影も。前回の事件の発端となった黒百合のブローチを作った、カオルなる人物。邪神ツクヨを知っている上、ハルカの本質を見極めんと動き出しました。ナナさんの危惧は皮肉にも的中した様です。
では、また次回。