第6話 ハルカとミルフィーユのお茶会
『名無しの魔女』あらゆる魔法を極め、不老不死を得たという伝説の魔女の1人。絶大なる魔力を持ち、太古の禁呪を自在に操り、破壊と殺戮の限りを尽くしたと言われていますわ。
エスプレッソは、ハルカの保護者兼、雇用主兼、師匠のナナさんという女性をそう呼びましたわ。エスプレッソは性格最悪ですが、こういう事で冗談は言いませんわ。それにエスプレッソなら、本当に『名無しの魔女』を知っていてもおかしくないですわ。
「ふん、そっちこそ随分、久しぶりじゃないか。こんな所で執事をやっているとは思わなかったよ。この腐れキザ野郎」
「年増のガチ百合魔女に言われる筋合いは有りませんな」
そこへハルカが恐る恐る、尋ねましたわ。
「あの……ナナさんとエスプレッソさんはどういう関係なんですか? 知り合いなんですか?」
「昔、何度か殺り合った事が有るんだよ」
「結局、決着は付きませんでしたが」
ハルカが、びっくりしていますわね。説明してあげましょう。
「ハルカ、エスプレッソは人間ではなく、高位悪魔ですの。300年前から、スイーツブルグ家に執事として仕えていますの。過去に『名無しの魔女』と接触していてもおかしくないですわ」
「高位悪魔だなんて、怖くないんですか!?」
エスプレッソが高位悪魔だと聞いたハルカは『名無しの魔女』の後ろに隠れてしまいましたわ。
「大丈夫ですわ、エスプレッソは普通の悪魔とは一味違いますから」
「いかにも。このエスプレッソ、凡百のカス悪魔と一緒にされては困ります。ましてや、貴女の様な美しいお嬢さんに危害を加えるなど有り得ませんな」
「何、気取ってるんだい、この腐れキザ野郎」
「年増魔女は黙って頂けますかな」
2人の間の空気が険悪になってきましたわね。ハルカも怯えていますわ……。
「今度こそ、決着を付けてやるよ」
「ハッハッハ、魔女殿はボキャブラリーが貧困ですな」
シュン!
次の瞬間、2人共消えてしまいましたわ。どうやら、どこか異世界へ場所を変えた様ですわね。あの2人がまともにぶつかれば、大変な事になりますもの。
「あの、2人共、消えちゃいましたけど……」
「私達にはどうにも出来ませんわ。その内、帰って来るのではないかしら。とりあえず、私の部屋に行きましょう」
今、僕はミルフィーユさんの部屋にいる。しかも二人きりで。ミルフィーユさんの淹れてくれた紅茶と僕の手作りクッキーで、お茶会の最中。
部屋の内装や調度品は、皆、上品で落ち着いたデザイン。大変な高級品ばかりというのは僕にも分かった。部屋全体に気品が有る。流石は侯爵家のお嬢様だね。ナナさんの部屋とは大違いだよ。ナナさんの部屋はゲームやマンガやスナック菓子の袋やらが散らかっているし、お酒臭いし……。ナナさんも女性なんだから、少しは女らしくして欲しいよ。
それにしても、緊張するなぁ。同年代の女の子と二人きりだなんて。前世では姉さんと妹がいたけど、それともまた違うし。一体、どうすれば良いのかな? すると、ミルフィーユさんが話しかけてきた。
「そんなに緊張する事はありませんわ。楽になさって」
「いやその……僕こんな風に同年代の女の子と二人きりって初めてなんで。姉さんや妹とも、また違うし」
「フフフ、ハルカは不思議な人ですわね。何だか、同年代の殿方の様ですわ。話し方もそうですし」
ヤバい、やっぱり不自然に思われてる。とはいっても、前世では男として生きてきたんだもの。今さら、女らしくはなれないよ。
「あの、やっぱり変ですか? 僕」
「個性的な人だと思いますわ。少なくとも、今まで私の周りにはいなかったタイプですわ」
そりゃそうでしょうね。僕は、今でこそ女だけど、元は男の転生者だからね。
「それにしても驚きましたわ。ハルカの保護者兼、雇用主兼、師匠が伝説の『名無しの魔女』だったなんて。ハルカから聞いた話から、大変な実力者とは思っていましたけれど。一体、どういった縁で知り合ったんですの?」
「えっと、その事は秘密です。先日も言いましたけど、僕にも事情が有るので。それに伝説の魔女と言っても、ナナさんって普段はかなりダメな人ですよ。家事全般は出来ないし、生活態度はだらしないし、食べ物の好き嫌いは多いし、オタクだし、酒好きだし、セクハラするし。確かに凄い人ではありますけどね……」
あ、何かミルフィーユさんがショック受けてる。伝説の魔女に対するイメージをぶち壊しちゃったみたい。でも事実だしね。僕としては特にセクハラをやめて欲しいよ。隙有らば、仕掛けて来るからね。
「ハルカ……その話は本当ですの?」
「本当ですよ。ナナさんはこんな人です」
「伝説の『名無しの魔女』のイメージが一気に崩壊しましたわ。後、セクハラって何をされましたの?」
「そうですね……隙有らば胸を揉まれます。他にもお尻を触られたり、お風呂に乱入されたり」
「ハルカ、貴女よくそんな事をされてメイドとしてやっていられますわね……。普通なら逃げ出しますわよ。それどころか訴訟問題になりますわよ」
「僕には他に行く当てが無いですから。それにナナさんはセクハラをしても、最後の一線を越える事はしませんし。後、ナナさんが凄い人なのも確かですし」
ナナさんは色々と困った人だけど、凄い人であるのもまた事実。僕がここまで強くなれたのも、ナナさんが鍛え上げてくれたから。僕一人じゃ無理だった。
「ハルカ、貴女、我が家で働きません? 貴女さえ良ければ、私が雇いますわ。あんな魔女の元で働くよりも、その方が貴女の為になりますわ」
ミルフィーユさんが僕の事を心配したらしく、そう提案してきた。優しい人だな、ミルフィーユさん。でも、僕はその提案を受ける訳にはいかない。僕はナナさんに恩が有る。ナナさんは、異世界に転生して行く当ての無い僕の頼みを聞いて、メイドとして雇ってくれた。見知らぬ他人の僕を。そしてこの世界で生き抜く為の術として、魔法や武術といった様々な事を教えてくれた。そんなナナさんを裏切る様な事は出来ない。
「すみません、ミルフィーユさん。有難い申し出ですが、それを受けるわけにはいきません。僕はナナさんに恩が有りますから」
「……そうですの、残念ですわね。でも、もしもの時は、遠慮無く来てくださいね」
「そうですね、その時はよろしくお願いします」
その後も色々と話し合う僕達。僕はナナさんとの暮らしの事。ミルフィーユさんは貴族の世界の事。お互いに、驚きの連続だったよ。正にカルチャーショック。
「驚きましたわ。『名無しの魔女』から、伝説の魔水晶の短剣を17歳の誕生日プレゼントに貰うなんて」
「ナナさんの知り合いのクローネさん、ファムさんも驚いてました」
「ちょっと待って下さる? クローネ、ファムってまさか『死者の女王』クローネ、『幻影の支配者』ファムの事じゃありませんの!?」
「その人達ですね。本人達もそう言ってましたし。でも、その呼び名、あまり気に入ってないそうです。可愛くないとか」
「ハルカ! クローネ、ファムと言えば、『名無しの魔女』と並び称される大魔女ですわよ!」
「ナナさんも私と同格の魔女って言ってましたね。でも、ナナさんと同じ様に全然怖くなかったですよ。誕生日プレゼントに魔道書を貰いましたし。後、一緒に色々遊びましたよ」
「ハルカ、貴女はとんでもない大物かもしれませんわね……。伝説の魔女達を怖くないと言うわ、一緒に遊ぶわ。伝説の魔女のイメージを粉砕していますわ……」
呆れ顔のミルフィーユさん。でも事実だしね。少なくとも僕の知っているナナさんは怖くない。ダメな所は多いけど優しい人。
「僕からすれば、ミルフィーユさんの方が凄いですよ。僕じゃ貴族の世界では、とてもやっていけません。しかも、小さい頃から立派な魔道師になるべく鍛練を積んできたんでしょう」
「それほどでもありませんわ。私にとってはそれが当たり前の事でしたし。魔道の名門、スイーツブルグ家の者として」
さらっと言う、ミルフィーユさん。小さい頃から天才、神童と呼ばれ、魔道師としての英才教育を受けながら、貴族の娘としての務めも果たしてきた。それがどれ程大変か、庶民の僕にはとても想像がつかない。
「それに私は三女ですし、上のお姉様達と比べれば、まだマシですわ。特に一番上は家の跡取り問題が絡んできますし」
「あ~、やっぱり貴族ってそういう事に厳しいんですね」
「貴族にとって、婚姻とは家の為に行う物。そこに個人の自由は有りませんわ。いずれ私もどこかの貴族と結婚する事になりますわ」
冷めた表情でそう言う、ミルフィーユさん。本当に貴族って大変なんだな……。僕がそう思っていた時。
コンコン
扉をノックする音が聞こえてきた。
「お入りなさい」
「失礼致します。ミルフィーユお嬢様、奥方様がお呼びです。お客様もご一緒にとの事です」
メイドさんの一人がそう伝えて来た。奥方様ってミルフィーユさんのお母さんの事だよね。ミルフィーユさんだけじゃなく、僕も一緒なんて何の用かな? まぁ、ご挨拶はしておいた方が良いよね。それに対して、ミルフィーユさんは浮かない顔。
「どうしたんですか、ミルフィーユさん?」
「今日は出かけていたはずなのに……。ハルカ、貴女に迷惑を掛ける事になりそうですわ」
僕はこの時、自分がどんな目に合わされるか、全く知るよしも無かった。
まだ、スイーツブルグ家での話は続きます。しかしネタが出ない。行き当たりばったりの駄作なので、作者にも何処に向かっているのか分からない迷走ぶり。誤字、脱字、文法上のミス等は指摘して頂けると幸いです。後、感想、新キャラや新魔法のアイデアもお待ちしています。バカ作者を助けると思ってお願いします。m(_ _)m