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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第67話 パーティー開始!! そして……

 ハルカside


 ミルフィーユさんとの模擬戦の後、一旦、自分の部屋に戻り着替えを済ませる。そして向かうはキッチン。夕飯にはまだ早いけど、今日のパーティーに備えて早めに準備をしないと。


「お待たせしました」


 キッチンには既に、エスプレッソさん、安国さん、彼方が来ていた。3人共、エプロンを付けて準備万端。


「おう、来たか嬢ちゃん」


「遅れてすみません。とりあえず、役割分担をしましょうか。エスプレッソさんはお芋とソーセージを茹でて、サラダを作ってください。僕と彼方さんは刺身の漬けを作ります。安国さんは食後のデザートを。他にも色々作るんで、よろしくお願いします」


 こうして手分けして調理を始める僕達。エスプレッソさんは大きな鍋に水を張り火に掛け茹でる準備。安国さんもフルーツを傍らに粉を練り始める。さて、僕もやらなきゃ。冷蔵庫から赤身魚の短冊を取り出す。さらに、醤油にみりん、料理酒も取り出し、漬け込み液を作る。


「彼方さん、この短冊を切って刺身にして、タッパーの中に漬け込んで。エスプレッソさん、お芋が茹で上がったら、少し分けてください。サラダの他にコロッケも作るんで」


「はい、まかせてくださいハルカさん」


「こちらも承知しました、ハルカ嬢。では、茹で上がったら幾つか取り分けておきましょう」


 刺身の漬けは彼方にまかせて、コロッケの準備を進める。もっとも、すぐには作らないけど。やっぱり揚げたてが一番美味しいからね。しかし、手伝ってくれる人達がいて本当に助かるよ。今回はパーティーだから人数が多いし、ナナさんを始め、みんな良く食べるから、とにかく料理の作る量が多い。例えば、エスプレッソさんは大きな鍋でたくさんのお芋を茹でているし。さて、コロッケに使う挽き肉を出さなきゃ。






 彼方side


 刺身の漬けの仕込みが終わり、今はハルカさんと一緒に茹で上がったお芋の皮剥き。でも私、こういうチマチマした作業が苦手。めんどくさい。対してハルカさんとエスプレッソさんは嫌な顔一つせず、手際よくお芋の皮を剥いていく。


「よし、全部剥き終わりましたね。それじゃエスプレッソさん、このお芋とソーセージでサラダをお願いします。僕はこっちのお芋でコロッケを作ります」


「承知しました。サラダの方はお任せください。私もハルカ嬢のお手製コロッケ、楽しみにしております。実に美味ですからな」


「フフッ、ありがとうございます。彼方さん、コロッケ作りを手伝ってくれるかな?」


「はい、分かりました」


 するとハルカさんは皮を剥いたお芋の入ったボールを渡してきた。


「まずはこのお芋を潰しておいて。僕は挽き肉を炒めるからね。炒めたら、潰したお芋と混ぜ合わせて形を整えるから」


 そう言って、コンロに向かうハルカさん。手慣れた様子で、フライパンを火に掛け、挽き肉を炒め始める。私は私で皮を剥いたお芋をボールに入れて潰し始める。ハルカさんが作ろうとしているのは、コロッケの定番。ポテトコロッケか。クリームコロッケとか色々有るけど、私はポテトコロッケが一番好き。美味しかったな、ハル兄お手製のポテトコロッケ。つい、感傷的になる。おっといけない。ちゃんとお芋を潰さないと。再び手を動かしながら、ハルカさんの方を見る。


 何やら楽しそうに調理中。手際よくフライパンで挽き肉を炒めている。その後ろ姿にハル兄がダブって見えた。


「やっぱり似てるよね……」


 見た目は全然違うけど、雰囲気がそっくり。だから私は確かめる。仕掛けるタイミングを計ろう。







 ハルカside


「とりあえず、こんなものでしょう。エスプレッソさん、安国さん、彼方さん、お手伝いありがとうございました」


 4人で手分けして調理をしたおかげでかなり早くパーティーの料理の準備を済ませる事が出来た。エスプレッソさんが持ってきてくれたオードブルも有るし。


「いえいえ、お礼には及びませんよ、ハルカ嬢。この程度、お安いご用です」


「そう言うこった。気にすんな嬢ちゃん。それより夕飯のすき焼き頼むぜ」


「私も夕方からのパーティー楽しみにしています」


 3人共、笑顔で返してくれる。よ~し、夕方からのパーティー、頑張るぞ。


「それじゃ、お茶を出しますんで、リビングで待っていてくださいね」


 僕は3人にそう言うと、紅茶の準備を始める。お茶うけは何にしようかな?







「お待たせしました。あれ? ナナさんはともかく、クローネさんにファムさんもいない。エスプレッソさんまで」


 7人分の紅茶と少し考えて、選んだハムサンドを載せたお盆を持ってリビングに来たら、クローネさん、ファムさん、エスプレッソさんの姿が無かった。ナナさんはお昼を済ませた後、ブローチを調べる為にまた自分の部屋へと戻ったけど。


「あ、ハルカさん。さっきナナさんから、ブローチを調べるのを手伝って欲しいと連絡が有って、3人共行っちゃいました」


「やはり、ブローチの分析は一筋縄ではいかないみたいですわね。私も手伝いたかったのですが、力不足と言われてしまいましたわ。まだまだ私も修行が足りませんわね」


「俺と彼方嬢ちゃんは魔法は専門外だし、ミルフィーユ嬢ちゃんもそんな訳でここで留守番だ。おっ、美味そうなサンドイッチだな」


「ハムサンドにしてみました。じゃ、後でナナさんの部屋に差し入れを持って行きます」


 テーブルの上に彼方とミルフィーユさんと安国さんの分の紅茶とハムサンドを置いて、もう一度キッチンへ。ツナサンドも作ろうかな。







 コン、コン、コン。


「ナナさん、ハルカです。差し入れを持って来ました。入っても良いですか?」


 キッチンでツナサンドを追加し、人数分の紅茶も用意してナナさんの部屋の前へ。まずは3回ノックをして、入って良いか聞く。


「おや、差し入れかい? 良いよ、入ってきな」


 部屋の中からナナさんの返事が来たので、中に入る。


「失礼します。ハムサンドとツナサンド。それに紅茶を持って来ました」


「へぇ、サンドイッチかい。ちょうど小腹が空いていた所だったんだよ。いや、頭を使うと腹が減るね」


 大きく伸びをしながら言うナナさん。クローネさん、ファムさん、エスプレッソさんはそれほどでもないみたい。


「では、さっそく頂こうではないか。我はハムサンドを貰おう」


「アタシ、ツナサンド!」


 小さなテーブルを出してもらい、その上にサンドイッチと紅茶を載せたお盆を置くと、すぐさま手を伸ばすクローネさんとファムさん。


「あ、コラ! 私の分が無くなる!」


「落ち着きなさい、ナナ殿。さて、私は紅茶を頂きましょう」


 自分より先にサンドイッチに手を出された事に怒るナナさんと、たしなめるエスプレッソさん。何はともあれ、休憩の一時。







「ハルカ、あのブローチだけどね。調べたかい有って、もう少しで解明出来るよ」


 右手にハムサンド、左手に紅茶の入ったティーカップを持ちながら、そう話すナナさん。


「本当ですか! 良かった、これで彼方を元の世界に戻してあげられる」


 ナナさんからの良い知らせに喜ぶ僕。だが、ナナさんは僕をたしなめる様に続ける。


「待ちな、ハルカ。人の話は最後まできちんと聞きな。私はもう少しで解明出来ると言っただけ。解明したとは言ってない」


「あ……そうでしたね……。すみません。つい、嬉しくなって……」


 そう、ナナさんは解明したとは言ってない。まだ解明中なんだ。


「それにね……」


 まだ、何かを続けるナナさん。


「何ですか?」


「あのブローチ、珍しい術式が使われていたのさ。ハルカ、あんたに教えただろ? 色々な術式が有るって」


「はい、現在、主流の近代式。他にも古代式、天界式、魔界式、地獄式、精霊式なんかが有りますね」


「よしよし、ちゃんと覚えているね。大いに結構」


 満足そうにうなずくナナさん。


「で、だ。調べた結果、あのブローチに使われている術式は天界式をベースに改良されたものと判明したのさ。ただでさえ、使い手の少ない天界式。それも今まで見た事が無い程、高度な術式さ。誰がやったのかは分からないけど、やった奴は正に化け物さ。全く、嫌になるね」


 ナナさんは渋い顔をしながらハムサンドにかぶり付き、紅茶で流し込む。


「ハルカよ、こう言ってはなんだが、君の妹はとんでもない相手に目を付けられたのやも知れぬ」


 同じく、紅茶をすすりながら言うクローネさん。


「彼方は大丈夫なんでしょうか? 心配です……」


 そもそも、彼方がこちらの世界に来た事自体、何者が仕組んだ事。ナナさんをして、化け物と言わしめる程の相手。しかも目的が分からないのが不気味。もし。彼方に何か有ったら………。不安に駈られる僕にファムさんがフォローを入れてくれた。


「落ち着いて、ハルカちゃん。相手の目的は分からないけど、彼方ちゃんに危害を加える気は無いと思うよ。それなら、もっと手っ取り早く殺せる術式なり、何なり仕込むはず」


「むしろ、真の目的はハルカ嬢と思われますな。ハルカ嬢と妹君の彼方嬢を再会させ、その様子を見ているのではないかと。それに何の意味が有るのかは不明ですが。ハルカ嬢、くれぐれもご用心を」


「……そうですね。どちらかといえば、やはり彼方より僕目当てと考えた方が自然ですよね。気を付けます」


 相手の目的が分からない以上、出来る事は限られている。少なくとも、彼方に危害を加える気は無さそうなのがせめてもの救いか。そうこうしている内にサンドイッチは全て無くなった。そろそろ戻らないと。


「ナナさん、僕はそろそろ戻ります。皆さんはどうされますか?」


「私達はまたブローチを調べるよ。夕飯の時間になったら呼んどくれ」


 皆を代表して言うナナさん。


「分かりました。夕飯の時間になったら呼びに行きます。くれぐれも無理はしないでくださいね」


「分かってるって。それじゃ、夕飯楽しみにしてるよ」


「はい、では失礼します」


 こうして僕はナナさんの部屋を後にした。それにしても気になる。彼方をこちらに送り込んできた相手の目的、そして正体。天界式の術式の使い手か……。







 彼方side


 ナナさんの部屋から戻ってきたハルカさんから、ブローチの分析が進んでおり、もう少しで解明出来るとの話を聞いた私。元の世界に帰れる希望が見えてきたのは嬉しいけど、やはりハルカさんの正体が気になる。なんとしても、帰る前に確かめなきゃ。


 その後は、ハルカさん、ミルフィーユさん、安国さんとパーティーに向けての部屋の飾り付けなんかを。そして迎えた夕方。いよいよ、パーティーだ。


 人数が多いので、ダイニングではなく、リビングをパーティーの場に。既に余計な物は他所に移され、大きなテーブルが置かれている。後、人数分の椅子も。部屋の中もクリスマスイブらしく綺麗に飾り付けられ華やかな雰囲気。料理も準備完了。いつでもパーティーを始められる。


「よし、パーティーの準備完了ですね。それじゃ、僕、ナナさん達を呼んできますね」


 そう言うとハルカさんはパタパタと軽い足音を立てながらナナさんの部屋へと向かっていった。見るからに足取りも軽く、楽しそう。






 しばらくして、ハルカさんがナナさん達と一緒に戻ってきた。


「待たせたね。ほら、みんなさっさと席に着きな」


 このお屋敷の主のナナさんがその場を仕切り、全員席に着く。


「それじゃ、パーティーを始めるよ! 全員グラスは持ったね? 乾杯!」


「「「「「「「乾杯!」」」」」」」


 ナナさんの乾杯の音頭に皆が続く。さぁ、パーティーの始まり。







「お肉もご飯もたくさん有りますから、皆さん存分に食べてください。それとナナさん、お肉ばっかりじゃなく、ちゃんと野菜も食べてくださいね」


「わざわざ、名指しで言うんじゃないよ。全くもう」


「さすがはハルカ嬢。ナナ殿の健康管理もバッチリですな」


 すき焼きに手を伸ばそうとしたナナさんにきっちり、釘を刺すハルカさん。言われてふてくされるナナさんだけど、正論だしね。エスプレッソさんもハルカさんを褒める。


「まぁまぁ、ナナさん。せっかくのパーティーなんですから。早く食べましょう」


 とりあえず、ナナさんにフォローを入れて、私もすき焼きに手を伸ばす。うん、本当に美味しそう。


「お~、旨そうだね~。この甘辛い匂い、たまらないね~。どれ、さっそく」


 テーブルの真ん中。大きな鉄鍋の中でグツグツと良い感じに煮えているすき焼き。ナナさん、お箸を手にお肉をたっぷり取る。っていうか、この人器用にお箸を使うよね。日本人じゃないのに。見れば他の人達も同じく、器用にお箸を使っている。突っ込みはやめよう。


「旨い! 良い肉だね、こいつは!」


 お肉を頬張り、幸せそうに言うナナさん。続けてご飯をモリモリ。


「全くだぜ、こいつは美味い! 嬢ちゃん、メシおかわり! 大盛りで頼むぜ!」


 安国さんは豪快にお肉と野菜をご飯の上に盛り付け、これまた豪快にかき込む。お茶碗というより、どんぶり鉢なのに、あっという間に空にしてしまう。


「はい、分かりました。すぐによそいますね」


 安国さんからどんぶり鉢を受け取り、大きな炊飯器から、ご飯をよそうハルカさん。


「ハルカ、ビール持ってきて! ビール!」


「我はワインを頼む。赤の方でな」


「ハルカちゃん。お肉追加~」


「はい、ちょっと待ってください。すぐに済ませますから」


 安国さんのおかわりのご飯をよそうハルカさんに次々と注文が飛ぶ。いくらハルカさんがメイドとはいえ、これは酷くない? せっかくのパーティーなのに、ハルカさんが料理を食べられないじゃない。まだ、コロッケも揚げないといけないし。これは手伝うべきよね。


「ハルカさん、手伝いますよ。これじゃ、ハルカさんがご飯を食べられないじゃないですか。せっかく、作ったのに」


 私が手伝いを申し出ると、ハルカさんは笑って返してくれた。


「ありがとう、彼方さん。でも、大丈夫。今から手を増やすから」


「は?」


 手を増やす? 一瞬、アシュ〇マンばりに、顔と腕の増えたハルカさんを想像し、そのシュールさに軽く引く。


「……何か変な想像をしてない?」


 冷ややかな目で見るハルカさん。


「まぁ、説明するより、直接見た方が早いね」


 ハルカさんが言うと、突然、空中に4つの水の塊が現れた。大きさは大体、ハルカさんと同じぐらい。それだけでも驚いたけど、さらに驚く事が起きた。4つの水の塊が変形を始めた。丸い塊が縦に伸び、続いて、一番上からやや下がった左右から1本ずつ細長く伸びる。一番下の部分の左右からも1本ずつ伸びる。水の塊はだんだんと形を変え、何かの姿を取り始める。そして……。


 ハルカさんが4人現れた!


「驚いた? 彼方さん。これは水分身だよ。さてと、1号はナナさんにビール、クローネさんに赤ワインを持って行って。2号はお肉の追加を持って行って。3号はこのご飯を安国さんの所へ。4号はコロッケを揚げて、出来たら持って来て」


「「「「分かりました、本体」」」」


 ハルカさんは私に説明した後、分身達に指示を出し、分身達はそれぞれ働き始める。ハルカさんが全部で5人。シュールな光景……。


「さ、戻ってご飯を食べようか。早くしないとナナさん達に全部食べられちゃうよ」


 言われてみれば確かに。ナナさん達、凄い勢いで食べているし。


「はい、ハルカさん」


 とりあえず、面倒事は分身達に任せよう。せっかくのパーティーだもの。ご馳走を食べられないなんて嫌だし。それに、『そろそろ、仕掛ける時』だし。






「このコロッケ、美味しいですわね。私、あちこちの一流の料理店に行った事が有りますが、これ程の味には巡りあった事が有りませんわ。さすがはハルカですわね」


 ハルカさんの分身が持って来てくれた揚げたてのコロッケを絶賛するミルフィーユさん。


「いや、全く。素晴らしい味ですな。以前、ご馳走になった時より、更に美味しくなっておりますな。いやはや、このエスプレッソ、感服致しました」


「ちょっと、エスプレッソ。貴方、いつの間に?」


「いや、以前、紅茶のお裾分けに伺った際にたまたま揚げたてのコロッケをお礼にご馳走になりまして」


「ずるいじゃありませんの! エスプレッソ!」


「ミルフィーユお嬢様、その様な意地汚い発言は、はしたないですぞ。スイーツブルグ侯爵家の三女としての立場をお忘れなく」


 エスプレッソさんが一足早くハルカさんのコロッケを食べていた事を知り、怒るミルフィーユさん。それをさらっと返す辺り、やっぱりエスプレッソさんの方が上手。


「ソーセージが茹で上がりましたよ。冷めない内に召し上がれ」


 あ、ハルカさんの分身が茹でたてのソーセージを持って来てくれた。しかし、凄い量。3つのお皿に山盛り。確か、普通、スパイシー、ハーブの3種類だっけ。


「待ってたよ! どれ、1本」


 すぐさま、ソーセージを手づかみで取り、かぶり付くナナさん。


「う~ん! 肉の旨みとスパイスが絶妙だね~。ビールが進むよ! ほら、ビール! ビール!」


「手づかみなんて行儀が悪いですよ! それにお肉ばっかり食べないでくださいって言ったでしょう! ほら、ナナさん、ちゃんとサラダも食べてください。わざわざナナさんの為に、お芋とソーセージを使ったサラダにしたんですからね」


 お肉優先で食べるナナさんに野菜を食べさせようとするハルカさん。あのサラダ、お芋をメインにソーセージと各種野菜を使って作ったんだよね。ナナさんの野菜嫌い対策として。


「嫌だね。何が悲しくて野菜なんか食べなきゃいけないんだい。私は肉が食べたいんだよ!」


 露骨に嫌な顔をするナナさん。そんなに野菜が嫌いですか。するとハルカさん、悲しそうな表情を浮かべる。


「……せっかくナナさんの為に作ったのに……」


 それを見て、ナナさん態度を急変。


「いただきます!」


 凄い勢いでサラダを食べ始める。あ、ちょっとナナさん、そんなに急いで食べたら……。


 心配していたら、案の定、喉に詰まらせる。


「!? んん~~~~っ!!!」


 苦しむナナさん。吐き出そうとしてもなかなか出ない。顔色もどんどん悪くなる。


「ナナさん、しっかりしてください!! ほら、吐き出して!!」


 慌ててナナさんの背中を叩くハルカさん。でも出ない。そこへ出てきたのはファムさん。


「もう、何やってるのナナちゃん。ハルカちゃん、ちょっと退いて。せ~のっ!」


 バン!


 ファムさんがナナさんの背中を叩くとあっさり詰まっていた物が吐き出された。あ、大きめのお芋とソーセージが詰まっていたんだ。


「ゲホゲホ! ふぅ……死ぬかと思ったよ……」


 咳き込むナナさんにハルカさんがぬるま湯の入ったカップを渡す。


「大丈夫ですか? ナナさん」


 訊ねるハルカさんにぬるま湯を飲み干したナナさんが答える。


「……ふぅ。ありがとう。もう大丈夫だよ。心配させて悪かったね」


「あんなに急いで食べるからですよ。そりゃ、野菜は食べて欲しいですけど、事故を起こされたら本末転倒じゃないですか。落ち着いて食べてくださいね」


「分かったよ。弟子に言われるようじゃ、私もまだまだだね」


 なんとか、事なきを得て胸を撫で下ろす私。良かった。せっかくのパーティーが台無しになる所だったし。







 さて、ナナさんが復帰。パーティーはまだまだ続く。


「この刺身の漬けとやらは一風変わった味だな。この辺りでは生の魚料理は基本的に無いからな」


 器用にお箸を使って刺身の漬けを食べているクローネさん。このアルトバイン王国は内陸部に有るから、新鮮な魚介類が手に入りにくく、結果、刺身の類いが広まらなかったそう。


「こってりした肉料理だけじゃなく、こういうさっぱりした料理も良いよね~。あ、ハルカちゃん、ご飯おかわり」


 ファムさんは漬けをご飯に載せていわゆる、漬け丼にしている。


「ハルカ、肉追加! 後、ビール!」


「俺もビール追加!」


「ナナ様の食欲は底無しですわね」


「並みの家庭なら、食費だけで破綻していますな」


 その一方で、とにかく食べまくる、飲みまくるナナさんと安国さん。そんな2人を見て呆れるミルフィーユさんとエスプレッソさん。まぁ、そう言う2人もしっかり食べているんだけど。そしてハルカさんは四人の分身と共に忙しく働きつつ、合間を見て食べている。今は、ナナさんの注文のお肉を鉄鍋に追加している所。更に野菜や豆腐も入れている。忙しそうだけど、楽しそうでもある。みんなそれぞれの形でパーティーを楽しんでいる。


『そろそろかな』


 私はせっせと鉄鍋にお肉や野菜を追加しているハルカさんに話しかける。パーティーもたけなわで、ハルカさんが鉄鍋への食材追加に集中している今がチャンス。


「ねぇ、ハルカさん」


「ん、 何?」


 よほど、食材追加に集中しているのか、こちらを見ずに返事をするハルカさん。そこへ続けて話す。


「去年のクリスマスの事、覚えてる? ほら、クー姉がビーフシチューを作るって言い出したアレ。酷かったよね~」


 するとハルカさんは、『ごく自然に』答えた。


「うん、覚えてるよ。全く、姉さんったら、友達に弟に依存しているって言われたからって、いきなりビーフシチューを作ろうとするんだから。挙げ句、失敗してお鍋を焦げ付かせて台無しにした上、あれ、母さんが結婚した時に持ってきた物だから、母さん物凄く怒ったよね。怖かった~。…………あっ!」


 私の問いに『ごく自然に答えた』直後、声を上げるハルカさん。私はすかさず、追い討ちをかける。


「あれ~。ハルカさん、貴女なぜ『去年のウチのクリスマス』について知っているんですか? しかも、ウチの母さんが結婚した時に持ってきたお鍋の事まで」


「えっと……それは……」


 明らかに狼狽するハルカさん。見れば安国さん以外の人達も気まずい表情。


「……この、バカ」


 ナナさんが小声で呟くのが聞こえた。自慢じゃないけど、耳は良いんだ私。


 私はトドメを刺す。


「いい加減、下手な芝居はやめたら? ハルカさん。ううん、『ハル兄!!』」







読者の皆さん、お久しぶりです。僕と魔女さん、第六十七話をお届けします。


相変わらずのスランプ中で、ネタは浮かばない、浮かんでも書けない、ズルズルと時間ばかり浪費してしまいました。大変申し訳ありませんでした。


さて、わりとあっさり、彼方にハルカの正体がバレました。彼方の秘策、それは家族でなければ知らない事でカマをかける事でした。あっさり引っ掛かり過ぎだろう、ハルカはバカなのか? と、突っ込む方もおられるでしょうが、作中でも語りましたが、ハルカは心優しく、素直な性格で、嘘や隠し事は苦手です。妹である彼方はその辺の事を良く知っていますからね。だから、ハルカが他の事に集中している時を狙い、なおかつ、家族としての親しげな口調で話しかけ、まんまとハルカを引っ掛けました。


彼方の容姿ですが、日本人なので黒髪、黒目。ショートカットの小柄ながら活発なタイプの美少女です。勉強の成績は中の上。運動神経はかなりの物。ソフトボール部所属で、エースピッチャーを務めていましたが、兄、遥の死により家事をしなければならなくなったので退部。今は帰宅部です。


彼方編完結まで後、二話です。出来るだけ早く仕上げようと思っていますので、よろしくお願いいたします。

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