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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第66話 ミルフィーユお嬢様は、ありきたりな御令嬢にあらず

 ハルカside


 夕方からのパーティーだったのに、お昼過ぎに来てしまったミルフィーユさんを始めとするお客様達。とりあえず上がってもらい、リビングへ。彼方の事も有るしね。


「お待たせしました。紅茶をどうぞ」


 キッチンで人数分の紅茶を淹れて、リビングに持って行く。彼方は僕に付き添っている。さて、どう彼方の事を切り出すかな。ナナさんが事前に知らせておいてくれたそうだけど。彼方もなんだか気まずそうだしね。ここはさっさと紹介を済ませるべきか。


「えっと、皆さん紹介しますね。こちら、天之川 彼方さん。事故というか、何というか、突然、こちらの世界に来てしまった方です。元の世界に戻る方法が見つかるまで、うちに滞在する事になりました」


 まずは僕が彼方を紹介。続いて彼方が自己紹介。


「あの、はじめまして。ハルカさんから紹介に預かりました、天之川 彼方です。その、自分の部屋で着替えていた時に、おかしな事が起きてこの世界に来てしまいました。いつまで居るか分かりませんけど、よろしくお願いします」


 そう言って、ペコリと頭を下げる彼方。うん、初対面の挨拶としてはこんなものかな。そして、彼方の自己紹介に対し、他の皆さんも自己紹介を始める。まずはミルフィーユさん。続いて、エスプレッソさん。クローネさん。ファムさん。安国さん。事前に僕から聞いていたとはいえ、そうそうたるメンバー揃いに、改めて感心する彼方。


 その後はみんなで紅茶を楽しみながら、色々とおしゃべり。


「ところで、ハルカ嬢。ナナ殿はいかがなされたのですか? 姿が見えませんが」


 ナナさんがこの場にいない事を聞いてきたエスプレッソさん。


「ナナさんは今、ちょっと調べ物をしているんです。呼んできますね」


 僕は今も自分の部屋でブローチを調べているだろうナナさんを呼びにリビングを後にした。






 彼方side


 ハルカさんがナナさんを呼びに行ってしまい、今は私とお客様達だけ。う~ん、何か気まずい。良い話題は無いかな? 他の人達も話しかけるタイミングを伺っているみたいな。すると執事のエスプレッソさんが話しかけてきた。


「そう、畏まらなくても結構ですよ、彼方嬢。ここに些細な事で因縁を付ける様なくだらない輩はおりませんので安心してください。しかし、災難でしたね。突然、異世界に飛ばされるとは。ただ、無事にたどり着けた事、及び、ハルカ嬢、ナナ殿と出会えた事は不幸中の幸いでしたな」


 そこへ、スキンヘッドにサングラスの強面マッチョ男の安国さんが続ける。


「全くだぜ。お嬢ちゃん、お前さん本当についてるぜ。異世界に飛ばされた場合、出る場所は基本的にバラバラでな。飛ばされた奴の中には遥か上空に放り出されてそのまま地面に激突死したり、深海に出て死んだり、ジャングルや砂漠、戦場、その他ヤバい所に出て死ぬ奴も多いんだ。異世界に来た途端に人生終了ってな。笑えねぇ」


「うわ……確かに笑えませんね……。良かった。私、死ななくて……」


 一つ間違えば、異世界に来た途端に死んでいたかもしれなかったと聞かされ、改めて異世界トリップは甘くないと痛感。よく有りがちな異世界トリップ物みたいにはいかないのね。


 今度はファムさん。


「アタシから質問だけど、彼方ちゃんはどうしてこの世界に来たの? 事故とか言ってたけど?」


「我もそこは気になるな。異世界トリップなど、そうそう有る事故ではないからな」


 私が異世界に飛ばされた原因について聞いてきたファムさん。クローネさんもそれに続いてきた。


「その事なんですけど、実は昨日、夕飯の買い物帰りにアクセサリーの露店をやっていた怪しい女性から黒百合のブローチを買ったんです。で、今朝、着替えようとしてクローゼットを開けたら、その中が真っ暗になっていて吸い込まれたんです。そして気が付いたらここ、ナナさんのお屋敷に居たんです。ナナさんが言うには、黒百合のブローチが原因らしいんですけど」


 私はブローチを買った事。着替えの最中にクローゼットの中に吸い込まれてこの世界に来た事。ブローチが原因らしい事を話す。


「どう考えても普通の人間とは思えませんわね、その露店の女性。異世界への転移を可能とするほどの術式を小さなブローチに仕込むなど、並大抵の者では不可能ですわ」


 金髪の御令嬢、ミルフィーユさんも話に加わってきた。そんなに凄い品だったんですか、あのブローチ。まぁ、売った露店の女性からして、見るからに怪しかったし。そうこうしている内に、ハルカさんがナナさんと一緒に戻ってきた。







「全く、気の早いこったね、あんた達。まだ昼過ぎだってのにさ」


 呆れた口調のナナさん。


「ナナさん、失礼ですよ」


 対して、ナナさんをたしなめるハルカさん。良いコンビね、この2人。そこへ会話に加わるのはエスプレッソさん。


「確かにおっしゃる通り。ですが、パーティーを始めるにも、準備が必要ですし、良く食べる方々が揃っている関係上、掛かる手間や時間もバカになりません。それをハルカ嬢お一人に全てを押し付ける訳には参りませんからな。微力ながらお手伝いをしようと思いまして。あぁ、ハルカ嬢。当家のシェフより預り物が有ります。今回のパーティーの為に腕を振るったオードブルです。言伝ても預かっております。また、料理の腕比べをしようとの事です」


 エスプレッソさんの言葉を聞いて嬉しそうなハルカさん。


「ありがとうございますエスプレッソさん。助かります。シェフにもお礼を伝えてください。後、また腕比べをしましょうと」


「喜んでいただけて何より。それとシェフへの言伝て、確かに承りました」


 礼儀正しく一礼して答えるエスプレッソさん。いや~、一々ビシッと決まっている。まさに敏腕執事。


「なるほどね、エスプレッソはハルカの手伝いとオードブルを持ってきたと。ハゲはケーキを持ってきたんだよね。ところで、クローネ、ファム、あんた達は何か持ってきたのかい? まさか手ぶらじゃないだろうね? ミルフィーユはまぁ、エスプレッソとセットだから良いけど」


 エスプレッソさんの話を聞いてナナさんは他の二人、クローネさん、ファムさんに話をふる。


「もちろん持ってきたぞ。ほら、我からは秘蔵のワインだ。あいにく、未成年ゆえにハルカとミルフィーユは飲めんがな」


「アタシは果物を持ってきたよ。後でハゲっちにデザートを作って貰おうと思ってさ」


 そう言って2人は空中からワインと果物を出す。


「あの、ワインはともかく、その果物、大丈夫ですか? 前に海に行った時みたいに変な果物じゃないですよね?」


「大丈夫だって。安心して食べて良いよハルカちゃん」


「なら、良いんですけど……。本当に変な果物はやめてくださいね」


 にこやかなファムさんと、なにやら心配そうなハルカさん。っていうか、この人以前、どんな果物出したの?


 その後、ハルカさん、ナナさんも加わってのティータイム。


「あの、ハルカ。少々、お願いが有るんですけど………」


「何ですか? ミルフィーユさん」


 ティータイムの最中、ハルカさんに話を切り出すミルフィーユさん。どうしたんだろう?


「久しぶりに手合わせをしません? ここ、しばらくやっていませんでしたし」


「良いですよ。確かにしばらくミルフィーユさんとの手合わせをしていませんでしたし」


 は? 手合わせ? 2人の会話についていけない私。そこへ呆れた様子のエスプレッソさん。


「やれやれ、今日はせっかくのパーティーだというのに、ミルフィーユお嬢様はとんだ戦闘狂でいらっしゃる」


 私はエスプレッソさんに聞いた。


「あの、手合わせってどういう事なんですか?! ハルカさんはメイドだし、ミルフィーユさんは侯爵家令嬢でしょう? そんな事する必要無いじゃないですか!」


 それに対し、エスプレッソさんは答えてくれた。


「彼方嬢、当家の家訓は文武両道を持って尊しと成すでございます。ミルフィーユお嬢様も幼い頃より徹底的に魔道と武術を叩き込まれてきました。そしてハルカ嬢ですが、こちらの世界のメイドは単に主に仕えるだけではなく、時に主の剣となり、盾となりて戦う事も務めの内。そして、伝説の魔女の1人であるナナ殿の弟子でもありますからな。あっさり負ける様では話になりません」


 さらっと言うエスプレッソさん。でも、その内容には驚かされた。戦う事もメイドの務めって。そんな私の事はお構い無しにハルカさんとミルフィーユさんは話を進めている。


「それじゃミルフィーユさん、トレーニングルームに行きましょう」


「えぇ。今日こそは勝ちますわよ」


「僕だって負けませんよ」


 お互いに話ながら、どこかに向かう2人。


「私も行きます!」


 思わず大声を出してしまった。だって、ハル兄はケンカや暴力なんかとは無縁の優しい性格。そのハル兄の生まれ変わりかもしれないハルカさんがミルフィーユさんと手合わせをすると。生前のハル兄を知る私としては信じられない。


「では、私が審判を務めましょう。それでは皆さん、また後ほど」


 エスプレッソさんが審判を買って出る。こうして、トレーニングルームに向かう私達、四人。ハルカさん、本当に手合わせするんですか? あの優しいハル兄の生まれ変わりかもしれない貴女が……。







 ハルカside


 ナナさんの屋敷の地下に有るトレーニングルーム。僕はここでナナさんに度々、稽古を付けて貰っている。今回はミルフィーユさんとの模擬戦。最近はお互いになかなか都合が付かなくて出来なかったからね。とりあえず、模擬戦前に僕とミルフィーユさんは軽く柔軟体操を済ませる。ちゃんと身体をほぐしておかないと。そして、トレーニングルームの中心でお互いに向き合う。


「ミルフィーユさん、今回の模擬戦は武器有りと無しどちらにします?」


「有りにしましょう。更に魔法の使用も可で」


 ミルフィーユさんに今回の模擬戦のルールを聞いて決める。今回は武器、魔法共に有りか。模擬戦ではあるものの、より実戦に近付けたルール。ミルフィーユさんの意気込みが伝わってくる。


「分かりました。では」


「えぇ」


 僕とミルフィーユさんはそれぞれ、模擬戦用の武器を亜空間収納から取り出す。僕は二振りの小太刀。ミルフィーユさんは一振りの細身の直剣。お互いに武器を手にし、構えを取る。そこへ彼方が声を上げる。


「ちょっと、エスプレッソさん! これ模擬戦でしょう! 何ですか、あの武器! 模擬戦に使うような物じゃないでしょう!」


 怒り心頭な彼方。やっぱりそう思うよね。だって僕達が手にしているのは、竹刀等の試合用の物ではなく、金属製の物だから。しかも、防具とかは一切身に付けていないし。


「2人共、やめてください! そんな物を使ってケガしたら、どうするんですか?!」


 今度は僕達に対して言う彼方。心配してくれる、その気持ちはありがたいんだけどね。そこへエスプレッソさんが説明してくれる。


「落ち着いてください、彼方嬢。あれは真剣ではありません。模造品です」


「あ、そうなんですか……」


「もっとも、刃を落としただけで素材は真剣と同じですので、直撃したらタダでは済みませんが」


「やっぱりダメじゃないですか!」


 一旦、落ち着いたものの、エスプレッソさんの更なる発言にまた怒る彼方。そろそろ僕からも説明するかなと思っていたら、ミルフィーユさんに先を越された。


「彼方さん。私達を心配してくださるその気持ちは大変、ありがたいですわ。ですが、この模擬戦に口出しは無用に願いますわ。確かに危険なやり方ではありますわ。でも、それぐらいでないと役に立ちませんの。出来るだけ実戦に近付けた内容でないと。試合用の武器や防具を使ったやり方では、心のどこかにケガをしない。しても大した事は無いという甘えが出ますわ。それではダメですの。傷付き、苦しみ、反省する事で自らを高める事が出来ますの。………この世界はそんなに甘くありませんの。たとえば、この国も17年前まで、東の隣国、『龍華帝国』と戦争をしていましたし。今でこそ、休戦状態なものの、いつまた開戦するか分かりません。『和の中に有っても乱を忘れるなかれ』。これも当家の家訓ですわ」


「……………………」


 ミルフィーユさんのシビアな言葉に黙ってしまう彼方。僕からも何か言わないと。


「彼方さん、心配しないで。大丈夫、ケガをしても治療魔法が有るし、もしもの時に備えてエスプレッソさんもいてくれるから」


「……分かりました。でも、気を付けてくださいね」


 渋々といった態度ながらも引き下がる彼方。……ごめんね。


 彼方が引き下がったのを見て、僕とミルフィーユさんは改めて構えを取る。そしてミルフィーユさんがエスプレッソさんに声をかける。


「エスプレッソ、開始の合図を頼みますわ」


「かしこまりました。では、今回のルールはいつも通り。制限時間は30分。相手が降参、気絶、戦闘不能になれば即、終了。では、始め!」






 彼方side


 小太刀二刀流のハルカさんと、直剣一振りを手にするミルフィーユさん。しばらくどちらも動かず、にらみ合いが続く。


「彼方嬢、私の後ろに下がってください。これは模擬戦とはいえ、かなり実戦に近いものです。戦いのとばっちりを受けては一大事ですので」


「分かりました!」


 エスプレッソさんに言われて急いでその背後に下がる。本当に大丈夫かな、2人共。すると、ついに戦いの火蓋が切られた。先に仕掛けたのはミルフィーユさん。


「……シッ!!」


 片手持ちで鋭い突きを繰り出す。その事に私は驚く。いかに刃を落とした模造品とはいえ、素材は真剣と同じ。しかも殺傷力の高い突きをいきなり繰り出すなんて。でも、その攻撃は当たらない。ハルカさんは回転扉の要領で回避。更に、その勢いを生かしたカウンターの横薙ぎの小太刀一閃……と思いきや即座にその場から飛び退いた。


 ドガッ!!


 直後に何かが砕けた音。見れば、さっきまでハルカさんのいた辺りの床が砕けている。そして、そこには奇妙な物が突き刺さっていた。それは良く見ると、複数の金属片を糸で繋いだ物だった。どこかで見覚えが有る……。そうだ! 以前、アニメで使っているキャラを見た! あれは……。


「蛇腹剣ですか。びっくりしましたよ。突きをかわして、カウンターを入れようとしたら背後から殺気を感じて慌てて逃げましたけど……」


「死角から仕掛けたんですけど、あっさりかわされましたわね。さすがはハルカですわ」


 怖い会話をさらりと交わすハルカさんとミルフィーユさん。これ模擬戦なんかじゃないでしょう。殺し合いじゃないですか! 何ですか、あの威力! 当たったら死ぬでしょう! でも2人は特に気にした風もなく、会話を続ける。


「以前はそんな物使っていませんでしたよね、ミルフィーユさん」


「フフッ。ハルカ、貴女からヒントを貰いましたのよ。正確には貴女が貸してくれたアニメのディスクからですが。蛇腹剣を自在に操るキャラを見て、気に入りましたの。そこで、王都で一番の職人に注文して作らせましたの。ミスリル製の模造品のこれと、オリハルコン製の真剣の二種類を。オリハルコンに関しては、以前、ナナ様から引っ越しの謝礼として頂いたインゴットが有りましたし。職人も驚いていましたわよ。オリハルコンは滅多に出回りませんから。おかげで良い剣が出来ましたわ」


 嬉しそうに話すミルフィーユさん。それを見ながら苦笑するハルカさん。私にはついていけない。


「そのディスク、ツクヨからの貰い物なんです。単に面白いだけでなく、色々と戦いの参考になる内容なんですよね。ミルフィーユさんにも役立って何よりです」


「そうだったんですの。これは邪神ツクヨに感謝するべきですわね。さぁ、もっと激しくやりましょうハルカ!」


「望む所です!」


 蛇腹剣を元の形に戻し、斬りかかるミルフィーユさん。ハルカさんも小太刀二刀流を駆使して応戦する。はっきり言って、お互いの太刀筋が速すぎて見えない。ただ、金属同士のぶつかり合う鋭い音が響き渡る。


 激しい斬り合いから一旦、離れる2人。


「せぃっ!」


 再び蛇腹剣を鞭形態に変え、放つミルフィーユさん。でもさっきと違う。蛇腹剣が炎を纏っている。まさに炎の蛇。生きているかの様にハルカさんに襲い掛かる。さっきより速くない?!


「甘い!」


 お返しとばかりにハルカさんが小太刀を一閃。距離が離れているのに蛇腹剣を弾き返す。更に、ハルカさんの周りに数十本は有ろうか、氷の槍が現れ、一斉にミルフィーユさん目掛けて発射される。


「その言葉、そっくりお返ししますわ!」


 対するミルフィーユさんも大量の炎の槍を生み出し、ハルカさん目掛けて一斉に発射。氷と炎、2つがぶつかり合う。


「きゃあっ!!」


 思わず悲鳴を上げ、目を閉じる私。激しい爆発音が響き渡る。でも爆風などは来ない。


「やれやれ、相変わらず周りの迷惑を省みないお二人ですな。私がいなければ甚大な被害が出ていましたな」


 見れば、私の周りはうっすらと光る幕に覆われていた。


「彼方嬢、大丈夫ですか? 結界にて、爆風や破片などは防ぎましたが」


 私に声をかけてくれるエスプレッソさん。この人が守ってくれたのね。しかし、結界って。あっ、そういえば、2人は? 慌てて、ハルカさんとミルフィーユさんを探す。嘘……2人共、ピンピンしてる。


 ミルフィーユさんの操る炎を纏う鞭形態の蛇腹剣が縦横無尽にトレーニングルーム内を走りハルカさんへと襲い掛かる。それをかわし、時には小太刀でさばきながら、見えない斬撃を飛ばしミルフィーユさんを攻撃するハルカさん。蛇腹剣の一撃が床を焼き砕き、小太刀から放たれた斬撃が壁を切り裂き、凍らせる。こんな激しい戦い見た事が無い。


「凄いですねミルフィーユさん。その性質上、収束、制御の難しい炎の魔力を見事に鞭状にし、自在に扱えるなんて。


「努力しましたもの。難しいから出来ないなどと言い訳をするつもりはありませんわ」


 話をしながらも、戦いの手を止めない2人。ついにミルフィーユさんの鞭形態の蛇腹剣がハルカさんの手を打ち据える。たまらず小太刀を手放すハルカさん。でも直後に手放した小太刀をミルフィーユさん目掛けて蹴り飛ばす!


「ちっ!」


 舌打ちしながらかわすミルフィーユさん。鞭形態の蛇腹剣を操りハルカさんへと追い打ちを掛けようとするが、そこへかわしたはずの小太刀が飛んできた。それもかわすが体勢が崩れる。そこへハルカさんが一気に間合いを詰め、足払いを掛ける。そして上からのし掛かりミルフィーユさんの喉元に小太刀を突き付ける。


「……参りました。私の負けですわ」


「そこまで! 勝者、ハルカ嬢!」


 審判のエスプレッソさんが模擬戦終了を告げる。


「ふぅ、良い勝負でしたよ。ミルフィーユさん。また一段と腕を上げましたね。最後の蛇腹剣の一撃は痛かったですよ」


「ハルカこそ、更に速くなりましたわね。最後の移動速度にはついていけませんでしたわ。後、どうやって私のかわした小太刀を戻しましたの?」


「簡単ですよ。魔力で作った極細の糸を付けておいたんです」


「いつの間に。相変わらず、器用ですわね」


 お互いに健闘を称え、ハルカさんがミルフィーユさんに手を差し伸べ、立ち上がらせる。


「お疲れ様でした、ミルフィーユお嬢様、ハルカ嬢。さ、疲れたでしょう。スポーツドリンクをどうぞ」


 そこへ、スポーツドリンクの差し入れをするエスプレッソさん。この人、本当にそつが無い。


「ありがとうございます、エスプレッソさん」


「ありがたく頂きますわ、エスプレッソ」


 エスプレッソさんからスポーツドリンクを受け取り美味しそうに飲む2人。驚いたのは、2人共、あれだけ激しく戦ったのに、息一つ乱していない事。


「さて、一息ついたら、料理を作り始めないと。今回は人数が多い上に良く食べる人が多いから、早めに準備をしないと」


 さっきまで激しく戦っていたとは思えないほど、平然と言うハルカさん。


「確かにハルカ嬢のおっしゃる通りですな。微力ながら、私もお手伝いさせていただきます。後、安国殿にも声をかけましょう」


 パーティーに向けての料理作りについて話すハルカさんとエスプレッソさん。


「私も手伝います! 家で家事をやっていましたから!」


 私も名乗りを上げる。仲間外れは嫌だし。


「よろしいのですか? 彼方嬢。貴女は客人の立場ですが?」


「それを言うなら、エスプレッソさんだってそうでしょう?」


「いやはや、これは一本取られましたな。確かにその通り。お見事です、彼方嬢」


 楽しそうに笑うエスプレッソさん。


「それじゃ僕は一旦、着替えてからキッチンに行きますね」


 話がまとまり、トレーニングルームから出ていくハルカさん。


「エスプレッソ、私も着替えますわ。予備の服を」


「は、こちらをどうぞ」


 ミルフィーユさんもエスプレッソさんに言って予備の服を出してもらう。便利ね、亜空間収納。


「彼方嬢、先にキッチンに向かってください。私達はミルフィーユお嬢様の着替えが終わってから向かいますので」


「分かりました。それじゃ、お先に」


 エスプレッソさんに言われて、一足先にトレーニングルームを出る。


 キッチンへと向かいながら、あれこれ考える。ハルカさんとミルフィーユさんの模擬戦。アニメやマンガ顔負けの凄い戦いだった。だからこそ、正直、ショックを受けた。だって、ハル兄は暴力を嫌う優しい性格だった。そのハル兄の生まれ変わりかもしれないハルカさんがあれだけの激しい戦いをしたのだから。いくらなんでも、キャラが変わり過ぎ。


 ……もちろん、いまだにハルカさん=ハル兄の確証は無い。だから、私はそれを確かめる。ハルカさん、貴女がハル兄か否かを。








こんな駄作を読んでくださる皆さん、お待たせしました。僕と魔女さん、第六十六話をお届けします。


絶賛スランプに陥ってしまい、全く書けなかったんです。一ヶ月近く経って、やっと書けました。


今回は彼方が異世界に飛ばされる怖さ、異世界のシビアさ、異世界のメイドの務め、更にハルカとミルフィーユの強さを知りました。


ですが、彼方はハルカの戦いぶりを見て、かなりのショックを受けました。作中でも語られているように、彼方の知る兄、遥は暴力を嫌う優しい性格だったので。


そして、彼方はハルカの正体を確かめるべく、動き始めました。


次回はパーティーの準備、パーティー開始となります。それでは、また。

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