第58話 ナナさん家の赤ちゃん大騒動 その三
「とりあえず、ハルカがミルクを飲み終わるまで待ってくれるかい?」
ハゲっちが持ってきた追加のホットミルクをナナちゃんのおっぱい経由で美味しそうに飲むハルカちゃんを抱きながら、そう言うナナちゃん。
「分かりました。せっかくのハルカ嬢の食事を邪魔する訳にはいきませんしな。その代わり、きっちり今回の一件の説明はしていただきます」
「分かってるよ。今さら隠しても仕方ないしね」
それから、しばらく。ハルカちゃん、ようやく満足したのか、ナナちゃんのおっぱいから口を離した。それを見て、エスプレッソが指示を出す。
「ナナ殿、ハルカ嬢の背中を軽く数回叩いてあげてください」
「こうかい?」
言われて、ハルカちゃんの背中を軽くポンポンと叩くナナちゃん。するとハルカちゃんがゲップを出した。
「それで結構です。赤ちゃんは母乳を飲む際に一緒に空気まで飲んでしまいます。そのままでは、せっかく飲んだ母乳を吐いてしまいます。それを防ぐために、ゲップをさせ、空気を抜くのです」
「ふ~ん、赤ん坊ってのは、本当に世話が焼けるね。ん、どうしたんだい、ハルカ?」
ミルクを飲み終わったハルカちゃん。今度はうとうとし始めた。そして、そのまま寝ちゃった。
「やれやれ、いい気なもんだね。お腹一杯になったら寝ちまったよ。本当に本能のままに生きてるね、赤ん坊ってのは」
「ナナ殿と同じですな」
「ケンカ売ってるのかい!? エスプレッソ!」
「まぁ、落ち着けよ、姐さん。とりあえず、場所を変えようや。今回の事について、説明してくれるんだろ?」
ナナちゃんとエスプレッソのケンカが始まりそうなのを見て、ハゲっちが割って入った。
「……そうだったね。それじゃ、リビングへ行くよ。そこで話すよ」
ふぅ、危ない、危ない。せっかくハルカちゃんが寝たんだからね。騒ぎを起こす訳にはいかないよ。そして、みんなして、ぞろぞろリビングへ移動。
場所は変わってリビング。全員ソファーに座り、テーブルにはエスプレッソが淹れた全員分の紅茶の入ったティーカップとハゲっちの持ってきたタルト。ちなみにハルカちゃんは、エスプレッソが亜空間から取り出したベビーベッドの中でぐっすり寝てる。
「では、説明して貰おうかナナ。一体、何が有った?なぜ、ハルカが赤ん坊になってしまったのだ?」
紅茶を一口飲んだ後、皆を代表して話を切り出したクローネちゃん。それに対し、アタシに話したのと同じ内容をナナちゃんは話した。
「呆れましたわ! やっぱりナナ様が原因じゃありませんの!」
「姐さん、せめて自分の部屋の中ぐらい片付けようや」
「全くだ。ナナ、お前のだらしなさは何とかならんのか?」
「あの人外魔境のナナ殿の部屋を片付けるとは。ハルカ嬢は正にメイドの鑑ですな。だが、その結果がこの事態。ナナ殿、貴女はこの責任をどう取られるおつもりですかな?」
4人に寄ってたかって責められるナナちゃん。
「うぅ、そこまで言わなくても良いだろ。大体、ハルカが勝手に私の栄養ドリンクを飲むから……」
「そもそも、ナナ殿が部屋を散らかさなければ良かったのです。そうすれば、後片付けで疲れたハルカ嬢が栄養ドリンクを飲む事も無かったはずです」
「…………………………」
ナナちゃんは言い訳しようとするけど、エスプレッソに正論で論破されて黙る。本当、見事に正論。
「さて、話を進めましょう。まずはファム殿、貴女に聞きます。ハルカ嬢を元に戻せますか? 後、戻せるとして、どのぐらい時間がかかりますか? 大体で結構ですので」
アタシに話を振ってきたエスプレッソ。ハルカちゃんを元に戻す算段か……。
「う~ん。出来ないとは言わないけど。正直、難しいね。ナナちゃんには既に話したけど、今回の一件は完全に事故、イレギュラーだからね。最善は尽くすけど、かかる時間に関しては、はっきりとは言えない」
「そうですか……。ファム殿でも難しいと」
苦い表情を浮かべるエスプレッソ。それは他の皆も同じ。こと、ナナちゃんは落ち込んでいる。そもそもの原因だからね。
「ファム様、ハルカを元に戻すのはそんなに難しいんですの? 三大魔女の一角たる貴女程の方でも?」
アタシに尋ねるミルフィーユちゃん。
「ミルフィーユちゃん。悪いんだけど、アタシ達、三大魔女だって万能じゃないの」
そこへクローネちゃんが続ける。
「今回の厄介な点は、純粋な事故である事だ。悪意や殺意を持って起きた事件ならば、それを行うに至った痕跡をたどり、対策も出来る。例えば、誰かに呪いをかけられたならば、容疑者やら、相手がその呪いを実行するための触媒を入手したルートや呪いを実行するための場所といった悪意の痕跡をたどり、対策を打つ。だが、偶然起きた事故にはそういった悪意の痕跡が無い」
更にアタシが続ける。
「極めつけは、ハルカちゃんは普通の人間じゃなくて転生者だからね。前例が無いの。最善は尽くすけどね」
それを聞いて、残念そうな顔をするミルフィーユちゃん。ごめんね。でも、それが現実なの。
「では、次の話をしましょう。これも重要な事です。赤ちゃんになってしまったハルカ嬢の面倒を誰が見るかです」
次の話を始めたエスプレッソ。なるほど、確かに重要だね。誰がハルカちゃんの面倒を見るか。するとさっそく、立候補者。
「ふん、そんな事聞くまでも無いだろ。私が面倒を見るさ。私はハルカの保護者なんだからね。文句有るかい?」
さも当然といった態度でそう言うナナちゃん。だけど、そんなナナちゃんをエスプレッソは鼻で笑う。
「ハッハッハ! ナナ殿はご冗談がお上手ですな。いや、実に愉快」
「なんだって?!」
元々、犬猿の仲のエスプレッソに貶されいきり立つナナちゃん。
「ナナ殿、貴女に赤ちゃんの面倒を見る事が出来ると思っておられるのですか?」
「出来るさ、たかが赤ん坊の面倒を見るぐらい……」
問いかけるエスプレッソに、いつもの調子で答えようとしたナナちゃん。でも最後まで言う事は出来なかった。何故なら……。
「子育てをナメるのも大概になさい!!」
突然、エスプレッソが大声を出してナナちゃんを怒鳴り付けたから。いや~びっくりした~。エスプレッソって、いつも冷静沈着で嫌味を言う事は有っても、大声を出した所は初めて見たよ。他のみんなもびっくり。そんな中、エスプレッソは話を続ける。
「ナナ殿、貴女は確かに超一流の魔女です。そこは認めましょう。ですが、子育てに関しては全くの素人。それどころか、生活能力皆無です。いいですか、ナナ殿。赤ちゃんとはあまりにか弱く、脆い存在なのです。ささいな事で容易く命を落としてしまいます。それに赤ちゃんは喋る事が出来ません。何か異常が有ってもそれを上手く伝えられません。何より、ハルカ嬢は普通の人間ではありません。何かの拍子に魔力が暴走したら、それこそ一大事です。それでも、貴女はハルカ嬢の面倒を見る事が出来るとおっしゃいますか? 貴女はハルカ嬢に対して責任を持てますか? いや、そもそも、今回の事件の元凶たる貴女にハルカ嬢の面倒を見る資格は有りません!」
うわ、ここぞとばかりに徹底的にナナちゃんを責めるエスプレッソ。しかも反論のしようが無い。あれ? ナナちゃん、どこ行くの?
エスプレッソにボロクソに言われたナナちゃん。フラフラとキッチンに向かう。って、ちょっと! 何してるの!
ナナちゃん、包丁を取り出すと自分の喉を突こうとしてる!
「私なんか生きてる資格は無いんだ! 全部、私が悪いんだ! 死んでやる~~~っ!!」
「わ~っ! ちょっと待て、姐さん! 早まるな!」
「ナナ様! 落ち着いて!」
「何を錯乱しているのだバカ者!」
包丁を手に死のうとするナナちゃんをハゲっち、ミルフィーユちゃん、クローネちゃんが慌てて止めに入る。
「エスプレッソ、いくら何でも言い過ぎじゃないの?」
ナナちゃんを止めようと大騒ぎの中、アタシはエスプレッソに言う。
「何をおっしゃいますやら。私は事実を述べたまで。何か文句でも?」
少しも悪びれず、さらっと言い返すエスプレッソ。そんな中、ベビーベッドの中で寝ていたハルカちゃんが起きちゃった。そりゃ、うるさいしね。するとハルカちゃん、またしても大泣き!
「フギャアァアアアアアン!!」
そして吹き荒れる冷気の嵐!
「ヤバい! またハルカちゃんが泣き出した!」
「仕方有りません! ここは私が!」
ナナちゃんが使い物にならないので、エスプレッソがハルカちゃんを抱き上げ、あやすけど、さっぱり泣き止まない。前回は泣き止んだのに。
「私ではダメだという事ですか。ならば、ナナ殿!」
キッチンでまだ自殺騒ぎをしているナナちゃんを呼ぶエスプレッソ。しかし、冷気の嵐が吹き荒れる中、まだやってるとはね。
「……なんだい? 私なんかダメだよ。もう無理だよ」
エスプレッソに呼ばれたものの、すっかり落ち込んでしまい、やる気ゼロどころかマイナス方向に突き抜けてるナナちゃん。だけど、構わずエスプレッソは続ける。
「ナナ殿! 貴女は確かにハルカ嬢の保護者としてはまるでなっていません。ですが、ハルカ嬢が貴女を慕っているのもまた事実なのです。ハルカ嬢を泣き止ませるとしたら貴女だけでしょう。ハルカ嬢の保護者を自称するなら、その責任を果たしなさい!」
「!! ……分かった。そこまで言われたらね」
エスプレッソに言われて、再びやる気を取り戻したナナちゃん。エスプレッソからハルカちゃんを受け取り、あやし始める。
「ごめんね、ハルカ。せっかく寝てたのにうるさくして起こしちまったね。よしよし、もう泣かない」
するとハルカちゃん、さっきまでの大泣きが嘘のように鎮まった。同時に冷気の嵐も。
「た、助かりましたわ……」
「しゃれにならねぇ威力だからなあの冷気は」
「つくづく、恐ろしい娘だなハルカは」
ナナちゃんを止めに入った3人も安堵の息を付く。本当、並みの人間なら即死級の冷気だし。
そこへ、思いもよらぬ声。
「まま……」
「エスプレッソ、あんた何か言ったかい?」
「いえ、何も」
「まま、まま」
また、聞こえた。何か聞き覚えの有るような? ん、もしかして……。全員の視線がナナちゃんに抱かれたハルカちゃんに集まる。
「まま」
ハルカちゃんがナナちゃんに手を伸ばしながら確かにそう言った。
「「「「「「喋った~~~っ!!!」」」」」」
「いや、驚きましたな。まさか、ハルカ嬢が喋るとは」
「しかも、ナナちゃんをママって呼んだよ」
「私はまだ独身だよ! 子供も産んでない!」
「落ち着けナナ。だが、ハルカがお前になついているのは間違いないな」
「でも普通、この時期の赤ちゃんが喋りますの? もう少し後じゃありませんの?」
「そこはあれだ。メイドの嬢ちゃんが凄いって事じゃねぇか?」
ハルカちゃんが喋った事にみんなびっくり! 今のハルカちゃんは見た目からして生後半年ぐらいかな。普通、赤ちゃんが言葉を発するのは1歳ぐらいからのはずなんだけど。しかし、なんでナナちゃんをママって呼んだのかな? 本当のお母さんじゃないのに。大体、ハルカちゃんのお母さんは……。あ!
アタシはある事に気付いた!
「ナナちゃん! こっち来て!」
「なんだい? いきなり」
「いいから来て! エスプレッソ、ハルカちゃんをちょっと預かって」
「おやおや、一体、何をなさるおつもりですか?」
「すぐ分かるから!」
アタシはナナちゃんの抱いていたハルカちゃんをエスプレッソに預け、ある事を試す事にした。
「ナナちゃん。確か以前、よそ行きの服を新調したって言ってたよね。それに着替えて」
「なんだい? 急に着替えろなんて」
「確かめたい事が有るの。早く着替えて」
「分かったよ。全く、面倒くさいね……」
文句を言いながらもよそ行きの服を取り出すナナちゃん。
「それじゃ、着替えてくるよ」
一旦、リビングを出て、しばらくしてから着替えて戻ってきた。
「それじゃ、こっち来て。髪型をいじるから。え~っと、髪をアップにして……、よし。後、ナナちゃん、この眼鏡掛けて」
「ファム。あんた、一体、何がしたいんだい?」
「まぁまぁ、すぐ分かるよ。よし、出来た! ねぇ、クローネちゃん、ミルフィーユちゃん、今のナナちゃんを見て、どう思う?」
イメチェンを果たしたナナちゃんに対する感想を聞いてみる。
「ふむ、なかなかに化けたものだな……。ん? どうも最近、見た様な気がするな」
「私もですわ。最近、どこかで見た様な気がしますわ」
「何、言ってるんだい? あんた達」
何やら心当たりが有るらしい2人に対し、自分の顔が見えないナナちゃんは怪訝な表情。
「ほら、ナナちゃん、鏡を見て」
アタシはナナちゃんに手鏡を渡す。
「どれどれ……、あ!」
手鏡を見て、硬直するナナちゃん。さすがに本人は気付いたか。
「……なんてこったい。今の私はハルカの母親そっくりじゃないか!」
「「あっ!!」」
クローネちゃん、ミルフィーユちゃんも言われて分かったみたい。そう、今のナナちゃんは、邪神ツクヨが見せた映像の中のハルカちゃんの母親にそっくりなんだよね。
「なるほど。ハルカ嬢がナナ殿になついている理由の1つは、ナナ殿に母親の面影を見ている事の様ですな」
「いや~、もしかしてと思って試したんだけどね。まさか、ここまで似るとはね」
「驚いたな、そんなに姐さんとメイドの嬢ちゃんの母ちゃんは似てるのか」
「何か複雑な気分だよ、私は。ハルカに母親に見られていたなんて」
少々、落ち込み気味のナナちゃん。まぁ、ナナちゃんとしては母親ではなく、恋人として見て欲しいだろうからね。
「さて、予想外の出来事が有りましたが、そろそろ、ハルカ嬢の面倒を見る方を決めねばなりません。既にナナ殿が立候補されていますが、他にはどなたかおられませんか?」
ナナちゃんとハルカちゃんのお母さんがそっくりと判明するハプニングが有ったせいで話が中断したけど、再び、ハルカの面倒を見る相手を決める話し合い開始。でもねぇ……。
「悪いが我は辞退する。残念ながら我は赤ん坊の面倒を見る自信が無い」
まず、クローネちゃん辞退。
「アタシも無理。殺すのはお手の物だけどね」
アタシも辞退。本当、殺すのや壊すのは得意なんだけど。
「悪い、俺も辞退だ。店の事が有るからな」
ハゲっちも辞退。家事能力は有るんだけどね。となれば、残るはミルフィーユちゃん達。
「ならば、当家でハルカを預かりますわ。エスプレッソやメイド達もいますし、ハルカの面倒を見る事に何も問題有りませんわ」
予想通り、ここぞとばかりに言うミルフィーユちゃん。でも、エスプレッソに遮られた。
「ミルフィーユお嬢様。残念ながら、ハルカ嬢を当家で預かる訳には参りません」
「どうしてですの! エスプレッソ! ナナ様達がダメな以上、当家でハルカを預かるのが最善ではありませんの?!」
凄い剣幕でエスプレッソに食って掛かるミルフィーユちゃん。まぁ、気持ちは分かるよ。でもね、エスプレッソの言う事は決して間違ってはいない。
「良いですか、ミルフィーユお嬢様。確かに当家なら、私や大勢のメイド達がいます。ハルカ嬢の面倒を見るにはうってつけでしょう」
「だったらなぜ?」
「ミルフィーユお嬢様、人数が多いという事は良い事ばかりではありません。リスクも伴います。例えば秘密の漏洩。ハルカ嬢は普通の人間ではありません。しかも、突然、赤ちゃんになってしまったという異常事態。この秘密を知られる訳には参りません。更にはハルカ嬢の魔力の暴走の危険性。これらの点から、当家でハルカ嬢を預かるのは危険と判断いたします」
「……分かりましたわ」
エスプレッソに言われて、渋々ながらもミルフィーユちゃんも辞退。ハルカちゃんがなついている事、秘密保持、ハルカちゃんの魔力の暴走にも対処出来るという点から、結局、ナナちゃんがハルカちゃんの面倒を見る事に落ち着いた。
とりあえず、話がまとまった事だし、アタシ達は帰る事にした。決して暇な訳じゃないしね。特にアタシは解毒剤を作らないといけないし。
「ではナナ、この肉は渡しておくぞ。ハルカが元に戻ったら、ぜひとも、すき焼きを作ってくれる様伝えてくれ」
「俺からも、また新作の試食を頼むってな」
「あぁ、ハルカに伝えておくよ」
そんな中、ミルフィーユちゃんが亜空間から平たい箱を取り出した。
「今回のゴタゴタですっかり忘れていましたわ。ナナ様、今回、私達が訪ねた理由はこれのお裾分けですの」
それは美味しそうなお饅頭。でもね、嫌なマークが付いているんだよね。黒い生地の皮に赤い三日月のマークが。黒地に真紅の三日月。すなわち
『邪神ツクヨの紋章』
ツクヨポリスのあちこちで見たからね。
当然、ナナちゃん一気にご機嫌ナナメ。
「ミルフィーユ、あんたこれ、どうやって手に入れたんだい?」
「昨夜、ツクヨが来ましたの。その際に渡されましたわ」
気まずそうなミルフィーユちゃん。
「そしてこの、ペンダントも」
ミルフィーユちゃんの胸で煌めく真紅の宝石をあしらったペンダント。この前会った時は持ってなかったし、普通の品じゃない事は分かっていたけど。
「……ふん、あのクソ邪神、また来たのかい。この辺り一帯に仕掛けた探知網を強化したのにね。悔しいけど、本当にとんでもない化け物だね。ただ、言っとくよ、ミルフィーユ。その宝石、マジでヤバいよ。覚悟は出来てるんだろうね?」
「もちろんですわ。必ず、この宝石を私の力としてみせますわ」
「そうかい、なら私はもう何も言わないさ。せいぜい、頑張りな」
「はい、それではごきげんよう、ナナ様」
「失礼致します、ナナ殿」
こうして、クローネちゃん、ハゲっち、ミルフィーユちゃん、エスプレッソは帰っていった。残るはアタシとナナちゃん。
「それじゃファム。解毒剤を頼んだよ。出来れば、3日以内で仕上げとくれ」
いきなり無茶ぶりするナナちゃん。
「あのさ、アタシの話聞いてた? 最善は尽くすけど、どれぐらい時間が掛かるか分からないって言ったでしょ!」
「そこを何とか頼むよ。ハルカから聞いたんだけど、あの子の世界には12月にクリスマスっていう行事が有るんだと。正確には24日にクリスマスイブ、25日がクリスマスと言うんだ。で、その日は色々とお祝いをするらしいんだよ。ハルカも張り切っていてね、その日はご馳走を作ると言っていたんだ」
「今日が21日だから、確かに時間が無いね。分かった。何とかやってみる。その代わり、クリスマスにはアタシも呼んでね」
「もちろんだよ。だから、繰り返すけど頼んだよ」
「うん、ハルカちゃんのご馳走が掛かっているからね。それじゃ、帰るね」
こうして、ナナちゃんの屋敷を後にしたアタシ。さぁ、頑張って解毒剤を作らなきゃ。後、エスプレッソにナナちゃん達の様子を見てくれる様に頼んでおこう。心配だしね。
「久しぶりに本気を出さなきゃね。ハルカちゃんのご馳走が楽しみだよ」
途中、何度も投げ出しそうになりましたが、第五十八話をお届け。
ナナさんとハルカの母親がそっくりであることが判明。なんでハルカがその事を言わないんだよと指摘されそうなので、一応、説明。
顔は似ていますが、瞳の色、髪形の違いや眼鏡の有無、雰囲気や言葉遣いの違いなんかもあって、気が付いていなかったと。でも、無意識下ではナナさんに母親を重ね、慕っていたり。
ちなみに、ハルカの母親の瞳は黒。ナナさんの瞳はアメジストの様な紫。
では、また次回。