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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第57話 ナナさん家の赤ちゃん大騒動 その二

「ナナちゃん、マズイよ! どうしよう?!」


「私に振るんじゃないよ!」


 突然の来客。しかも知り合いばかりに大慌てのアタシとナナちゃん。


「ナナちゃんが出てよ!」


「無理だって! 私はハルカを抱いてるんだから! ファム、あんた行って上手くごまかして追い返しな!」


「え~っ! そんな~」


「ごちゃごちゃ言わずにさっさと行きな!」


「分かったよ。全くもう……」


 渋々、玄関に向かうアタシ。上手くごまかせると良いけど。






 玄関でクローネちゃんとご対面。既に靴を脱いで上がりこんでるし。


「ん? ファム? 来ていたのか。ナナ達はどうした?」


「まぁね~。え~っと、ナナちゃん達だけどさ。ハルカちゃんが急な熱を出しちゃってさ。で、アタシが呼ばれたの。医者だからね。ま、そういう訳だから、今日は……」


 帰ってほしい。そう言うつもりだったんだけどね。


「メイドの嬢ちゃんが熱を出した? そりゃいけねぇな。見舞いに行くか。ちょうど、試食してもらおうと持って来たタルトが有るしな」


 そう言ってずかずか上がりこむハゲっち(ファムは安国さんをこう呼ぶ)。


「ならば我も行こう」


「あのお二人だけでは心配ですな」


「私達も行きましょう、エスプレッソ」


「あ、ちょっと!」


 しまった! このメンバーの押しの強さをなめてた。アタシが止めるのも無視して、みんなして上がりこんでしまった。どうしよう?! ハルカちゃんが赤ちゃんになった事を知られたら、間違いなく面倒な事になる。


「ちょっと待って! 今、ハルカちゃん寝てるんだから!」


 なんとか皆を止めようとした、その時。


「ふぇえええええええん!!」


 響き渡る、赤ちゃんの泣き声。それと共に吹き荒れる冷気の嵐!


「うお!なんだこりゃ?!」


「下がれ、安国! これは魔力による冷気だ!」


「この冷気、ハルカ嬢ですな。それに今の赤ちゃんの泣き声。一体、何事ですかな?」


「また、ナナ様が何かやらかしたのかもしれませんわ!」


「確認するしかあるまい。行くぞ!」


 クローネちゃんを先頭に奥へと行ってしまう4人。この冷気の嵐の中、進めるとはね。普通の人間なら、あっという間に凍って死ぬんだけど。後、ナナちゃんゴメン。4人を止められなかった。とりあえず、後を追わなきゃ。






「ちょっと、ハルカ! どうしたんだい? 頼むから泣きやんどくれよ! あぁ、もう! どうしたら良いんだい?! って、あんた達! 何、勝手に上がりこんでいるんだい! いや、もういい! 誰か何とかしとくれよ!」


 大泣きするハルカちゃんを抱いて、困っていたナナちゃん。そこへ四人が入ってきた事に驚き、更に泣き付く。4人の方も赤ちゃんを見てびっくり。そんな中、真っ先に動いたのはエスプレッソだった。


「事情は後で聞きます、今は赤ちゃんを泣き止ませるのが先決ですな。ナナ殿、失礼ですが、赤ちゃんをこちらに渡してください」


「あんたに?」


「少なくとも、貴女よりは赤ちゃんの扱いには慣れています。執事歴、300年はダテではありませんからな」


 そうなんだよね。エスプレッソはスイーツブルグ侯爵家に執事として300年に渡り仕えてきた。歴代の子供達の教育係もしていたそうだからね。赤ちゃんの扱いもお手の物か。でも、ナナちゃんは不満顔。エスプレッソの事を嫌ってるからね。


「ナナ殿、早く赤ちゃんを泣き止ませ、魔力の暴走を止めねばなりません。小さな身体には負担が大き過ぎます。最悪、命に関わります」


 赤ちゃんを渡す事を渋るナナちゃんを説得するエスプレッソ。ナナちゃんも赤ちゃんの命に関わると言われて観念したらしい。


「分かったよ。頼むよエスプレッソ」


「お任せください」


 嫌そうな顔をしながらも、ナナちゃんは赤ちゃんをエスプレッソに渡し、エスプレッソは優しく受け取る。


「ふむ、濡れてもいないし、匂いもしない。お漏らしではありませんな」


 受け取った赤ちゃんを抱き上げ、股間を調べるエスプレッソ。


「と、なれば……」


 しばし思案し、時計を見る。時計の針はお昼時を指していた。


「安国殿、大至急、キッチンに行ってホットミルクを作ってください。恐らく、お腹が空いたのでしょう。ナナ殿、哺乳瓶は有りませんか? 有れば、安国殿に渡してください。そして安国殿、哺乳瓶は使う前に念のため、煮沸消毒をお願いします」


「おう、分かった。ちょっと待ってな。姐さん、哺乳瓶は有るか?」


「ほらよ。頼んだよハゲ」


「ハゲ言うな! いや、それどころじゃねぇな。とにかく、ホットミルクだ」


 ナナちゃんが亜空間から哺乳瓶を取り出し、ハゲっちに渡し、受け取ったハゲっちは大急ぎでキッチンに向かって走って行った。


 う~ん、さすがはスイーツブルグ侯爵家の誇る敏腕執事、エスプレッソ。てきぱきと指示を出しつつ、ハルカちゃんをあやす。


「ほら、よしよし大丈夫。もうすぐ、美味しいミルクが出来ますからね。何も心配要りませんからね」


「ぐす……ぐす……」


 何とか、ハルカちゃんを泣き止ませる事に成功。でも、ハルカちゃんの空腹が収まった訳じゃないからね。ハゲっち、早くしてよ。しかし、このメンバーで良かったよ。ハルカちゃんの冷気の嵐を防げるからね。ハルカちゃんを人殺しにする訳にはいかないし。


『今は、まだ』






「待たせたな! ホットミルクを持って来たぞ!」


 しばらくして、ハゲっちがホットミルクの入った哺乳瓶を持って戻ってきた。


「待ってたよ、ハゲ。ほら、ハルカ。ミルクだよ、飲みな」


 ハゲっちから哺乳瓶を受け取り、ハルカちゃんにミルクを飲ませようとするナナちゃん。ところが……。


 プイッ!


 哺乳瓶を向けられたのに、そっぽを向くハルカちゃん。


「ちょっと。お腹が空いたんだろ? ミルクだよ?」


 プイッ!


 ナナちゃん、何とかミルクを飲ませようとするけど、やっぱりハルカちゃんはそっぽを向く。


「私にやらせてもらえますかな?」


 見かねたエスプレッソが助け船を出す。


「そうだね、あんたの方がベテランだしね」


 とりあえず、ナナちゃんからエスプレッソにバトンタッチ。


「ほら、ミルクですよ。何も心配要りません、安心して飲んでください」


 優しくハルカちゃんに語りかけ、ミルクを飲ませようとするエスプレッソ。でもダメ。


 プイッ!


 そっぽを向かれる。


「これは困りましたな……」


 さすがのエスプレッソも困り顔。しかも、また、ハルカちゃんがぐずり始めた。早くミルクを飲ませないと。そこへハゲっち。


「もしかしたら、姐さんのおっぱいが吸いたいんじゃねぇか? ほら、赤ん坊のメシと言えば、母ちゃんのおっぱいが基本だからな」


 確かに赤ちゃんの食事と言えば、本来は母乳。で、ハルカちゃんを見てみたら……。


「あ~、あ~」


 ナナちゃんご自慢の巨乳を見て、何か言いながら手を伸ばしている。


「安国の言う通りの様だな」


「その様ですわね」


「そんな事言われても困るよ!」


 クローネちゃん、ミルフィーユちゃんの言葉に困惑するナナちゃん。


「私は母乳なんて出ないんだからさ!」


 そうなんだよね。ナナちゃん、妊娠も出産も経験していないから。


「じゃ、男前の姐さんや赤毛の姐さんはどうなんだ?」


「すまん、安国。我も無理だ」


「アタシも右に同じ」


「どうするんだよ? こうなりゃ、近所でおっぱい吸わせてくれる人を捜すか? いや、さすがに無理が有るか……」


「ナナちゃん。いっそのこと、母乳が出る様に改造してあげようか?」


「なるほど、その手が有りましたな」


「ふざけるんじゃないよ、ファム! エスプレッソも乗るな!」


「冗談だって。でも、どうしよう?」


 ハルカちゃんはお腹が空いている。でも、哺乳瓶からミルクは飲まない。ナナちゃんのおっぱいを吸いたがっているけど、ナナちゃんは母乳が出ない。


「ならば、こうしてはいかがですかな?」


 こういう時に頼りになるのは、やはりエスプレッソ。一計を案じた。






「チュウ、チュウ……。チュウ、チュウ……」


「美味しいかい?」


「愚問ですな、見れば分かるでしょうナナ殿」


「悪かったね!」


「まぁまぁ、ナナちゃん抑えて。でも、上手くいって良かったね」


「やるな、エスプレッソ」


「それほどでもありませんよ、クローネ殿」


 アタシ達の見守る中、ナナちゃんに抱かれて、そのおっぱいを夢中になって吸っているハルカちゃん。


「ハゲ! ホットミルク追加! 急ぎな!」


「俺、パティシエなんだけどな」


「うるさい! さっさと行きな!」


「へいへい」


 追加のホットミルクを作りにまた、キッチンへ向かうハゲっち。急いでね、『哺乳瓶の中のミルクが無くなる前に』。


 しかし、冴えてるね、エスプレッソ。ハルカちゃんがナナちゃんのおっぱいを吸うと、哺乳瓶からミルクが転送される様にし、擬似的に母乳が出る様にするとはね。


「赤ちゃんにとって、授乳とは単なる食事ではないのです。母親との繋がりを確認する事でもあるのです」


 わざわざ、説明してくれるエスプレッソ。事実、ハルカちゃん、幸せそうな顔をしてる。ナナちゃんもね。


「ナナちゃん、赤ちゃんにおっぱいあげてる感想は?」


「悪くないね。まさか、この私が赤ん坊に授乳してやる事になるとはね」


 そう言って、優しい眼差しでハルカちゃんを見つめているナナちゃん。昔とは大違いだね。


「巨乳なんて滅びれば良いのですわ……。あんな物、ただの脂肪の塊ですわ……」


 ミルフィーユちゃん、ナナちゃんの巨乳が羨ましいのは分かるけど、血涙流すのはどうかと思うよ。まぁ、1人を除いて、ほのぼのとした雰囲気だけど、いつまでもこのままではいられない。


「さて、ナナ殿。事情を説明していただけますかな?その赤ちゃんの放った冷気は間違いなく、ハルカ嬢の物ですし、何より、貴女は先ほど確かにその赤ちゃんをハルカと呼んだ。言い逃れは出来ませんぞ」


 有無を言わせない態度のエスプレッソ。


「分かったよ。ハゲが戻ってきたら話すよ」


 あ~ぁ。結局、めんどくさい事になっちゃったよ。


やっと書けました。僕と魔女さん、第五十七話をお送りします。


敏腕執事、エスプレッソのおかげで最悪の事態は何とか免れたナナさん達。代わりにきっちりバレましたが。さてさて、赤ちゃんになってしまったハルカを巡って、また新たな騒動が巻き起こる。


では、また次回。

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