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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第56話 ナナさん家の赤ちゃん大騒動 その一

 アタシの名はファム。世間の皆さんからは、伝説の三大魔女の一角、『幻影の支配者』って呼ばれてるよ。


 以前は南の暖かい地方で屋敷を構えていたんだけどね。とある事情から今は大陸四大勢力の一つ、西の『王国』の首都、『王都』で表向きは医者を営んでいるの。ちなみに医者としては成功してるよ。安い料金なのに腕利きだって評判だし。何せ、過去に散々、人体実験やら略奪やらやったおかげで、医療データや、金がたんまり有るし。言えないけどね。今じゃ、貴族や、王族からまで依頼が来るよ。


 さて、今年も最後の月の12月のある日の事。


『ファム! 大変だよ! 大至急来ておくれ! ハルカが! ハルカが~~~っ!』


 お昼前に突然、ナナちゃんからの念話。何だかえらく取り乱しているね。ナナちゃん、ハルカちゃんの事になるとすぐに暴走するから。


『ちょっと、落ち着いて。何があったの? ハルカちゃんがどうしたの?』


 ナナちゃんに尋ねてみたけれど……。


『うるさい! 私が大至急来いって言ってるんだ! さっさと来い! 来ないと殺す!』


 あ~、こりゃダメだね~。話にならない。とりあえず、行くしかないね。アタシとしてもハルカちゃんに何か有ったら困るしね。ご飯をたかりに行けないし。ハルカちゃんの作るご飯、美味しいから。でも、まさかあんな事件が起きるとは、この時は思いもしなかったよ。






「ファム~、助けとくれよ~」


 空間転移でナナちゃんの屋敷に着いた途端、アタシに泣き付いてきたナナちゃん。だけどそれ以上に驚いたのが、ナナちゃんが抱いている『存在』。


 クリクリとしたサファイアブルーの瞳で不思議そうにアタシを見ている、可愛い赤ちゃん。


「ちょっと! ナナちゃん、その赤ちゃんどうしたの?! まさか……拐ってきたの?」


「人聞きの悪い事言うんじゃないよ! 誰が拐うか! 大体、そんな事したらハルカに怒られるだろ!」


 思わず尋ねるアタシに怒鳴り返すナナちゃん。まぁ確かに赤ちゃんを拐ったりなんかしたら、間違いなくハルカちゃんに怒られるよね。って、あれ? そういえば、ハルカちゃんは? どこにも姿が見えないんだけれど?


「あのさ、ナナちゃん。ハルカちゃんはどこ? 大体、ナナちゃん、ハルカちゃんに何か有ったからアタシを呼んだんでしょ?」


 するとナナちゃん、気まずそうな顔で言った。


「……ハルカならあんたの目の前にいるよ」


「へ?」


 いや、目の前って、ナナちゃんとナナちゃんに抱かれた赤ちゃんしか……ってまさか!


「この赤ん坊がハルカだよ。頼むよファム。何とかしておくれよ……」


「え~~~~~~~~っ!?」







「バカ! あんまり大声を出すんじゃないよ!」


「そう言うナナちゃんだって、大声出してたじゃない」


「うるさい」


 とりあえず、リビングのソファーに座って話をするアタシ達。赤ちゃんになったハルカちゃんは相変わらずナナちゃんに抱かれてる。しかし、可愛いね。


「まずは何が有ったのか話してよ、ナナちゃん」


「分かったよ。実はね……」


 ファムが来る1時間ほど前。


「あ~もう! また、こんなに散らかして!」


「うるさいね~、別にいいじゃないかこれぐらい。私の部屋なんだからさ~」


 いつもの様に、私が自分の部屋でゴロゴロしていたら、ハルカに注意された。全く、一々、口うるさいったらないね、この子は。


「ナナさん! 僕、いつも言ってるでしょう! きちんと整理整頓してくださいって! 大人なんだから、ちゃんとしてください!」


「嫌だね、めんどくさい。大体、そういう事はメイドであるあんたの仕事だろ? ほら、早く片付けとくれよ」


「まったく、ナナさんは……。もういいです。分かりました。掃除をしますから、リビングに行ってください。邪魔ですから」


「何かトゲの有る言い方だね……。まぁいいさ。それじゃ、リビングに行ってるからね。終わったら、呼んどくれ」


 こうして、私はリビングに向かったんだ。今更だけど、ハルカを手伝えば良かったよ。いや、最初から私が部屋を散らかさなければ。まぁ、既に後の祭りだけどね。


 で、1時間ほどして、ハルカから部屋の掃除が終わったと言われてね。私の部屋に戻ったのさ。いや、本当に綺麗に片付いていたよ。さすがはハルカと思ったさ。


「お~、すっかり綺麗になったね。気持ち良いね~♪」


「そう思うなら、少しは自分で片付けてくださいね」


「それは無理」


「即答しないでください……。あ、そうだ。部屋を片付けていたら、栄養ドリンクが出てきたんで、ちょっと疲れてましたし頂きました。結構、美味しかったです」


 は? 栄養ドリンク? そんな物、有ったっけ? この時、私は無性に嫌な予感がした。そして不幸にも、その予感は的中した。


「あれ? ナナさん、何だか大きくなってませんか?」


 突然、おかしな言い出したハルカ。ん? これは!


「ちょっ! ハルカ! あんたが小さくなってるんだよ!」


「えぇっ! 一体……な…に……が………」


 ハルカの姿と声がどんどん小さくなっていき、ついには、メイド服だけを残して消えてしまった。


 あまりの事に呆然とする私。


「ハルカ? どこだい? 返事しなよ……。ねぇ、どこ行ったんだよ?……」


 呼んでもハルカの返事は無い。ハルカが……、ハルカが消えちまった……。なんて事に……。その時。


 モソモソ、モソモソ


 何やら衣擦れの音。それは足元。正確には床に落ちているハルカのメイド服から聞こえてくる。見れば、メイド服が一部、こんもり盛り上がっていて、何か動いている。慌ててメイド服をどけてみたら、びっくり! そこには銀髪碧眼の可愛い赤ん坊がいた。


「キャア♪ キャア♪」


 私を見上げて嬉しそうに笑う赤ん坊。えっと……まさか……、ハルカ? 信じられない様な状況だが、銀髪碧眼で、何よりこの赤ん坊から感じる氷の魔力。間違いない、ハルカだ。


「た、大変だ~~~~~~っ!!!」






「……で、ファム。あんたに連絡したのさ」


「まるっきり、マンガかアニメみたいな話だけど、実際起きたんだから、認めるしかないね。事実は小説より奇なりって本当だね~」


 ナナちゃんから事の顛末を聞かされたアタシは心底そう思った。こんなデタラメな事初めてだよ。


「頼むよファム。ハルカを助けとくれよ。あんた、幻術師にして、医者。こと、薬物、毒物に関しては私の知る中では一番のエキスパートじゃないか。あんただけが頼りなんだ」


 泣きそうな顔で頼んでくるナナちゃん。そう言われてもね~。本当、こんなデタラメな事は初めてだし。素人は魔法は何でも有りの万能だと思っているのが多いけど、違う。魔法は決して万能じゃない。薬にしても、アニメやゲームみたいな都合の良い万能薬は無い。原因がはっきりしなくては手が打てない。


 特に今回のハルカちゃんが赤ちゃん化した件は完全に事故、イレギュラーだからね。


「とりあえず、ナナちゃんの部屋へ行こうよ。ハルカちゃんが飲んだ栄養ドリンクも見たいし」


「分かったよ」






 で、やってきましたナナちゃんの部屋。うん、綺麗に片付いているね~。ハルカちゃん様々だね~。ハルカちゃんが来る前は見事なゴミ溜めだったからね~。


「これがハルカが飲んだ栄養ドリンクだよ」


 気まずそうな顔でナナちゃんが見せてくれた栄養ドリンク。


「ちょっとナナちゃん、これ市販品じゃないよね。ナナちゃんお手製だよね」


「思い出したんだけどさ。ハルカが来た日、徹夜でゲームしててさ。その時に飲んでた栄養ドリンクなんだ。あの後、色々ゴタゴタしてて、押し入れに入れたままにしてたんだよ。どうやら、それを見つけて飲んだみたいだね」


「恐らく、部屋の中だけじゃなく、押し入れの中も整理しようとしたんだろうね。ハルカちゃんの生真面目さが裏目に出ちゃったか」


 今年も残りわずかになったし、本格的に掃除しようとしたんだろうねハルカちゃん。そうでなければ、ナナちゃんの部屋の押し入れなんて開けない。ナナちゃんの部屋が魔窟なら、押し入れの中は混沌カオスだからね。


「まったく、勝手に私の栄養ドリンクなんか飲むから……」


 ぶつくさ文句を言うナナちゃん。


「あのさ、そもそもナナちゃんが普段から、きちんと整理整頓してたらこんな事にはならなかったでしょ? 確かに栄養ドリンクを勝手に飲んだハルカちゃんにも非は有るけど。でも、散々散らかしまくった部屋の中を片付けたら疲れるのも当然だよ」


「うぐ……」


 痛い所を付かれてうめくナナちゃん。


「それに、今回は厄介だよ。色々とイレギュラーな要因が絡みあっているからね。ナナちゃんお手製の栄養ドリンク。しかもこれ、押し入れなんかに入れて放置したせいで変質してるよ。更にハルカちゃんは普通の人間じゃなくて、転生者。手間がかかるよ」


「そこをなんとか頼むよ……」


「ま、可愛いハルカちゃんの為だしね。やってみるよ」


「済まない、恩に着るよ」


「それじゃ、ナナちゃん。手始めにハルカちゃんの血を少し貰える?」


 ハルカちゃんの身体に何が起きたか、調べたいしね。


「……分かったよ」


 ナナちゃんは渋々ながらも了承。必要な事とはいえ、ハルカちゃんが傷付けられるのは嫌らしい。もちろん、アタシも気は使うけど。


「ハルカちゃん、ちょっとチクッとするかもしれないけど我慢してね」


 ナナちゃんに抱かれている赤ちゃん化したハルカちゃんのプニプニの小さな腕にほとんど痛みを感じない特製の注射器の針を刺し、少し採血。魔王の身体を持つハルカちゃんだけど、ちゃんと赤い血だった。


「はい、おしまい。泣かなかったねハルカちゃん。偉いね」


「ふふん、私の自慢の弟子だからね」


 ドヤ顔するナナちゃん。


「いや、関係ないでしょ? そこ」


「うるさい!」






「それじゃナナちゃん。アタシは一旦、家に戻って栄養ドリンクとハルカちゃんの血を調べるよ。出来るだけ早く解毒剤を作るから」


「本当、早くしとくれよ。このままじゃ、色々困るからね」


 ナナちゃん、家事全般まるでダメで、ハルカちゃんに全面的に依存してるから。


「ところでさ、ナナちゃん。アタシにもハルカちゃんを抱かせてよ」


 赤ちゃんになったハルカちゃんは、ずっとナナちゃんが抱いてるんだよね。あのプニプニの身体を独り占めはズルい。


「……別にいいけど。泣かすんじゃないよ」


「分かってるって。ほら、ハルカちゃん。ファムお姉さんだよ~」


 ナナちゃんからハルカちゃんを受け取り、抱いてみる。ところがハルカちゃん、急に泣き出した!


「ふぇ、ふぎゃあああああん!!」


「えぇっ!? なんで泣くの?」


 突然の事態に困惑するアタシ。だが、事態は更にその斜め上を行った。


「あれ? なんか寒くない?」


 室温が急降下している事に気付いた。直後、ハルカちゃんを中心に強烈な冷気が吹き荒れる!


「ちょっと! 何これ!」


 するとナナちゃんが血相を変えて叫ぶ。


「ファム! 早くハルカをこっちに渡せ! 忘れたのかい? ハルカは感情が昂ると強烈な冷気を放つんだよ!」(第13話、第14話、参照)


「忘れてた! ナナちゃんパス!」


 みるみる内に凍って行く室内。早く冷気の暴走を止めないと危ない。


「よしよしハルカ。泣くんじゃない。いい子、いい子」


 アタシからハルカちゃんを受け取ったナナちゃん、慣れない様子ながらも、なんとかハルカちゃんを泣き止ませようとあやす。


「ふぇ、ぐす……」


 あ、泣き止んだ。良かった~。しかし、赤ちゃんの身でこれだけ強烈な冷気を放出出来るとはね。ナナちゃんの部屋の中はすっかり氷漬け。改めてハルカちゃんの恐ろしさを痛感したよ。


「わ、私の部屋が……。私の自慢の百合コレクションが……。全部氷漬け……。ハハハ……台無しだよ……」


 あ~ぁ、ナナちゃんお気の毒。


「まぁ、本命のハルカの秘蔵画像コレクションは亜空間に保管してあるから無事だし」


 そんな物作ってるんだ、ナナちゃん。しかもそれだけは、しっかり保管してるし。どうして、そのしっかりぶりを他に回せないかな?






「それじゃナナちゃん。アタシは帰るからね」


「あぁ、頼んだよファム。報酬ははずむからさ」


 あの後、氷漬けになったナナちゃんの部屋を解凍。リビングで一息付いて、帰ろうとしたその時。


 ピンポ~ン


 来客を知らせるチャイムの音。


 思わず凍り付く、アタシとナナちゃん。 ハルカちゃんが赤ちゃんになった事を知られるのはマズイ!


 どうしよう?! どうしよう?!


 慌てるせいで、2人とも頭が回らない! そうこうしている内に、入って来ちゃった!


「ナナ、ハルカ、居るか? 我だ、クローネだ。良い肉が大量に手に入ってな。ぜひ、すき焼きを作って貰いたくてな」


「メイドの嬢ちゃん居るか? 安国だけどよ。嬢ちゃんに新作のタルトの試食をして欲しいんだがな」


「ちょっと、お二人とも。勝手に入ってはいけませんわ」


「かく言うミルフィーユお嬢様も、入っておられますがな」


「お黙りなさい! エスプレッソ!」


 うわ~! よりによって、知り合いがまとめてやって来た!


 本当にどうしよう?!




エタったと思った貴方、残念でした。僕と魔女さん、第五十六話をお届けします。


突然、赤ちゃんになってしまったハルカ。子育て経験皆無のナナさんにはあまりにもハードルが高い事件。そこへ、知り合いがまとめてやって来た! どうする? ナナさん、ファム。


ではまた次回。

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