第55話 令嬢と邪神と真紅の宝石
「……一体、何をしに来ましたの? それにこの王都一帯には、ナナ様達が以前より強力な探知網を張り巡らせているのに、よく侵入出来ましたわね」
ベッドに腰掛け、こちらを見ている邪神ツクヨに私は尋ねました。ツクヨポリスでの戦いは決着が付いたはず。まさか、またハルカを狙って? いえ、もしそうなら、直接ハルカを狙いますわね。ならば何故、ここに? 向こうの出方を伺わねばなりませんわね。
「いや、何、ちょっとした野暮用さ。それと探知網だが、確かに以前より強力になってはいたが、俺がその気になれば簡単に抜けられる。しかし普通、突然の侵入者が有れば、それも侯爵家ときたら、大声出すなり、警護を呼ぶなりするもんじゃないか?」
私の問いに飄々とした態度で答えるツクヨ。相変わらず、読めない相手ですわね。そして、より強化された探知網を抜けてくるとは。やはり恐ろしい相手ですわ。とはいえ、向こうも質問してきたことですし、返しておきますか。
「そうですわね、普通ならばそうしますわね。ですが、貴女相手にそんな事をしても余計な犠牲が出るだけ。それにどうせ、誰も入れない様に細工をしているのでしょう?」
「良い判断だな。そして君の言う通り、余計な邪魔が入らん様に手を打たせて貰った」
「邪神に褒められてもあまり嬉しくないですわ」
「手厳しいな」
やはり態度を崩さないツクヨ。本当に何をしに来ましたの?
「まぁ、とりあえず、夜分に突然押し掛けた事は詫びよう。あ、これは手土産の俺特製、こし餡饅頭。妙な材料は使っていないから安心して食ってくれ」
「意外と律儀ですのね。非礼を詫びるとは。ですが、そんな事より、先ほども聞きましたが何をしに来ましたの?。 野暮用と言っていましたが?」
何を考えているか分からない相手。早く本題に移さないと。するとニヤニヤ笑いながら、ツクヨは答えました。
「あぁ、それだがな。この邪神ツクヨ様が悩めるお嬢様に救いの手を差し伸べてやろうと思ってな。見よ!貧乳に悩む全ての女性の味方、豊胸薬『ジャシナミンパイオーツ』。これを飲めば、まな板な貴女もたちどころに巨にy」
ゴキャアッ!!
ツクヨが最後にまで喋る前に金属バットを呼び出し、その頭めがけてフルスイング&ジャストミート。我ながら、会心の当たりでしたわね。何故、金属バットを持っているのか? レディたる者、常に護身の心構えは必要ですもの。
「痛って~な! 人が話している最中に金属バットで頭を殴るか?」
「ふざけた事を言うからですわ」
チッ! やはり、たいして効いていませんわね。出来る事なら、頭をザクロみたいに割りたかったのですが。まぁ、それをしたらしたで、部屋が汚れますわね。
「全く、最近のガキはキレやすくて、いかんな。冗談が通じない」
「だったら、早く本題に入ったらどうですの?」
「はいはい。とりあえず、茶ぐらい出してくれよ。侯爵家令嬢ともあろう者が、茶の一つも出さんのか?」
「……図々しいですわね。分かりましたわ。もっとも、貴女のせいでこの部屋の出入りが出来ないですから、ペットボトルの紅茶ですわよ」
亜空間収納からペットボトルの紅茶を2つ取り出し、1つをツクヨに。もう1つを私が。
「おぉ、サンキュー。頂くぞ」
「それでは話を始めてくださる?」
「あぁ、それじゃ、ぼちぼち話すとするかな」
「さて、俺が来た理由だが、さっきも言った様に悩める君に救いの手を差し伸べてやろうと思ってな」
「大きなお世話ですわ」
「まぁ、そう言うなよ。悩んでいるんだろう? 以前にも指摘したハルカとの力の差に。何せ、縮まるどころか、離される一方だからな。君が1進めば、ハルカは10進む。君が10進めば、ハルカは100進む。君が100進めば、ハルカは……」
「大きなお世話だと言っているでしょう!!」
聞きたくなかった、認めたくなかった事を指摘され、つい大声を張り上げてしまいました……。
「図星を突かれたからといって、大声出すな。仮にも侯爵家令嬢だろう。はしたないぞ」
対するツクヨはまるで動じず、むしろ、たしなめられてしまいましたわ。私としたことが、とんだ不覚ですわね……。
「……確かに貴女のおっしゃる通りですわね。お恥ずかしい限りですわ」
「分かれば良い。では話を進めるぞ。欲しいんだろう? 『力』が。ハルカを圧倒出来る『力』が。君が望むなら俺が与えてやろう。以前のツクヨポリスでの戦い。三大魔女は敗れ、俺の『力』を見せつけてやったにも関わらず、君は俺に立ち向かってきた。そんな君に惚れ込んでな。ほら、遠慮は要らん。俺の『力』を受け取れ」
そう言って、ツクヨは右の手のひらを上に向けました。するとそこに真紅の光の玉が浮かび上がりました。
「光栄に思えよ。この邪神ツクヨ直々に『力』を与えてやるんだからな。ほら、早く受け取れ。簡単な事だ。この玉に触れるだけだ。それだけで、圧倒的な『力』が手に入る。ハルカなど、もはや敵ではなくなる。ハルカを叩きのめし、地べたに這いつくばらせる事も容易い。さぁ、早く受け取れ!」
目の前で輝く、真紅の光の玉。少し手を伸ばすだけで、『力』が手に入る。欲しい。『力』が欲しい。それは偽らざる私の本心。この状況で私のやるべき事は1つ。
ゴシャアッ!!!
「ギャアアアアアッ!! 痛ッたあぁああっ!! 頭が! 頭が!」
亜空間から『釘バット』を取り出し、ツクヨの脳天めがけて思い切り叩き付けました。ツクヨは悲鳴を上げてのたうちまわっていますわね。しかし、石頭ですわね。釘が曲がっていますわ。
「おい! 人がせっかく『力』をやろうって言ってるのに、釘バットで脳天ぶん殴るとは、どういう了見だ!?」
あら、あっさり復帰してきましたわね。本当にしぶとい邪神ですわ。
「確かに私は『力』が欲しいですわ。ですが、邪神に『力』をやろうと言われて、ホイホイ受け取るほど浅ましくはありませんわ。このミルフィーユ・フォン・スイーツブルグをナメるのも大概になさい、邪神ツクヨ!!」
「……クク、クハハハハ!」
私の言葉を聞いて何故か笑いだすツクヨ。釘バットで殴った場所が悪かったのでしょうか?
「やはり俺の目に狂いは無かったな。よしよし、第一段階はクリアだな」
「一体、何を言っていますの? 釘バットで頭を殴ったせいで、おかしくなりましたの?」
「失礼な事を言うな! 大体、なんで金属バットやら、釘バットを持っているんだよ!?」
「レディのたしなみですわ」
「嫌なたしなみだな……」
「まぁ、良いさ。話を進める。お嬢ちゃん、さっきも言った様に、君は第1段階をクリアした。新たな『力』を手にするチャンスを得る為のな」
「第一段階?」
妙な事を言い出しましたわね……。
「あぁ、そうだ。第1段階、『力』を与えようという誘惑に勝てるか? 君はこれをクリアした」
「もし、誘惑に乗っていたら?」
「簡単な事だ。『力』の玉を受け入れた途端、肉体も魂もカケラも残さず焼き尽くされていただけだ。何、一瞬の事だから苦しむ暇も無いさ」
「えげつない真似をしますわね」
「ふん! 『力』をやろうと言われてホイホイ受け取る様な浅ましい奴にはお似合いだろう?」
受け取らなくて本当に良かったですわね。スイーツブルグ侯爵家の恥になりますわ。
「さて、第1段階をクリアしたお嬢ちゃんに、面白い物を見せてやろう。滅多にお目にかかれない、極めて貴重な物だ。ありがたく思えよ」
ツクヨが亜空間から取り出したのは、小さな真紅の宝石。今まで見たどの宝石よりも鮮烈な『真紅』。一目で見て分かりましたわ。これは恐るべき、忌まわしき、決して世に出してはならない『物』。
「……とんでもない『物』を出してきましたわね。さすがは邪神ツクヨというところですわね」
「ククッ、誉め言葉と受け取らせて貰うぞ。それとどうやら君にも、この『宝石』の価値が分かる様だな。さすがだな」
「価値? ふざけないでくださる? それは明らかに忌まわしき『物』! 決して世に出してはならない存在ですわ!」
忌まわしき魔性の宝石を自慢気に見せるツクヨに怒りをぶつける私。もっともツクヨはまるで堪えておらず、ニヤニヤ笑いを浮かべるばかり。
「そう怒るなよ。美容と健康に悪いぞ。それに言っただろう? 君が新たな『力』を手にするチャンス。それがこの『宝石』だ」
ツクヨの手のひらの上で妖しく輝く真紅の宝石。
「魔水晶。オリハルコンをも超える究極の鉱石。だが、他にも魔水晶に匹敵する鉱石が存在する。こいつは、その1つであり、俺の秘蔵の品だ」
「初耳ですわね」
「世界は広いのさ。さて、この宝石だが、君にやろう。俺には不要の品だしな」
魔水晶に匹敵するという真紅の宝石。それを私にやろうと言うツクヨ。
「邪神ツクヨ。貴女、私の話を聞いていませんでしたの? 言ったはずです、邪神から『力』を受け取る気は無いと!」
「あぁ、聞いたさ。勘違いするなよ、お嬢ちゃん。俺はこの『宝石』をやろうと言っただけだ。そしてこの『宝石』が君の『力』となるかどうかは知らん」
「随分と無責任ですわね」
「俺は邪神だからな~。君がどうなろうが知ったこっちゃない。ただ、この『宝石』を君に渡したら面白そうだと思っただけだ。さて、どうする? 受け取るか? それとも受け取らないか?」
手のひらに『宝石』を乗せ、問いかけるツクヨ。
『力』を秘めた真紅の『宝石』。ですが、あれはあまりに危険な品。私の手に負えるかどうか? すると私の胸の内を見透かしたらしく、話しかけてきたツクヨ。
「お嬢ちゃん。君はハルカに追い付きたいんだろう? だが、ハルカは天才だ。それも桁外れのな。しかも努力を惜しまんときた。ぶっちゃけ、君がハルカと同じ事をしたところで、決してハルカには追い付けないだろうな」
「言ってくれますわね……」
「事実だからな。ならばどうするか? 簡単だ。ハルカ以上の努力をする。ハルカが成していない事をやる」
「その為の『宝石』という訳ですわね。私をその『宝石』をモノにしてみせろと」
「大体、合ってるが、それだけでは満点はやれないな」
「ならば私に何をしろと言うんですの?」
なかなか答えを教えないツクヨ。ニヤニヤ笑いながら、私を眺めていますわ。
「まぁ、答えをそう焦るなよ。少々、話を変えるが、ハルカの愛用の小太刀、『氷姫・雪姫』は知っているよな?」
「えぇ、知っていますわ。ハルカの17才の誕生日プレゼントとして、ナナ様から贈られた品。元は魔水晶製の短剣でしたが、その後、小太刀へと進化した驚異の武器ですわ。それが何か?」
突然、ハルカの武器の話をするなんて、どういうつもりなんでしょう?
「つまりはな。君にこの『宝石』をモノにし、なおかつ、君の武器を生み出してみせろって事だ」
「随分と軽々しく言ってくれますわね。そんな事が簡単に出来るとでも?」
「だからこそだ。言っただろ? ハルカと同じ事をしても、決して追い付けない。 ハルカの成した以上の事をやらねばな。ハルカは、師匠のバカ魔女から贈られた短剣から小太刀へと進化させた訳だが、この場合、バカ魔女によって既に武器としての形を成していた。言うなれば、バカ魔女のお膳立てが有った。ならば君は原石の状態から武器を生み出せ。少なくとも現時点のハルカはまだそこまで成していない」
確かに、その通りですが……。でも……。
「色々と迷っている様だな」
「当然でしょう? 邪神の言う事をすんなり受け取る事は出来ませんわ」
『力』が欲しいのは、確かですけれど。相手は邪神。それにあの『宝石』も極めて危険な品ですし。
「まぁ、気持ちは分かる。君の言う通りだ。俺は邪神だからな。だがな、ハルカも他人の事は言えないな。何せ、ハルカの師匠はかつて悪逆非道の限りを尽くした魔女だ。ぶっちゃけ、俺より酷い。ハルカはそんな奴の弟子で、更に武器を貰ったんだぞ」
「……………………」
「どうした? 反論は?」
「……意地悪ですわね、貴女は」
「邪神だからな。さて、そろそろ決めて貰わんとな。『宝石』を受け取るか否か」
決断を迫るツクヨ。私はどうしたら?
「お嬢ちゃん。この際だから、はっきり言うぞ。天才たる、ハルカに追い付きたいなら、リスクは避けられん。この『宝石』をモノに出来ないなら決して追い付けないな。ま、出来るかどうかは知らんが」
迷った末、私は決断を下しました。
「邪神ツクヨ! このミルフィーユ・フォン・スイーツブルグをナメるなと言ったでしょう! その忌まわしき『宝石』、必ずモノにしてみせますわ! そしてハルカに追い付いてみせますわ!」
確かに邪神の持ち掛けた話に乗るのは、気が引けますわ。ですが、これを乗り越えられない様では、決してハルカに追い付けないでしょう。いえ、必ず乗り越えてみせますわ!
「ふーん、覚悟の有る良い目だ。やはり、君はありきたりな貴族のお嬢様じゃないな。よし、この『宝石』を受け取れ!」
そう言って、手にした『宝石』を私に放ってよこすツクヨ。私はそれを右手で受け取ります。こうして初めて手にした真紅の『宝石』。改めて、恐ろしい品だと実感しますわ。計り知れない『力』を感じますわ。そんな私を面白そうに見ているツクヨ。
「ククククク……」
「何が可笑しいんですの?」
「おめでとう、お嬢ちゃん。第2段階クリアだ。本当に君は面白い。その『宝石』は、非常に気位が高くてな。下手に触れようものなら、一瞬で焼き尽くされてしまうのさ。どうやらその『宝石』、とりあえずは君と共にいる事にしたらしい」
「貴女、そんな大事な事を黙っていましたの?!」
「邪神がそんなに親切な訳ないだろ。聞かれなかったし。それに言ったろ。ハルカに追い付きたいなら、リスクは避けられんと。それに死ななかったんだ、結果オーライさ」
本当に性格最悪ですわね、この邪神。エスプレッソに引けを取りませんわ。
「さて、用事も終わった事だし、帰るとするか」
ペットボトルの紅茶を飲み干し、そう言って立ち上がるツクヨ。
「もう、帰りますの?」
「こう見えて、俺も暇ではなくてな。今回も何とか、時間を作ったのさ」
「意外ですわね」
「悪かったな。おっと、帰る前にいくつか話しておくか。まず、その『宝石』だが、とりあえず君と共にいる事にしたらしいから、捨てても無駄だぞ。必ず君の元に戻ってくる。盗まれても同様だ。ま、下手に盗もうものなら焼き尽くされてしまうがな」
「本当に危険な品ですわね。取り扱いに気を付けないといけませんわね」
「そうだな、ちょっと、その『宝石』を貸してくれ」
ツクヨに言われて、『宝石』を渡します。
「このままじゃ、あまりに飾り気が無いし、持ち運びにも不便。後、むやみやたらと周りに危害を加えんようにっと」
ツクヨが『宝石』を握りしめ、そして手を開くと、そこにはシルバーチェーンの付いた洒落たデザインのペンダントとなった『宝石』が有りました。
「ほらよ、受けとれ。俺からのちょっとしたサービスだ」
ペンダントとなった『宝石』を受け取ります。本当に良いデザインですわね。気に入りましたわ。
「素敵なデザインですわね。貴女、意外な才能が有りますのね」
「気に入って貰えたか。そりゃ、結構」
ここで、私はふと、思いました。確か、この『宝石』に下手に手を出したら、焼き尽くされてしまうはず。なのに、ツクヨは無事。
「ツクヨ、貴女は何故、この『宝石』に触れても平気なんですの?」
「 簡単な事だ。俺の方がその『宝石』より強いからさ。とはいえ、全く言う事を聞かなくてな。俺を焼き尽くそうと暴れ回っていた。力ずくで抑え込んでやったがな」
「やっぱり強いんですのね」
「ふん、邪神ツクヨをナメるなよ」
「それから、俺からアドバイスをやろう。その『宝石』には名前が有る。まずはそれを聞き出せる様になれ。ただ、さっきも言った様に、そいつは非常に気位が高い。そう簡単にはいかないし、君を気に食わないと判断したら、ためらいなく、君を焼き尽くすぞ。覚悟をしろよ」
「えぇ、承知しましたわ。でも、私は死ぬ気は有りませんわ。必ず、この『宝石』の名前を聞き出してみせます。そして主となってみせますわ!」
「ククククク、君は本当に面白いな。では、最後に。俺は基本的に自分より弱い奴からの攻撃は受け付けない。ツクヨポリスでバカ魔女の禁呪を受けても無傷だっただろう? だがな、例外も有る。君も見ただろう、俺はイサムに斬られた」
「えぇ、確かに」
「俺は邪神となって500年。攻撃を受けて痛みを感じたのは、過去、3人しかいない。1人目はイサム。2人目はハルカ。そして3人目は君だ。俺が何を言いたいか分かるか?」
「まさか……」
「以前、言っただろう? 君の才能はハルカに引けを取らないと。だからこそ、『宝石』を持ってきたのさ」
「本当に私にそれほどの才能が有りますの?」
「おいおい、さっきの威勢の良さはどこへ行ったんだ? 君、ハルカに追い付いてみせるんだろう? そんな弱気でどうする」
「そうですわね。こんな弱気ではダメですわね。私は出来る! やってみせますわ!」
「そうだ。それで良い。それじゃ、帰るからな。お嬢ちゃん、俺を失望させてくれるなよ」
「待って!」
消えようとしていたツクヨに声をかけます。
「何だ? お嬢ちゃん?」
「何故、何故、貴女はここまでしてくれますの? 貴女にどんなメリットが有りますの?」
「そうだな。君が『宝石』をモノに出来たなら、俺の見立てが正しかった訳だし、モノに出来ずに焼き尽くされたなら、俺にとっての脅威が1人減る。どっちにしても、俺に都合が良い。ただ、それだけだ」
「そうですの。後、1つ」
「何だよ、まだ有るのか?」
面倒くさそうなツクヨ。
「また、会えます?」
すると意外そうな顔をした後、ツクヨは言いました。
「……本当に面白い子だな、君は。邪神に向かってそんな事を言うとはな。そうだな、縁が有ればまた会えるさ。それじゃあな、お嬢ちゃん。いや、ミルフィーユ。君が見事に咲き誇るか、はかなく散るか、楽しみにしている。後、ドアの向こうで待っている執事達に上手い事、話を付けてくれ」
そして、ツクヨは去っていきました。その直後、ドアが開き、執事のエスプレッソや、メイド達が突入してきて、大騒ぎになってしまい、説明に一苦労しましたわ。
「なるほど、邪神ツクヨが……」
「はい、お母様。そしてこの『宝石』を譲ってくれましたの。私にモノにしてみせろと」
「ミルフィーユお嬢様、覚悟はお有りでしょうな? その『宝石』は、あまりにも危険な品。本来なら即時に破壊、もしくは封印されるべき物でございます」
「それは分かっていますわ、エスプレッソ。私を信じなさい。必ず、この『宝石』をモノにしてみせますわ」
えぇ、必ずモノにしてみせますわ。そしてハルカ。必ず貴女に追い付いてみせますわ!
妖しい真紅の輝きを放つペンダントを首に掛け、そう決意する私でした。
大変遅くなりましたが、第五十五話をお届けします。多忙でなかなか執筆出来なかったり、テンションが上がらなかったので。ですが、エタらせる気は有りません。こんな素人の落書きでも読んで下さる方々がいますから。
さて、邪神ツクヨから真紅の『宝石』を受け取ったミルフィーユ。ただし、ツクヨもそんなに親切ではありません。『宝石』をモノに出来たならともかく、失敗すれば死あるのみ。どうなるかはミルフィーユ次第。
ではまた、次回。