第53話 ナナさん、ハルカ師弟のある一日
とうとう、今年も最後の月。12月になりました。異世界においても、何かと忙しいシーズンです。僕、ハルカ・アマノガワも、メイドとして。そして、ナナさんの弟子として、多忙な日々を送っています。そんなある日のお話。
ナナさんに連れられてやって来た。無人の異世界。ここなら、派手に暴れても構わないとの事。
「よし、ハルカ! まずはウォーミングアップだ。これを全部、撃ち落としてみな! しくじると痛い思いをするよ!」
「はい! ナナさん!」
「良い返事だ。それじゃ行くよ!」
そのナナさんの声に応じて現れる無数の魔力弾。その数、優に1000を超える。そして、四方八方から僕目掛けて降り注ぐ! でも、僕も負けない!
「行けェッ!」
氷の魔力弾を即座に100発作り出し、ナナさんの放った魔力弾を迎撃。単純な数ではとても敵わない。でも。
次々と空中で起きる爆発。ナナさんの魔力弾はその数をみるみる減らしていく。よし、うまくいった。数では敵わない。ならば、魔力弾のコントロールと貫通力を上げる。更に命中した相手の魔力弾が暴走、誘爆を起こす様に術式を組み上げたんだ。今の所、百発が限界だけどね。ほどなく、全弾撃墜終了。良かった。
「ふん、魔力弾のコントロール、更には術式の改良。まぁまぁって所だね。でも調子に乗るんじゃないよ。さぁ、次は近接戦のトレーニングだ。さっさと構えな! 今は地上戦だけど、いずれ空中戦をするからね!」
空中から降りてきて評価及び、次のトレーニングを指示するナナさん。いずれは空中戦か。そのためには、高速飛翔をモノにしないと。遊びじゃないのは分かっているけど、やっぱり空を飛ぶのは憧れる。早く、僕も空を飛びたいな。某白い魔砲少女みたいに。
「あんたの場合、素質から見ても、な〇はより、フェ〇トだよ。私もそのつもりで、あんたを鍛えているからね」
ナナさん、心を読まないでください。しかし、僕とナナさん2人してハマッたよ、リリ〇ルな〇は。ツクヨがくれたマンガや小説の中に有ったんだ。超オススメとの札まで付けて。その他のオススメには、ネ〇ま!も有ったね。エヴァ〇ジェ〇ンの氷魔法を再現したいな。まぁ、それはそれとして。
「ガキの頃のシリーズは興味ないね。大人になってからのシリーズが私的にストライク! 特にフェ〇ト! あの服装がたまらないね!」
性欲と劣情丸出しの表情のナナさん。ならば、僕のやるべき事は一つ。とびきりの笑顔を浮かべて。
「氷魔凍嵐砲!!」
「ギャアァアアアアアア!!」
人として痛い言動には、注意をしなきゃね。
「……世間一般じゃ、それ注意じゃなくて、殺意と言うんだけど……」
『注意ですよね?』
「注意です……」
さすがはナナさん。ちゃんと分かってくれたよ。
「うぅ……私、保護者で師匠なのに……」
両手をついて、いわゆるorzなポーズでさめざめと泣くナナさんでした。
「さて、今度は近接戦のトレーニングをするよ。構えな」
そう言って、練習用の模造ナイフを構えるナナさん。僕も構えを取る。模造刀とはいえ、れっきとした金属製。まともに当たれば痛いどころじゃない。ましてや、ナナさんほどの使い手ならば、肉が裂け、骨が砕ける。気を抜けば、酷い目に合う事請け合いだ。それがナナさんクオリティ。
「行きます」
「来な」
お互いに手短に言葉を交わす。それが始まり。
まずは小手調べ。氷クナイを両手に4本ずつ、計8本をナナさんに向けて投げる。もっとも、ただ投げた訳じゃない。
腕は『2本』有る。それを生かして左右の腕で時間差を付けて投げる。でもナナさんは動じない。たとえ時間差を付けて投げても全て防ぐだろう。だから、更なる細工をしておいた。僕は術を発動させる。
直後、クナイが急加速した。風の魔力で速度を上げたんだ。8本のクナイは猛スピードでナナさんを襲う。
「ふん、小賢しい!」
そう言うなり、凄まじい速さのナイフさばきでクナイを撃墜するナナさん。でも、それも計算の内。
ボンッ!
ナナさんが撃墜したクナイが爆発し、辺りに鋭い破片を撒き散らす。衝撃を受けたら爆発する様、仕込んでおいた。
「ちっ!」
さすがはナナさん。舌打ちするものの、飛び散る破片でケガなどしない。でも……隙は出来た! 一気に懐に飛び込み、右手で小太刀を逆手で抜き放ち、切り上げる!
ギィィン!
金属同士のぶつかり合う音が響く。僕の一撃はナナさんのナイフに止められていた。
「甘い!」
「まだです、ナナさん!」
僕は『二刀流』の使い手。だが僕は『右手だけ』で切りつけた。ならば『左手』は?
がら空きの僕の左手に気付いたナナさん。そこに襲いかかる弾き飛ばしたはずの『クナイ』4本。確かにクナイは爆発した。でも全てのクナイが爆発した訳じゃない。爆発したのは4本。不意討ちのクナイにさすがのナナさんも姿勢が崩れる。チャンス到来、鳩尾に右の肘打ち!……と思わせて、向こうずねを蹴っ飛ばしてあげた。痛いよね、弁慶の泣き所。
「痛ったぁあああ!!」
たまらず悲鳴をあげるナナさん。ごめんなさい、勝負は非情なんです。もちろんこの隙に一旦、距離を取り仕切り直す。残念ながら、今の僕の実力ではナナさん相手に一気に畳み掛ける事は出来ないから。
「あ~痛かった……。全く、ずいぶんと嫌らしい手を使ってくる様になったね。さっきのクナイ、三段構えだったね。風魔法による加速、更に圧縮空気の術式を4本に付与。とどめに残り4本に魔力の『糸』を付けて左手で操作、相手の不意を突く。なかなかやるじゃないか。一番効いたのは、最後の向こうずねを蹴られた事だけどね」
「やっぱりナナさんでも痛いんですね。後、糸にも気付かれましたか。糸がばれない様に術式を組んだんですけど」
「痛いに決まってるだろ! それと糸だけど、そこいらの奴らならばれなかっただろうね。 まぁ、良いさ。戦いに卑怯もクソも無い。さぁ、次は何を見せてくれるんだい? 遠慮はいらないよ、あんたの力を見せてみな!」
とても楽しそうなナナさん。ならば、僕も遠慮しない。思う存分、新しい技や術を試させて貰う!
「それじゃ、お言葉に甘えて。行きます!」
小太刀二刀を抜き放ち、正面から挑む!
「面白い、私と正面からやり合う気かい?」
ニヤリと笑って、受けて立つナナさん。
今度は小細工抜きの正攻法。勝てないのは分かっている。でも、全力で当たる!
左右の小太刀二刀を振るい、斬りかかる。体術、氷魔法も交えて、僕の渾身の攻撃をナナさんに叩き込む。でも、その全てがかわされ、防がれ、潰される。逆にナナさんの攻撃はこちらを容赦なく、打ちのめしていく。遂に、強烈な一撃を受けて、吹き飛ばされてしまった。
「どうした? この程度かい?」
「なんの! まだまだです!」
余裕綽々のナナさんに対し、早くもボロボロの僕。でも、まだまだ諦めない! この程度で諦めたら、ナナさんに一人前と認めて貰うなんて、夢のまた夢だから。小太刀を手に、ナナさんに立ち向かう。
「良いね! あんた本当に良いよ!」
笑顔で迎え撃つ、ナナさん。こうして、ナナさんとのトレーニングはお昼まで続いた。ちなみに結果は、僕の完敗でした。
お昼時。レジャーシートを広げて、ナナさんと一緒に僕お手製のお弁当を食べる。一見、ほのぼのとした光景だけど、辺り一帯は滅茶苦茶に破壊されていた。大部分、僕のせいだけど。もっとも、この事を見越して、無人の異世界に来たんだけどね。
「やっぱり、ナナさんは強いですね。僕、色々と頑張ったんですけど」
お茶を飲んで、おにぎりを流し込んだ僕はナナさんに話しかける。つくづく思う。ナナさんは強いし、凄い。午前のトレーニングが終わった時、僕は力を使い果たし、立つ事も出来なかった。対してナナさんは終始、息一つ切らさなかった。
「ふん、ナメるんじゃないよ。あんたみたいなヒヨッコに不覚は取らないさ。とはいえ、ずいぶんと腕を上げたね。そこは誉めてあげるよ」
「えへへ、ありがとうございます」
ナナさんは缶ビール片手に誉めてくれました。嬉しいな。頑張った甲斐が有るよ。
「それとハルカ、昼からは訓練の内容を変えるよ。そろそろ、次の段階へ進めないとね。気合いを入れていくんだよ」
「はい、ナナさん」
次の段階へ進めるって、何をするのかな?
お昼ご飯も終わり、午後の訓練開始。
「さてと、始めるかね。ハルカ、あんたは既に基本はマスターし、それなりに実戦経験も積んだ。よって、これからは更に上の訓練をするよ。より、高度な力のコントロール、そして戦闘術をね」
「更に上の訓練ですか」
「あぁ、そうだよ。みっちり叩き込んでやるからね、覚悟しな。まずは、魔力のコントロールについて教えるよ。ハルカ、あんたは氷魔法に関しては既に上級魔法まで使える様になったね」
「はい、氷魔凍嵐砲を短縮詠唱(魔法名だけで発動させる事)で使える様になりました」
「ふん、大いに結構。それじゃ、的を用意するから、本気で氷魔凍嵐砲をぶっ放してみな」
そう言うとナナさんは、的を呼び出した。それを見て、僕はびっくり。煌めく2メートル四方の金属の塊。
「オリハルコンじゃないですか!」
そう、伝説の金属と名高い、オリハルコンの塊。さすがはナナさん。こんな貴重な物を砲撃魔法の的にするとは。
「半端な的じゃ役に立たないからね。ほら、ぼさっとしてないで、さっさとやりな!」
「あっ、はい! それじゃ、氷魔凍嵐砲!」
ナナさんに急かされ、本気で氷魔凍嵐砲をオリハルコンの塊に向けて放つ。収束された吹雪が直撃するものの、オリハルコンの塊はびくともしない。さすがは伝説の金属。本気で撃ったのに。
「やっぱり、オリハルコンは凄いですね。本気で氷魔凍嵐砲を撃ったのに、びくともしませんね」
僕が感心していると、ナナさんが前に出る。
「ハルカ、今度は私がやるよ。よく見てな」
すっと右手の人差し指を前に出すナナさん。その先に紫色の小さな光の玉が現れる。直後、それは猛スピードで飛んでいき、あっさりとオリハルコンの塊を貫いた。それだけでも凄いのに、更に光の玉は空中で軌道を変えて何度もオリハルコンの塊を貫き続ける。
「ま、こんなもんかね」
数分後、ナナさんがそう言って術を終えた後には、オリハルコンの塊はすっかり穴だらけになっていた。僕の本気の氷魔凍嵐砲でもびくともしなかったのに。
「驚いたかい?」
「凄いです、ナナさん!」
やっぱり、ナナさんは凄い! 興奮する僕にナナさんは驚愕の事実を告げる。
「ハルカ、面白い事を教えてあげるよ。さっきの魔力弾だけど、あんたの氷魔凍嵐砲の魔力より、遥かに少ない魔力しか使ってないよ。にもかかわらず、それ以上の威力を発揮した。何故だか分かるかい?」
問いかけるナナさん。少ない魔力にもかかわらず、上級魔法以上の威力。やっぱり、実力の差?
「経験の差でしょうか?」
「まぁ、外れちゃいないけどね。もっと正確に言えば、魔力の収束、圧縮、効率的な使い方。つまりは魔力のコントロール。これからあんたに叩き込む事の1つさ」
何だか、楽しそうに言うナナさんでした。
「ハルカ、あんたにまずは魔力の扱いに慣れさせる意味も含めて、魔法を教えた。初級から始めて、今や上級まで使える様になった。だから、次の段階へ進む。あんたの才能に合った戦い方を身に付けるんだ」
「僕の才能に合った戦い方ですか」
「そう。以前、教えたよね。魔法使いは、大きく分けて、大火力の遠距離型と、高機動力を生かした近距離型の二つが有ると。で、あんたは近距離型と。私は言ったよね? あんたを高機動魔法メイドに育てるって」
「うわ、まだ生きてたんですか、その設定」
「うるさいよ。それにね、あんたの魔力は爆発的な破壊には向かないんだよ。何せ、氷系だからね。火系や雷系なら向いているんだけど。その代わり、鋭く研ぎ澄ますには抜群に相性が良い。その点でも近距離型向きなのさ。後、あんた刃物の扱いが上手いし」
そりゃ、生前からほぼ毎日、料理を作る為に包丁を使っていましたからね。
「いいかい! 目指すはフェ〇トだよ! 安心しな、その為のスーツは新しく作るから! ボディラインがくっきりはっきり分かる凄いや……」
チャキッ
「言わなくて良いです、作らなくて良いです」
「あのさハルカ、人様に刃物を向けるのはいけないと思うな~。ハハハ……」
「だったら、真面目に話を進めてください」
「分かったから、真面目にやるから、小太刀を納めとくれよ!」
僕はため息を付きつつ、小太刀を納める。もぅ、ナナさんは実力は確かだし、美人なのに、どうにも残念な人だなぁ。
そして始まった、トレーニング。
「甘い! 甘い! 全然なってないよ! もっと魔力を鋭く研ぎ澄ませるんだ!」
ナナさん相手の組手。容赦無いダメ出しをされています。小太刀使いの僕だけど、武器無しの状態を考慮して、あえて素手で行っています。で、素手での戦い方についてナナさんからアドバイスを貰いました。それは手の握りについて。
「ハルカ、さっきも言った様にあんたの魔力は破壊、粉砕といった方面には向かない。鋭く研ぎ澄ませる事に向いている。だから、握り拳じゃなくて、手刀にしたらどうだい? 打ち砕くじゃなくて、貫くのさ」
打ち砕く拳じゃなく、貫く手刀か。良いかも。
「ただし、魔力の集中、収束が甘いと突き指どころじゃ済まないからね」
きっちり、警告も頂きました。そして僕は手刀を会得するべくトレーニング中な訳です。こうして、トレーニングは夕方まで続くのでした。
「よし、今日はここまで。帰るよ、ハルカ」
「わ、分かりました……」
夕方、トレーニングが終わり、帰る事に。午前のトレーニング終了時同様、息一つ乱さないナナさんに対し、僕は返事をするのが精一杯。
「なんだい、だらしないね。この程度でへばっているんじゃないよ」
「すみません……」
やっぱり、ナナさんは凄い。僕はまだまだだなぁ。そう思っていたら、ナナさんは僕に背中を見せてかがんだ。
「そのぶんじゃ、まともに歩けないだろ。全く、あんたは頑張り過ぎるんだよ。ほら、おんぶしてやるよ」
「そんな、恥ずかしいですよ! 大丈夫です、立てますから!」
恥ずかしさのあまり、強がりを言うものの、実際はもうガタガタ。立つのも辛い。
「ごちゃごちゃ言うんじゃないよ。無理やりでもおんぶするからね」
ナナさんはそう言うなり、強引に僕をおぶってしまう。
「しっかり掴まっているんだよ」
「……はい」
こうなったら逆らえない。おとなしくしよう。そしてナナさんは僕をおんぶしたまま、屋敷へと転移するのでした。
屋敷に戻ってからしばらく。やっと回復した僕は夕食の準備。ナナさんはリビングで、アニメの観賞中。ツクヨに貰った、ま〇かマ〇カとかいうアニメ。可愛いキャラと残酷で悲惨なシナリオのギャップが良いとか。僕には理解出来ません。
そして、夕食。王国は内陸部だけに、冬はとても冷え込む。そこで、夕食はシチューにした。野菜たっぷりのクリームシチューに。ナナさん、野菜嫌いだからね。なんとか、野菜を食べてくれる様にしている。その夕食の席。
「ハルカ」
「何ですか、ナナさん?」
「隙有り!」
突然、僕の喉元にスプーンを突きつけるナナさん。
「いきなり、何するんですか!」
「甘いね、もしこれがナイフなら、あんた死んでたよ」
確かにそうだけど……。ナナさんは続ける。
「ハルカ、あんたにこれから教える事。それは突き詰めたら、殺人術さ。そして、火力=強さじゃないよ。大火力が無くても、やり方次第で人を容易く殺せる。今、あんたに対してやった様にね」
その後、気まずい沈黙が続く。
「本当は教えたくないんだよ。あんたは優しい子だからね。でも、あんたは普通の人間じゃない。遅かれ早かれ、あんたを狙う奴は現れる。いつか、その手を血で汚す日が来る。ハルカ、その覚悟は有るかい?」
「……………………」
僕は答えられなかった。あまりにも重い言葉だったから。
「……ごめんよ。夕食時にこんな事言って。せっかくのシチューが台無しだね」
「いえ、気にしないでください。確かにナナさんの言う通りですから」
その後、夕食を済ませ、お風呂に入って、就寝。
「おやすみなさい、ナナさん」
「おやすみ、ハルカ」
自分の部屋に戻って、ベッドに入る。
『いつか、その手を血で汚す日が来る』
ナナさんの言葉が甦る。一体、いつになるのか? その時、本当に僕は殺せるのか? 少なくとも僕は普通の人間じゃない。狙われる理由は有り過ぎて困る程。
「その時にならないと、分からないな。でも、むざむざ殺される気は無い」
もはや、拒否権は無い。僕は強くならなきゃ。でも、力に飲み込まれでもいけない。その先に待つのは、破滅のみ。
「ナナさん。ご指導、ご教授の程、よろしくお願いします」
ぐうたらで、いい加減で、わがままで、大酒飲みのセクハラ大魔王だけど、頼りになる師匠に向けて呟き、僕は寝る事にした。
『任せな。必ず、あんたを一人前の立派なメイドに育て上げてやるさ』
あれ? 何か聞こえた様な……。まぁ、良いや。もう眠いし。おやすみなさい……。
お待たせしました(待っている人いるのか?)第五十三話をお届けします。
十二月になり、何かと忙しいハルカ。修行も新たな段階に進みました。ちなみにハルカが小細工を使う様になったのは、ツクヨ達の影響です。
そして、この作品のお気に入り登録数が六百を超えました。深く感謝致します。
では、また次回。