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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第52話 ツクヨ様の微妙な乙女心

 ハルカ達が帰った翌日。とある場所。


「……以上、転生者、ハルカ・アマノガワに関する報告だ」


『なるほどな、良く分かった。ご苦労だったなツクヨ』


 広大な真っ白な空間で、俺は『ある相手』と話をしていた。ハルカの一件で呼び出しを受けてな。全く、邪神使いの荒い事で。


「しかし、ありゃ本当に良い子だな。あれだけの力を持ちながら、歪む事なく生きている。大抵の奴は腐って破滅するのにな。大したもんだ。そして、あの子を転生させた『ヨミ』の奴の力もな。少なくとも転生者を生み出す力に関しては、もはや、あんたに匹敵しているぞ」


『困った奴だ。だが、あれの代わりが務まる奴がいないのも、また事実。始末する訳にもいかんしな。そして、ハルカ・アマノガワに関しては、お前の報告の内容ならば、特に問題は無いな』


「そうかい。そいつは良かった。さて、俺は帰るぞ。イサムが落ち込みまくっているからな。コウじゃフォローは期待出来んし……」


『まぁ、頑張れツクヨ。また、その内、仕事を頼むからな』


「本当に邪神使いが荒いな。今回はハルカを喰えなかったからな。次は、罪深い若い女を頼むぞ。罪深い程、美味いからな」


『そうだな、前向きに検討しよう』


「あんた、政治家かよ……。まぁ、良いさ。じゃあな」


 こうして俺は、その場を後にした。さて、イサムのフォローをせんとな。やれやれ。






「戻ったぞ」


「お帰りなさいませ、マスター」


『あの場所』から戻ってきた俺を、従者のコウが出迎える。だが、イサムの姿は無い。


「イサムの奴、まだ落ち込んでいるのか?」


「はい、絶賛引きこもり中です。いい加減、鬱陶しいのですが」


 やはり、こいつにイサムのフォローは期待出来んか。身も蓋も無い言い方に、正直、頭が痛い。俺が何とかするしかないか。


「分かった、後で何とかしよう。それとコウ、そろそろ、ここを発つぞ。準備をしておけ」


「かしこまりました。しかし、行くあては有るのですか?」


 質問してくるコウに、俺は答える。


「行くあてか? そんなもんは無い。また適当に色々な世界を廻るさ」


 そう、俺は行く先を特に決めない。敢えて言うなら、面白そうな世界、喰いごたえの有る奴(罪深い者)のいる世界だ。


「相変わらず、いい加減なお方ですね、貴女は」


「ほっとけ!」


 無表情ながら、非難がましく言うコウに返す。もっともコウも長い付き合いで、俺のやり方は分かっている。出発の準備をするため、去って行った。さて、イサムのフォローだが、やはり俺が身体を張るしかないか。つまりは、男女の『アレ』だ。とはいえ、さすがに日の高い内には出来んな。とりあえず、街へとくり出して飲みに行くか。おっと、念のため姿を変えておかないとな。俺がノコノコ顔を出したら、大騒ぎになるからな。あ~、普通の人間だった頃が懐かしい。人の上に立つのも楽じゃない。







 その夜。


「さて、そろそろ行くか」


 時間は午前0時を廻った辺り。静かな夜だ。俺は大神殿内の俺専用の部屋を出る。向かうはただ一つ。イサムの部屋だ。


「全く、世話を焼かせてくれるな、あのバカは……」


 ハルカが帰ってからというものの、イサムは猛烈に落ち込んでしまい、部屋に引きこもったまま、ろくに食事も取らなくなってしまった。今日の夕食など、料理長がわざわざ気を使って、イサムの好物ばかりを揃えてくれたにも関わらずだ。残すのはもったいないので、俺とコウで片付けたがな。


 しかし、いつまでもこのままでは困る。よって、俺が身体を張って解決しよう。自分で言うのもなんだが、顔とスタイルには自信が有る。コウは金にならん事はやらないし、貧乳だしな。本人に言ったらヤバいが。ま、今はイサムのフォローだ。それにイサムと『ヤる』のは久しぶりだしな。ハルカがいる間は自重していたし。覚悟しろよイサム、今夜は徹底的に搾り取ってやるからな、ククククク!


「マスター、ほどほどにお願いします。明日出発なので。イサムが足腰立たないでは困ります」


 いつの間にやら、俺の前にコウがいた。そして苦言を呈する。


「安心しろ、いざとなれば俺が引きずってでも連れて行く」


「そうですか。ならば構いません。後はイサムが腹上死しない事を祈ります。みっともないので」


「大丈夫だって。イサムが腹上死する様なヤワな奴ならとっくにしてる」


「分かっています。言ってみただけです。ではマスター、イサムをお願いします」


「あぁ、任せろ」


「それでは私はこれで」


 そう言ってコウは去って行った。常に無表情な奴だが、あいつなりにイサムを心配していたらしい。


「それじゃ、俺も行くか」






 で、やって来ました、イサムの部屋の前。ドアノブに手を掛けてみるが案の定、鍵が掛かっている。この分じゃ、いくら呼んでも出てこないな。ならば、俺のやり方でいくまで。


『開ける気が無いなら、ぶち破る!』


 蹴り一発でドアをぶっ飛ばし、中に入る。別にこのドアが安普請な訳ではないからな。まがりなりにも、VIP専用の部屋なんだからな。つくづく大したもんだよ、邪神の力は。ところでイサムは……いた!


 薄暗い部屋の中、ベッドの上に更に暗いエリアが有る。そこに膝を抱えてうずくまるイサムがいた。


「ハルカ……ハルカ……」


 ハルカの名前をブツブツ呟いてやがる。こりゃまずいな。思った以上に深刻だ。俺がドアをぶっ飛ばして入ってきたのに無反応って。元々そのつもりだったが、荒療治が必要だな。俺はズカズカとイサムに歩み寄る。


「おい、イサム」


「ハルカ……」


 やはり無視か。とりあえず、活を入れてやろう。これじゃ話にならん。右手を握り締め、拳を作る。そして無言でイサムの横っ面をぶん殴る! もちろん手加減はしたがな。


 イサムはベッドから落ちて、床をしばらく転がった後、やっと起き上がった。よし、ちゃんと生きていたな。


「痛って~~。何するんですかツクヨさん! いきなり殴るなんて!」


 お~、相変わらず頑丈な奴だ。手加減したとはいえ、俺に殴られて痛いで済ませるとはな。涙目で文句を言うイサムに妙な感心をする。それよりも本題だ。


「何、ハルカが帰ってからお前がウジウジ落ち込んでいるのが鬱陶しいからな。活を入れに来た」


「……………………」


「だんまりかよ。大体な、ハルカが帰ったのはお前のせいだろうが。あの勝負は明らかに俺の勝ちだった。あのまま行けば、魔女3人は戦闘不能、圧倒的な力の差も見せ付けてやったし、残った金髪のお嬢ちゃんも降参していたはずだ。なのに、お前が乱入してきた事で全部、ぶち壊し。折れかけていたお嬢ちゃんの心を奮い起たせてしまった。何か反論有るか?」


 するとイサムが口を開いた。


「だって……ハルカが泣いていたんですよ。俺には放っておけなかったんです」


 うつむきながら言うイサム。


「だったら自分のした事に対して責任を持て。いつまでもウジウジしてるんじゃない。女々しいのは、外見だけにしろ。それにそんないじけた奴がハルカの心を掴める訳ない」


 ちと、言い過ぎたか? しかし、これもイサムの為だ。


「…………確かにそうですよね。すみませんでした、ツクヨさん」


「ふん、謝るなら、料理長に謝れ。お前があんまり落ち込んでいるもんだから、今日の夕飯はお前の好物で揃えてくれたんだぞ。でも、お前が引きこもっているから結局、俺とコウで片付けた」


「本当にすみません。後で謝ってきます」


 ふむ、少しは持ち直したか。ならば、次へ行くか。


「分かればそれで良い。ほら、これ食え。お前、ろくに食べてないだろ。俺お手製の握り飯だ。ありがたく食えよ」


 俺は空中から握り飯を3個取り出し、イサムに渡す。具をたっぷり詰め込んだ大きな握り飯。いわゆる、爆弾おにぎりとか言う奴だ。ついでに茶も出してやる。


「いただきます」


 爆弾おにぎりにかぶり付くイサム。やはり腹が減っていたらしく、ガツガツと平らげていった。


「ごちそうさまでした。旨かったです、ツクヨさん」


 爆弾おにぎりを全部平らげて、茶を飲んで一息付いたイサムは、礼を言った。うん、腹が減ると余計、ネガティブになるからな。偉大なり、旨い飯。さて、イサムの腹ごしらえが済んだなら、今度は俺の用事を済ますか。


「そうか、そいつは良かった。じゃ、腹ごなしに一運動するか」


 するとイサムは、何だか嫌そうな顔をする。


「あの……それってまさか……」


「分かってるだろ、『ヤる』に決まってるだろうが! ハルカが来てからご無沙汰だったからな! こちとら欲求不満が貯まっているんだ。しっかり俺を満足させろよイサム。とりあえず、最低10発な」


「ちょっと! 俺、まだ心の準備が! それに風呂にも入ってないし! それはまたの機会にって事で!」


 ごちゃごちゃと言い訳を並べ立ててベッドから飛び降り、逃げようとするイサム。だが、逃がさん!


「紅い鎖!」


「うわっ?!」


 俺の呼び出した真紅の鎖が瞬時にイサムを縛り上げる。床に転がったイサムを鎖ごと引っ張って、ベッドの上に放り投げる。さて、楽しい時間の始まりだ。俺はさっさと自分の服を脱いで、全裸になる。


「イサム、いい加減観念しろ。既にこの部屋は俺の力で、周りの空間から切り離した。事が済むまで出られんぞ」


「ツクヨさんの鬼……」


 この世の終わりが来たみたいな暗い顔で言うイサム。失礼な奴だな。こんなスタイル抜群の美人とヤれるのに何が不満なんだか? まぁ良いさ。イサムがどう思ったところでヤるだけだ。イサムを縛る鎖を解除し、手早く裸にひん剥く。


「相変わらず、色白だなお前。おまけに華奢だし。つくづく、男に見えんな」


「ほっといてください!」


 気にしている事を俺に言われて怒るイサム。でも事実だしな。しかし、それでもイサムは男。


「そう、怒るな。少なくとも、ここは立派に男だろ」


「どこ触ってるんですか!」


「準備だよ、準備。おぉ、もういけるか。さすがはイサム。それじゃ、いただきます!」


「わ~~~~っ! ちょっと待っ!」


 以下、大人の事情により省略だ。結果から言うと、夜明け近くまで、計12発ヤった。いや~久しぶりなもんで、燃えたな~。女としてとても満足出来た。イサムはすっかり燃え尽きていたがな。


「おい、しっかりしろイサム。今日、ここを発つんだからな」


「…………………………」


 ちと、ヤり過ぎたかな? 久しぶりだったからな~。仕方ない、回復してやろう。イサムに活力を注入してやる。すると、すっかり燃え尽きていたイサムの血色が戻ってきた。


「酷いですよ、ツクヨさん! いくら久しぶりだからって!」


 復活早々、文句を言うイサム。うん、これで良い。これでこそ、イサムだ。


「あ~ハイハイ、悪かったな。それじゃ俺は帰るからな。後、ちゃんと朝飯を食いに来いよ。さっきも言ったが、今日ここを発つからな」


 それだけ言うと、イサムの返事は聞かずに俺は部屋を後にした。






 翌朝、やっと部屋から出てきたイサムは、料理長にきちんと謝り、俺、コウ、イサムと3人揃って朝食を済ませた。


 で、俺は出発までの時間潰しに大神殿内をぶらついていた。コウは今日の午前中には出発すると言っていたな。次にここへ来るのはいつになるかな? そんな事を考えていたその時。


「あの……邪神ツクヨ様……」


 背後から俺に話しかけてきた声。その声に俺は振り返る。


「ん、君は……」


 そこにいたのは、15~16歳ぐらいの少女。それも見覚えの有る少女だった。先日、アルカディア軍に捕らえられていたのを解放した少女達の1人だ。アルカディア軍によって、故郷を壊滅させられたとの事で、やむを得ず、ここ、紅の大神殿に連れてきた。その後の処遇は教主の奴に任せておいたが……。


「よう、元気だったか」


 とりあえず、気軽に挨拶するか。堅苦しいのは好かん。


「はい、おかげさまで」


 彼女の方は多少、恐縮しながらも返してくれた。俺を邪神ツクヨ様と呼んだ事といい、どうやら教主辺りから話を聞かされたみたいだな。


「君は俺が何者か知った様だな。で、何の用だ? 話しかけてきたからには、用が有るんだろう?」


 すると少女は、やはり恐縮しながらも俺に尋ねてきた。


「は、はい、あの……ツクヨ様は邪神なんですよね?」


「あぁ、そうだが?」


 ま、彼女が何を聞きたいかは、大体見当が付いたが、ここは続きを聞こう。


「なのに、どうして私達を助けてくださったんですか? 普通、邪神といえば悪い事をするものでしょう? もしかして、何か企んでいるんですか?」


 疑惑のこもった眼差しを向ける少女。当然と言えば当然だな。邪神をホイホイ信用する奴はバカだ。しかし、俺としてはあまり面白くない。とりあえず、反論しておくか。


「ずいぶんな言われようだな、まぁ答えてやろう。俺は確かに邪神だが、邪神としての務めを果たす気は無くてな。それと君らを助けたのはアルカディア軍が捕らえた逸材を無駄に死なせるのはもったいないと思っただけだ。以上」


「その言葉を信じろと?」


「無理にとは言わん。好きにしろ」


 しばしお互いに沈黙する。先に口を開いたのは少女だった。


「……やはり、教主様のおっしゃった通り、風変わりなお方ですね」


「誉め言葉になってないぞ。それに教主の奴、何て言ったんだ?」


「はい、邪神でありながら、自由気ままに生き、気に入った者にはとても寛大で慈悲深い。しかし、気に入らない者、敵対者は徹底的に叩き潰す。善悪にとらわれない、独自の価値観を持つお方だと」


「ふん、まぁな。ところで、君らの処遇は決まったのか? 教主の奴に任せていたが?」


 アルカディア軍から保護したは良いが、その後は教主に丸投げしたからな~。あいつは仕事が早いから、そろそろ行き先が決まっても良いはず。


「はい、全員決まりました。子供や、跡取りのいない家庭や店などに引き取られる事になりました。私も食堂を経営しているご夫婦の元に行く事に。実家が食堂で、手伝っていましたし」


「そうか。そいつは良かった」


 連れてきたのは俺だからな。全員、行き先が決まって良かった。もっとも、今後どうなるかまでは知らん。全ては本人次第。俺もそこまで甘くない。


「最後に、遅くなりましたが、改めてお礼を言わせてください。ツクヨ様、助けて頂き、本当にありがとうございました!」


 深々と頭を下げて礼を言う少女。照れくさくてかなわん。ガラじゃないんだよ。


「礼には及ばんさ。言ったろ、逸材たる君らを無駄に死なせるのはもったいないと思っただけだと」


 すると少女は微笑む。


「本当に風変わりなお方ですね、貴女は」


「何とでも言え、じゃあな!」


 いい加減、いたたまれなくなった俺は、その場を逃げる様に後にした。


「ありがとうございます、優しき邪神、ツクヨ様……」






 その後、俺達3人は、教主や、アルカディア軍から助け出した少女達に見送られ、ツクヨポリスを後にした。それから数日後、とある世界で迎えた夜。


「ねぇ、ツクヨさん」


「何だイサム」


 野宿、と言うかコウが呼び出したコテージで3人揃って茶を飲んでいたら、イサムが話しかけてきた。何やら思う所が有るみたいだが。恐らくあれか。


「ハルカが気になるか」


「……はい。今頃、どうしてるかなって」


 こいつ、つくづくハルカに夢中だな。女として面白くない。


「イサム、私達がハルカに接触したのは『あのお方』より、転生者ハルカ・アマノガワを見定めよとの依頼を受けたからです。それを済ませた以上、私達にハルカに接触する筋合いは有りません」


 そんな俺の心中を知ってか知らずか、イサムの心をえぐるコウ。こいつ容赦無いな。あ~ぁ、イサムが落ち込んだ。


「ですが、様子を見るぐらいは良いでしょう。後で代金を頂きますが」


 おぉ、珍しい。コウがフォローをするとはな。


「ありがとう、コウ!」


 感激のあまり、イサムの奴、涙ぐんでやがる。やっぱり面白くない。


「では、映します」


 コウがそう言うと、空中に現在のハルカの映像が映し出される。コウご自慢の、画質、音質共に最高の映像でな。まぁ、それは良い。映像自体はな。問題はその内容だった。


 以下、映像が映し出された瞬間の俺達のリアクション。


「あっ」


「げっ!」


「おやおや、お盛んですね」


 ちなみに、イサム、俺、コウの順番。


 コウご自慢のアルティメット映像。確かにハルカが映っていた。だが、ハルカ1人ではなかった。師匠のバカ魔女、ナナも一緒だった。それだけなら良かったのだが、問題は2人共に全裸だった事。


 ……ぶっちゃけ、夜の寝室、ベッドの上で、百合行為の真っ最中だった。うわ~、ナナの奴、見事なテクニックだな。ハルカ、すっかり流されてるぞ。普段からは想像も付かない甘ったるい声を上げている。


 そんなハルカに興奮したのか、ますます盛り上がるナナ。それに比例して、更に甘ったるい声を上げるハルカ。黒髪巨乳美女と銀髪美少女の絡み。うん、良い物を見せて頂きました。本当にありがとうございます。


 って、そうじゃないだろ! イサムを元気付ける為に映像を出したのに、これじゃ逆効果だ。ここで俺は気付いた。あれ? 何故、イサムは黙っているんだ? 普通、こんな映像を見たら、真っ先に大騒ぎしそうなもんだが。俺は恐る恐る、横にいるはずのイサムを見た。そして、心底たまげた!


「わ~~~~~~~~っ!! イサムしっかりしろ!! ヤベェ! 息してねぇ!!」


「おやおや、よほどショックだったとみえますね。真っ白になった人間など初めて見ました」

 

「冷静に分析してるんじゃない、バカ! イサム~~~~っ!!」


 コウの言う様に、イサムはあまりのショックに真っ白になって固まっていた。幸い、コウの救命処置により一命をとりとめたものの、映像代と合わせて後できっちり取り立てられる羽目になった。






 イサムの救命処置が終わった後、俺とコウは2人で茶を飲んでいた。さすがに今夜はイサムとヤる気にはなれんしな。しかし、凄い物を見たな。あのバカ魔女、大したテクニシャンだよ。俺もあれほどの腕は無い。だが、何より……。


「……マスター。あの映像を見てどう思われました?」


 ハルカとナナの絡みについて考えていたら、コウが尋ねてきた。


「そうだな。一言で言えば実にエロかったな。特にバカ魔女のテクニック。ありゃ凄い」


「……まさか、それで終わりですか?」


『その程度か、このバカ』と言わんばかりのコウ。分かったよ、真面目に答えてやる。


「冗談だ。そう睨むな。そうだな、ナナの奴だが、昔と今ではまるで別人だな。今のあいつはとても優しい眼をしているな」


「クサい表現ですね」


「うるさい!」


 人がせっかく真面目に答えたのに、何て言い種だ。だが、コウは続ける。


「しかし、的確な表現ですね。マスターのおっしゃる通り、ナナは昔と今ではまるで別人です。知らないとは幸せな事ですね。もし、ハルカが過去のナナの事を知ったら卒倒しかねません」


「確かにな」


 それきり黙る、俺とコウ。時々、茶を啜る音だけが響く。


 実は俺は、ハルカと接触する前に、コウからハルカやナナに関する情報を仕入れていた。情報を制する者が勝負を制する。そして、情報は正確さと鮮度が命。その点、コウは理想の情報源だ。何せ、創世の時から現在に至るまでのあらゆる情報を知り得る魔書の化身だからな。


 で、ナナの過去についてコウのアルティメット映像で見たんだが。正直、見るんじゃなかったと後悔した。邪神たる、この俺、黒乃宮クロノミヤ 月夜ツクヨがだ。


 過去のナナ。あれは俺が知る、いかなる魔王、邪神よりも邪悪かつ危険だった。計り知れない悪意と狂気に満ちていた。


 破壊と殺戮、蹂躙と簒奪、邪魔する全てを壊し尽くし、殺し尽くし、目につく美しい女を奪い尽くす。


 奪った女はことごとく洗脳を施し、従順な操り人形へと変えて欲望のままに貪り尽くし、壊れたら人体実験の材料として使い捨てにしていた。正に悪鬼羅刹の所業だった。いくら俺でもここまではやらん。


「あの悪逆非道の魔女が、ハルカの為に命懸けで俺に挑んできた。それに先ほどのベッドシーンにしてもそう。ハルカに対する深い愛情を感じた。ハルカを気持ち良くさせてあげたい、喜ばせたいってな。女を欲望の捌け口として使い捨てにしていた昔とは、大違いだ。人の心を動かし、変えてゆく力。大したものだ」


「それがハルカの真の力かもしれませんね、マスター」


「使い方次第では、恐ろしい力になるな」


「まぁ、ハルカなら問題無いでしょう」


「そうだな」


 ふむ、コウの奴もハルカを認めている様だな。珍しい事だ。


「さて、夜も遅いし、もう寝るぞ。やれやれ、朝になったらまた、イサムのフォローをせんとな」


「その辺りはお任せします、マスター。ではおやすみなさいませ」


「あぁ、おやすみ」


 かくして、自室に戻る俺とコウだった。ふぅ、せっかくイサムの奴、持ち直したのにな~。朝になったら、またフォローだな。






 翌朝、問答無用でイサムを部屋から引きずり出した。当然ながら、イサムは落ち込みまくり。とにかくダイニングまで連れて行き、無理やり朝飯を食わせたが、心ここに在らず。つくづく、面倒な奴だな。


 朝飯を食い終わるとイサムは外に出ていってしまった。


「マスター」


「分かっている。出発はしばらく待て」


「かしこまりました」


 こうして、イサムの後を追って外に出た俺。その辺には姿が見えんな。本当に世話が焼ける。気配を探ったら、ここから少々離れた海の方角にて感有り。


「行くか。思い詰めて、バカな事をやらかすなよ……」


 空間転移で瞬時に移動。確かにイサムはそこにいた。砂浜でいわゆる体育座りをして、いじけている。


「ハルカの嘘つき……。やっぱり百合じゃないか……。ナナさんに美味しく食べられちゃってるじゃないか……」


 あ~、やはり昨夜のアレが堪えたか……。イサムは前にも増して、落ち込んでいた。さて、どうしたもんか? とりあえず……殴る!!


 先日の夜同様、吹っ飛ぶイサム。砂浜を転がり、やっと起き上がる。


「この前も殴りましたよね、ツクヨさん……」


 心底、恨めしそうに言うイサム。落ち込んでいる事もあって、実に不気味だ。見た目が美少女だから尚更な。


「ふん! お前があまりにも腑抜けで見苦しかったんでな!」


 怒らせる為、あえて挑発。すると見事に食い付いてきた。


「うるさい! ツクヨさんに何が分かるんですか! 俺の気持ちなんか、全然分からないくせに!!」


「あぁ、分からん。分かろうとも思わん。女々しいヘタレの気持ちなどな。悔しいか? 悔しかったら、かかってこい。叩きのめしてやる。このヘタレオカマ」


 俺はイサムを更に挑発。そして、狙い通りイサムはキレた。次の瞬間、俺の首の有った場所を日本刀の刃が一閃!


「お~、危ない。いきなり首を刎ねにくるか」


「死ねェえェェェェェェっ!!」


「全力でお断りだ!!」


 それから約、1時間、俺とイサムの戦いは続いたが、最後は俺のアッパーがイサムの顎を撃ち抜く事で決着を見た。






「痛たたたた……」


「頑丈な奴だな。俺のアッパーを食らって、それだけで済ませるんだからな。ほら、見せろ。治してやるから」


 イサムの顎へ治癒魔法を掛けてやる。すぐに腫れも引いて元通りに。


「暴れて少しは落ち着いたか?」


「……すみません。ツクヨさん」


 謝りはしたものの、まだ暗いイサム。そんなにハルカが良いのか? 俺は試しに聞いてみた。


「なぁ、イサム。俺とハルカ、どちらか選ぶならどっちだ?」


「ハルカ!」


「即答するなボケェェェェッ!!」


 イサムの顔面を握り潰さんばかりの勢いで、怒りのアイアンクローを決める。


「ギャアァアアア! すみません! ツクヨさん!!」


 必死に謝るので解放してやる。


「お前な、少しはためらうなりしろよ! 俺の乙女心が傷付いたぞ」


 するとイサムは心底、意外そうな顔。


「えっ? ツクヨさんにそんな物有ったんですか?!」


「悪かったな!! このクソボケェェェェッ!!」


 イサムの全身の骨を砕かんばかりの勢いで大激怒のコブラツイストを決める。


「ギャアァアアア!!」


 こいつ、俺を女と思ってないな!






「反省したか?」


「すみませんでした。ツクヨさんの乙女心を傷付けて本当にすみませんでした」


 コブラツイストから解放後、思いっきり土下座して謝るイサム。勘弁してやるか。それにこいつの気持ちは既に決まっているしな。どれ、ちょっとサービスしてやろう。


「イサム、これを見ろ」


 俺は空中に映像を出す。


「あっ! あれは……」


 映し出された映像を見て、驚くイサム。俺が見せたのは、ハルカの部屋のベッド。正確にはその枕元。そこには小さなヒヨコのぬいぐるみが置かれていた。


「俺がプレゼントした奴だ」


 そう、イサムがハルカにプレゼントした物だ。それが置かれている。


「イサム、お前はハルカの心にその存在を刻む事が出来た。可能性はゼロではないな」


「そうか、俺、望みが絶たれた訳じゃないんだ……」


 一気に復活してきたイサム。あのな? どうやってハルカの元に行くか考えろよ? ま、今は言うまい。代わりに。


「イサム、盛り上がっている所、悪いが、ナナの事を忘れてないか? あいつはハルカを溺愛している。もし、お前がハルカを欲しいならば、ナナを何とかせねばならない。もちろん、力ずくはダメだ。ハルカが怒る。つまり、ナナに対してお前がハルカに相応しい男だと証明しなくてはならない。ハルカを守れる、幸せに出来る男だと。少なくとも、こんな所でいじけている場合じゃないな」


 イサムに発破をかけてやる。効果はてきめんで、たちどころにイサムはやる気を出す。


「はい! 俺、頑張ります! ハルカやナナさんを納得させられる、立派な男になります! よーし! まずは走り込みだ!」


 そう言うなり、イサムは猛ダッシュで砂浜での走り込みを始めてしまった。本当に、単純直情型のバカだな。だが、それでこそイサムだ。


 俺は青い海へと視線を移す。まるでハルカの瞳の様に深く澄んだ青い海へと。


「全く、妬けるな。俺だって、女だぞイサム……」


 俺の呟きは誰にも聞かれる事なく、宙に消えた。



二〇一四年、初の投稿。今回もやたら長くなってしまいました。


『あのお方』、『ヨミ』、こいつらは分かる人には分かるはず。


過去のナナさん。今とは大違いの恐ろしい魔女でした。ちなみにハルカはナナさんの過去については、あまり詳しく知りません。本人があまり気にしない上、ナナさんも知られない様にしていますから。


そして、ツクヨ様。色々と心中複雑です。イサムがハルカに夢中ですから。


次回より新展開、年末大騒動編です。ではまた次回。

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