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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第46話 イサムとハルカの初デート 前編

 少し時間をさかのぼる。場所は紅の大神殿。


「……ん。今、何時だ? 午前3時過ぎか……」


 夜中にふと目が覚めて、時間を確認する。


 俺、大和(ヤマト (イサムはツクヨさんの悪巧みで、催眠状態のハルカと二人きりでこの部屋に閉じ込められた。どうもツクヨさんは俺とハルカをくっつけたいらしいが、やり方が酷い。催眠状態のハルカは俺を自分の師匠のナナさんと思い込み、べったり甘えてきて大変だった。理性をフル動員して、何とか堪えたけど。


 そりゃ、俺だって男だ。ハルカみたいな魅力的な美少女なら付き合いたい。出来れば、更に深い仲になりたい。理想を言えば、俺と結婚して、その……男女の営みをして、俺の子供を産んで欲しい。そして、親子揃って幸せな家庭を築きたい。俺、孤児院出身で家庭って物に憧れが有るんだ。


 俺はベッドで眠るハルカを起こさない様に、そっと起きる。ちなみに俺は床で寝ていた。高級な絨毯と適度な室温のおかげで、寝るのに問題は無かったし、何よりハルカと一緒のベッドで寝るのは刺激が強すぎる。起きて向かうは部屋のドア。寝る前は開かなかったが、今はどうだ? ドアノブに手を掛け回す。


 カチャッ


 軽い音と共に、ドアは開いた。良かった、出られる。俺はそっと外へ出て、静かにドアを閉める。


「おやすみ、ハルカ」


 ドアが閉まる直前、俺は小声で呟いた。






 ハルカの部屋を出て、俺の部屋に戻る。


「ん?」

 

 俺の部屋のドアの向かい、誰かが腕組みをしながら壁にもたれかかっている。向こうも俺に気付いたらしく、俺の方を見る。ポニーテールにした長い黒髪、真紅の瞳、エルフ耳で真紅のチャイナドレスに身を包む、若い女性。間違いない、ツクヨさんだ。


「よぅ、イサム。朝帰りか? まだ夜は明けてないがな。どうだった、ハルカは? 気持ち良かったか? 何発ヤったんだ?」


 ニヤニヤ笑いを浮かべながら、聞いてくるツクヨさん。それに対する俺の返答は……。


 横一文字に白刃一閃!


「おっと!」


 だが、ツクヨさんは軽くかわす。


「いきなり刀で斬りかかるな、危ない奴だな。そんなんじゃ、ハルカに嫌われるぞ」


「ふざけないでください! 俺は正気を無くしている女の子に手を出す程、腐っていない!」


 いくらツクヨさんといえど、今回は許せない。


「ふん、手を出さなかったのか、このヘタレが。せっかく俺がお膳立てしてやったのにな」


「大きなお世話です!」


 俺はツクヨさんにそう言うと、乱暴にドアを閉めた。まだ夜明け前だが、知ったことか!


「…………本当に真面目な奴だな。ま、それでこそイサムだ。さて、部屋に戻るか」






 翌朝


「ん……あれ? 僕、どうしてベッドに?」


 僕は目が覚めたら自分に割り当てられた部屋のベッドの上にいた。おかしいな、そんな記憶は無いんだけれど。僕は昨夜の出来事を思い出してみる。


「えっと確か、お風呂に入った後、ツクヨ達が来て、ババ抜きをする事になって、結局ツクヨがボロ負けして、やめたって言い出して、更にイサムとの結婚話を持ち出して……」


 う~ん、ここから先が思い出せない。


「あの後、寝ちゃったのかな? と、なるとイサムがベッドに寝かせてくれたのかも。ツクヨやコウがそこまで親切とは思えないし」


 記憶がはっきりしないのは気になるけれど、考えても分からない以上、仕方ない。後でイサムに聞こう。そう決めた僕は朝のシャワーを浴びる事にした。





 ザァアアァァァ……


「やっぱり朝のシャワーは気持ち良いなぁ……」


 割り当てられた部屋に備え付けのバスルームでシャワーを浴びる。この部屋、いわゆるVIP専用ルームで、各種設備を完備。僕はツクヨの連れて来たお客様扱い故にこの待遇。もちろん、ツクヨ達もVIP専用ルーム。


「そういえば、恥ずかしい夢を見ちゃったな」


 昨夜見た夢を思い出し、頬が熱くなる。それはナナさんが僕を迎えに来てくれる夢だった。


『ハルカ、迎えに来たよ。さぁ、帰ろう』


 僕の前に現れたナナさんは優しい微笑みを浮かべ、そう言った。


 僕は嬉しさの余り、ナナさんに抱き付いたっけ。そして、その後、場所が突然ベッドに変わって、その……ナナさんに色々甘えちゃった……。普段の僕なら、あんな事しないのに。僕、欲求不満なのかな? ちょっとへこむ。ただ、これだけは言える。ナナさんに会いたい。ナナさん、僕はここにいます。お願いだから、迎えに来てください。だが、無数に存在する世界の中から、手がかりも無く僕を見つけるなど、いかにナナさんといえど、不可能に近いと分かってもいる。現実は残酷だ。


「ナナさん……」


 僕はシャワーを浴びながら、その名を呼んだ。






 朝のシャワーを終えて、いつものメイド服に着替えたら、朝食が出来たと知らせが来た。ホテルみたいに部屋まで持って来て貰う事も出来るけれど、ツクヨがここでは食堂で食べる事にしているので、僕もそれに合わせる事にした。後、イサムに昨日の夜の事を聞きたいし。


 で、やって来ました食堂。とにかく広い。そして清潔。ツクヨ達専用の食堂なんだとか。贅沢だな~。純白のテーブルクロスの掛かった大きなテーブルの上には、美味しそうな洋風の朝食が四人分。僕が食堂に着いた時には既にツクヨが席に着いていた。


「おはよう、ハルカ。良く寝られたか」(ニヤリ)


「おはようございます、ツクヨ。はい、良く寝られました。でも、何ですか? その笑い」


 ツクヨと朝の挨拶を交わすが、ツクヨが何だか意味深な笑みを浮かべる。


「いや、何でもない。気にするな」


 はぐらかされてしまった。やっぱりツクヨって分からない。そうこうしている内に、コウとイサムもやって来た。四人揃ったので朝食を頂く事にした。






 出された朝食は、とても美味しかった。凄いね、VIP待遇。前世では全く無縁の世界だよ。まぁ、それはそれとして、イサムに聞きたい事が有る。昨夜、何が有ったか。


「ねぇ、イサム。ちょっと聞きたい事が有るんだけど」


「聞きたい事って?」


 普段と変わらない態度のイサム。


「あのね、昨日の夜、ツクヨ達が僕の部屋に遊びに来たよね。で、ツクヨがその……イサムとの結婚話を持ち出したじゃない。でも、その後の事を覚えていないんだ。今朝、起きたらベッドの上だったし。もしかして、イサムがベッドに運んでくれたの?」


 僕としては、単に聞いてみただけだった。なのにイサムは、一気に顔色が変わった。


「き、昨日の夜! いや、その、そうそう! ハルカ、あの後、寝ちゃったんだ。だから俺がベッドに寝かせたんだ。安心して、変な事はしてないから!」


 何だか、やけに狼狽しているイサム。そこへツクヨとコウが口を挟む。


「安心しろハルカ。イサムは眠っている女の子に手を出す卑怯者じゃない」


「と言うか、単にヘタレなだけですが」


「誰がヘタレだよ!」


 ヘタレ呼ばわりされて怒るイサム。


「あの……」


 ツクヨとコウのせいで、話が脱線してしまったので、元に戻そうとイサムに声をかける。


「ごめん、ハルカ。話が脱線しちゃって。でも、本当に手は出してないから。信じて欲しい」


 真剣な目で言うイサム。嘘とは思えない。知り合って長くはないけれど、イサムは誠実な人だと僕は感じていた。


「うん、イサムがそう言うなら信じるよ」


「……ありがとう、ハルカ」


 やけに感激しているイサムだった。イサムって良い人だけど、時々、変。






「そうだ、イサム、ハルカ、お前らに良い物をやろう」


 朝食の最中、突然ツクヨがそう言って、2枚のカードを出してきた。


「何ですか、それ?」


 僕がツクヨに聞くと教えてくれた。


「ツクヨポリス一日遊覧フリーパスだ。好きな日に一日限定で、ツクヨポリスのほぼ全ての店や娯楽施設なんかに入れる。しかも代金の支払いは大神殿持ちだ。という訳だから、お前ら2人で遊びに行ってこい」


 突拍子もない事を言い出したツクヨ。僕も驚いたが、イサムはそれ以上だった。


「ハ、ハルカと2人で!?」


「何だ、不満かイサム?」


「いや、全然不満じゃないです!!」


「ハルカ、君はどうだ?」


「僕も不満は無いです」


 ツクヨにさらわれたり、アルカディア軍と戦ったりと最近、大変だったからね。昨夜はナナさんの夢を見るぐらいだし、ストレスが溜まっているのかも。代金は大神殿持ちだって事だし、ここは、存分に遊んでストレス発散をしよう。


「ところで、ツクヨさんとコウはどうするんです?」


 イサムが尋ねる。


「俺とコウは他にやる事が有る。新しい拠点を見つけないとな。いつまでもツクヨポリスに留まる訳にもいかん」


 なるほど、納得。


「それじゃ今日一日、存分に楽しんでこい」


「夜までには帰って来る様に」


 ツクヨとコウにそれぞれ言われる僕とイサムだった。






「ハルカと2人でツクヨポリス観光。これって事実上、ハルカとのデートだよな。うわ~! 緊張してきた。下手な事したらハルカに嫌われるかも……」


 朝食を済ませた後、一旦、自分の部屋に戻った俺。何せデートなんて初めてだ。身近にツクヨさんやコウがいるけど、あの二人はデートってガラじゃないし。とりあえず、デートプランを考える。


「そうだな、遊園地なんかが定番かな。それから食事をして、景色の良い所に行って。そ、それから、良い雰囲気になったら、えっと、その、こ、こ、告白とか……。そしてキス……! うわ~! 恥ずかしい!」


 ハルカとのキスシーンを思い浮かべ、つい興奮してしまう。ちょっと待て、落ち着け俺。暴走しすぎ。あんまりがっついたら、それこそ嫌われる。あくまで紳士的に。クールでカッコいい所をハルカに見せるんだ。


「おっと、そろそろ行かないとな。大神殿の門前で待ち合わせだっけ」


 とっておきの一張羅(女物だけど)を来た俺は、部屋を出た。






「待たせてゴメン!」


 待ち合わせ場所の大神殿の門前に来たイサムは、開口一番謝った。


「服をどれにしようか迷っちゃって……」


 本当に申し訳なさそうなイサム。確かに気合いの入った服装をしている。対する僕は、いつも通りのメイド服。これしか持っていないし。むしろ僕の方こそ、イサムに申し訳ない。


「別に気にしてないよ。僕の方こそ、いつも通りの服装でゴメンね」


「とんでもない! ハルカにはメイド服が凄く似合ってるよ!」


 誉めてくれるイサム。ナナさんデザインのメイド服なんだよね、これ。最初の頃はメイド服を着るのに抵抗が有ったけれど、今ではすっかり慣れたな。似合うと言われて嬉しいし。僕、女になった事で、思考まで女寄りになってきたのかな。


「ところでイサム、今日はどこへ行くの?」


「それなんだけど、最近新しく出来た遊園地が有るんだって。そこにしようと思うんだけど、どうかな?」


 遊園地か……。久しぶりだな。


「うん、それで良いよ」


「良かった~。それじゃ、行こうハルカ!」


「うん!」




邪神ツクヨが焚き付ける事も有り、どんどん接近するイサムとハルカ。果たして二人はどうなるのか? 一方、ナナさん達が列車に乗ってツクヨポリスに接近中。ではまた次回。

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