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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第42話 ツクヨポリスにて

 ここに来るのも久しぶりだな。メツボー教国首都、ツクヨポリス。その中心に有る紅の大神殿。ツクヨさん、すなわち邪神ツクヨを崇拝しているメツボー教の総本山。


 アルカディア軍との戦いが決着した後、俺達はアルカディア軍に捕らえられていた女の子達を解放した。だが、困った事に彼女達の故郷は既にアルカディア軍によって壊滅させられており、帰る場所が無い。そこでツクヨさんは、女の子達をここに連れてきた。で、当のツクヨさんは、メツボー教のトップである教主さんと話し合っている。


「久しぶりだな、教主。さっそくで悪いが、この娘達を頼む。準備は出来ているんだろう?」


「は、ご用命通り、腕の良い医師とカウンセラーを召集いたしました。ただ、受け入れ先については、しばらく猶予を頂きたいのですが。なにぶん、急な話ですので……。よって、受け入れ先が決まるまでは、彼女達は大神殿にて保護いたします。よろしいでしょうか?」


「あぁ、構わない。頼んだぞ」


「は、必ずや良い受け入れ先を見つけてご覧にいれます」


 ふーん、女の子達は、受け入れ先が決まるまで、大神殿でお世話になるみたいだ。ま、大神殿の人達はみんな優秀だし、なんとかなるだろう。おっ、どうやらツクヨさんと教主さんの話が終わったみたいだ。


「君達とは、ここでお別れだ。今からこの女の人に付いていけ。医師とカウンセラーに診て貰うんだ」


 ツクヨさんが女の子達に話しかける。対して女の子達は、寂しそうだ。


「嫌! お姉ちゃん達と一緒が良い!」


「ダメよ、我が儘を言っちゃ」


 年少組の1人が駄々をこねたが、年長組がたしなめる。


「う~……」


 不満そうだが、分かってくれたらしい。ちなみにツクヨさん、子供にウケが良いんだよな。


「それでは皆、付いて来なさい」


 そう言って、教主さんが女の子達を連れて大広間から出て行った。良い受け入れ先が見つかると良いな。






 それから、しばらく。豪華な応接間に通された俺達は、丁重なもてなしを受けていた。俺達が来る度の恒例だ。極上の紅茶とケーキを味わう。ただ、ハルカだけは部屋の豪華さなんかに驚いていた。


「凄く豪華な応接間だなぁ。このティーカップとか、いくらするんだろう?」


「気を付けなさい、ハルカ。そのティーカップは、値段が付けられないほどの極上品ですから」


「ちょっと困るよ! そんな極上品を出されたら!」


「全く、あいつら……。ティーカップなんか安物で構わんと言ってあるんだがな」


 コウから、ティーカップの価値を聞かされ困惑するハルカ。確かに、あまりに高級品を出されると、かえってキツいよな。ツクヨさんの言う通り、安物で構わないんだけど。俺達、庶民だし。


 コンコン


 応接間のドアをノックする音。


「ツクヨ様、教主でございます。入ってもよろしいでしょうか?」


「あぁ、構わない。入れ」


「それでは」


 メツボー教の教主さんが、応接間にやってきた。






「改めてご挨拶させて頂きます。ようこそおいでくださいました、ツクヨ様。コウ様、イサム様もお変わり無い様で何よりでございます。ところで、そちらのお嬢さんは……?」


 ハルカの方を見ながら言う教主さん。言葉遣いは丁寧だが、視線は鋭い。ハルカも気まずそうだ。それに対し、ツクヨさんが答える。


「この子か。よその世界で戦ってな。本来なら喰うところだが、色々有って連れてきた。何か文句有るか?」


「いえ! 滅相もございません!」


 ビビりまくりの教主さん。ツクヨさんの怖さをよく知っているからな。


「ところで何の用だ? まさか、そんな事を言いに来た訳じゃないだろう?」


「は、申し訳ございません。では。先ほどの娘達ですが、医師とカウンセラーによる診断が終わりました。全員、特に問題は有りません。後は、既に申し上げました様に、受け入れ先が決まるまで大神殿にて彼女達を保護いたします。ただ、現時点ではツクヨ様が邪神である事は伏せております。まだ知るには早いと思いまして。この事は大神殿内関係者各位にも伝えております」


「ふむ、妥当な判断だ。今、下手に俺が邪神だと知ったら、間違いなく動揺するだろう。ましてや騒ぎを起こされたら困る。ある程度、日数が経って落ち着いたら教えてやれ。それでダメなら仕方ない。その時はその時だ」


「は、かしこまりました。では、これにて失礼いたします」


 ツクヨさんと、一通りの話を済ませると、教主さんは帰っていった。メツボー教のトップなだけに、色々多忙な人なんだよな。今回も、わざわざ時間を割いて来てくれた訳だ。






 その後も紅茶を楽しむ俺達。だが、そこへ、ハルカの爆弾発言。


「あ、そうだ、イサム」


「何、ハルカ?」


「僕、知ったんだけど、イサムって男だったんだね」


 それを聞いた瞬間、俺は思わず、凍りついた。


「なんだイサム。お前、ハルカに男だと教えていなかったのか」


「いけませんね、元、勇者ともあろう者が、そんな大事な事を隠していては」


 ただでさえ、動揺しているところへ、更に追い討ちをかけるツクヨさんとコウ。あんた達、鬼ですか。あ、ツクヨさんは、邪神だった。って、それどころじゃない! ハルカに嫌われる! とにかく謝らなきゃ!


「ごめん、ハルカ! 別に騙す気は無かったんだけど、言い出す踏ん切りが付かなくて……」


 今さら、謝ったところで所詮、言い訳に過ぎない。俺は、ハルカから何を言われようが、受け入れる覚悟をしていた。終わった、何もかも……。だが、ハルカは至って穏やかだった。


「謝る事は無いよ。イサムが男と知ってびっくりはしたけれど」


 その時、俺にはハルカが女神に見えた。いや、マジで……。


「良かったなイサム。ハルカが優しくて」


 黙っててくれませんか、ツクヨさん。






「でも、いつ俺が男と知ったのハルカ? 俺は君に男とは教えていなかったのに。ツクヨさん達から聞いたの?」


「違うよ。アルカディア軍の女司令官から聞かされたんだ」


 あの女司令官、やっぱり斬り殺しておけば良かった! 今更、遅いが。


「でも、本当にどう見ても、女の子だよね、イサム。凄くきれいだし、胸も有るし。あの女司令官は、限りなく女性に近い特異体質だって話していたけれど」


「あの女司令官、俺が気にしている事を……。その通りだよ。俺は特異体質なんだ。小さい頃から女扱いされてきてね。そのうち、男らしくなるかと思っていたら、どんどん女らしくなってね ……」


 何が悲しくて、男にナンパされなきゃならないのか。しかも、ツクヨさんと出会ってからは、似合うからと女装させられた上に、髪も伸ばす様に言われたし。おかげさまで、今や初見で俺を男と見抜ける相手はほとんどいない。


「気持ち悪いだろう? 特異体質なんて……」


 自嘲気味に言う俺。本当にこの体質のせいで、何度も嫌な思いをしてきた。


「そんな事無いよ! 特異体質だろうが何だろうが、イサムはイサムだよ。強くて、優しくて、しかもきれいで。素晴らしい事だと思うよ」


「ハルカ……」


 特異体質に悩んできた俺を否定せず、誉めてくれたハルカ。本当に女神みたいだ。なんて優しいんだ君は。






 その後、俺達は帰る事にした。教主さんは残念そうだったが、仕方ない。元々、俺達は、アルカディア軍に捕らえられていた女の子達を保護して貰う為にここに来た。それにツクヨさんは、メツボー教の人達と、ある程度、距離を置きたがる。あまり関わり合いになりたくないんだって。


「やはり、ここに留まってはくださいませんか」


「悪いが、それが俺の考え方でな。また会おう」


 ツクヨさんが教主さんと言葉を交わした後、俺達は元の世界へと四日ぶりに帰ってきた。アルカディア軍の攻撃を受けただけに、辺り一面、滅茶苦茶だ。後、アルカディア兵の死体も多数。


「おかしいな。どうしてアルカディア兵の死体がアンデッド化していないのかな? 確か、ツクヨに殺された者はアンデッド化するのに」


 不思議そうなハルカ。実際、ツクヨさんに殺されたアルカディア兵がアンデッド化したのを見ているからな。そんなハルカの疑問にツクヨさんが答える。


「その事だがな、アンデッド化は約24時間で解ける。いつまでもアンデッドにうろつかれていたら、鬱陶しいからな。後、俺が特に指定しない限り、さほど遠くには行かない。ま、そのせいで、こうして死体がいくつも転がっている訳だが……。仕方ない、片付けるぞ。ここは俺とコウで片付ける。イサムとハルカは家の方を頼む」


「分かりました、ツクヨさん。行こう、ハルカ」


「うん、イサム」






 それから1時間後。辺り一面や、家の中を片付け終わった俺達は、キッチンでハルカの淹れてくれた緑茶を飲んで、くつろいでいた。全く、アルカディア軍のせいで、家の中も外も滅茶苦茶にされたから、大変だった。でも、もう済んだ事だと思っていたのに……。


 ゴゴゴゴゴゴ……


 突然の地響きと激しい揺れ。せっかく片付けた家の中が、また滅茶苦茶になる。まさかと思って外を見たら、そのまさか。上空に巨大な母艦を中心とした艦隊がいた。アルカディア軍ではない様だが、何故ここに? ここはツクヨさんの領域。そんな簡単には場所を特定出来ないはず。するとコウが、その疑問に答えてくれた。


「あの女司令官、やってくれましたね。死ぬ少し前に、ここを含めた私達の拠点の座標の情報を私達と敵対している他勢力に流したのです」


 そういう事か。まずいな、となれば他の拠点も、もはや使えないだろう。だが、今はこの事態をどう切り抜けるかだ。俺はツクヨさんを見る。うわ、怒ってる!


「あいつら~! 人がせっかく片付けたのに、台無しにしやがって! ぶっ殺す!」


 そういうなり、外へ飛び出すツクヨさん。こりゃ、速攻でケリが付くな。直後、凄まじい轟音と毒々しい、真っ赤な閃光。ツクヨさんの「紅い雷」が炸裂。敵艦隊はあっさり消滅。本当に御愁傷様。その後、コウに調べてもらった結果、やはり他の拠点も敵勢力の襲撃を受け、壊滅した事が分かった。


「残念だが、座標を知られてしまった以上、ここは捨てるしかないな」


 本当に残念そうなツクヨさん。ここは気に入っていたからな。どうする気だろう?


「コウ、ツクヨポリスはどうだ? 無事か?」


「無事です。さすがはメツボー教の総本山、ガードが堅いですね。あの女司令官も、ここの座標は突き止められなかった様です」


「そうか。不本意だが、仕方ない。ツクヨポリスに戻るぞ。新しい拠点が見つかるまでは留まるとしよう」


 嫌そうな顔のツクヨさん。でも仕方ないよな。新しい拠点が見つかるまでお世話になろう。教主さん、大喜びだな。






 俺達がツクヨポリスに戻ってきた事に教主さんは、予想通り大喜び。ツクヨさんが事情を話したら、ここを拠点にしてくださいと懇願して、ツクヨさんが困っていた。その後、俺達は盛大な歓迎を受けた。何としても、ツクヨさんをここに留まらせたいらしい。


「ツクヨって、凄い人気なんだねぇ……」


 盛大な歓迎ぶりに感心半分、呆れ半分といった感じのハルカ。


「ハルカ、ツクヨさんの人気はこんな程度じゃないよ」


「そうなの?」


「近いうちに分かるよ」


 本当に凄まじいからな。メツボー教信者のツクヨさん人気は……。






 その夜。教主さんを始めとしたメツボー教信者達による盛大な歓迎 (特にツクヨさんが凄かった) を済ませ、立派な風呂で疲れを癒し、今は俺にあてがわれた部屋に4人揃って、ババ抜きをしていた。ぶっちゃけ、コウ最強。何せ、全くの無表情だから読めない。ハルカも強い。嫌な顔をするから、これだと引いたカードがババだったり、駆け引き上手。逆にツクヨさんは、激弱。顔に全て出るからな。

 

「あ~! くそっ! やめやめ!」


「勝てないからと、見苦しいですよ、マスター」


「しかし、ババ抜きが弱いですね、ツクヨ。顔を見たら丸わかりだし」


「悪かったな!」


 負けたからと、ご機嫌斜めなツクヨさん。すると、突然、こんな事を言い出した。


「話は変わるが、ハルカ。君は将来の事は考えているのか?」


「急に何を言い出すんですか。そうですね、一人前の立派なメイドになって、ナナさんに一人前と認めて貰う事ですね。だから、帰して欲しいんですけど」


 あ~、やっぱり帰りたいんだ……。でもツクヨさんは帰さないと言っているし。


「悪いが、以前にも言っただろう、帰さないと。別に君の師匠の元でなくても、立派なメイドになれるさ。この際だ、率直に聞こう。君は結婚は考えていないのか?」


「結婚!?」


 ツクヨさんの突拍子もない発言に、すっとんきょうな声を上げるハルカ。


 ちょっと、ツクヨさん。何を考えているんですか! いつになく真剣な表情のツクヨさん、困惑顔のハルカ、いつも通りの無表情のコウ、動揺する俺。まだ夜は終わらない。






 

いきなり、とんでもない事を言い出したツクヨ。さて、どうするハルカ、そしてイサム。では、また次回。


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