第41話 戦い済んで……
ガサゴソ、ガサゴソ……
「ふむ、こりゃ高く売れそうだな」
「あの……」
ベキッ! ポイッ!
「おっ、この金庫の中には貴金属の類いをため込んでやがった。よ~し、全部頂き」
「あの、ツクヨ?」
「さて、他に金目の物は……」
「いい加減にしてください!!」
「何だよ、ハルカ。いきなり大声出すな。びっくりするだろうが」
「ツクヨ、貴女言いましたよね、やる事が有るって。それはこの事ですか?」
何やら、えらくご立腹のハルカ。
「あぁ、そうだ。戦利品を頂くのさ。君も見てないで、手伝え」
「ただの火事場泥棒じゃないですか!」
「誰が火事場泥棒だ、人聞きの悪い事言うな。戦利品を頂くのは勝者の当然の権利」
「良い笑顔で言わないでください!」
全く、頭の固い子だな。勝者は敗者から奪う。古今東西、変わらぬ戦いの掟だ。
アルカディア軍との戦いが決着した後、この俺、邪神ツクヨは、ハルカを連れて戦利品を探してあちこち廻っていた。ちなみにコウとイサムは別行動。何でも、イサムがアルカディア軍があちこちから集めて来た武器なんかを収めた施設を見つけたとかで、そちらに向かった。
「なぁ、ハルカ。このまま放って置いたところで、何の役にも立たず、無駄になる。だったら、俺達が有効に使ってやる。その方が良いだろう」
「まぁ、確かに放置したところで無駄になるのは、分かりますけど……」
理解は出来るが、納得は出来ないという顔だな。まぁ、いいさ。これが俺のやり方だ。文句は言わせん。むっ、この壺は良い品だな。
「……本当に邪神なのかな、この人?」
うるさいぞ、ハルカ。
あれから時間は流れ、夕暮れ時になった。相変わらず、ブツクサ言うハルカを連れて、あちこち探し廻った結果、実に良い戦利品の数々が手に入った。別行動していたコウとイサムの方も大漁だったらしい。
「アルカディア軍の収集した武器、魔道器はさすがに一級品揃いでした。私達に莫大な利益をもたらしてくれるでしょう。後ほど、詳細を報告いたします」
ほう、そりゃ楽しみだな。コウの鑑定眼は確かだからな。
「でも、あれだけの数の品々を集めた裏でどれだけの犠牲者が出たかと思うと……」
イサムは浮かない顔。アルカディア軍の奴らは、本当にえげつない真似をしやがるからな。だが、今更、どうにもならん。せめて俺達が有効活用してやろう。
「あの、ツクヨ。貴女、忘れていませんか? 」
何やら不満顔のハルカ。
「何がだ?」
「貴女、後でアルカディアの真実を教えるって言ったじゃないですか! 男を見ない理由とか!」
あ~、そういえば、そうだった。すっかり忘れていた。そうだな、事が済んだし、教えてやるか。異世界アルカディアの真実をな。
「そう怒るな。それじゃまずは、この世界がどんな世界か見せてやろう。ちょっと聞くが、ハルカ、君は空を飛べるか?」
「いえ、初歩の浮遊魔法なら使えますけど。それが何か?」
「上空まで上がる必要が有るからな。浮遊魔法じゃダメだな。よし、ハルカとイサムはこっちに来い。俺が連れていってやろう」
ハルカとイサムの2人を俺の元に呼ぶと、両脇に抱える。
「もう少しマシなやり方は無いんですか?」
「ハルカ、連れていって貰うんだから、文句言わない」
「そういう事だ。それじゃ行くぞ。紅い翼!」
かけ声と共に、俺の背中に真紅の鳥の様な翼が現れる。
「一気に行くからな! ビビって漏らすなよ!」
「えっ、ちょっと待っ……。キャアァアアアーーーーッ!!」
猛スピードで上空目指して、飛び立った俺。ハルカが悲鳴を上げていたが、スルー。俺は邪神だからな。
「さて、このぐらいの高度で良いかな」
「キャーーッ! 高いーっ! 怖いーっ!」
俺の左脇に抱えられた状態で泣き叫ぶハルカ。うるさいな、静かにしろ。
「ツクヨさん、早く足場を作ってあげてください。ハルカが可哀想です」
そうだな、イサムもそう言う事だし、足場を作ってやるか。いつまでも抱えていたら重いし、何より、泣き叫ぶからうるさい。
「コウ、足場を作ってくれ」
「かしこまりました」
俺は同行してきたコウに命じ、足場を作らせる。無数の書物のページが集まり、空中に約20メートル四方の四角い足場が出来上がる。俺はさっそく、足場に降り立つ。さすがはコウだ。見た目は脆そうだが、俺が降り立っても、びくともしない。続いてコウ、イサムも降り立つ。
「ハルカ、君もさっさと降りろ。重い」
「……分かりました」
少々、不安そうだったが、俺達が立っているのを見て、ハルカも足場に立つ。見た目とは裏腹の頑丈さに驚いている様だな。だが、それ以上に、上空から見た光景に驚いたか。
「何ですか、これ……」
上空、500メートルから見る、真っ赤な夕日に照らされる世界。眼下には俺達が戦っていた、アルカディア軍基地の有る都市。だが、その向こうは無残な荒野が広がっていた。
「見ての通りだ。これが異世界アルカディアの真の姿。この世界はかつては繁栄の絶頂に有った。だが、繁栄は人々の心を腐らせ、やがて大戦争に突入した。その結果がこれだ。世界は不毛の地と化し、生き残ったのは、僅かな数の女だけだった。彼女達はこの地を拠点とし、何とか世界を復興しようとしたのさ。禁断の領域に踏み込んでまでもな。遺伝子操作を初め、異世界から優秀な者をさらってきて、実験材料にしたり、洗脳を施し、自らの手駒にしたり、強力な品を奪ってきたり、その他、数え上げればキリがない」
「酷い……。いくら世界を復興させる為だからって」
「奴ら、アルカディアの連中は自分達は最も優秀な種族、正義は我に有りと考えているからな。他の世界で何をしようが、自分達の勝手としか思っていない。自分達の世界を滅ぼしたくせにな。バカ共が」
「続いて、この世界に男がいない理由。あの女司令官が俺をやたら憎んでいた理由もここに有る。さっきも言ったが、かつての大戦争で、生き残ったのは僅かな女だけ。男は死に絶えてしまった。このままでは、アルカディア人が滅びてしまう。そこで女達はクローン技術に手を出した。こうして、人数を増やしていった。さらに自分達にも遺伝子操作を施し、強化した。支配者として君臨するためにな。しかし、度重なる遺伝子操作による強化は彼女達から生殖能力を奪っていった。それに不老不死にはなれなかったからな。時と共に徐々に衰え、死んでいった。そこで彼女達は、支配者としての自らのクローンを生み出した。生み出されたクローン達はさらに遺伝子操作を行い、自分達のクローンを生み出した。それを延々と繰り返し今に至る」
「それじゃ、純粋なアルカディア人は、もういないんですね、ツクヨ」
「そういう事だ。そして女司令官が俺を憎む理由。生殖能力を失い、クローン技術で人間を造るのがこの世界の常識だが、あの女、どうしても自分の子供、それも男を産みたかったらしい。ありとあらゆる手を尽くし、ついに、念願の我が子、男を出産した。ま、死んだがな。俺に敗れて自殺した」
「……だから、あんなにツクヨを憎んでいたんですね」
「自分勝手な話だ。自分達はさんざん、他人を犠牲にしてきたくせにな。それにな、負けるのが悪い。嫌なら勝て」
「ツクヨ、今度は僕から質問です」
「何だ?」
「ツクヨ、貴女はアルカディア軍の襲撃を受けたあの時、ネオ・ブリューナクで刺されて死んだはずです。貴女から生命力が消えたのを感じました。アルカディア軍の奴らも貴女の死を確認しているはず。プロなんですから。なのに、どうして生きているんですか?」
「その事か。ハルカ、君がアルカディア軍に捕まった時の事を覚えているな」
「はい、ツクヨ達と一緒に戦おうと外に出たところをアルカディア軍の金髪の女性に捕まったんです」
「その際、俺は何をした?」
「えっと……。確か、こちらを睨んできました」
「それだ」
「どういう事ですか?」
不思議そうな顔をするハルカ。
「俺はな、目を合わせた相手の魂を抜き取れるのさ。あの時、俺は金髪女と目を合わせ、魂を抜き取ってやった。そして、すかさず、自分の身体から、金髪女の身体へと自分の魂を移した。後は金髪女に成り済まし、脱け殻になった元の身体を操っていた。既に脱け殻だから、元の身体がどうなろうと、俺には痛くも痒くもない。その後は君も知っての通りだ」
「ちょっと! こっちを見ないでください!」
「大丈夫だって、むやみには使わないから」
「さて、そろそろ地上に戻るか。コウ、頼む」
「かしこまりました」
コウがそう言うと、書物のページで作られた足場が静かに、だがそれなりの速度で下降し始めた。話をしている間にすっかり日は沈み、辺りは夜の闇に包まれていた。
しばらくして、無事に地上に到着。地上50センチメートルほどで停まった足場から皆、降りる。その後、コウが足場を分解、収納。
「上空からの眺めは最高だっただろう、ハルカ」
「怖かったですよ! 最初からコウに足場を作って貰って行けば良かったじゃないですか!」
「まぁ、そう怒るな。ほら、次に行くぞ。お前ら付いてこい」
「ここは……」
「ハルカ、君にとっては嫌な場所だろうが、俺はここに用が有る」
ハルカ達を連れて、やってきたのは、ハルカの捕らえられていた収容所。
「なるほど、ここに捕らえられている者達を解放なさるおつもりですか、マスター」
「そういう事だ。さすがはコウ。鋭いな」
「相変わらず、酔狂なお方ですね」
ほっとけ!
「それじゃ、手分けして、捕らえられている子達を解放するぞ。俺の調べでは、ハルカの他に30人ぐらい閉じ込められている。扉の破り方は各自に任せる。では、行くぞ」
「分かりました」
「はい、ツクヨさん」
「かしこまりました」
かくして、俺達4人は収容所内へ散った。それから30分程で、それぞれ、解放した娘達を連れて戻ってきた。ちなみにアルカディア軍の奴らは女しか拐ってこない。生殖能力が無いから、基本的に男は無意味だからな。
解放した娘達だが、年齢は、下は8才から、上は17才と結構、まちまち。ただ、皆、一様に不安そうな顔をしていた。無理も無い。アルカディア軍によって異世界に拐われ、俺達に解放されたものの、俺達が味方という保証は無いからな。
「あの……。助けてくれて、ありがとうございます。でも、貴方達は何者なんですか?」
解放した娘達の1人、最年長の17歳の子が俺に尋ねる。やはり、不安を拭えないか。よし、ならば、この手で行こう。
「安心しろ。俺達は敵じゃない。君達に危害は加えん。それよりも、君、腹は減ってないか?」
「えっ? まぁ、お腹は空いていますけど……」
急な質問に戸惑うその娘。俺は他の娘達にも聞く。
「君達にも聞くぞ! 腹は減ってないか!?」
「はい……」
「お腹ペコペコです……」
「ごはんたべたい……」
同じ様な返事が来る。よし、決まりだ!
「そうか、分かった! 君達、俺に付いてこい! みんなで飯を食うぞ! 飯! 飯!」
「ちょっと、ツクヨ!」
「ハルカ、ここはツクヨさんに任せよう」
「行きますよ、ハルカ。食事の支度をしなくては」
「分かった、行こう!」
俺はハルカ達、さらに娘達を連れて、開けた場所に出る。
「よし、ここにするか。君達! 料理の出来る子はいるか? いたら手伝ってくれ!」
「私、出来ます」
「私も」
「あたしもできるよ!」
「よし、じゃ頼む。何、難しい事はない。食材は用意するから、皮を剥いて食べやすいサイズに切ってくれ。大体の事は俺達がするから」
そう言って、俺は空中から食材を取り出す。じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、コカトリス肉。チキンカレーを作るつもりだ。鶏肉ではなくて、コカトリス肉だがな。さて、次は大鍋に水を入れないとな。飯も炊かないと。
「それじゃ、みんな手を合わせて。いただきます!」
「「「いただきます!」」」
あれから、しばらく。俺の用意した大鍋いっぱいのチキンカレーが出来た。ご飯も俺が用意した大型炊飯器で炊いた。で、今から、皆で夕食だ。皆で外で食べるカレー。なかなかオツなものだ。
「これは何ですか?」
「知らんのか、これはカレーという料理だ。旨いぞ」
「辛い~! でも、おいしい!」
「おかわりなら、たくさん有るからな。しっかり食え」
「おかわり!」
「よし、ちょっと待ってろよ」
「……ツクヨって、本当に邪神なのかな?」
「マスターをそこいらの邪神と一緒にしてはいけません。風変わりなお方ですから」
「ツクヨさんには、ツッコミ無用。これが基本だよハルカ」
「そうだね。少なくとも、僕は破壊や殺戮を行うツクヨより、料理を振る舞う、今のツクヨの方が良いね」
やがて夕食も終わり、皆それぞれ、くつろいでいる。場所は変わらず、広場だ。ちなみにアルカディア軍の死体等は、収容所に向かう前に、コウに命じ、全て始末済み。見せる訳にはいかんしな。
「わ~、その猫耳、本物? 触らせて」
「エルフって本当にいたんだ」
「人間は本当に耳が尖ってないんだね~」
あちこちで娘達が話をしている。出身地も種族もバラバラなだけに、色々と新鮮な驚きが有るらしい。良かった。最初の不安は解消出来たな。それじゃ、次に行くぞ。
「皆、くつろいでいるようだな。実に結構。それじゃ風呂に入るぞ! 皆、独房に閉じ込められて窮屈だっただろう。今から広い風呂を用意するから、思う存分、手足を伸ばしてさっぱりするといい」
「あの、どうやって、お風呂を用意するんですか?」
先程、俺に話しかけてきた17才の人間の娘が尋ねる。
「まぁ、見てろ。コウ!」
「かしこまりました」
俺はコウに声をかけ、コウが地面に手をつく。
「露天風呂、顕現」
コウがそう言うと、目の前に、立派な露天風呂が現れた。相変わらず、便利な奴だ。
「何これ……。露天風呂が……」
先ほどの娘がびっくりしている。どうやら、魔法を見るのは初めてらしい。
「これが魔法だ。ま、細かい事は気にするな。コウの露天風呂は最高だぞ。さぁ、さっさと服を脱いで入るぞ!」
「わ~い! 大きなお風呂!」
娘達の年少組は大はしゃぎで、その場で服を脱いで、我先にと露天風呂に入る。
「あの、とりあえず、服を脱ぐ場所と、バスタオルを用意してほしいんですけど……」
そうだな。年長組はさすがにその場で脱ぐ訳にはいかんな。
「コウ、頼む」
「全く、人使いの荒いお方ですね。脱衣場顕現」
「あの、ツクヨさん。俺は後で……」
「あ、すまんイサム。お前、男だったな。忘れてた」
「忘れないでくださいよ!」
うるさい、お前、見た目が完全に黒髪ロングの美少女だろうが。
「ふぅ~。いい湯だ。ほら、そこの君ら、遊んでないで、ちゃんと肩まで浸かる」
コウの作った露天風呂にて入浴中の俺達。イサムだけはいないが。現在、あいつは時間潰しがてら、その辺を見回っている。
「きれいな星空だな。俺だけなら、酒でも一杯やりながら、露天風呂を満喫するところだ」
ま、今回は未成年が大勢いるしな。控えよう。ちなみに年少組は皆で遊んだり、騒いだりと賑やかだ。逆に年長組は髪や肌の手入れに熱心だ。独房に閉じ込められていた間は、ろくに手入れも出来なかっただろうしな。俺は改めて、夜空を見上げる。本当にきれいな星空だ。世界が滅び、地上から余計な光が消えたが故に、星がよく見える。皮肉なものだ。
その後、全員、露天風呂から上がり、コウが用意したパジャマに着替え、寝る時間だ。念のため、周りに結界を張った上で、コウの出したコテージに入る。内装は必要最低限の物しかないが、品質は一級品だ。寝心地抜群のベッドに娘達は皆、大喜び。すぐに寝付いてしまった。色々と大変な思いをしたからな。ゆっくり休むといい。
翌朝。全員に朝食を振る舞う。ご飯に味噌汁、焼いた魚の切り身、漬物。年少組には受けが悪いかと思ったが、全員完食。うん、良い娘達だ。だが、いつまでもこの娘達を連れていく訳にはいかん。この娘達はアルカディア軍に拐われてきた以上、才能は有るだろうが、あくまで一般人だ。命を狙われる立場の俺達と一緒にいるのはあまりにも危険。俺とコウの力で元の世界へと送り返してやろう。
「聞いてくれ、君達。これから君達を元の世界へと送り返す。とりあえず一列に並んでくれ。順番に送り返してやるから」
俺は朝食を食べ終え、くつろいでいる娘達に声をかけた。だが、そのとたん、くつろいでいた空気が一気に暗くなった。
「あの……お気持ちはありがたいんですけど……。私、帰る場所が無いんです……。私の住んでいた町は、ここの軍の攻撃で壊滅したんです……」
昨日も俺に話しかけてきた、17才の人間の娘が言う。
「私もです……」
「私も……」
「お父さん、お母さん……」
他の娘達も同様だった。年少組に至っては泣き出す始末。
「酷い! なんて事を!」
「アルカディア軍め! どこまで、汚い奴らなんだ!」
憤る、ハルカとイサム。
「なるほど。故郷を壊滅させる事で、もはや戻る場所は無いと思い知らせる訳ですか」
コウ、冷静な分析だが、黙ってろ。しかし、困ったな。この娘達には帰る場所が無い。さりとて、俺達と同行させるのは危険すぎる。う~ん、あまり頼りたくないが、やはり、あいつらの力を借りるしかないか。俺はスマホを取り出し、連絡を取る。
「教主、久しぶりだな。俺だ、ツクヨだ。悪いが、お前らの力を借りたい。実は、敵とやりあって、壊滅させたんだが、その後、捕らわれていた若い娘達、30人を保護した。俺達と同行させるのは危険すぎるし、そちらに連れて行こうとおもう。とりあえず、腕の良い女の医者とカウンセラーを用意してくれ。特に精神的なダメージは大きいと思うからな。それと、彼女達の受け入れ先も探してくれ、頼んだぞ。準備が出来たら連絡しろ」
そう言って俺は通話を終えた。後は、向こうからの連絡待ちだ。
それから1時間。俺のスマホから着信音。教主からだ。
「そうか、準備が出来たか。さすがに仕事が速いな。見事だ。では、さっそくそちらに行くからな」
通話終了。
「お~い! 全員集合!」
俺は皆を呼び集める。そして集まった皆に告げる。
「君達! これから別の場所へと行くぞ! 心配は無用。君達を受け入れてくれる所だ」
娘達は驚いていたものの、特に騒ぎはしなかった。
「コウ、力を貸せ。さすがに、この人数、しかも一般人が多いと俺1人では辛い」
「かしこまりました。先ほどの通話内容から、行き先は分かっております。というか、あそこしかありませんね」
「そういう事だ」
「ツクヨ、一体、どこに行くつもりなんですか?」
ハルカが尋ねてきた。
「何、行けば分かるさ。ほら、君もこっちに来い。みんな、俺を中心に集まれ!」
全員、俺を中心に集まる。
「よし、行くぞコウ!」
「かしこまりました。越界転移!」
俺を中心に大きな魔法陣が現れ、次の瞬間、俺達は大広間へと転移していた。そして目の前には、漆黒の神官服に身を包んだ一人の女。
「お待ちしておりました、ツクヨ様。御尊顔を拝謁致し、恐悦至極にございます」
「堅苦しい挨拶はいいから。久しぶりだな教主。元気そうで何より」
「あの、ツクヨ。ここは一体、どこなんですか?」
ハルカが尋ねてきたので、答えてやる。
「ここはメツボー教国、首都。ツクヨポリス。正確には、その中心の紅の大神殿。この俺、ツクヨを崇拝するメツボー教の総本山だ」
邪神のくせに面倒見の良い、変わり者のツクヨ。そして、邪神ツクヨを崇拝する、メツボー教が登場。ナナさん達の出番はもう少し先になります。では、また次回。