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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第40話 異世界アルカディアの終焉

「さて、やるか!」


 やる気満々のイサム。


「気をつけて、イサム! そいつら、魔法が効かない!」


 僕はイサムに忠告する。するとイサムは苦笑を浮かべながら言った。


「それなら問題無い。俺、魔法はほとんど使えないから」


「えっ!?」


 唖然とする僕


「イサムはバカなので」


 分かりやすい解説ありがとう、コウ。


 そして、当のイサムは敵陣の中へと突入していった。その戦いぶりたるや、正に一騎当千、無双という言葉がぴったりだった。


 襲いかかるロボット兵達の攻撃を紙一重でかわし、次々と斬り捨てる。


「はっ!」


 横薙ぎの一閃で生み出した真空刃で、空中の兵器達を一刀両断。ほどなくして、敵は全滅した。凄い、イサム。あれほど硬く、手強い相手だったのに、まるで豆腐か何かのように、斬るなんて。


「いつにも増して、技が冴え渡っていますね」


「あぁ、そうだな。全く、イサムの奴、ハルカが見てるからって張り切りやがって」


 あきれた口調のコウと、ツクヨ。どうして、僕が見ているとイサムが張り切るのかな?


「あの、どういう事ですか?」


 2人に尋ねたら、ツクヨに思いっきり、呆れた顔をされた。コウはいつもの無表情。


「……君は天然だな」


「失礼な事を言わないで下さい! 誰が天然ですか!」


「自覚が無いとは、困った人ですね」


「コウまで酷いよ!」


 本当に2人共、失礼だな。僕は天然じゃないよ!






 敵を全滅させたイサムは刀を鞘に納め、戻ってきた。あれだけ戦ったのに、息一つ乱していない。改めてイサムは凄いと思い知らされた。


「終わりました、ツクヨさん、ハルカ」


「ご苦労、イサム。だがな、来るのが遅いんだよ! バカ!」


 ゴン!


 イサムの頭にげんこつを落とすツクヨ。容赦無いな……。そりゃ、もっと早く来て欲しかったけど。


「痛って~~! 酷いですよツクヨさん……」


「うるさい!」


「落ち着いて下さい、マスター。今はそれどころではありません」


 コウがツクヨをなだめる。確かにコウの言う通り。今はそれどころじゃない。まだ僕達は敵地の中にいるのだから。


「ま、確かにコウの言う通りだな。だが、これで全員揃った」


「揃いましたね」


「これで、いつもの私達です」


 不敵な笑みを浮かべるツクヨ。それに応える、イサムとコウ。


「久しぶりにやるか。この世界を潰す!」






 怖い事を言い出したツクヨ。でも、あまりにも数の差が有りすぎる。ツクヨ達の強さは認めるけど……。そんな僕の思いを見透かしたらしく、ツクヨが言う。


「不安そうだな。だが、心配無用。見せてやろう、邪神の力をな。まずは手勢を増やすか。ウゲエェエエェ……」


 いきなりツクヨが喉に指を突っ込み、吐いた!


「ちょっと! 何するんですか! 汚いなぁ!」


 ツクヨに抗議する僕。でもツクヨは悪びれない。


「いいから、見てろって。面白い事が起きるからな」


 おかしな事を言うツクヨ。何が起きるんだろう? あっ!


 ゴボゴボゴボ……


 ツクヨの吐いたゲロがどんどん広がり、泡立つ。そして……。


 ズルッ、ズルッ……


 広がり泡立つゲロの中から、いくつもの手が出てきた! 何これ、怖い! 見ていると、手に続いて顔、身体が出てきた。そして、僕の目の前には大勢の女性達が現れた。見た目からして、一般人ではないね。戦士や魔法使いといった人達だ。種族も色々。ただ、全員、生気の無い虚ろな瞳をしていた。一体何者なの、この人達?


「オヨビデゴザイマスカ、ジャシンツクヨサマ」


 ゲロの中から出てきた女性の1人、聖職者らしい20歳ぐらいの金髪の人がツクヨに話しかける。まるで機械の様に感情のこもらない声だ。


「ちょっと、お前らの力を借りたくてな。邪神ツクヨの名において命ずる。我が下僕共よ、我が敵を根絶やしにせよ! 1人たりとて生かしておくな!」


「オオセノママニ……」


 その女性はやはり感情のこもらない声で、そう答えた。


「では、行け!」


「ジャシンツクヨサマニアダナスモノニ、シヲ!!」


 そう言って、女性達は四方八方に散っていった。速い! でも、本当に何者なの、あの人達? 明らかに正気には見えなかった。


「ツクヨ、あの人達は一体、何者なんですか?」


 僕はツクヨに尋ねる。それに対し、ツクヨはニヤリと笑って答える。


「俺は全てを喰らう能力の他に、喰った相手を自分の下僕として再生する能力も持っている。あいつらは俺が今まで喰った女の中でも、特に腕の立つ連中だ。役に立つぞ。何せ、元々強い上、俺に喰われて再生された者は更に強化され、不死身になるからな。しかも俺に絶対服従するしな。要は、俺の意のままに動く、不死身の人形だ」


 恐ろしい事をさらっと言う。


「それにな、そろそろ時間だ。今ごろ、アルカディア軍の奴ら、かつての仲間に襲われているだろう、ククククク!」


 嫌な笑い声を上げるツクヨ。でも、かつての仲間に襲われるって? するとイサムが説明してくれた。


「ツクヨさんに殺された奴はある程度、時間が経つとアンデッド化するんだ」


「特に今回は、早くアンデッド化する様にしたからな」


「マスターの下僕ほどの力は無いにせよ、元が戦闘兵器として生み出されたクローン兵ですから、下手なアンデッドより強いです」


 えげつない事をするな、ツクヨ。まぁ、それでこそ邪神か。






 どうやら、ツクヨの下僕達やアンデッド達がアルカディア軍と交戦開始したらしい。あちこちから、爆発、煙が上がる。


「見てみますか?」


 コウが空中に映像を出してくれた。そこに映し出されたのは、正に地獄絵図。アルカディア軍のクローン兵達がツクヨの下僕達に一方的に殺されていく。先ほどの金髪の聖職者らしい女性の放った光の砲撃魔法が一撃で敵を吹き飛ばす。逆にアルカディア軍の攻撃を受けて、身体を吹き飛ばされても、たちどころに再生してしまう。他の下僕達も同様、被ダメージなど関係なく、ひたすら一方的な殺戮を繰り広げていた。


 更に映像が切り替わり、こちらはアンデッドの大群がアルカディア軍を襲っていた。動きは鈍いものの、数の暴力で押し切る。しかもアンデッドに殺された者はアンデッドになって復活し、どんどん増える。ホラー映画やゲームの世界みたいだった。現実だけど。こんな恐ろしい能力を持っているなんて……。普段が普段だけに忘れがちだけど、ツクヨは邪神だと実感した。






「さて、下僕共ばかり働かせていてはいかんな。俺も動くとするか。まずは腹ごしらえだな。イサム!」


「またやるんですか……」


「文句言うな。それとも何か? ハルカにしようか? 俺は構わんが」


「やります!」


 何だか、おかしな会話をする、ツクヨとイサム。すると、ツクヨは空中から注射器と消毒薬、脱脂綿を取り出し、それをイサムに渡す。そして、イサムは自分の腕を消毒し、注射器の針を突き刺し、血を抜く。


 ある程度、血を抜くと注射器の針を抜き、また消毒。血の入った注射器はツクヨに渡す。受け取ったツクヨは口を開けると、注射器から血を吹き出させ、飲んだ!


「ふぅ、やはりイサムの血は効くな~。くそマズイがな。後、そう嫌な顔するな、ハルカ。俺だって腹ごしらえは必要だ。本来なら君を喰う予定だったが、変更になったしな。とりあえず、イサムの血のおかげで、力の補充が出来た。それじゃ、暴れるとするか。いい具合に新手が来たしな。イサム、お前はハルカに付いてやれ。コウは俺と来い」


「かしこまりました」


「えぇっ!? 俺がハルカに付いてやれって……」


 冷静なコウとは対照的に何故か慌てるイサム。時々、イサムっておかしな言動をするよね。


「勇者は姫を守るもんだろ。しっかり守ってやれ。それじゃ、やるぞ!!」


 ツクヨのその言葉が戦いの開始の合図となった。


「とくと味わえ、邪神の力!」


 直後、ツクヨの雰囲気がガラッと変わった。今までとは比べ物にならない、とてつもなく禍々しい力を感じる。気付けば僕は震えながら、イサムの腕にしがみついていた。怖い! 心底、恐怖が込み上げてくる!


「ツクヨさんが久しぶりに邪神の力を解放した。もう、この世界は終わりだ。ハルカ、危ないから俺から離れないで。俺が君を守るから」


 優しく声をかけてくれるイサム。正直、かっこいいなと思ってしまった。そんな僕達はそっちのけでツクヨは戦闘開始。まずは、敵めがけて、正拳突きを繰り出す。


「はぁっ!!」






 ツクヨが繰り出したのは、間違いなく、正拳突きだった。だがその結果は……。


 前方にいた敵のみならず、建物まで吹き飛ばしてしまった。うん、向こうの景色がよく見えるね。って、あまりのデタラメぶりに思わず、現実逃避してしまった。なんて威力の正拳突きなんだ。


「ふん、この程度で消し飛ぶとはな。雑魚が」


「全く。マスターの力はまだまだ、こんなものではありませんのに」


 ちょっと待って! ツクヨはどれだけ強いの!? 驚く僕に、コウが解説。


「何を驚いているのですか、ハルカ。邪神とは本来、世界に災厄をもたらし、破滅させる者。この程度、朝飯前です。ましてや、マスターは創造主様が直々に生み出した邪神。そこいらのクズ邪神とは格が違います」


「ま、そういう事だ。では行くからな。イサム、ちゃんとハルカを守れよ!」


 そう言うなり、ツクヨはコウと共に、どこかに行ってしまった。ほどなくして巻き起こる爆音、崩壊する建物。無茶苦茶してるな……。


「それじゃ、俺達も行こうか、ハルカ」


「うん、そうだね。でもその前に……」


「こいつらを片付けないとな!」


 僕とイサムの前に現れた新手の敵。僕は小太刀をイサムは刀を抜き放つ。


「やるよ、ハルカ! 前衛は俺が務める! 君は後衛を頼む!」


「分かった、任せて!」


 僕達も戦闘開始。イサムの刀が次々と敵を斬り裂く。僕は小太刀で敵を斬りつつ、氷クナイ、氷魔法で援護。


 そんな中、またも、ロボット兵が現れる。イサムが斬りつけるが、斬れない! どうやら、より強力な新型らしい。しかも口らしき場所からビームまで撃ってきた。それも味方を平気で巻き込んで。


「固いやつだな~。ま、やりようは有るさ」


 強敵が現れたのに、全く焦らないイサム。どうするの? 相手は固くて斬れない。イサムはほとんど魔法は使えないし、あの手のロボット兵は、魔法が効かない。対するイサムは……。身体を低くし、突進の構えを取った。直後、弾丸の如く飛び出した。対してロボット兵がビームを放つ。イサムとビームが交差する。






「もう! 心配したよイサム! 無茶しないで!」


「ごめんごめん、ハルカ。でも、勝ったからいいだろ?」


 結果はイサムの勝ち。ビームが発射される直前、サイドステップで狙いを外し、ビーム発射後のスキに、瞬時に同じ場所に8連続の突きを入れて、貫通させた。ただ速いだけじゃなく、恐ろしく精密な剣技の使い手なんだ、イサム。


「行こう、ハルカ」


「う、うん、分かった」


 イサムに声をかけられ、その場から駆け出す僕。やっぱり世の中は広いな、僕も強くなったつもりだけど、上には上がいるね。






「おのれ、おのれ、おのれ~~~~~~っ!! 邪神、黒乃宮 月夜め~~~~~~っ!! よくも、この理想郷を! このアルカディアを破壊するとは~~~~~~っ!!」


 次々と舞い込む、被害報告。司令室の大スクリーンにも次々と赤く表示された部分が増えていく。

 報告によれば、不死身の女達と、あろうことか、我がアルカディア軍の兵達のゾンビに攻撃を受けているとの事。更には、黒乃宮 月夜達、4人にも敗退を繰り返していると。


 何故だ、何故、こうなった? 私がアルカディア軍、総司令官となって以来、こんな負け戦は無かった。それが何故? 大体、黒乃宮 月夜は死んだはず! 何故、生きている? どうやって復活した?


 いや、今さらもう遅い。こうなれば、一刻も早く脱出せねば。栄光有る、最も優秀な民族、アルカディア人たる私がこんな事で死ぬ訳にはいかない。その場を部下達に任せ、私は司令室を後にした。もはや、この都市は捨てるしかない。だが、ただでは済まさない。邪神、黒乃宮 月夜、アルカディアの技術力を思い知らせてやる!!






「はっ!」


 ズバッ!


氷魔貫槍(アイスランス)!」


 ドドドドドドッ!


 イサムの刀が敵を斬り裂き、僕の氷魔法の6本の槍が敵6体を串刺し、更に凍らせる。


「とどめ!」


 僕が右手を開いて、握る。それと共に、凍り付いた敵が粉々に砕け散る。最近、身に付けたんだよね、この術。氷魔法の殺傷力をより上げる為に。


 もはや、アルカディア軍基地は陥落目前だった。僕達4人に加え、ツクヨの呼び出した不死身の女性達、更にはアンデッド化したアルカディア兵達によって。特にアンデッドはどんどん増えるからね。


 バガーン!


 凄い音がしたので見たら、壁を破って、ツクヨとコウがやってきた。どうやら向こうも、大体片付いたらしい。


「2人共、無事だったか。こっちは、あらかた片付いた。そっちはどうだ」


「こちらも大体、片付きました、ツクヨさん」


 イサムがツクヨに報告。


「よしよし。後は下僕共とアンデッド共に任せるとするか。だが、きっちり落とし前を付けなきゃならん奴がいる。あの女司令官は、俺が殺す」


 そういえば、あの女司令官、どこに行ったんだろう? 姿を見ていない。するとイサムが気まずそうな顔をする。


「すみません、ツクヨさん。その女司令官、処刑場で会っているんですけど、ハルカとの合流が先と考えて、殺さなかったんです」


「このバカ! きっちり殺しておけ!」


 イサムの告白に怒るツクヨ。確かに、殺しておくべきだったと僕も思う。あの女司令官は危険だ。でも、その一方で敵を殺す事より、僕との合流を選んでくれた事が嬉しく思えた。……あれ? 僕、どうして、イサムが僕との合流を優先してくれた事が嬉しいんだろう? まぁ、良いか。それより、女司令官の行方だ。このまま、おとなしく引き下がるとは思えない。だが、その時。


「散れ!」


 ツクヨの鋭い声。僕達は即座にその場から離れる。正に間一髪。巨大な火球が直撃し、紅蓮の業火が荒れ狂う。この攻撃、覚えが有る! 攻撃の来た方向を見たら、思った通りの相手がいた。20歳ぐらいの黒髪の女性と赤毛の女性。そう、3日前にツクヨ達と戦った、アルカディア軍のエースの2人だ。






「ふん! 本命のお出ましか!」


 相変わらず、大胆不敵なツクヨ。でも、この2人は別格だ。特に黒髪の方はツクヨとまともに渡り合えた。しかも、2人共、前回同様、光の刃を持つ槍。対邪神兵器、ネオ・ブリューナクを手にしている。どうするのツクヨって、消えた!?


 突然、ツクヨが僕の目の前から消えた。そして、異音。


 ブチッ


 何かを引きちぎる様な音。その音のした方を見たら、そこにツクヨがいた。ただ、その手には生首を持っていた。赤毛の女性の生首を。もう片手には首の無くなった死体を。そして、リンゴでもかじる様に、赤毛の女性の生首にかじりついた。


「美味い! やはり業深い奴は美味いな!」


 口の周りを血みどろにして、ご満悦のツクヨ。あまりの凄惨な光景に、足がすくむ。


「ハルカ! 見ちゃダメだ!」


 イサムが慌てて上着を脱ぎ、僕の頭に被せる。


「イサム、ハルカを連れて離れなさい」


 コウの声も聞こえる。


 かくして、僕はイサムの上着で目隠しをされたまま、イサムに手を引かれ、その場を離れた。後でコウに聞いたけど、黒髪の女性もツクヨに喰い殺されたそうだ。見なくて良かった……。






「あ~、美味かった! 久しぶりの上等な獲物だった!」


「マスター、ハルカの前です。そのような発言は控えて下さい」


 上機嫌なツクヨに対し、コウが諌める。


「大丈夫、ハルカ?」


「うん、平気。ありがとうイサム」


 イサムは僕を気遣ってくれる。優しいな、イサムは。


 あれからしばらく経ち、アルカディア軍基地、そして都市は遂に陥落した。現在、僕達は休憩中。唯一、気になるのは、女司令官の行方。結局、見付からなかった。あ、ツクヨの下僕達が戻ってきた。


「どうだった? 女司令官は見付かったか?」


「モウシワケゴザイマセン。テワケシテ、ホウボウマデサガシマシタガ、ミツカリマセンデシタ」


「そうか、分かった。ご苦労だったな、もういいぞ、戻れ」


 女司令官の捜索を命じていた下僕達から、報告を受けたツクヨは、そう言うと、大きく口を開ける。すると、下僕達が全員、あっという間に吸い込まれて消えてしまった。


「一体、どこに行きやがった、あの女司令官。あいつは俺を恨んでやがるからな、このまま引き下がるとは思えん。仕方ない、コウ、調べてくれ」


 最終手段、コウに頼むツクヨ。


「かしこまりました」


 最初から、コウに頼めば良さそうなものだけど、困った事に、コウはツクヨの従者でありながら、ツクヨに対し、忠誠心は無いらしい。だから、ツクヨが頼んでも、聞いてくれるとは限らない。まぁ、今回は事態が事態だけに聞いてくれた。


「居場所が分かりました。宇宙です。あの女、宇宙に待機させてある、宇宙戦艦内にいます。人工神罰砲とやらで、私達をこの星ごと消滅させるつもりです。既にエネルギー充填も完了しています」


 ちょっと! 宇宙って! いや、それどころじゃない! 早く逃げなきゃ!


「おや、発射したようですね」


 上を見上げて言うコウ。 上空から、巨大な光の奔流がやってくる。なんて力だ! 本当にこの星ごと消滅させる気だ!






 時間を少し、さかのぼる。場所は宇宙。


「まさか、これを栄光有る、我が星に対して使う事になるとは……」


 司令室を後にした私は、部下達や兵器群に時間を稼がせ、自分は転移装置を使い、宇宙に待機させてある、我がアルカディアの誇る巨大戦艦、「ラスト・ジャッジメント」に来ていた。これに搭載された最終兵器、「人工神罰砲」あまたの星を消滅させてきたこれならば、いかに邪神といえど、ひとたまりもあるまい。世界を消滅させる神罰の力、とくと味わえ!


「見ていて、もうすぐ貴方の仇を取るわ」


 私は今は亡き息子の写真を懐から取り出し、話しかける。その時、人工神罰砲のエネルギー充填完了の合成音声が聞こえた。やっとだ、やっと息子の仇を取れる!!


「死ね!! 黒乃宮 月夜!! 人工神罰砲、最大出力、発射!!!」


 巨大戦艦の先端に巨大な光の塊が現れ、次の瞬間、眼下の星めがけて、巨大な光の奔流が向かって行った。さらば、我が故郷。だが、黒乃宮 月夜を殺せるならば!!






 再び、現在。


 巨大な光の奔流はどんどん迫ってくる。どうするのツクヨ!? 早く何とかしないと! でも、ツクヨもコウもイサムも涼しい顔。


「ハルカ、俺を誰だと思ってる? 俺は邪神、すなわち、神! 神に対して、紛い物の神罰を食らわせようなど、笑わせてくれる。見せてやろう、本物の神罰をな!」


 ツクヨは右手を天に向ける。


「神罰! 紅い雷!!」


 ツクヨがそう叫ぶと、凄まじい轟音と毒々しい、真っ赤な閃光と共に、巨大な真紅の雷が、はるか天空めがけて放たれた。それは、迫りくる人工神罰砲の光の奔流を容易く飲み込み、更に上空へと消えていった。






 私は自分の見ている光景が信じられなかった。我がアルカディアの誇る最終兵器、人工神罰砲が。最大出力で発射した人工神罰砲が、黒乃宮 月夜の攻撃に押し返された。いや、飲み込まれた。巨大な真紅の雷はスクリーンいっぱいに映し出されていた。人工神罰砲を最大出力で発射した結果、もはや、回避も防御も不可能。


「何故? 何故、私は、我がアルカディアは敗れた?」


 私は死を直前に、呟く。


「簡単な事だ。お前らはこの俺、邪神ツクヨを敵に回した。以上」


 最後の瞬間、黒乃宮 月夜の声が聞こえた気がした。そして、真紅の奔流が全てを飲み込んでいった……。






「た~まや~!」


 はるか上空を見上げ、のんきな発言をするツクヨ。


「お見事です、マスター。敵戦艦は消滅しました」


「やっと終わりましたね、ツクヨさん」


 そう、やっと終わった。思えば、アルカディアに連行されてから、たったの3日間だったけど、本当に大変な3日間だった。でも、これで帰れる。そう思ったのに……。


「さて、バカ共は片付いたが、まだやる事が有る。行くぞ、お前ら」


「ツクヨ! ここは、みんなで帰ろうと言うところでしょう!」


 抗議する僕。でもツクヨは動じない。


「ククククク! そう怒るな、ハルカ。ま、いいから付き合えって。悪いようにはしないから」


 全く、もう! でも仕方ない。もう、しばらくツクヨに付き合うか。でも、何をするのかな?





アルカディア軍との戦い、決着。邪神ツクヨ編も終わりが近いです。そろそろ、ナナさん達も出さないと。では、また次回。

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