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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第37話 反撃開始!!

 あれから3日。ついに、イサムの公開処刑執行の日がやって来た。僕は結局、何も出来ず、独房に閉じ込められていた。ちなみに、毎朝、あの女司令官が来ては、僕に部下になる様に言ってきたが、全て断っていた。そして今朝。


「おはよう、ハルカ・アマノガワ。いい加減、私の部下になる気にならない? 貴女程の実力者なら、幹部候補として採用するわ」


 毎回、これを言われる。だが、何と言われようが、こんな奴らの仲間になんか誰がなるか!


「お断りします」


「そう、でも、その態度も今日までよ。貴女への処置執行が決まったわ。やっと空きが出来たのよ。本日、午前10時に執行するわ。大人しく、部下になっていれば、せずに済んだのにね。後、大和 勇の公開処刑は本日、正午に執行よ。そこで、貴女に大和 勇の処刑を執行して貰うわ。楽しみね、アハハハハハハハ!」


 勝ち誇った笑い声を上げながら、女司令官は去って行った。遂に恐れていた事、洗脳処置が目前に迫っていた。そして、イサムの公開処刑も。しかも、僕にイサムの処刑執行をさせようなんて。だが、武器も無く、魔力も封じられた僕には、どうにもならなかった……。





 そして、午前10時の少し前。


「出ろ、お前に処置を行う」


 僕を捕らえた、若い金髪の女性がそう言って、僕を独房から出した。出た所で、手錠を掛けられ、更に2人の兵士に両脇から腕を拘束される。ちなみに、その2人の兵士に僕は見覚えが有った。3日前に向かいの独房から連れ出された少女と、連れ出した少女だ。連れ出された少女は3日前は激しく抵抗していたのに、今や、人形の様に無表情だった。


「行け、お前を処置室まで連行する」


 金髪の女性が無感情な冷たい声でそう言い、僕は拘束されたまま、歩き始める。拘束を振りほどきたくても、両脇の少女達の拘束はびくともしなかった。見た目、小学3~4年生ぐらいなのに。これも、何らかの改造によるものだろうか。






 通路を歩く事しばらく。僕達は、とある部屋の前へと到着した。


「入れ」


 金髪の女性がそう言い、僕は2人の少女に両脇から拘束されながら、部屋へと入る。そこには白衣を着た、30歳ぐらいの無表情な女性が待っていた。


「ハルカ・アマノガワ。これより、洗脳処置を行う。来い」


 他の女性達同様の無表情で、そう言い、僕は電気椅子の様な装置の元へと歩かされる。両脇からの拘束は外せない。後ろには金髪の女性が見張っている。魔力も封じられ、もはや、完全に詰み。悔しく、悲しかった。一度死に、何の因果か死神により、もう一度生きるチャンスを与えられたのに、こんな形で終わるなんて。洗脳され、戦闘人形にされるなんて。ごめんなさい、ナナさん。僕、立派な一人前のメイドになれそうもありません。母さん、姉さん、彼方(妹)、せめて、もう一度会いたかった……。


 ミルフィーユさん、エスプレッソさん、侯爵夫人、メイド隊の皆さん、クローネさん、ファムさん、安国さん、様々な人達の事が思い出される。


「さようなら……」


 洗脳装置は目前、観念した僕がそう呟いたその時。


「ゴキ」


 そんな嫌な音が僕の左右で聞こえた。そして、僕を両脇から拘束していた少女達の腕が離れ、倒れる。見れば2人共、首をへし折られていた。更に、飛んできたナイフが白衣の女性の眉間に突き刺さり、絶命させる。それは、敵のはずの金髪の女性の仕業だった……。






 これは一体? 僕には状況が分からなかった。この金髪の女性はアルカディア軍の兵士。僕を捕らえた敵であり、洗脳処置を施された、戦闘人形のはず。それが僕を助けるなんて。


「動くな」


 金髪の女性はそう言うと、僕の両手に掛けられた手錠に手をかざす。すると、その手に紅い霧の様なものが現れ、手錠があっさり朽ちて、崩れ去った。続いて、僕の魔力を封じている腕輪も同様にして外してくれた。


「ほら、君の服と装備一式だ。受け取れ」


 更には空中から、僕のメイド服、装備一式を取りだし、返してくれた。


「後ろを向いてやるから、さっさと着替えろ。じきに異変に気付かれる」


 確かにその通り。ぐずぐずしていたら、異変に気付かれる。早く脱出しないと。僕は大急ぎで囚人服から、メイド服へと着替え、愛用の小太刀二本、隠し武器のクナイを装備する。






「着替えましたよ」


 僕に背を向けている金髪の女性にそう言うと、こちらを向いた。敵であるはずの僕に背を向けるなんて、ますます分からない。


「よし、それじゃ行くぞ」


「ちょっと待って下さい」


「何だ? 時間が無い、手短にな」


「何故、僕を助けてくれたんですか? 貴女、アルカディア軍の兵士、敵でしょう?」


 すると金髪の女性は愉快そうに笑った。


「ククククク! まだ分からんか?」


 あれ? この嫌な笑い方は……。あっ!


 聞き覚えの有る、嫌な笑い方。更に、金髪の女性に変化が起きた。青い瞳が紅い瞳に変わった。ルビーの様な紅い瞳に。金髪が根元から漆黒に。耳が長く、先の尖ったエルフ耳に。顔付きも変わる。そして現れたその顔は……。


「邪神ツクヨ、復活!!」


 そう、殺されたはずの邪神ツクヨだった。






「ツクヨ!」


 僕は思わず大声を出して、ツクヨに抱きついていた。


「良かった! 生きていて! 僕のせいで捕まって、槍で滅多刺しにされて死んだと……」


 後はもう涙で言葉にならなかった。そんな僕の頭をツクヨがワシワシと撫でる。


「やれやれ、おかしな子だな君は。俺は邪神で、しかも、君を喰い殺しに来た敵だぞ。その俺が生きていていたからと泣くとはな」


 その顔には苦笑を浮かべている。


「ま、そこが君の良い所だ。ほら、ハンカチだ。顔を拭け。さっきも言ったが時間が無い。じきに異変に気付かれる。早く脱出するぞ」


 そうだった。早く脱出しないと、異変に気付いた敵が来る。それに、イサムを助けないと! イサムが処刑されてしまう! コウも探さなきゃ!


「分かりました!」


「よし、行くぞ! 付いてこい!」


 そう言って、ツクヨは部屋の外へ飛び出し、僕も後に続いた。






 通路を走りながら、僕はツクヨに話しかける。


「ツクヨ、早くイサムを助けないと! あいつら、今日の正午にイサムの公開処刑を行うって! それにコウも、コンピューターのメインシステムに組み込むって!」


 だが、ツクヨは全く動じない。


「分かっている。この金髪女の身体を乗っ取って、ずっと成り済まし、情報を集めていたからな。それにな、コウとイサムを甘く見るな。俺の従者と元、勇者だぞ。大丈夫、心配するな」


「でも……」


「あぁ、もう! 心配症だな、君は! それに、他人の事を心配している場合じゃないぞ! 敵さんのお出ましだ!」


 向こうから、武装した兵士達がやって来る。


「俺が片付ける。君は俺の前に出るな」


 ここは言われた通りにしよう。前回は言い付けを破ったせいで捕まった訳だし。


「さて、やるか。新しい身体の性能を試すとしよう。まずは、これだ」


 こちらに対し、一斉に射撃体制に入った兵士達に、ツクヨは仁王立ちで相対する。大きく息を吸い込み、真っ赤な霧の様なものを吐き出した。真っ赤な霧は兵士達をたちどころに包み込む。すると、みるみる内に、兵士達が全員、急速に朽ち果て、最後はきれいさっぱり、消滅してしまった。


「ククククク。これぞ俺の必殺技の一つ、猛毒の『紅い息』だ」


 ドヤ顔でこちらを見るツクヨ。


「はいはい、凄いです。でも、モル〇ルですか、貴女は」


「誰がモ〇ボルだ! 俺の息は臭くない!」


 いや、あの攻撃を見たら思い出すよ、あの嫌な敵を。






 その後もツクヨは次々と敵を蹴散らしていった。恐ろしい事に、ほとんど魔力を使わず、素手で。現在、中庭で交戦中。


「いいか、ハルカ。戦いにおいて、むやみやたらと大技を使う奴は、三流。ふんっ! 一流の実力者程、案外、地味な戦い方をする。せいっ! 余計な力を使わず、必要な時に必要なだけ使う。覚えとけ。よっと!」


 僕に説明しながら、戦うツクヨ。器用だね。そうこうしている内に敵は全滅。僕はツクヨに言われ、見学に徹している。


「さて、ウォーミングアップも済んだし、本格的に反撃と行くか。コウとイサムに合図を出さないとな。せーのっ!」


 ツクヨは野球ボール程の紅い球を作ると空めがけて投げた。それは猛スピードで飛んでいき、上空で爆発。真っ赤な花火となった。






 場所は変わって、公開処刑場


「何事なの、この騒ぎは! それにあの花火は! えっ、ハルカ・アマノガワが脱走した!? しかも黒乃宮 月夜が復活して一緒に行動している!? バカな事を言わないで! 黒乃宮 月夜は完全に死亡が確認された上でバラバラに解体されて、研究施設に運ばれたはずよ!」


 おーおー、取り乱しているな、この女司令官。ハルカに脱走された上、死んだはずのツクヨさんが復活してハルカと一緒ときたからな。良かった。ツクヨさんが一緒ならもう大丈夫だ。俺は一番の心配事が解決して、ほっとする。


「ただちに、迎撃に向かいなさい! それと、大和 勇の処刑を前倒しにするわ! 撃ち方構え!」


 女司令官が指示を出し、兵士達がこちらに銃口を向ける。ちなみに俺は手足を拘束され、壁に磔の状態。勇者の力を封じる、特製の拘束具と偉そうに言われた。確かに頑丈で良く出来た拘束具だ。これから逃れられる勇者は、まず、いないだろう。勇者なら……。


「あのさ、あんた達、一つ勘違いをしているよ」


 俺は女司令官に言ってやる。


「勘違い? どういう事かしら? 今さら命乞いなんて聞かないわよ」


 怪訝な顔の女司令官。


「俺は勇者じゃない」


「えっ!?」


「俺は元、勇者、大和 勇だ!! ふんっ!!」


 ビキィィィン!!


 鋭い金属音を立てて、拘束具を引きちぎる。女司令官、あり得ないといった顔をしているな。


「俺は勇者じゃないからな。勇者の力を封じる拘束具なんて無意味だ。今まで、ハルカを人質に取られていたから、おとなしくしていたが、もう、その必要は無い」


「そんなバカな! 勇者でない者に破壊出来る様な拘束具じゃないわ!」


「でも、現に破壊したよな」


「おのれーーっ! 殺せ! 大和 勇を殺せーーっ」


 ぶちキレて、大声でわめき散らす、女司令官。こいつには、この数日間、散々痛め付けられたし、斬り殺したいが、今はツクヨさん達と合流するのが優先。


「悪いけど、ここは引くよ。はっ!」


 俺はその場から一気に跳躍し、処刑場から脱出した。待ってて、ハルカ。今、行くから!






 同時刻、とある研究施設


「本当に、ガードが固いわね、さっぱりデータが引き出せないわ。ま、いかに邪神の従者とはいえ、こうして封印した以上、もはや無力。じっくり時間をかけて、全ての知識を引き出してやるわ」


 ビシッ……


「あら? 何の音かしら?」


 ビシビシッ ビシビシビシッ


「って、そんな! 封印結晶にヒビが!」


 バリィィィイィィン!!


「ギャアアアアアァアアッ!!」


「マスターからの反撃の合図が有りましたね。では、私も動くとしましょう。おや、まだ生きていましたか」


 私の足元には、この数日間、私からデータを引き出そうとしていた研究者の女が、全身にガラスの様な破片が突き刺さった状態で倒れていました。私を封じていたガラスの様な角柱の破片です。まぁ、あの程度の封印など、いつでも破れましたが。それにしても、この女、至近距離でしたから、破片の直撃を受けましたね。血まみれになって、悲鳴を上げながらのたうち回っています。鬱陶しいので、トドメを刺しましょう。


 スパッ!


 魔書のページで首を切断しました。


 ブシューーーーッ!!


 うん、見事な鮮血の噴水ですね。これだから、首を切断するのはやめられませんね。マスターやイサムには悪趣味と言われていますが。さて、早くマスターと合流しましょう。






「ククククク。さて、覚悟しろよ、アルカディアのバカ共。この邪神ツクヨがお前らに裁きを下す。判決、死刑!!」




いつの間に、ツクヨが敵の金髪女の身体を乗っ取っていたのかは近々明かします。勇者ではないイサムが何故、あんなに強いのかは、まだ秘密です。では、また次回。

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