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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第36話 異世界アルカディア

 僕が邪神ツクヨにさらわれて、8日目の朝に起きた事件。異界の軍隊の襲撃。ツクヨ達は応戦したものの、家に残れとの言い付けを破った僕が敵に捕らわれたせいで、結局、全員捕らわれてしまった。その上、ツクヨに恨みを持つ、敵の女司令官にツクヨが殺されてしまった。更に、コウ、イサムとも引き離されてしまい、どうなったか分からない。


 その後、僕達を乗せた戦艦は、元の世界(アルカディアと言うらしい)へと帰還。僕は武器、衣服を没収され、魔力を封じる腕輪を付けられて、囚人服を着せられ、独房に閉じ込められていた。


 見るからに、頑丈そうな壁に扉。悔しいが、武器も無く、魔力も封じられた僕にはどうする事も出来なかった。これが、映画の主人公とかなら、何か良い方法を思い付き、そこから反撃を開始するのだろうけど、僕は元はただの高校生。武器も魔力も無しでは何も出来ない。僕は自分の無力さを噛み締めていた。せめて僕に安国さんの様な怪力が有れば……。その時だった。突然、扉が開き、僕を捕らえた金髪の女性(僕より少し歳上、20歳ぐらいに見える)が独房に入ってきた。


「出なさい。司令官がお会いになる」


 僕は金髪の女性に連行され、司令官の部屋へと向かう。ちなみに両手には手錠を掛けられている。どのみち、逃げ出したくても、この女性はそんな甘い相手ではない。実力は僕より上。すぐに捕まってしまうだろう。もっとも、僕もただ連行されていた訳じゃない。辺りの様子を観察していた。やはり、非常に高度な文明世界だ。魔道と科学の融合した世界。かなり科学よりの様だけど。まるでSF映画の様なハイテク建造物がたくさん有る街並みが窓から見えた。そして僕達は司令官の部屋の前へと到着した。すると、勝手に扉が開いた。こちらの到着が分かっていたらしい。


「待っていたわ。お入りなさい」


 かくして僕は、ツクヨを殺した女司令官と、本格的に対面する事になった。






 司令官の部屋の中。現在、僕を含めて3人。僕、僕を連行してきた金髪の女性、女司令官。


「司令官、例の少女を連行してきました」


「ご苦労様。さて、お嬢さん。率直に聞くけれど、貴女は何者かしら? 私達の持つ黒乃宮 月夜一味のデータに貴女の事は無いのよ」


 僕の素性を探る女司令官。そりゃ、僕のデータは無いだろう。何せ、最近ツクヨにさらわれてきたんだから。どうするか迷ったが、ここは正直に話すか。ただし、全ては話さない。


「僕の名前は、ハルカ・アマノガワ。僕はツクヨ一味ではありません。先日、ツクヨにさらわれてきたんです」


 嘘ではない。事実、その通り。でも、ナナさんの事や、何より僕が転生者である事は隠す。この連中、とてもじゃないけど信用出来ない。


「ふむ、嘘ではないわね。センサーに反応が無いわ。どうやら、大和 勇の言っていた通りの様ね」


 そう言う、女司令官。この連中、嘘発見器みたいなシステムを持っているのか。それに今、イサムの名前を出した。イサムは無事なの!? 僕は女司令官に聞いた。


「あの! イサムは今、どうしているんですか!?」


 勢い込んで聞く僕に、意外そうな顔をする、女司令官。


「おかしな人ね、貴女は。自分をさらった犯罪者一味を気にするなんて。彼なら、貴女同様、独房に閉じ込めているわ。そして貴女は無関係だから解放しろとうるさく騒いでいたわ」


 良かった、まだイサムは無事なんだ。しかも僕を無関係だと庇ってくれて……。安堵と申し訳なさが込み上げる。でも、その時、僕はおかしな点に気付いた。『彼』? 女司令官はイサムの事をそう言った。確かにイサムは名前や言葉遣いが男みたいだなぁ、とは思っていたけど、どう見ても長い黒髪の美少女。まさか……。そう思いつつ、女司令官に聞いた。


「あの、もしかして、イサムは男なんですか?」


「あら、貴女、知らなかったの? 大和 勇は、れっきとした男性よ。限りなく女性に近い特異体質ではあるけれど」


 やっぱり……。そういえば、僕はイサムの性別を確かめた事は無かった。ツクヨやコウと一緒にお風呂に入った事は有ったけど、イサムだけは来なかった。そりゃ、男だったら来ないよね。


「まぁ、彼も後、3日の命だけれど」


 イサムが男である事を知って、驚く僕に、女司令官が更なる追い打ちをかける。イサムの命が後、3日!?


「どういう事ですか、それ!」


 大声を上げる僕に、女司令官は、冷たく言い放つ。


「大和 勇は3日後に公開処刑が決定済みよ。何せ、勇者でありながら、邪神に与する裏切り者。当然の報いよ」


 そんな……。このままじゃ、ツクヨに続いて、イサムまで殺される! それに、コウは? コウはどうなったの? ツクヨの死体同様、ガラスの角柱の様な物に閉じ込められて、運ばれて行ったけれど。






「もう1つ、聞いて良いですか? コウはどうなったんですか?」


「質問の多い人ね、貴女は。まぁ良いわ、教えてあげる。彼女は徹底的に調査した上で、最終的には現在、開発中の最新のコンピューターのメインシステムに生体部品として組み込む予定よ。私達、アルカディアはずっと彼女を追っていたのよ。『大いなる知識の宝庫』にアクセスできる唯一の存在たる彼女をね。私は黒乃宮 月夜を追っていたけれど」


 この連中、ツクヨ達の事をそこまで調べ上げていたのか。改めて、恐ろしい奴らだと、思い知らされる。僕のせいだ。僕がツクヨの言い付けを破ったせいで、この事態を招いてしまった。ごめんなさい、ツクヨ、コウ、イサム。本当にごめんなさい! 僕は心の中で3人にひたすら謝る。たが、現実は残酷。事態は何一つ変わらない。






「さて、貴女の処遇について決めないとね」


 ツクヨ達の事はもはや、終わった事という態度で、女司令官は僕に話しかけてきた。


「率直に言うわ。貴女、我々アルカディア軍に入りなさい。我々は、全世界の平和と秩序を守る為。更には、他の未発達な異世界を正しく導く為に戦っているの。故に貴女の様な若く、優秀な人材を求めているのよ。もちろん、それ相応の待遇は保証するわ。どうかしら?」


 優しい微笑みを浮かべながら、そう言う女司令官。対する僕の返事は……。


「お断りします」


 はっきり言ってやった。何が、全世界の平和と秩序を守るだ、未発達な異世界を正しく導くだ、いきなり、ツクヨの家を攻撃してきた上、僕を人質に取り、ツクヨを殺し、コウとイサムまで殺そうとする奴らの仲間になんか誰がなるか! ナナさんも言っていた。本当に悪い奴程、綺麗事ばかり言うと。何より、このアルカディアの連中は明らかに僕達、異世界の者を見下していた。


「そう、それは残念ね……。下等世界のクズが調子に乗るな!!」


 女司令官は僕の前に来ると、いきなりみぞおちを殴り付けた。あまりの痛みにその場にうずくまる僕。


「不愉快だわ! さっさと連れて行きなさい!」


「了解しました」


 僕を連行してきた金髪の女性がそう言い、僕は無理矢理、立たされると、再び独房まで、連行されて行った。






 僕は再び独房に戻される途中も、辺りを観察していた。確かに、高度に発展した世界。でも、やけに無機質で寒々しい感じがする。行きも帰りも何人かにすれ違ったけれど、誰一人、挨拶もしなかった。僕を連行している金髪の女性も何も言わなかった。


「入れ」


 そう言って、金髪の女性は僕を独房に入れる。そして僕が独房に入ったのを確認したら、扉を閉めて去って行った。


「結局、何も出来なかった……」


 僕は独房の中で呟く。僕はなんて無力なんだ。ナナさんに鍛えられて強くなったつもりだったのに……。悔しいやら、情けないやら、ツクヨ達に申し訳ないやら。


「クソォッ!!」


  ガンッ!!


 叫んで、独房の扉を殴り付けるがびくともしない。


「痛い……」


 殴り付けた拳から血が滲み出る。本当に今の僕は無力だ。その時、向かいの独房から声がした。


「嫌ぁっ!! 離してよ!!」


 独房の扉の窓から覗いて見れば、小学3~4年生ぐらいの可愛い少女が、無理矢理、連れ出されていた。だが、それだけではなかった。


「大人しくしろ。やっとお前に処理を施す順番が回って来た」


 無表情かつ、無感情な声でそう言って、少女を連行しているのは、その少女と同年代の少女だった。


「やめてよ、私だよ! 分からないの!!」


 連行される少女はそう叫ぶが、連行する側の少女は、全くの無反応。無表情のまま、少女を連行していった。


「何あれ……」


 僕は一連のやり取りを見て、ゾッとした。明らかに、あの2人の少女は知り合いだ。にも関わらず、連行する側の少女は連行される側の少女の声に一切、無反応、無表情のまま連行していった。


 あの連行していった少女、正気じゃない。僕を捕らえ、連行した金髪の女性といい、途中ですれ違った連中といい、どこか無機質でおかしかった。まさか、ここの連中、洗脳を施しているのか? そういえば、さっきの少女達の会話の中で『処理を施す』と言っていた。大変だ! このままじゃ、僕も処理を施される! 助けて! ナナさん!! 必死になって願うが、誰も助けには来てくれない。どうしよう、僕は生まれて初めての絶体絶命の危機に陥っていた……。





異世界アルカディアの連中、正義、平和の名目の元、無茶苦茶しますね。 ツクヨは殺され、コウ、イサムも危機が迫る。ハルカにも魔の手が! ではまた次回。

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